天与呪縛がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:ウッウ
湿った空気が鼻腔を満たし、遠くで水滴が石に落ちる音が響いている。
この場所が何なのかは分からないが、ただの空間ではないことは確かだ。
「ったく、何匹いやがんだよ」
俺は苛立ちを隠せずに呟きながら、手の中の石を転がした。
指先に触れるそれの数は、既に10を超えている。
これらは先ほどから襲いかかってくる怪物たちを倒して手に入れたものだ。
取るに足らない雑魚とはいえ、こうも立て続けに襲ってこられるとさすがに骨が折れる。
「呪霊じゃねぇのは確かだ。だが、だとしたら何なんだ……?」
俺は低く呟きながら、考えを巡らせる。
あの怪物たちは、知性のようなものを一切感じさせない。ただ目の前の相手を殺そうとする本能だけで動いているようだ。
(等級換算したとして、準2……いや3級ってとこか)
だとしても、普通の生物ではないことは確かだ。
(もしあれ以上のやつらがいたとしたら…面倒だな)
俺は眉間に皺を寄せながら、その石を懐にしまい込む。
だが、冷静に考えれば今の俺に余計な情報を推測している余裕はない。
目の前の敵を排除し、この場所から脱出する――それが今の最優先事項だ。
――――――――――――――――――――――――――――――
(つけられてんな)
歩みを進めていると、背後からいくつかの気配を感じる。
それは、一定の距離を保ちながら俺を見つめていた。
(……3人か)
足音や気配から、先ほどまでの怪物ではなく人間であることを確信する。
「男につけられる趣味はねぇ……さっさと出てこい」
足を止め、俺がそう口を開くと闇の中から三人の男たちが現れた。
全員が軽装で、手には安っぽいナイフや棍棒を握っている。
「おいおい、気づいてたのかよ?」
真ん中の男が口元に薄笑いを浮かべながら言った。
そいつは他の二人よりも一歩前に出てきて、不快な笑みを浮かべる。
「丸腰のくせに、随分余裕そうじゃねぇか。状況を分かってねぇのか?」
右側の小柄な男が肩をすくめながら、ナイフを俺に向ける。
「……そういう感じね」
俺は小さく息を吐き、視線をリーダー格の男に固定しながら軽く肩を回す。
リーダー格の男が剣の柄に手を置き、唇に笑みを浮かべる。
「こっちの要求は一つ……持ってるもん全部置いて行きな」
「見ての通り手ぶらだ、他を当たれ」
俺は静かに答えるが、その言葉にリーダー格の男は鼻を鳴らした。
「嘘つけ、魔石を持ってただろうが」
「魔石?」
俺は言葉を反芻しながら、手をポケットに入れてその冷たい感触を確認する。
「これのことか?」
わざとらしく取り出してみせると、男たちの目が欲に濁った。三人とも一斉にこちらへじりじりと間合いを詰めてくる。
「へへ、分かってんじゃねぇか。おとなしく持ってる魔石を全部渡しな」
リーダー格の男がナイフを振りかざしながら一歩前に出る。
男が一歩踏み出すと、後ろの二人も武器を構えてにじり寄ってくる。
だが、その
俺は薄く笑みを浮かべながら、魔石を軽く指先で転がした。
「そんなに欲しいなら………やるよ」
そう言って魔石を宙に放り投げる。
「「「!」」」
俺は魔石を宙に放り投げた瞬間、奴らの視界がそれに合わせて上がる。
「――馬鹿が」
その隙を見逃すほど、俺は甘くない。
俺はリーダー格の男の懐に滑り込む。
片手でそいつの手首を掴むと、そのまま力を込めてひねり上げた。
「ぐあっ!」
鈍い音と共にナイフが地面に落ちる。それと同時に、俺は拳を顔面に叩き込んだ。
「ぐべぇ!」
奴は情けない声をあげながら、男の身体が宙を舞う。
「なっ!」
「てめ――」
後ろの二人が動揺する声を上げるが、俺の意識は既に次の動きへ移っていた。
次に狙うのは棍棒を持った男だ。武器を振り上げる姿を確認しながら、奴の元へ迫る。
「遅い」
男が振り下ろす棍棒をぎりぎりでかわすと同時に、その懐へ滑り込む。俺は右手で棍棒を抑えながら、左肘を正確に男の喉元へ叩き込む。
「ガッ…!?」
喉を押さえた男が咳き込みながら膝をつく。
そのまま後頭部を掴み、床に叩きつけると、男は完全に動けなくなった。
最後に残った小柄な男は、恐怖に目を見開いていた。
彼はナイフを握る手を震わせ、必死に後退しながらこちらを睨む。
「て、てめぇ……化け物かよ!」
喉を震わせるような声で叫びながら、男は振り絞るようにナイフを俺のほうに向ける。
俺はその様子を冷たい目で見つめながら、一歩一歩ゆっくりと距離を詰めた。
「く、くそがぁ!」
男は最後の気力を振り絞り、突きを繰り出してきた。だがその軌道は、俺の目にはスローモーションに見える。
俺は一歩横に踏み出し、突き出された腕を掴む。そのままナイフを持つ手首をひねり上げると、男は悲鳴を上げてナイフを取り落とした。
「や、やめ」
男が叫ぶ前に、俺はその顎に拳を叩き込み、続けざまに膝を腹部に入れる。男は呻き声を上げながら崩れ落ちた。
地面に転がる三人を見下ろしながら、俺は静かに息を吐いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、お前らには聞きたいことが山ほどあるんだが……」
俺はチンピラ3人を目の前で正座させていた。
最初は殺す気だったが、今は情報を得るのが最優先と判断し、殺さない程度に手加減してやった。
リーダー格の男は顔を腫らしながらも必死に弁解しようとしている。
「す、すまねぇ! 俺たちが悪かった! どうか、どうか命だけは勘弁してくれぇ!」
「俺の質問に答えりゃ、それも考えてやるよ」
俺は冷たく言い放ち、三人を睨みつけた。
その視線に射竦められた三人は、思わず肩を震わせている。
「まず、ここはどこだ? 俺はどこかの洞窟に迷い込んだと思ってたが……ただの洞窟じゃねぇよな?」
リーダー格の男は口をパクパクさせていたが、ようやく言葉を絞り出した。
「な、なに言ってんだ?ここは迷宮都市オラリオの……ダンジョンだぞ?」
「……オラリオ?……ダンジョン?」
俺は聞いたこともない単語に思わず眉をひそめた。
俺の返答に対し、男は動揺した様子を見せる。
「し、知らねぇでここにいんのか?」
「知らねぇも何も、気づいたらここにいたんだよ。オラリオだのダンジョンだの、聞いたこともねぇ」
リーダー格の男は信じられないという顔をしながら、俺の全身を見回す。まるで、俺が本気で言っているのかを確認しようとしているようだった。
「……マジか?」
「ああ、マジだ」
少しの沈黙が、間を支配する。
俺は思考を巡らせ、とあることを思いつく。
「………今から俺が言う単語に一つでも聞き覚えがあったら言え」
俺は低い声で言い放ち、チンピラどもの反応をじっくり観察する。奴らはお互い顔を見合わせながら、小さくうなずいた。
「呪術、呪霊、五条悟……」
俺が言葉を続けるたびに、三人の顔は次第に困惑に染まる。
「アメリカ、日本、地球……」
呪術に関するものから、常識的なものまで次々と並べていったが、こいつらの反応は一貫していた。
「き、聞いたことねぇな……なんだそれ?」
「知らねぇか……」
俺は内心舌打ちをしながら、眉間にシワを寄せる。
今の問いかけではっきりした。
ここは俺の知る世界ではない――その事実に。
「次だ、てめぇらが狙ってた
俺は懐から石を取り出し、光を反射するその表面を指先で転がしてみせる。
「ま、魔石だ! そいつを地上に持って帰れば換金できる!」
「……金になるのか、これが」
俺はポケットから魔石を取り出し、光を透かして眺めた。
「なら、この魔石ってやらを落とす、あの怪物はなんだ?」
俺の問いに、リーダー格の男は怯えた顔で答えた。
「そ、それはモンスターだ! ダンジョンが自然に生み出す存在で、人類の敵だよ!」
「ダンジョンが生み出す?」
「そうだ! ダンジョンは魔物を無限に作り出すんだよ。どういう仕組みかなんて誰も知らねぇけど……倒してもまたすぐに別のが湧いてくる!」
「湧いてくる……か」
俺は頭の中で情報を整理する。
こいつらの様子から考えるに、ここではそれが普通のようだ。
一通り情報を聞き出した俺は、立ち上がって三人を見下ろした。
「……命は取らねぇ、代わりに条件を出す。地上に出るためのルートを案内しろ」
三人は怯えた顔でうなずき、すぐに立ち上がった。
「わ、わかった! 何でもするから、命だけは助けてくれ!」
「なら、さっさと案内しろ。時間は無駄にできねぇんだ」
俺は冷たく言い放ち、彼らの後をついていく形で歩き出した。
――――――――――――――――――――――――――――――
ダンジョンを抜けた先に広がっていたのは、俺が想像していた以上に活気に満ちた場所だった。
青空の下、迷宮都市オラリオ――その姿が目の前に広がる。
大きな石畳の道を行き交う人々は、どこか戦士然とした雰囲気をまとっている。鎧を着込んだ者、ローブを羽織った者、さらには巨大な剣や槍を背負った者まで、その多様さに圧倒される。
建物は所々に異世界然とした装飾が施され、通りには屋台や商店が軒を連ねていた。焼きたてのパンの香りやスパイスの匂いが漂い、人々の笑い声が入り混じる。
「……これがオラリオか」
俺は小さく息を吐きながら、目の前の光景をじっと見つめた。
後ろで、リーダー格の男が肩をすくめる。
「よ、ようやく地上だな……それじゃあ俺たちはこれで」
「……待て」
俺が冷たく言い放つと、三人はビクリと肩を震わせる。
「な、なんだよ……まだ何かあるってのか?」
「そいつをよこせ」
俺の言葉に、リーダー格の男は一瞬固まった。
そして、不満げな顔を浮かべながら腰の剣に手をやる。
「おいおい……俺の武器をよこせってのかよ?」
「何か文句でもあんのか?」
俺は目を細めて男を睨みつける。さっき俺にボコられたことを思い出したのだろう、男は顔を青ざめすぐに武器を差し出した。
「くそっ、これで満足か!」
それを受け取りながら、俺は手にした武器の重さを確かめる。
「まっ、悪くねぇ」
俺は手にしたものを軽く振り、手慣らしする。右も左もわからない状況だが、無防備なままでいるのはさすがにリスクが高い。
大したもんじゃなさそうだが、無いよりはマシだ。
「一応世話になった、じゃあな」
俺はそれだけ言い残し、男たちの元から去った。
Q:伏黒甚爾はダンまち的にどれくらいのレベルなんだ?
スキル無しで殴り合ったら「静寂」「暴食」「猛者」にも勝てるレベル。