Re:無下限アーカイブ   作:サリム

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便利屋68の暇つぶし

日は高く昇り、ゲヘナ学園の空はいつものように薄曇りだった。荒廃した校舎や至るところに積み上げられた瓦礫が、ここが教育機関であることを疑わせる景色を作り出している。

 

「…相変わらずだな。」

 

悟は学園の廊下を歩きながら、目の前を進むヒナの背中に向かってぼやいた。

 

「そろそろ慣れてきたみたいね。」

 

ヒナは振り返ることなく冷静に答えた。その声には感情の起伏はないが、どこか慣れきった様子が伺える。

 

「まぁ、退屈しないからいいけどよ。」

 

悟は笑いながら両手をポケットに突っ込んだ。

 

廊下の奥から、銃声とともに叫び声が聞こえた。誰かが何かの物陰に隠れ、乱射しているようだった。近づくと、それがただの「お遊び」だとすぐに分かった。

 

「またあいつらね。」

 

ヒナは溜息をつき、銃を構えていた生徒たちに視線を向ける。

 

「風紀委員長だ!」

 

一人の生徒がヒナに気づき、慌てて銃をしまうと、仲間に促してその場を立ち去ろうとする。

 

「止まりなさい。」

 

ヒナの一言で、彼らの足が止まる。振り返る彼女らの顔には恐怖が浮かんでいた。

 

「オレには舐めた態度だったけど、あんたにはビビるんだな。」悟は軽く笑った。

 

「私の立場を理解しているだけよ。」

 

ヒナは短く答えると、生徒たちに向かって冷静に指示を出した。「後で風紀委員会のところに来なさい。」

 

生徒たちは頭を下げ、言われた通りにその場を後にした。悟はその光景を見ながら、皮肉っぽく笑った。

 

「秩序ってやつは、あんたの存在に支えられてるってわけか。」

 

「誰かがやらなければ、混乱が増すだけ。」

ヒナはそう言い切ると、再び歩き出した。

 

廊下の静寂が一瞬破られたのは、ヒナの端末が振動を発した時だった。彼女は無表情のまま端末を取り出し、画面を確認する。

 

「ヒナ委員長!大変です!」

端末の画面に映し出されたのは、風紀委員会行政官である天雨アコだった。その表情には明らかな焦りが滲み出ている。

 

「落ち着いて報告して。」

ヒナは冷静に言いながら、足を止めた。悟は隣で興味深そうにその様子を伺っている。

 

「便利屋68がまた問題を起こしていて……!新しい装置の実験とか言って、倉庫街の一角をめちゃくちゃにしています!」

アコの声には怒りと焦燥が混じっていた。

 

「具体的には?」

ヒナが簡潔に尋ねると、アコは言葉を継いだ。

 

「ブラックマーケットで購入した『新兵器の試験』だとかで、ゲヘナ地区にある倉庫を勝手に占拠して騒ぎを起こしています。周囲への被害も出ていて、早急な対応が必要です!」

 

ヒナは短く息をつき、「すぐ行く。」と言って通信を終了させた後、悟の方に振り向いた。

 

「便利屋68。非公認の部活の中でも特に手のかかる連中よ。」

ヒナは彼女たちについて手短に説明を始めた。

 

「彼女たちは『何でも屋』を名乗り、ゲヘナ中でトラブルを引き起こしている。色んな場所で問題行動ばかり起こしているわ。」

 

「へぇ……なるほどな。」

悟は興味深そうに頷きながら微笑んだ。「つまり、他の部活と同じね」

 

「...放置しておけば被害が広がる。」

ヒナは端的に言い切ると、すぐに便利屋の暴れている倉庫へ向かって走り出した

 

「走っていくのかよ...。」

悟は面倒くさそうにしながらも彼女の後を追った。

 

 

倉庫街に着くと、そこはすでに混乱の真っ只中だった。奇妙な装置が鳴動し、煙が立ち込める中で、風紀委員たちが便利屋68と交戦していた

 

「あれが便利屋68のか……なかなか派手にやってるな。」

悟は瓦礫を跨ぎながら、遠くに見える4人組を指差した。

 

煙の向こうから現れたのは、便利屋68のリーダー、陸八魔アルだった。赤い髪をかき上げ、重厚感のあるスナイパーライフルを扱っている彼女は、明らかにテンパっている表情を浮かべている。

 

「っ?!風紀委員長!。それに……誰?!。」

 

「何をしているのか分かっているの?」

ヒナの冷静な声に、アルは深呼吸して、笑みを深める。

 

「も、もちろんよ。ただ、少し新しい装置のテストをしていただけ。」

 

「その『テスト』でどれだけの被害を出しているか分かっているの?」

ヒナの声が一段低くなる。

 

「えっ?被害?いやいや、これは全て計画のうちなんだから!」

アルが肩をすくめたその瞬間、背後から浅黄ムツキが顔を覗かせた。

 

「やっほー、風紀委員長!今日はどんな説教が聞けるのかな?」

ムツキが茶化すように言うと、陸八魔アルが軽く笑った。

 

「どうする社長?ここで引き下がらないといつもと同じ結果になると思うけど。」カヨコがアルに小声でそう言った。「そうね...。」アルが後ろを振り返り、メンバーたちに撤退の合図を送ろうとすると

 

「アルちゃんはこんなところで引かないよね〜!」

 

「えっ!?も、もちろんよ!カヨコ、作戦を建て直してくれる?。こうなったら全力でやるわよ。」

ハルカが力強く頷くと、便利屋68のメンバーたちが即座に行動を開始した。

 

「さあ、かかってきなさい!」

明らかにテンパって感情が昂っているアルの声を合図に、倉庫街は再び混乱の渦へと飲み込まれていった。

 

「やれやれ、まったく大人しくない連中だな。」

悟は肩をすくめながら、煙の立ち込める倉庫街を見回した。その表情には不機嫌さよりも興味の色が浮かんでいる。

 

「また交渉では解決できなくなったみたいね。」

 

ヒナが短く言い切ると、愛銃デストロイヤーを構えた。鋭い視線が煙の奥に潜む敵を探している。

 

「風紀委員長もやる気満々じゃん!。」

ムツキが笑いながら即席のバリケードの後ろから顔を出した。「風紀委員長の横にいる男の人、気になるね、アルちゃん?」

 

「そうね...。」

 

よく分かっていないアルとは裏腹に、便利屋の頭脳担当と言っても過言では無い鬼方カヨコは混乱していた。

 

(ヘイローが無いということはキヴォトスの外から来た人のはず...私達とは違って銃弾一発でも致命傷になる...こんな場所に連れてきたら危険なこと、風紀委員長が考えてない訳が無いし...)

 

「社長、とりあえず風紀委員長の隣にいる男には攻撃しない方がいい」ガシャン。

 

カヨコがアルに警告すると同時に、背後のハルカが準備していた装置が作動した。突然、倉庫の天井から奇妙な音が鳴り響き、無数の鉄パイプが落ちてくる。「カヨコ?何か言ったかしら、銃声でよく聞こえなかったのだけど...」

 

カヨコの言葉も虚しく、パイプの山は風紀委員達ヒナと悟に向かって重力に従い、落下の速度を増していく

 

「……!」

悟はすぐに反応し、片手を前に突き出した。「術式順転――蒼。」

空間が歪み、鉄パイプは悟の周囲に吸い寄せられるようにして床に叩きつけた。

「助かったわ」

「...ついでだ」

 

「...ふふっ、なるほどね。」

アルは余裕の笑みを浮かべている。内心は今すぐ逃げたいと叫んでいるがもちろん悟たちは気づいていない。

 

「折角用意した大掛かりなトラップが失敗したのに、余裕そうだな?」

悟は笑いながらアルを挑発した。その背後で、ヒナが動き始める。

 

「……悟、囮になれる?」

ヒナが短く問いかけると、悟は片眉を上げて笑った。

 

「囮?おいおい、オレにそんな地味な役割をさせるのかよ。」

そう言いながらも、悟は前方へと歩を進める。

 

「やれやれ、無駄に手間をかけさせるなよ。」

悟が手を振り上げた瞬間、ムツキが仕掛けたトラップが発動した。倉庫の床に設置された小型の爆発装置が爆音とともに火花を散らす。

 

「ちっ……!」

悟は瞬時に反応し、術式を発動して爆風を止める。しかし、ムツキはその隙を突いてさらに接近する。

 

「ほらほら、お兄さん!止まってると当たっちゃうよ~!」

ムツキの手には愛銃トリックオアトリックが握られていた。長さは小柄ではあるが、ムツキの身長を半分以上占めていて、その一撃は凄まじい速度と威力を伴っていた。

 

「っ……!」

悟は銃弾を無下限呪術で受け流しつつ、ムツキの攻撃パターンを観察する。彼女の動きは予測不能で、どこか子供じみた乱暴さが混じっている。

 

「なるほどな、頭使ってねぇ動きだ。」

悟はそう呟きながら笑った。

 

「え~?頭使ってないなんてひどいな~!」

ムツキが笑いながらさらに一撃を繰り出すが、その瞬間――。

 

「隙だらけね。」

ヒナが彼女の背後に回り込み、冷静に一撃を加えた。ムツキの背負っていたバッグから中身が飛び出した、彼女は慌てて距離を取る。

 

「ちょっと~!私の爆弾が〜、やりすぎじゃない?」

ムツキは悔しそうに叫ぶが、ヒナは冷静に彼女を見据えていた。

 

「次は無いわ。」

その一言に、ムツキは少しだけ肩をすくめた。

 

「ムツキだけに任せるのはチームとして恥ずかしいわ、私たちも行くわよ。」

アルが前に出てくる。その背後では、ハルカが即席の投擲装置を起動させ、カヨコが何かを調整している。

 

「さて、風紀委員長。それにその謎の男の人!。」

アルは笑いながら言った。「ここからが本番よ!」

 

ハルカの装置が動き出し、無数の爆弾が空中を飛び交う。悟はその攻撃を一瞬で無力化しようと術式を展開するが──。

 

「……っ!」

突然、術式が僅かに乱れる。原因は短時間で術式を連発したことだった。

 

「くそっ。」

悟は軽く舌打ちしながら身を引く。

 

「急にどうしたのかしら?」

「あの力には何かしら制限があるみたい。バリアのような物も数秒しか発動できないみたいだし...。」

アルの純粋な疑問にカヨコが答える

 

「あ、アル様...時間稼ぎはこれくらいでいいですか?」

ハルカがそう言うと、アルが得意げに頷いた。

 

「ふふっ。これで終わりよ!。」

アルが装置のスイッチを押すと、上から爆発音がし、倉庫の上部が落下してきた。その重量感は一目で分かるほどで、衝撃音と共に周囲が揺れた。

 

悟は薄く笑った。その笑みには焦りは一切なく、むしろ楽しんでいるような余裕が漂っている。

 

「なるほど、派手なのを仕込んでやがるな。」

片手を軽く掲げ、呪詞を詠唱する。

 

「位相、波羅蜜、光の柱...術式反転──赫。」

 

屋根が落下する直前、空間を圧縮して発散する、鉄製のそれは弾き飛ばされ、悟たちが居る場所から落下地点が逸れた。

 

「はぁ...やっぱ赫は一発が限界だな、それにしても逸らせただけか、本来なら粉々に消し飛ばせるはずなんだが。」

悟は軽く笑いながらそう言う。その巨大な物体が倉庫の隅に落ちる音が響く中、アルはそれを見てギャグ漫画に出てくるキャラような顔をしている。

 

「なな、なんですってーーー!!?完璧に決まったと思ったのに...。」

「はぁ...どうするの?社長」

「絶体絶命だね〜!」

「す、すみません!私がもっと爆弾の量を増やしていれば!」

「...仕方ないわ!こうなったら...」

アルはポケットから小型のリモコンを取り出し、スイッチを押す。すると、倉庫全体の照明が一瞬で消え、辺りが真っ暗になった。

 

「停電か?」

悟が小さく呟いた瞬間、煙幕が周囲を包み込む。

 

「ふぅん……なるほどね。」

悟は微かに笑い、目を細めた。「無駄に小細工が得意だな。」

 

その時、ヒナの冷静な声が響いた。「悟、右に3メートルの位置、一人いる。」

彼女の鋭い指示に従い、悟は即座に動く。

 

「やっぱり頼りになるな、委員長さん。」

悟は手を掲げ、術式順転「蒼」を放つ。蒼い光が煙を吸い込み、ムツキの姿が明らかになる。

 

「あっ、やばっ」

ムツキが慌てて後退するが、悟は動きを止めない。

 

「おいおい、始めたのはそっちだろ?」

悟の一言に、ムツキは笑顔を浮かべる。

 

煙幕が晴れると、便利屋68のメンバーはヒナが完全に動きを封じていた。カヨコとハルカはそれぞれ手にしていた銃を床に置き、アルも肩を縮めて両手を上げる。

 

「ま、参ったわ...。」

 

「無駄な抵抗をしなければ、こんなことにはならなかった。」

ヒナが冷静に言い放つ。

 

「うっ...。」

 

「ま、まぁ?今回は引き下がってあげるわ!ふふっまた会いましょう...」

アルがそう言い残して去っていく中、ムツキが手を振りながら笑う。

 

「くふふ...またね、お兄さん、次はもっと楽しいことしようね〜」

 

「ああ、それと...アルだっけ?風紀委員に連行されながら言ってもかっこつかねえぞ?」

「....。」

 

アルは気まづそうに黙って連れていかれた

 

倉庫街に静寂が戻り、悟とヒナはその場に立ち尽くしていた。夕焼けの光が遠くの空を赤く染めている。

 

「便利屋68……面白い連中だったな。」

悟はそう呟きながらポケットに手を突っ込む。

 

「彼女たちは...完全な悪人では無いわ、でも、その結果が他人に迷惑をかける以上、容認するわけにはいかない。」

ヒナの声には冷静さがあったが、少しだけ疲れも感じられた。

 

「でもよ、ああいう連中がいるからこそ、ゲヘナは面白いんだと思うぜ。」

悟の言葉に、ヒナは短く答えた。「はぁ...私は別に面白くなくてもいい...。」

 

二人はしばらく黙ったまま倉庫街を歩き続けた。

 

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