汚いガキどもを見つけたので虐待することにした。   作:史上最恐の悪役

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今回は本当に残酷です!


第8話

 

 

 

 

 

 「許してください……。どうか、どうか……」

 

 冷たいコンクリートの床。

 光は一切なく、光源は入り口付近にある僅かな松明のみの暗い空間。

 まるで囚人を収監するような、決して逃してもらえない鉄の檻。

 

 私はそこで、ただひたすらに謝罪を告げる為に口を開く。

 

 氷のように凍える部屋は、私の足先の感覚を徐々に失わせる。

 散々痛めつけられた顔や体には痣が出来上がっており、至る所で痛みが奔る。あまりの痛みに目を開くことさえ難しい。

 僅かな食糧と水しか体内に入れることが出来ず、喉は渇き口を開くことさえままならない。

 

 それでも、私は神に祈るように赦しを乞う。

 

 

 

 

 もう二度と幸福を望みません。

 

 

 

 

 もう二度と幸福を祈りません。

 

 

 

 

 もう二度と将来に希望を抱きません。

 

 

 

 

 そう何度も、何度も何度も何度も何度も、壊れたラジオのように繰り返すだけ。

 

 

 

 

 ─────あぁ、これが()()()ということなのか。

 ()()()()()当たり前(普通)なのか。

 

 

 なら、こんな生に一体なんの価値があるの?

 どうして私たちは生きようとするの?

 どうして生きていかなくちゃいけないの?

 どうして姉さんは私を死なせてくれないの?

 

 

 

 どうして?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして────────

 

 

 

 

 その問いかけは虚しくも宙を漂うだけで、答えが返ってくることはない。ただただ、この世界に対して虚しさを覚えるだけで、何かを得たという実感はなかった。

 

 

 

 

 

 ─────全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。

 

 

 

 

 

 そうしてまた、赦しを乞う言葉を繰り返す。

 

 

 

 

 「……………ごめんなさい、ごめんなさいっ」

 

 

 

 

 私はただ顔を下げたまま、真っ暗な世界を見続けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────────」

 

 意識が急激に浮上する。

 身を包み込む柔らかな毛布を感じながらも、まるで飛び起きるかのように上体を起こす。

 

 すぐに周囲を見渡して────サオリ姉さんや姫、ヒヨリとアズサの寝顔を確認することが出来た。

 全員が柔らかい寝顔を曝け出す姿は物珍しくもあり、ここ最近よく見る光景でもあった。

 

 対して私は……

 

 「…………はぁ」

 

 息は荒く、心臓は早鐘を打ち、汗は濁流の如くびっしょりと流れている。

 ただ動いていてもここまでの疲労を蓄積させることはないだろうと、何処か客観的に自分を見れる程には落ち着くことが出来たことで、今まで見ていたモノの正体を認識する。

 

 ()()()()()悪夢を見ていた。

 狭い狭い鉄の部屋に囚われる、そんなかつての(過去)

 拭い切ることなんて出来やしない────私の全てを。

 

 「ッ」

 

 吐き気が込み上げてくるが寸でのところで堪える。

 みんなを心配させたくない、みんなの睡眠を妨げたくないという気持ちが、私を正気に戻させる。

 

 「………外に出よう」

 

 そうして決まったように部屋を出る。

 

 悪夢を見た日は必ず外に出て夜風に当たるのがルーティンと化していた。

 ベッドに再度潜り込んだとしてもすぐに寝れるわけがないし、何より一人の時間が欲しかったから。

 

 

 

 

 

 ──────あぁ、それなのに。

 

 

 

 

 

 「オイ、ミサキテメェ!!就寝時間はとっくに過ぎてるっつーのにこれは一体どういう了見だァ?」

 

 

 なんで、よりによって今日バッタリ出会っちゃうんだろう……

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 聖歌隊室で月夜を見ていたらミサキがやって来た件。

 

 

 そもそも、何故俺が聖歌隊室にいたのかを説明すれば……まぁ端的に言えば()()()()だ。

 

 黒服から頼まれたのは何もガキどもの管理だけじゃねェ。ベアトリーチェのやらかしを暴く為の()()()()()があれば、それを差し押さえることも任務の中に含まれていた。

 

 だから、ここ二ヶ月間近くはこうして夜中にコツコツとベアトリーチェが隠しそうな場所をウロチョロしていたワケだが………結果は俺の手を見れば分かるだろう。な〜〜んにもねェ。

 そもそも本当に何もやっていないのか、それとも()()()()()()()()このアリウス自治区以外の場所に隠したか、もしくは()()させたか……。それこそ神とベアトリーチェのみが知るところだろう。

 

 とにかく、黒服たちにはアリウス自治区にはおそらくないから、他の自治区をより重点的に調べてみたほうが良い事を後で連絡するとして────今はとりあえず、目の前にいるお馬鹿(ミサキ)のことだよなァ?

 

 「で?何故テメェはこんなところにいやがる」

 「………別に。ちょっと空気を吸いに来ただけだから」

 「クククッ……!そうかそうか……」

 

 ────な〜〜んて言ってやがるが、俺には分かるぜ。ミサキは嘘をついているってなァ!!

 とんだペテン師だ。テメェの演技は俺の慧眼の前では筒抜けよ!

 

 ミサキは外の空気を吸いに来たわけじゃあ断じてねェ。ならば、こんな夜中にコイツは何をしに来たのか。

 

 

 

 ミサキの野郎────()()()()()()をしに来てんだろうなァ!!

 

 

 

 俺への虐待に耐えかねて、毎夜毎夜こっそり抜け出しては神様に祈りを捧げていたんだろう。

 『どうか平和が訪れますように』、『どうかあの巨悪から解放されますように』ってな!憐れでならねェよ、オイ!!

 ククッ、それにしても意外だぜ。ミサキはドライなところがあるから、そこまで信奉深くないだろうと思っていたが………いや、でもコイツ厨二病だしな。神様とか普通に信じていそうだ。

 

 だけどな、ここで祈っても意味ねェぞ。

 だってここ────聖歌隊室だからなァ!!

 

 だが敢えて俺は言わない。こうやって勘違いしたまま熱心に聖歌隊室で届きもしない声を上げ続けるコイツは見ものだと思ったからな。

 そして、大体一ヶ月後くらいにカミングアウトしてやるのさ─────『そこに神はいませんよ』ってな!!

 

 あぁ、なんて最低な野郎だ。大人として勘違いを正してあげるべきなのに、俺はそれをしない。むしろ愉悦を感じ取ろうとしている……!!流石は虐待王!!

 

 「それで?もう外の空気は充分に吸えたのか?」

 

 素知らぬふりをしながら、コイツの()()に乗っかってやる。

 これはつまり強者故の余裕────俺ほどの男にもなれば、ガキの余興にも付き合ってやれるほどの肝があるんだぜ?

 

 「…………あんまり気分転換にはならなかったかな」

 

 ……あ?なんかやけに素直に答えたな。

 いつもなら『アンタには関係ないでしょ』とか『別に』で一蹴するところなのになァ……

 

 

 ──────ッ!!

 たった今降りて来たぜ、虐待の神からの天啓がッ!!

 虐待神は仰せになっている────その憐れなガキに()()()()()()をしなさい、と。

 

 確かに、今の時間帯なら後もう少ししたら()()()()()()が見れるしなァ……。

 ククッ……!サンキューな、神様!!お礼はりんごでいいか?

 

 「オイ、ミサキ。いいモンを見せてやるから俺に着いて来い!」

 「帰れって言わないの?」

 「クククッ……!普段ならそう言うかもしれねェが今日は違う。なんせテメェは俺の言い付けを守らずに外に出たからなァ。なら………分かるだろ?」

 「…………あぁ、なるほどね」

 

 全てを諦めたかのような深いため息をひとつ吐いて、ミサキは大人しく俺の隣に来た。

 ククッ、俺の抽象的な言葉でも虐待が行われる事を察したな?ようやく道具としての自覚を持ててきたってわけか、いい傾向だァ!!

 

 「さぁ、震えながら着いて来い!!」

 「…………」

 

 相変わらず喋らねェ野郎だ。それに表情も変わらない。厨二病に徹しすぎてコイツの心の裡が全く分からねェ。

 

 ガキらしくないガキだ……なんて思うが、それもまたコイツの個性なのだろう。だからこそ、今回の虐待はミサキのような陰鬱で鬱蒼としたヤツには効果覿面だろうなッ!

 

 道具の性能の違いをよく見極め、その都度に合った使い方をする────道具の持ち主なら当たり前のように求められる基礎的な判断力だよなァ?

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 「ねぇ、何処まで行くの?それと、いつ目を開けていいの?」

 

 目隠しをさせたミサキを連れて歩き始めてから30分ほど経った。目を瞑ったままだと流石に歩きづらいだろうから、俺がおんぶする形でゆっくりと道を歩いている。

 苦言を呈しているところ悪いが、絶対お前より俺の方が疲れてるんだよなァ……!!

 

 だが、俺は虐待クオリティを最も大切にしている男。そして手抜きなどせず、圧倒的効果を見せるために最大限の創意工夫を尽くす男でもある。

 よって、コイツに超最大火力の虐待をお見舞いさせるにはどうすればいいかと考えに考え────その結果目を瞑る事が必須事項だった……ただそれだけよ。

 

 ちなみに周囲には目立つような建物は何もなく、ほんの少し小高い丘に木が一本突っ立っているだけ。まぁ、これから行われる虐待には()()()()()の場所だが、どんな虐待をされるか分からないコイツにとってはワケが分からないだろうなァ。

 

 「もうちょいだ。あの丘でテメェをあっと驚かせる虐待を披露してやるよ!」

 「………あんまり期待しない方がいいと思うよ。どうせ何も感じないだろうから」

 「あ?」

 

 その声色は“諦観”の一色のみ。

 何処まで厨二病を徹しているのか、まるで心の底から出た本音のような一言だった。

 

 「私は、これまでの人生で何かに心を動かされたことがない。全ては虚しいもの……なら、何かに心を動かされることもないでしょ」

 「ケッ、たった1()0()()()()()()()()()()()()()()が何を言ってやがる」

 「ッ」

 

 俺がそう言うと、背中越しでも分かるほどにミサキの震えが伝わってきた。ククッ、図星か?

 

 「…………ガキじゃない」

 「紛れもなくガキだぜ、お前はよォ……!まぁ、いいぜ。なんせ、もう既に虐待の準備は完了しているんだからなァ!!()()すらも利用する俺の頭脳に畏れ慄くといいわ!」

 「……?」

 

 ここに来てようやく()()()()()()虐待だということに気づいたようだなァ。

 そう、今回は俺の手作りの虐待ではない。誰にも抗えぬ“恐怖”の根源が、今目の前に広がっているのだッ!!

 

 

 

 

 

 「さぁ、目を開けろ。そして、この光景を目に灼きつけるのだッ!!」

 

 

 「──────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────眼前に見うるは()()()()()

 

 都心から離れ、大きな建造物もないこの場所だからこそ見える()()()()()。それはまるで()()()とも表現できる程に密集し、流れが出来た星々は暗闇を照らす光である。

 

 まさしく絶景という言葉が相応しいだろう。このキヴォトスでもそうは見られないであろう景色は、人々の心を何処までも掴んでは離さない─────だが、ミサキ。お前はどうだ?

 数えることさえ億劫になる程の星々の煌めきは、常に根暗なお前には効果覿面だろうよ!!

 

 

 そして星空を見るたびに思い出すんだよ────俺という恐怖の象徴と一緒に見たという事実をなァ!!

 

 

 いずれお前も厨二病をやめて、少女らしく恋をして、やがて恋人と一緒にロマンチックに星を見ることになるだろう。

 だが、その度に『でも、あの満天の星空はあのクズと一緒に見たんだよな……』と脳裡を過ぎる!星空の中に俺のゲス顔を思い浮かべてしまう!!

 

 あぁ、惨い!惨すぎる!!

 これでもうミサキは純粋に星空を楽しめなくなってしまったではないかッ!!

 

 

 

 

 まるで脳内に無限の情報を流されたかの如く固まって魅入っているミサキを見て、内心嘲笑いながらこの星空を見遣る。

 あ〜、こんな素晴らしい夜にはワインが欲しいな!持ってくれば良かったぜ!!

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 ─────星がこちらに堕ちてくる。

 

 

 そう思わせるほどに近くて、雄大で、神秘的で、今にも堕ちてきそうな星空に魅入る。

 

 試しに手を伸ばしてみて星を掴んでみようとする────が、当然のようにすり抜ける。

 当たり前だ。近くに見えるだけで星がそこにあるわけじゃない。

 

 だけど、何故かそれが虚しいとは思えなかった。

 むしろ、私の空っぽである筈の心に()()()()()()()()()ような感覚すらする。

 

 「ククッ、どうだァ?いい場所だろう」

 

 何処か自慢気に喉をクツクツと鳴らす彼は“してやったり”といった雰囲気を醸し出している。

 ……ちょっとだけムカつく。だけど、そうだね───────

 

 

 

 「────うん。こんなに()()()()()、初めて見た……」

 

 

 

 満天の星空を見ながらそう呟いた。

 

 この光景を、この衝動を、この感情を、ただ“虚しい”という一言で片付けることは出来ない────いや、()()()()

 

 あぁ、どうして気づかなかったのだろう。あんなにも分かり易い場所で、こうもキラキラと光っていたのに。

 

 ………そういえば、物心ついた頃から()()()()()()()()()っけ。

 誰かと話すときも、歩くときも────あの独房でも。私はずっと下を向いていたような気がする。ずっと上を向こうとも思っていなかった。

 

 ────もっと早く上を向いていたら、もっと早くこの景色も見れたのかな……

 

 「ハッ!こんなんで驚かれては困るな。世界には()()()()()()()()があるんだからよ」

 「……そうなの?そんなの、想像も出来ないんだけど」

 「ククッ、だから言っただろう?たかが10年ちょっと生きただけのガキが()()()()()()()()()()()ってよォ」

 「────────」

 

 

 

 

 ─────あぁ、そっか。

 

 

 

 

 「世界って────思った以上に綺麗な場所だったんだね

 

 

 

 

 ──────全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。

 

 

 ずっとそう思って生きてきた。

 それが真実であり真理なんだって盲目になって。

 だから何かに興味を持つことも出来なくて。

 だから全てを諦めて。

 だから辛いことだけを強いてくる世界なんかに希望を抱けなくて。

 無価値にも等しい世界で、どうして無価値な生や肉体に縛られなくちゃいけないのかって何度も何度も考えて─────

 

 

 

 

 ──────結局、()()()()()()()()()のは私だったんだ。

 ずっと()()()()に閉じ籠って、世界に意味なんてないって最初から拒絶し諦めていただけの、本当に何も知らないただの子供だったんだ。

 

 

 

 

 私の薄暗い世界(あの独房)が崩壊の音を立て崩れていく。

 光が差すはずのない場所に星々の煌めきが差し込み、その奥から誰かが手を伸ばしてくる。ダルそうに揺らす手のひらは、まるで『早くしろ』と言っているかのような太々しい態度で妙に腹が立つけど、それもまた“彼らしい”という結論に落ち着いた。

 ……今なら掴めるかもしれない。あの温かな手を。

 

 

 迷わず掴んだ瞬間────真っ暗な世界は硝子のように飛び散って消えた。

 

 

 その手のひらはとても温かくて、それが伝ってくるように私の心に火を灯す。 

 ……温かい。本当に、温かい。

 

 

 

 

 「あ?なんだ、ミサキ。急に手を握ってきてよ」

 「…………」

 

 彼の一言で現実世界に引き戻される。

 どうやら、こっちの世界でも彼の手を握っていたみたいだ。

 

 でも、どうしよっか。何を言っても揶揄われると思う。

 だけど、これだけは言わないと─────

 

 「()()

 「あ?」

 「………ありがとう。私をここに連れてきてくれて」

 

 私なりに万感の想いを込めて告げた感謝に対して、彼は面白可笑しく笑うだけだ。

 ……こっちはそれなりに緊張していたんだけど。

 

 「ククッ……!!この大掛かりな虐待に対して皮肉で返せるとは……やはりお前は侮れんな!」

 「─────はぁ」

 

 まぁ、そんなとこだろうとは思ってた。

 コイツは素直に感謝を受け取ることも出来ないのか。

 

 「よし、帰るぞ!俺は大満足だ!!」

 「そう─────……手はそのまま?」

 「ククッ、まだまだ()()()()()なミサキちゃんとは()()()を繋いだまま帰ろうと思ってなァ〜?」

 「子供じゃない」

 「ハッ、ガキはみんなそういうんだよ、ガキ!!

 「ガキじゃない。………さっきの言葉をいちいち揚げ足取るなんて、アンタの方が子供でしょ、この馬鹿」

 「あぁん!?誰が馬鹿だっつーんだよ、このガキ!!」

 

 

 そんな言い争いをしながら来た道を戻る────ちゃっかり手を握ったまま。

 いいじゃん。だって普通に繋ぎたかったし。あんな風に切り出されたからちょっとムカついただけで、繋ぎたくないなんて一言も言ってないんだし。

 

 

 

 星々は今も空で煌めいている。

 その光景と一緒に彼を見上げれば………あぁ、やっぱり心が温かくなる。

 この光景もまた記憶に刻まれ、生涯残り続けるものになっていくのだろう。

 残るモノなんて大抵碌なものがなかったのに……今回ばかりはたまらなく嬉しかった。

 

 嗚呼、私はこの感情を知らない。この気持ちを知らない。

 ……だけど、これから少しずつ探していこう。少しずつ識っていこう。私はもう、あの檻の中にはいないのだから。




彼女の思い出の中に自身の存在を入れ込むことで穢す所業……
コイツ、やはり鬼畜か……!?
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