堕天獄   作:温浴アルファマイン

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第三話「公平と平衡」

 木人(ほうこ)を街に置いて、空を行く。

 メイを背負っての空の旅。実際は氣を蹴って移動しているだけなので飛翔しているわけではないけれど、やはり地面を走るより早い。

 

「望、あそこ!」

「んー? あぁ、画眉丸と朱槿(ヂュジン)が戦っているね。両者互角……と思いきや、画眉丸がやや優勢かな」

「……大丈夫、かな」

「どっちが?」

「鬼尸解は……教えてない。そうでしょ?」

「画眉丸に肩入れしたい?」

「……わからない。だけど、死んでほしくはない」

 

 優しい子だ。

 原作よりも接点は少なくさせたのに……それでも、か。

 

「もし朱槿が鬼尸解をしたら、助けに行こう。人間相手に使うとは思えないけど」

「よく見て……もう、使う」

「え?」

 

 あ、本当だ。

 朱槿が鬼尸解を使う。鬼尸解。氣を全開放し、花の氣成分を多めにすることで神獣に近付く技。

 当然氣のバランスが崩れるので長時間は使えないし、戻るためには人の氣を大量消費するので色々と諸刃の剣。それでも背に腹は代えられない。

 

 そんなに追い詰められていたのか。

 まぁ画眉丸が当然のように氣を扱えるようになっていたら当然と言えば当然。

 

「メイ。画眉丸を助けたら、天仙たちと明確に敵対することとなる。それは理解しているね?」

「うん。それでも……私は、助けたい」

「了解したよ、お姫様!」

 

 急降下する。

 今まさに画眉丸へ向かって放たれようとしている雷撃。

 それを()()()()形で、着地。

 

「……!」

「メイ、先に行っていて。氣は後で己が循環させてあげるから」

「ウン。画眉丸、助ケル!」

 

 彼を氣で覆い、崖を滑り落ちていく画眉丸とメイ。

 そこへ追撃を仕掛けようとする朱槿の前へと躍り出る。

 

 膠着。

 ……そして、どろり、と。その巨体が崩れ去った。

 

「どういうつもりだ、望」

「己は公平に行こうと思ってね。彼に氣の使い方を教えた」

「……だから」

「けれど鬼尸解については教えなかった。ただの人間相手に天仙があれを使うと思っていなかったからだ。けれどお前は使った。だから己は彼を助けた。公平だろう?」

「それ、は……敵対行為と、見做すが。良いのか」

「あくまで公平にだよ。過度な肩入れはしない。ただ、天仙を名乗ろう者が矮小な人間相手に鬼尸解まで行う。本気の姿を見せる。それは少々無様だ。だから、そうなった時だけ己は現れよう。……このことを蓮に伝えるか否かは任せるよ、朱槿」

 

 樹化が進み、ヒトガタであっても美しいとは言えなくなったその存在へ言葉を告げる。

 

「忘れないことだ。己はあくまで徐福宗師の弟子。お前達の生死にまで関与するつもりはない。ただ──改めて言っておこう。メイに手を出せば、己はこの島を砕いて海に沈めるよ。……それじゃ」

 

 どの口がほざくのやら、なんて。

 声には出さずに──その場を去った。

 

 *

 

 さて、知っている川辺に二人はいた。

 

「望!」

「ただいま、メイ。画眉丸は?」

「動かない。でも、生きてる」

「ふむ。……画眉丸の氣は火か。……えーと、優しさ優しさ」

「……? ……望の氣、変わった」

「あれ、見せたこと無かったっけ。己は氣をある程度自由に変えられるんだよ。頻繁に変えすぎると本来の自分が分からなくなるけど、まぁ、己の妻がメイであるということさえ覚えていれば問題は無い」

 

 優しさを、慈しみの心を持って画眉丸に触れる。

 治りは……人間にしては早いけど、流石に天仙程とはいかないなぁ。

 

 足音。

 

「あん? ……ボロ雑巾と、誰だ? 死罪人でもナントカエモンでもねぇな」

「い……いえ。……望月くん、ですか?」

「なんだ、知り合いか?」

 

 身長二メートルを超える大男、民谷厳鉄斎。

 身長百五十センチメートル以下のプチ青年、山田浅ェ門付知。

 

「あぁ、己だよ、付知くん」

「……前にも言いましたが、僕の方が年上です。君にくん付けされる謂れはありません」

「でも、己と身長が同じくらいだ。初めは同期だと思っていたよ」

 

 画眉丸に木の氣を与えるついでに、メイへ陽の氣を流して循環させる。

 やはり胚珠が傷つけられていないからか、氣を使ってもそこまで大きく樹化はしないらしい。

 

「おい話が見えねぇぞ。結局お前は誰で、そっちの嬢ちゃんは誰で、そのボロ雑巾に何をしようとしてんだ?」

「己の名は(ワン)。あるいは、山田浅ェ門望月。今は画眉丸とこの子を恢復させている」

「恢復……とは? それに、望というのは」

 

 普段なら答えない質問。

 だけど今は「優しい」ので、答える。

 

「己は妖術使い、ということだよ、付知くん」

「……そんなことを信じるとお思いですか」

「では、三年前にこの島へと渡った己がなぜ今の今まで生きて来られたか。その説明はどうつける? 得体のしれない化け物、夥しい数の毒虫。それらがいたこの島で、どうやって」

「それは」

「ハッ! んなこと考えるまでもねぇ! 戦って生き延びた……そんだけだろ!」

 

 うむ。シンプルイズベスト。

 そして──もし今踏み込んでくるのなら、慈しみを以てその首を刎ね飛ばそう。

 

「ッ!」

 

 大きくバックステップする民谷厳鉄斎。

 

「……おもしれぇ。両手が塞がっている状態で俺の首を斬るか」

「造作もないよ、己には。……っと」

 

 もぞり、と。

 画眉丸が動く。メイも充分回復したかな。

 

「ぅ……ワシは……」

「やぁ、おはよう画眉丸。早速天仙と戦ったようだけど、感想は?」

「……(のぞみ)……? ……。……おヌシが、ワシを助けたのか」

「正確には己の妻だね、お前を助けたのは」

「そうか……礼を言おう」

 

 大分素直だな。

 ってあぁ、氣を消費して恢復する、を一瞬でやってしまったから、結との思い出がより強固になったのか。

 んー……まぁ別に画眉丸と佐切がくっつくってわけでもないから、良し!

 

「天仙ってのは、なんだ」

「……民谷厳鉄斎に、浅ェ門? 望、どういう状況だ、これは」

「画眉丸が天仙と戦った後、落ちてきた場所がここで、丁度民谷厳鉄斎と付知くんが通りすがった。天仙は画眉丸をさっきまでみたいな状態にする程度には強い奴だよ」

「ほう! おもしろそうだな! どこに行けば会えるんだ、そいつは!」

「それより……傷が塞がっている? 先程妖術と言いましたが、もしかしてそれは本当に」

 

 ば、と。

 顔を上げるメイ。

 

「望、佐切たちが」

「ああ……牡丹(ムーダン)と接触したか。想像以上に早いな。……画眉丸、お前も行くか?」

「どこへ?」

「佐切たちのもとへ、だよ。今まさに天仙の一人と戦っている」

「……行く。あれに死なれては困る。処刑人を事故で死なせた場合でも、無罪放免は無くなってしまう」

 

 よし。

 今更だけど、それならもう原作など関係なしだ。

 メイを背負い、画眉丸の手を握って──空気中の氣を蹴る。

 

 ……ん?

 

「空中を蹴っている……どういう……!」

「おぉい! 天仙と戦っている場所に行くんだろう。俺達も連れていけ!」

 

 己が掴む画眉丸の足を掴む民谷厳鉄斎と付知。

 いやいいけど。

 

「画眉丸、身体は」

「問題ない。この程度で裂けはせん」

「そうか。なら──このまま行こうか!」

 

 導士や竈神には申し訳ないけれど、出番なしだ。

 このまま蓬莱へ直進する!

 

 

 直進し──ぽい、と。

 落とす。

 

「──画眉丸!?」

「おいおい、ちゃんとヤバそうな敵じゃねぇか……滾るぜ」

「植物と人間が融合している……?」

 

 場面は……恐らく杠が牡丹を斬り刻んだあたりかな。

 ただ氣の使い方を教えたとしても、杠の氣は土。仙太は資質不足。

 画眉丸と民谷厳鉄斎を連れてきたは良いものの、二人の氣は火だから……正直牡丹とは相性が悪い。相克でないだけマシと見るか、次第によっては牡丹を強めるに終わるか。

 

「敵方の援軍を連れてご登場とは、望。君は本当に僕たちの敵に回ったんだね。……メイも」

「今落ちた白髪と忍じゃない長髪の女は二人一組なのだそうだ。だから己は届け物をしただけ。その他の二人は勝手について来ただけ」

「……あくまで敵に回ったわけではない、と?」

「朱槿に伝えた通りのことをしなければ」

 

 空中にいる己と会話をしている暇などあるはずもなかった。

 

「忍法・火法師!」

「本当に化け物みてぇだな!」

 

 なぜなら、会話に意味を見出さない者が二人もいるから。

 いいや、二人だけではない。

 

「画眉丸! 私の攻撃は敵に有効です! 陸郎太の時のように、隙を作ってください!」

「承知した」

「おおいナントカエモンの嬢ちゃん、俺様にはなんかねぇのか、助言!」

「敵は天仙という人型の化け物です! どれほど斬り刻んだところで再生しますが、瞬時ではありません! ただし、再生していない状態でも動くことは可能なのでお気を付けください!」

「……」

「……何固まってるんですか」

「いやぁ……見た目といい的確さといい、俺の処刑人はあっちが良かったなぁ、と」

 

 して──合戦が始まる。

 

 *

 

 ただし、予想通り牡丹が優勢だった。

 この場にいる彼の相克が佐切とメイしかいないのだから、まぁ当然だ。画眉丸はもうマスターしつつあるけど、佐切と杠は氣初心者。仙太は取り巻きを潰すくらいにしか役立たない。

 これは長引きそうだなぁ、とか思っていたら……ぐりん、と。

 

 牡丹の首が、己らを向く。

 

「こんなんじゃ鬼尸解を使うことにはならないよ、望。ということで、どうかな。君達も参加してみる、っていうのは」

「断るよ。此度己は公平でね。どちらかの戦力が過剰にならない限りは手を出さないことにしている」

「ふぅん。……なら、数を減らせばいいわけか」

 

 ゆえに、矛先は仙太へと向く。当然だ、最も弱い者を削る。それだけでも数が減らせるのなら、効率が良い。

 ただ──それを弾く刀があった。

 

 凄まじい剣閃。

 ……典坐では、ないか。

 

「えぇ……減らそうとしたのに、二人増えた」

「士遠殿!」

「佐切、付知、仙太、全員無事だな! ──それに、この上空にある波は」

「士遠さん! 説明はあとでしますから、今は敵を!」

 

 これは……どうなるんだろうな。

 士遠は牡丹にとって相克。佐切のような爆発タイプではなく、パッシブタイプの相克だ。

 となると、普通に相性が良い。……今は面倒臭そうにしているけれど、普通に鬼尸解まで追い込まれそう。

 

「メイ、どうする? 流石に……多勢に無勢かな」

「……」

「牡丹は嫌い?」

「……。……ヒトを、残酷に殺す、装置。……作った」

 

 あーね。

 でもそれなら、たくさんの人間をこの島へ送ってきた己はどういう扱いになるのかね。

 

「少し離れようか、メイ。牡丹は守らないけれど、人間も守らない。それで公平だ」

「……うん」

 

 フェアに行こうよ、どうせなら。

 牡丹の願いもあることだし、ね。

 

 

 そうして。

 牡丹は……鬼尸解することなく、殺された。

 山田浅ェ門士遠。怪我人なれど、強すぎるな。

 

「よ、と」

「……望月。ずっと空にいたが……本当に望月なんだな」

「士遠なら波でわかるでしょ。さぁ、そんなことより休憩休憩。全員体力も氣も消費し過ぎだからね。まずは──」

 

 向けられた剣を踏みつける。

 ……。

 

「士遠。なんのつもりかだけ、聞いておこうかな」

「その少女の形をしたもの。……それは天仙という奴と同類だろう。……典坐の仇と同類だ!」

「だから殺そうとした……と?」

 

 確かにメイは天仙の一人だ。

 ただ……もし、それだけの理由でメイを殺すというのなら。

 

「己は、お前達が人間であるから、というだけの理由で、世界全土の人間を殺すが、構わないか?」

「……なにを」

「同じことだろう。メイは己の妻だ。己の妻の仇が人間となるのなら、浅ェ門も死罪人も、何の罪も犯していないありとあらゆる人々も同罪。お前は今そういうことを言っている」

「そもそも……お前は、なんだ。山田浅ェ門望月。いや……(ワン)と呼ばれていたか」

「己は己だよ、士遠。望が本名であることは間違いないけれどね」

「敵か味方かを問うているんだ」

「己は公平に行くと決めた。天仙の力が過剰であるのならお前達の援護をするし、逆であれば妻の判断に任せる。お前の言う通り妻は天仙の一人だから、その意志だけが己を動かす」

 

 殺気は。

 ……消えた。

 

「ただし、どうあれ、己を妻を傷つけられたのならば報復に出る。人間全てを、などとは言わないが、己を妻を傷つけた者は必ず殺す」

「わかった。……お前の妻に剣を向けたことを謝る。すまなかった」

「わかってくれたのなら構わない。……で、まぁ此度の戦いでなんとなく掴めたとは思うけど、氣には属性がある。今回はその辺を手解きしようと思う」

「……知っていて黙っていたのか、(のぞみ)

「なら聞くがな、画眉丸。教えていたとして、お前と民谷厳鉄斎は攻撃をやめていたか?」

 

 色々が合流したけれど、仙太が死ななかった。

 それだけでも充分だろう。

 代わりに亜左弔兵衛が画眉丸と接触しなくなるけど……その辺は彼の精神力と蓮の研究成果に任せるとしようかね。

 

 

 一応、全員を全回復させた。

 まぁヌルガイやら付知やら、ほとんど戦っていない者には回復要員に回ってもらったから己が全てをやったわけではないけれど。

 

「ふぅ。……流石にこう何度も何度も人格を切り替えるのは、クるね」

「望、大丈夫?」

「大丈夫。メイがいれば、己は己を取り戻せるから」

 

 さて。

 肩入れは、ここまでかな。

 

「どこへ行くつもりだ、望月。今から天仙対策の話し合いを……」

「言っただろう、士遠。己は公平に行くと。己は天仙の全てを知っている。それは公平ではない」

「公平……。……あくまで、神仏の視線なのか、お前は」

「少し違う。己は氣とは別口の不老不死だ。故に、同じく不老不死を目指す者を見届ける義務がある。……ただし、己の妻は天仙のやり方に反対している。だから今、こうもお前達に力を貸している」

「……」

「ただ……それはやはり、公平ではない」

 

 結局己が、人間を送り込み続けた、というところも含めて。

 蓮らが糾弾されるのなら、己も、だ。……それでも己は、メイに外の世界を見てほしいと願う。

 

「あぁ~、公平公平とうるせぇな!」

「民谷厳鉄斎か。少し待ってくれ、今私は望月と大事な話を」

「テメェに望みはねぇのか! 今でさえ行動理由はその嬢ちゃんの言いなりで、他は全部公平公平公平! 聞けばナントカエモンのところでも石隠れ衆のところでも好き勝手やってたらしいってのに、何があればそこまで自分を消せるんだよ」

 

 ふむ。

 何があれば、か。

 

 ……。うん。

 

「愛だな」

「……あぁ?」

「己は己の妻を愛している。千年前からだ。そして七百年前、己は役目を遂げるためにこの島を出た。帰ってきたのが三年前。……六百九十三年もの間、妻を放っておいた夫が己だ」

「お……おう」

「放っておいた分は愛し返さねばならぬし、その後のことも考えねばならぬ。今公平公平公平と煩いのは、それをしていないと愛に傾倒してしまうからだ。仮に己が愛に傾倒した場合、何が起きるかわかるか?」

「いや……生憎と私は愛も恋も知らぬ身でな」

「問題ない。己でもわからん。……己はお前達が思っているより化け物だ。何か楔で縛っておかねばならん。それが公平で、それが愛だ」

 

 メイ以外への愛情はない。

 徐福宗師と蓮には世話になったので、悲願を成就できたらいいね、という気持ちはある。天仙はよくわからん。

 そして死罪人と処刑人は──。

 

「む」

「あ」

 

 二人して顔を上げる。

 

「どうした?」

「……追加上陸組だな。殊現たちと……石隠れ衆が五十人」

「殊現は……まずいな」

「死罪人と仲良くしたいのなら、あの猪突猛進馬鹿はまずかろう。加えて悪意も感じる。……石隠れ衆は画眉丸を追ってきたようだが、混乱を齎そうとしているやつもいるな」

「なんだ、そんなにやべぇのか殊現ってのは!」

 

 あ。

 衛善の死体が。

 ああ。

 

 ……島の生物は死滅させる、ね。

 

「士遠、少しばかりメイを任せる」

「なに? どこへ行くつもりだ」

「一応、殊現に注意喚起をしてくる。己達の家付近には木人というメイの親代わりをしてくれた者がいる。そいつを殺さぬように、と」

「殊現が従わなかったら、どうするつもりだ」

「追加上陸組を全滅させる。……というのもアリだけど、まぁ木人をこっちに連れてくるよ」

「……そうしてくれ。そして、メイさん……お前の妻は、必ず守る」

「ああ、頼む。だけど、メイも自衛であれば存分に氣を使ってくれていいよ。今は己がいるのだから」

 

 大気中の氣に足をかけ。

 

 そして、一気に八里を駆け抜ける!

 瞬く間に見えなくなる皆と、どんどん近づいてくる門神の背。

 

 彼らは己に気付き、浜辺へと向かおうとしていた足を止める。

 

 なので在り難くヒーロー着地。

 舞い上がる砂埃を氣で弾き飛ばして……正面を向けば。

 

「……望月、くん?」

「ああ、そうだ。三年前からこの島に住んでいる」

「望月くん!! 良かった……良かった!! 生きていたんだね!!」

 

 相変わらず涙脆いやつだ。

 己の手を取り、その生を確かめるように軽く揉んできている。加えての号泣。

 ……後ろの二人と、石隠れ衆へは……殺気でも放っておくか。

 

「ああけど、望月くん。この島は危険だ。すぐに──」

「聞こえなかったのか、殊現。己はこの島に住んでいる。妻もいる」

「……妻!? いや、君の若さで結婚はまだ……」

「先ほど言った、この島の生物を死滅させる、という発言。──撤回する気はないか、殊現」

「無いよ」

 

 即答。

 だけど、確認はする。

 

「この島には己の妻と、その妻の親代わりの者もいる。見た目は人の形を外れてしまっているが、れっきとした元人間だ。──それらも殺すか、殊現」

「勿論だ。島の生物は皆殺す。なるべく苦しませて」

 

 はい、ダブルチェック完了。

 

「ならばお前は己の敵だ、殊現」

「……どうしてそんなことを言うのかな。望月くん、君は勿論含まれないよ。この島の生物ではないからね」

「己の妻と、その親代わりは、この島の生物だ」

「……そうか。たった三年で、染まってしまったんだね」

 

 だらん、と下げられる両腕。

 だからそれを、()()()()()()()()()()

 

「ッ……!?」

「あ~、悪し。……やっぱり俺の勘は当たるねぇ」

「十禾。今ここで決めろ。己はお前達を一個として認識する。──今の幻覚を実現させることもできる」

 

 幻覚だ。まだ、やっていない。

 

「俺は……全然、帰りたいよ?」

「ならば帰れ。くだらん企てと共に将軍へ阿る乱破を引き連れて、今すぐに」

「君は……君は、本当に望月くんかい? 俺は君の性格を知っているけれど、そこまで苛烈な人だった覚えはないよ」

「殊現様。その者は──元石隠れの忍、(のぞみ)にございます。十一年前に里を抜けた大罪人……変化の術は容易、で、あ……」

 

 忠言を行った下忍の首が落ちる。

 

「煩いな。俺が望月くんを見間違えるわけないだろ。山田門下の結束は濃い。……だからこそ悲しい。君は」

「今」

 

 ──避けたのは、殊現、十禾、裏許しの二人とシジャ……その他数名の忍だけ。

 あとは胴体を泣き別れさせて、背後の舩と共に海中へと沈んでいった。

 

「斬った」

「……悪し。悪し。昔からだ。昔から、望月だけには勝てる未来が見えない」

「望月くん。今、自分が何をしたのかわかっているのかい」

「今は未だ罪のない石隠れの衆の大半を殺し、将軍から預かった舩を破壊し、そして家族よりも濃い結束の山田門下へも攻撃を行った」

「君は──」

「親を殺されたのだろう、殊現。これから己が妻とその親を殺されると聞いて、己が冷静でいられると思うのか?」

 

 氣を蹴り、空へと舞い上がる。

 そうして、見下す。

 

「己の家族へ手を出してみろ。──山田浅ェ門一派だけでなく、倭国全土が滅びると思え。己は山田浅ェ門望月。あるいは元石隠れ衆抜け忍(のぞみ)。そして千年前、この島へと辿り着いた方士(ワン)

「おいおい……舩を壊されちゃったら、帰れないだろ?」

「あの一瞬で決めなかったお前の失敗だ、十禾」

 

 凄まじいまでの剣速が昇ってきた。

 対処をする。剣の氣を逸らし、矛先をあらぬ方向へと向ける。

 

「悪し、悪し悪し悪し悪し……おいおいどーなってんだ。何をやっても悪い結果にしかならねぇ。こりゃ、今すぐ殊現の発言の撤回をさせねぇと」

「もう遅い」

 

 あらぬ方向へ剣を振り上げたのだ。

 その隙を逃す己ではない。

 

 剣……は間に合わせてきたので、回し蹴りで蹴っ飛ばす。

 沖合。海獣のいる場所へ。

 

「殊現殿──!?」

「あー……望月。俺にその気は無いからさ、ここは見逃してくれねぇか」

「無論。十禾は御役目などに興味はないだろう。ただまぁ、仮に当主が次代を選ぶのなら、お前ではなく殊現か士遠になるだろうが」

「えー……それ本気で言ってる?」

「内々の揉め事は早めに終わらせろ、十禾」

 

 そして。

 

「画眉丸を殺しに来たのだろうが、さてどうする。画眉丸以上の失態が目の前にいるわけだが」

 

 問いかけるは、石隠れの里の忍。

 

 反応は……ない。

 

「だんまりか。まぁそれもいいだろう。……己は妻のもとへ帰る。浅ェ門の家に欠片でも執着があるのなら、街での殺生はやめさせろ、十禾」

「へいへい……」

 

 もうじき日も暮れる。

 ……時は、近いだろうな。

 開花の時は──。

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