天与呪縛がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:ウッウ

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#11 妖精

ここは、15階層。

 

「中層」に位置する階層域であり、ギルドの定めた適正基準はLv2。

最初の死線(ファーストライン)と呼ばれ、上層を除いて最も事故が多い階層である。

 

あたりには、足音を立てることさえ躊躇うほどの緊張感がその場を支配していた。

 

 

だが、今――

 

 

この空間には緊張とは程遠い、場違いなほど余裕のある男がいた。

 

男の目の前には、1匹のミノタウロスが立ちはだかっている。

その筋骨隆々の体躯から放たれる威圧感は、まさに怪物。

 

 

『ブモオオオオオオオオ!』

 

 

ミノタウロスの雄たけびが周囲に響き渡り、空気が震える。

 

「…………」

 

だが、男は眉ひとつ動かさない。

それと同時、ミノタウロスが地を揺るがす勢いで動き出す。

 

赤い目をぎらつかせながら、男との距離を詰める。

 

手にした巨大な戦斧が振り上げられ、その軌道は地を抉るかのような凄まじい破壊力を予感させた。

 

しかし――

 

「…………」

 

退屈そうな顔を浮かべながら、ゆらりとそれをかわした。

振り下ろされた戦斧の刃は、彼の体をかすめるどころか、その髪の一筋すら触れることができなかった。

 

男の手がゆっくりと刀の柄を握り直す。

次の瞬間、空気が震えた。

 

放たれたのは、一閃。

 

 

 

キィィン!

 

 

 

音すら追いつかない速さで、刀が風を切り裂く。

目で追う間もなく、閃光のような斬撃がミノタウロスを襲った。

 

その巨体は、わずかな抵抗もできずに崩れ落ちる。

胸から腹にかけて刻まれた深い傷口から大量の血が噴き出し、赤黒い液体が床を染め、全身が塵と化し、静かに消え去った。

 

ミノタウロスの死と共に訪れた静寂を、男は興味なさげに受け入れた。

 

男は刀を軽く振り、刃についた血を払うと、鞘に刀をしまった。

しかし、その背後にまたしても足音が響き始める。

 

重い、低い響き。

それは1匹や2匹ではない、複数の存在が一斉に動き出したことを告げている。

 

振り返った男の視線の先、ダンジョンの闇の中から複数の赤い瞳が光り始めた。ミノタウロスの群れ。

男は口角を僅かに上げると、軽く肩を回した。

 

 

そして、15階層の闇に再び血が舞い、静寂が訪れるまで、ほんの数分しか必要としなかった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「……お前、本当に何者だ?」

 

不意に後ろから、フィルヴィスの声が聞こえた。

俺は振り返らずに、そのまま肩越しに応える。

 

「……ただの冒険者だよ」

 

「ただの冒険者が、ミノタウロスの群れを単独で倒せるわけがないだろう」

 

フィルヴィスの声は、冷静さを装っているが、その奥には明らかに警戒心と戸惑いが滲んでいるのがわかった。

 

俺は何も言わず歩き出そうとする。

だが、フィルヴィスは足音を立てて俺の前に回り込む。

 

「お前の強さ……最低でも私と同じLv3、いや、Lv4はあるだろう」

 

俺は一つ息を吐き、フィルヴィスの真剣な表情を視界の隅に捉える。

何やら否定するのも面倒だ。

 

「だったらなんだ?」

 

「それほどの強さがあれば、私と組む必要などないはずだ」

 

フィルヴィスの視線は鋭さを増していく。

その一言一言が、容赦なく突き刺さる。

 

「それなのに、お前はなぜ……」

 

「なぁに、()()()()()()()だよ」

 

淡々とそう言い放ち、反応を見る間もなく再び歩き出した。

 

「………」

 

 

 

 

 

周囲には静寂が訪れる。

 

俺たちの足音だけがあたりに響き、その音がダンジョンの壁に反響するたび、不思議な緊張感が胸を締めつける。

 

フィルヴィスは俺の後ろを歩きながらも、一言も発しない。

もとより、口数が多いタイプではないのだろう。

 

ダンジョンを歩きながら、俺はフィルヴィスに言われた言葉を反芻していた。

 

 

『私と組む必要などないはずだ』

 

 

 

その通りだ。あいつの言葉に、間違いはない。

俺にとって、パーティーメンバーがこいつでなければならない理由なんてどこにもない。

 

だが――

 

(なんでだ……)

 

あんなやり方をしてまで、俺はこいつを誘った。

なぜかこいつを放っておけなかった。

 

他のやつらに比べてマシだったとか、いち早くダンジョンに潜りたかったからとか、そんな理由じゃない。

 

何かが俺を突き動かしている感覚があった。

 

(……あのバカ主神(ヘスティア)に感化されたか?)

 

そう思わずにはいられなかった。

あいつなら、どうしただろうか――いや、分かりきってることだ。

 

思わず苦笑しそうになる自分に気づいた時――

 

 

「ん?」

 

 

ダンジョンの壁に大きくひびが入る。

 

空気は次第に重くなり、ダンジョン全体に低い振動音が鳴り響く。それは耳鳴りに似た嫌な音で、骨の奥まで揺さぶるような感覚だ。

 

ひびの隙間が次第に広がり、その闇からモンスターが次々と溢れ出してきた。最初に現れたのは、白い毛並みと鋭い角を持つアルミラージ。

 

続けて、赤い瞳を燃やすヘルハウンド。

 

そして巨体を揺らすミノタウロスだ。ダンジョンの空間を圧迫するように、俺たちを囲む形で現れた。

 

「……派手な歓迎会だ」

 

俺は薄く笑いながら、肩を軽く回して体をほぐす。

高揚感が高ぶり、思わず口角が上がる。

 

その時、フィルヴィスが先んじて動き出す。

 

短剣を握りしめながら迷いなく前へと踏み出し、一番前にいたアルミラージの群れに向かって突進していく。

 

「おいおい……」

 

俺が軽く呟く間に、フィルヴィスの短剣が一閃する。鋭い角を持つアルミラージが喉元を切り裂かれ、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

続けざまに、もう一体のアルミラージに対して鋭いステップで懐に入り、喉元を貫くように短剣を突き立てる。

 

(……なかなかやるな)

 

俺は少しだけ感心しながら、その背中を見つめる。

 

フィルヴィスは次々に襲いかかるモンスターを相手にしながらも、その動きに焦りは見えず、冷静に戦況を制している。

 

フィルヴィスの口元が小さく動く。

手にしていたのは、見慣れない短い杖のようなもの。

 

一掃せよ、破邪の聖杖

 

 

俺はその言葉に思わず眉をひそめる。

 

(なんだ?)

 

低く響く声がダンジョンの壁に反射する。

次の瞬間――

 

 

「ディオ・テュルソス!」

 

短杖から眩い光が放たれる。

それは鋭い雷撃となり、ダンジョン内を一瞬で駆け抜けた。

 

白熱する光とともに轟音が響き渡り、雷がモンスターたちを包み込む。その一瞬の閃光の中、モンスターの影が断末魔をあげながら倒れていくのが見えた。

 

『ギャアアアアアッ!』

 

アルミラージの悲鳴が耳をつんざき、その体は黒焦げになり地面に崩れ落ちた。ヘルハウンドも雷の直撃を受け、喉奥で練っていた炎が暴発し、真っ黒な煤煙を撒き散らしながら倒れ伏す。

 

そして、ミノタウロス。巨体を揺らし、片膝を地面につきながら低く唸るが、それも一瞬だった。雷が走った痕から蒸気が立ち上り、奴の巨体もまたゆっくりと崩れ落ちる。

 

空気には焦げた臭いが満ちていた。

焼け爛れたモンスターの残骸が消え去ると、静寂が訪れる。

 

「なるほど、()()が魔法ね」

 

前方のモンスターが魔石と化し、静まり返るダンジョンの中で呟いた。

 

(ってことはさっきのは詠唱……俺の世界でいうところの呪詞ってところか)

 

そう考えを巡らせていると、背後から鋭い気配が迫ってきた。

 

振り返るまでもなく、俺はかがみ込んで背後からの攻撃をかわした。

巨大な炎が俺の頭上をかすめ、空間を焼き尽くす熱風が押し寄せる。

 

「俺もやるとするか……!」

 

ちらりと後ろ見目をやると、いくつかのモンスターの姿が見えた。

 

(ヘルハウンドが1、アルミラージが5、ミノタウロスが2)

 

かがみ込んだ体勢のまま、俺は足元に転がる石に手を伸ばす。

重さを確かめるように握り締めると、素早く体を回転させ、勢いをつけて石をヘルハウンドの顔面目がけて投げつけた。

 

「ほらよ!」

 

石が空気を切り裂き、鋭い音を立てながら飛んでいく。狙いは正確だった。

石はヘルハウンドの鼻先に命中し、低く濁った悲鳴が響く。

 

『ギャンッ!』

 

ヘルハウンドは火球を吐き出そうとした体勢を崩し、一瞬の隙を晒した。

その隙を見逃すはずもなく、俺は地面を蹴り、一気に距離を詰める。

 

だが、その動きに反応してアルミラージの群れが跳びかかってきた。

 

「ふっ!」

 

俺は冷静に彼らの動きを見切り、刀を抜き放った。

刃が光を反射しながら横一閃に軌跡を描く。

 

アルミラージたちは一瞬のうちに動きを止めた。喉元を切り裂かれたことにより、鮮血が宙を舞い、地面に赤い模様を描きながら崩れ落ちていく。

 

「次」

 

刃を振って血を払い、次の動きを見据える。だが、すぐさま2匹のミノタウロスが巨体を揺らしながら迫ってきた。その後ろでは、ヘルハウンドが再び体勢を整え、火球を溜め込んでいるのが見える。

 

(間に合わねぇな)

 

とっさに、俺は刀をヘルハウンドに向けて投げ放った。

 

「よっ!」

 

刀が空中で煌めきながら回転し、ヘルハウンドの口元に一直線に飛んでいく。狙いは正確で、刃が火球を吐き出そうとしていた喉元に突き刺さった。

 

『ギャッ!』

 

ヘルハウンドは悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。その一方で、刀を失った俺にミノタウロスが迫ってくる。

 

「……やれやれ」

 

 

一体目のミノタウロスが拳を振り上げ、地面ごと俺を砕こうとするような勢いで叩きつけてくる。

 

俺はその動きを冷静に見切り、後方に跳んで間合いを取る。拳が地面を叩きつけると同時に土煙が舞い上がり、その隙に懐へと飛び込んだ。

 

「っ!」

 

拳をミノタウロスの腹部に全力で叩き込む。衝撃で巨体が揺れるが、追撃を止めるつもりはない。膝を突き上げ、肘で叩きつけ、さらに連続で攻撃を叩き込むたびに、奴の動きが鈍くなっていく。

 

『ブ……ボオオ』

 

最後に強烈な蹴りを叩き込み、巨体はダンジョンの壁に激突して動きを止めた。

 

 

それと同時、もう一体のミノタウロスが横から俺に向かって突進してきた。

俺は後方に回転して体勢を整え、突進してくる巨体の拳を冷静に受け流すように横へ逸らす。

 

「ふっ!」

 

相手の動きが乱れた隙に、その膝を狙って全力で回し蹴りを叩き込む。膝関節が嫌な音を立て、ミノタウロスがバランスを崩して膝をつく。

 

俺はミノタウロスの巨大な頭を掴み、そのまま全力でねじり込む。

 

『ブモオオオオオオ!?』

 

ゴリゴリと嫌な音が響き、ミノタウロスが苦痛の呻き声を上げながら抵抗するが、俺は手を緩めない。

 

全身の筋肉に力を込め、渾身の力でその巨大な頭をさらに強引にねじり上げる。

瞬間――

 

 

 

バキッ!

 

 

 

嫌な音と共に、ミノタウロスの首が不自然な方向に傾く。

巨体が大きく揺れ、力を失ったように膝から崩れ落ちた。

 

「ふぅ……」

 

俺は掴んでいた頭を放し、一歩後ろに下がりながら荒い息をつく。

だが、すぐに背後に気配を感じた。

 

振り返ると、先ほどのミノタウロスが、口から血を流しながら巨体を引きずりつつ拳を振り上げている。

 

(回避……いや、間に合わない。カウンターだ)

 

 

 

そう判断したと同時、雷撃がミノタウロスを打ち抜いた。

思わず振り返ると、魔法を放ったフィルヴィスの姿が視界に入った。

 

焼け焦げた臭いとともに巨体が崩れ落ち、完全に動きを止める。

 

「……助かった」

 

俺は息を整えながら、フィルヴィスの方へ視線を向ける。

一歩も動かず冷静な顔でこちらを見返している。

 

「…………」

 

フィルヴィスは何も言わずに、振り返ると再び歩き出した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

周囲には再び静寂が訪れる。

 

俺たちの間に、会話はない。

フィルヴィスは淡々と歩き続け、俺は少し遅れてその背中を追う。

 

そんな時、俺は不意にこんなことを聞いていた。

 

「……お前、なんで冒険者やってんだ?」

 

俺の問いかけに、フィルヴィスは足を止めるでもなく、振り返るでもなく、ただ前を見据えたまま歩き続けた。

 

「………………」

 

しばらくの間、返事はない。

俺はその沈黙が何を意味するのかを図りかねていたが、やがて低く呟く声が聞こえた。

 

「……お前は、意外と良いやつだな」

 

「あ?」

 

唐突なその言葉に、俺は思わず眉をひそめた。歩きながら視線だけで捉えるが、フィルヴィスは俺の反応など気にする様子もなく、前だけを見つめている。

 

「だが、私に情を移すな、近づくな」

 

ぽつりぽつりと、言葉を続ける。

 

「私は…………穢れている

 

その言葉とともに、フィルヴィスが俺の方を向いた。

 

その顔は、さっきまでと違った。微かに揺れる瞳、かすかに噛み締められた唇――その中に秘められた感情が、確かに見えた。

 

 

 

その瞬間、俺の中に()()()()()が浮かび上がる。

 

 

 

(あぁ、そうか……)

 

ようやくわかった。

 

どうして、こいつのことが気になるのか。

どうして、こんなにも放っておけないのか。

 

(俺は……こいつに……)

 

 

 

その事実に気づいた俺は、再びフィルヴィスに声をかける。

 

「おい」

 

短い一言に、フィルヴィスが振り返る。

眉をひそめながらも、どこか不思議そうな表情だ。

 

「今度はなんだ」

 

「休憩すんぞ」

 

「は?」

 

明らかに驚いた様子のあいつの反応に、俺は軽く肩をすくめた。

何か文句を言いたそうな顔をしているが、そんなのはお構いなしだ。

 

「ほら、お前も休め」

 

そう言いながら、俺は無造作にダンジョンの壁に背を預ける。冷たい石壁の感触が疲れた体に心地よい。

フィルヴィスは俺をじっと見つめたまま、しばらく動かない。

けれど結局は観念したのか、少し離れた場所で静かに腰を下ろした。

 

「……もっと近くに座れ」

 

「なんでだ」

 

「ここはダンジョンの中だぞ?なんかあったらどうする?」

 

俺の言葉に、フィルヴィスはわずかに顔をしかめる。

それでも、文句を言いたげなその表情を隠そうともせず、渋々と俺の隣へ移動してくる。

 

「「………………」」

 

沈黙が降りた。

 

遠くで小さなモンスターの気配を感じるが、近くに敵意を持つものは感じられない。

俺は視線を前に向けたまま、口を開く。

 

「さっき気づいたことなんだがよ」

 

俺の言葉に、フィルヴィスがわずかに眉を動かす。視線は依然として前を向いたままだが、その耳が微かにこちらを向いた。

 

 

 

「俺は……お前が嫌いだ」

 

それに対し、フィルヴィスの反応は一瞬だった。

 

「……は?」

 

低く漏れた声には明らかに戸惑いが混じっている。

顔をこちらに向ける気配を感じたが、俺はあえて視線を前に固定したまま続ける。

 

「お前のことを見てると、どうにも苛立ってな」

 

そう言いながら、俺は軽くため息をついた。

 

「それがなんでなのか、考えてみたんだが……」

 

俺は言葉を切り、少しだけ間を取った。

フィルヴィスがこちらをじっと見つめているのを感じる。戸惑いと警戒が混じったその視線を受けながら、俺は続けた。

 

「たぶん、お前が……()()()()()()()()

 

フィルヴィスの目がわずかに揺れる。

その変化は一瞬だったが、俺の目にははっきりと映った。

 

 

 

そうだ。

こいつは俺に似ている。

 

この世界に来たばかりの頃。

ヘスティアと会う前の俺も、きっとあんな顔をしていた。

 

目の前に光があっても、それに手を伸ばそうともしない。

死んでいないだけで、生きてもいない――そんな空っぽの人間だった。

 

知らず知らずのうちに、俺はこいつを自分と重ねていた。

 

だから()()()()()()()()

だから()()()()()()()()()

 

もしかしたら、俺もあんな風に生きていたかもしれなかったから。

 

 

だが、俺は運がよかった。

 

あいつが、俺にチャンスをくれた。

ヘスティアが、やり直せばいいとそう言った。

 

そのおかげか、今は意外と充実してる。

 

 

 

誰かを助けるなんて、俺にはできねぇ。

 

 

 

柄でも無いしな。

 

 

 

だから、俺がこいつに言えるのは――

 

 

 

「俺はろくでもない人間だ、お前が思ってるよりずっとな」

 

俺は自嘲気味に笑いながら、続けた。

 

「そんな俺でも、一つ分かったことがある」

 

フィルヴィスは微動だにせず、ただ俺の言葉を待っているようだった。薄暗いダンジョンの光の中で、その瞳だけが静かにこちらを見つめている。

 

「……お前は、優しい奴だよ。フィルヴィス」

 

俺の言葉に、フィルヴィスの表情が一瞬だけ揺らいだ。

鋭く冷たい雰囲気を纏っていたその顔に、わずかな動揺が垣間見える。

 

「な、何故そんなことがわかる!?」

 

その声は確かに震えていた。

 

「いい加減なことを言うな!」

 

フィルヴィスは鋭い声で言い放つ。拳を握り締めるその仕草には、怒りとも不安とも取れる感情が滲んでいた。

 

「私と貴様は、まだ会って間もないはずだ!私のことなど、何も!」

 

「知らねぇな、興味もねぇ。お前の過去なんざ、俺にとっちゃどうでもいいことだ」

 

 

 

フィルヴィスはその言葉に目を見開いた。驚きと戸惑いが入り混じった表情――まるで思ってもみなかった一撃を食らったかのようだった。

 

「ただ、俺が知ってるお前は……穢れてなんかないってことだけだ」

 

「………ッ!」

 

 

 

フィルヴィスの息が詰まる音が聞こえる。その目は大きく見開かれ、動揺を隠すことも忘れていた。

一瞬の沈黙が、あたりを支配する。

 

「くっ……くくく……」

 

突然、フィルヴィスの肩が小刻みに震えた。

やがてそれは、かすかな笑い声へと変わっていく。

 

「なんなんだそれは……私を口説いているのか?」

 

笑みを浮かべながら、フィルヴィスは言葉をつづった。

それに対し、思わず鼻で笑う。

 

「はっ!なわけねぇだろ」

 

俺は肩をすくめ、軽く息を吐きながら答える。

 

 

 

(なんだ、()()()じゃねぇか)

 

「そうだな、お前はそういうやつだ」

 

その言葉にはどこか呆れたような響きが混じっているが、不思議と棘は感じられなかった。

 

「お前は変わった人間(ヒューマン)だ」

 

フィルヴィスが小さく呟く。

 

 

 

その表情は――――――

 

とても綺麗なものだった。

 

 

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