天与呪縛がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:ウッウ
お気に召しましたら、どうぞ。
夕焼けが空を染める中、戦場には微かな風の音だけが漂っていた。
足元の砂利が踏みしめるたびにざり、と低い音を立て、緊張感が肌を刺す。
目の前には、覚醒した無下限呪術の使い手――おそらく現代最強となった呪術師がいる。
俺は息を吐き出し、呪具を握りしめる。
骨が軋む感覚が確かに自分がまだ立っていることを教えてくれる。
全身にみなぎる力は、まるで獲物を前にした猛獣のそれに似ていた。
だが――俺は感じていた。
名状しがたい…違和感を
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虚式「茈」――
眩い光が視界を埋め尽くし、体が押し潰されるような感覚に包まれた。
五条悟の放つ圧倒的な呪力が、俺のすべてを飲み込む。
禪院家、呪術の名門に産まれた俺はそこで「猿」扱いされた。
呪力を持たない天与呪縛という枷。それは、呪術師としての価値を――禪院家における絶対的な価値を俺から奪った。
幼い頃から、蔑まれ、見下され、そして追い出されるように家を去った俺は、生き延びるために牙を研いだ。
金さえ積まれれば、どんな依頼だって受けた。
いつからか「術師殺し」なんて呼ばれるようになった。
だが――どこまでのし上がっても、俺の中には埋まらない空白が広がっていた。
そして、最強を目の前にしたその時――俺は何かに取り憑かれたように動いた。
最強を……俺を否定した禪院家、呪術界、その頂点をねじ伏せる――そのために。
否定され続けた俺自身の存在を、この手で肯定するために。
自分を肯定するために、いつもの自分を曲げちまった。
その時点で負けていた。
時間が止まったかのように、戦場は静寂に包まれる。
夕日に照らされる中で、身体は動かない。
呪具は俺の手から滑り落ち、地面に転がっている。
抉れた俺の身体からは、止まらない血が大地に染み出している。
かすむ意識の中でも、あいつの蒼い瞳だけは異様なほど鮮明に映る。
「最後に言い残すことはあるか」
目の前にたたずむ最強は、そう低い声で問いかけてきた。
口の端が僅かに歪む。
血の味が広がるのを無視して、かすれた声で笑いながら答える。
「……ねぇよ」
声はかすれていたが、それでも言葉を絞り出す。
自嘲混じりの笑いを浮かべながら、俺はあいつの顔を見つめた。
五条悟は沈黙したまま、俺を見つめていた。
その蒼い瞳に宿る感情――それが何なのか、俺にはわからなかった。
憐れみか?
それとも、ほんの僅かばかりの敬意か?
何であれ、今の俺にはもはや関係のないことだ。
その時、ふと脳裏をよぎるのは――
俺の血を引き、才能を持って生まれた存在。
俺とは違う未来を歩むはずの小さな存在。
だから、禪院家に渡すと決めた。
俺が面倒を見るより、そっちのほうがいい――そう思った。
だが、今思い浮かぶのは禪院家に囚われた
あの呪われた家で、果たして幸せに生きられるのか?
大切にされることなど、本当にあるのか?
(
自分も他人も尊ぶことがない生き方、それが俺の選んだ選択のはずだ。
だがもし――もしも目の前の
「あと数年もすれば、俺のガキが禪院家に売られる……」
途切れ途切れの声でそう言葉を吐き出す。
自分の言葉の軽さに苦笑する。期待なんてしてねえ。
だが、こいつがいるなら――少しはマシな未来になるかもしれない。
「……好きにしろ」
視界はぼやけ始め、足元の砂利も、夕焼けに染まる空も、すべてが遠ざかっていく。
残りわずかな力で、俺はもう一度だけ笑った――薄っぺらい、力のない笑みだったかもしれない。だが、それが俺という存在の締めくくりに相応しいと思えた。
全てが闇に沈む。静寂と冷たさだけが残り、俺の意識はそこで途切れた。
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時は流れ――小さな家を訪れた五条悟は、とある少年と対峙していた。
「伏黒…恵君だよね?」
五条悟は彼の姿を見るなり、何とも言えない表情を見せる。
「あんた誰?っていうか…何、その顔」
「いや、ソックリだなと」
「?」
何もかもが間違いだらけだった彼の人生。
その中で最後に託した小さな希望。
この先どうなるかは、もう知る由もない。
だが、もし彼がその場を見ているなら――少しだけ、満足気に笑っていたのかもしれない。