天与呪縛がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:ウッウ

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#5 日常

ダンジョン7階層……それは新人冒険者にとって鬼門となる階層の一つ――

その大きな原因となっているのが、キラーアントと呼ばれるモンスターにある。

 

ウォーシャドウと同じく新米殺しと呼ばれるこのモンスターは、並みの武器では歯が立たないほどの固い甲殻を持つ。

 

さらに厄介なのがその習性――ピンチに陥ると甲高い音を発して仲間を呼び寄せるのだ。この鳴き声は広範囲に響き渡り、近くのキラーアントを瞬時に呼び集める。

 

結果として、大量のキラーアントに囲まれる事態に陥ることも珍しくない。

 

それによる数々の犠牲が、この階層を「鬼門」と呼ばしめる所以である。

 

 

 

 

 

 

 

「お~お~、ずいぶんと集まったな」

 

男は、その眼前の光景を見つめながら低く呟いた。目の前には、カサカサと不気味な音を立てて迫り来るキラーアント。

その数、ざっと20匹以上。

 

どの個体も固い甲殻を光らせながら、男を睨みつけている。

 

「しっかしまぁこんだけ集まってると……ちときめぇな」

 

そう呟く男の足元には、瀕死のキラーアントが横たわっている。

脚を全て失いながらも、鋭い牙でこちらに抵抗しようとしているが、その動きはもはや鈍重で弱々しい。

 

「んじゃ、てめぇは用済みだ」

 

男はそう言うと、その頭部を足で叩きつぶした。

 

目の前の群れは、その死を見ても怯む様子を見せない。むしろ仲間を屠られた怒りか、動きがさらに活発になった。

甲殻同士が擦れる不快な音を立てながら、一斉に口器を震わせて威嚇する。

 

『キィッ!キィッ!!キィィィ!!』

 

咆哮とも呼べるその音が、狭い通路にこだまして耳を刺す。獲物を求め、執念を込めたような音が連鎖し、取り囲むキラーアントたち全員が一斉に攻撃態勢に入る。

 

「いいぜ、来いよ」

 

男は剣を握り直し、腰を低く構えた。

迫り来るキラーアントの群れは、その甲高い鳴き声を響かせながら一斉に動き出す。

 

通路全体を埋め尽くすその光景は圧巻だが、男の目には恐れの色は微塵もない。

 

先頭の一匹が跳びかかってくる。

鋭い脚を振り上げ、頭部の牙をむき出しにして襲い掛かった。

 

「ふっ!」

 

男は身を屈め、その攻撃を紙一重でかわすと、素早く剣を振り切った。

狙いは関節部――甲殻の隙間を的確に捉えた一撃で、キラーアントの胴体を切断する。

 

『キシャアッ!』

 

断末魔を上げ、その体はすぐに塵となって消えた。

だが、次の敵がすぐに突進してくる。

 

男は冷静に体をひねってそれをかわす。

それと同時、そのキラーアントの足をつかむ。

 

「ほらよっと!」

 

男は掴んだキラーアントを力任せに振り回し、そのまま群れの中心に向かって突っ込む。

 

「はっは!蟻のヌンチャクってな!」

 

男は笑い声を上げながら、まるで玩具のように振り回し続ける。その勢いは止まらず、周囲のキラーアントを次々と弾き飛ばしていった。

 

甲殻がぶつかり合う鈍い音が響き、通路の壁や地面に叩きつけられる。

 

男はさらに勢いをつけ、振り回していたキラーアントを最後に壁へ叩きつけた。その衝撃で掴んでいたキラーアントは動かなくなり、その体が塵となって消えていく。

 

「ふぅ……」

 

『キィイイイッ!!キィィィ!!』

 

その時、通路の奥から新たなキラーアントの群れが湧き出てきた。

 

「ん?増援か」

 

男は、迫り来る群れに向かって足を踏み出した。

逃げず、恐れず、その口元には笑みすらある。

 

敵の数など関係ない。ただ、目の前の獲物を狩るのみ。

 

その動作は迷いない。

研ぎ澄まされた戦闘本能のままに。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

冒険者になって、早くも半月が経過した。

その間、特に変わったことはない。

 

毎日、ダンジョンに潜り、モンスターを狩る。獲得した魔石を換金し、必需品を買って帰る。

そんな日々が続いているだけだ。

 

「まぁまぁ稼げたな」

 

手にした魔石の詰まった袋を軽く振ると、中から微かなぶつかり合う音が響く。

その重みが今日の成果を物語っており、自然と口角が上がる。

 

キラーアントの習性を利用し、一度に大量の魔石を手に入れることができた。

思い付きでやってみたが、思ったよりもうまくいった。

 

「少しは貯蓄に回せるか……」

 

そんなことをぼやきながら、歩みを進めた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

ダンジョンから出た俺は、ギルドに立ち寄っていた。

俺の()()()()()()()()に今日のことを報告するためだ。

 

 

 

「トウジ君……もう一回言ってくれるかな?」

 

俺の目の前にいる人物が額に手を当て、深いため息をつきながら尋ねてくる。

 

「だからな、足もぎ取ったキラーアントを用意するだろ?そしたらそいつが仲間を呼ぶだろ?」

 

「そうだね、それで?」

 

「そしたら後は簡単、寄ってきたやつを全部ぶっ殺してしまいだ」

 

「なるほどねぇ……」

 

 

 

 

 

「君は……馬鹿なのかな!?」

 

 

 

 

 

大きな声がギルドに響き渡る。

その声に、近くの冒険者たちが驚いたように振り返り、俺たちに注目し始めた。

 

「なんでそんなことしたの!?それ!すっごい危険だから!」

 

目の前で机に両手をついて俺を睨みつけている人物。

彼女の名前はエイナ・チュール、俺の担当アドバイザーである。

 

とても整った容姿をしていて、性格はまじめ、面倒見もよい。

冒険者間でも人気が高く、噂じゃファンクラブがあるとかないとか。

 

 

 

「なんだ、()()は守ったぞ。ほら見ろ、傷一つ体にねぇだろ」

 

「そうだけど……そうじゃないの!」

 

エイナは深くため息をつき、困惑と怒りが入り混じった表情を浮かべている。

 

「確かに無事に帰ってこれてはいるよ?それはとてもうれしいけど……でも、それは絶対ダメ!」

 

「……ダメか?」

 

「絶対っ!!!ダメっ!!!」

 

 

その気迫に、内心少したじろぐ。

少しの間をおいて、俺は口を開いた。

 

「わぁったよ、もうしない……」

 

 

エイナの瞳が一瞬、大きく見開かれる。

そのままじっと俺を見つめると、肩をすとんと落として深く息を吐いた。

 

「……本当に?」

 

「ああ。お前にまたガミガミ言われんのは勘弁だからな」

 

俺は少しだけ肩をすくめて、軽い調子で言った。

エイナは一瞬きょとんとした後、クスッと笑った。

 

「怒るのも、結構エネルギー使うんだよ?」

 

「だったら怒んなよ」

 

「怒らせるほうが悪いでしょ?」

 

エイナはわざとらしく眉を寄せてみせたが、その口元には穏やかな微笑みが浮かんでいる。

 

「でも、わかった。約束だからね」

 

「わぁったって」

 

俺は頷き、軽く手を挙げて答えた。

エイナは少しだけ安心した表情を見せながら、深呼吸をして落ち着きを取り戻したようだった。

 

「もし次にまた危ないことやってたら……本当に容赦しないから」

 

「お~、怖ぇ」

 

俺はそう言い残し、軽く手を振りながらホームへと向かった。

 

 

(約束……か)

 

俺は小さく笑い、心の中でそう呟いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

彼がギルドを去ってから少し経った頃、エイナに話しかける一人の女性の姿があった。

 

「エイナ~、いつにもまして怒ってたね~」

 

その声は、ギルドの受付にいた他の職員である、ミィシャ・フロットだった。彼女はにやりと笑いながらエイナの隣に座り、肘で軽く突いてきた。

 

エイナはミィシャの突っつきに気づいてため息をつきながら、少しだけ肩を落とした。

 

「だって、トウジ君がとんでもないことしてるんだもの……」

 

ミィシャはエイナの様子を見て、小さくクスクスと笑った。

 

「だけど彼、結構真面目じゃない?エイナのスパルタ教育から逃げ出さなかったし」

 

「それはそうだけど…」

 

 

エイナの厳しい指導は、冒険者ギルドの中でも有名だった。

それは、冒険者たちから『妖精の試練(フェアリー・ブレイク)』と恐れられるほどだ。

 

その厳しさゆえに、彼女が請け負ったほとんどの冒険者はその教えに耐え切れず逃げ出していた。

 

だが、そんなエイナの厳しさには理由があった。

彼女が新人冒険者たちにする厳しい指導は、ただ彼らに生き残ってほしいから。

死んでほしくないから。

 

ただそれだけであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 

ミィシャはそんなエイナの姿勢をよく知っていた。

だからこそ、彼女は微笑みながら続けた。

 

「なんだかんだ言って、エイナのこと信用してるんじゃない?」

 

「そうかなぁ……」

 

ミィシャはエイナの反応を楽しむようにニヤリと笑った。

 

「だって彼、エイナとの約束を守らなかったことないよね?」

 

「そう……なんだよねぇ……」

 

ミィシャの言う通りだった。

 

彼は好き勝手に動くこともあるが、エイナとの約束を破ったことはない。

初めて会った時も、彼はその厳しい指導を一つ一つ真面目にこなしていた。

 

ただの一度だって、逃げ出すことはなかった。

 

エイナ自身、彼のそんな態度に内心とても驚いていた。

彼の見てくれや、口振る舞いからそういったことはやらないと思っていたからだ。

 

加えて、ダンジョンから戻った際には必ずギルドに顔を出し、今日あったことを事細かに話す。

 

その律儀さや、約束を守る姿勢に、エイナ自身それなりに信頼を感じていた。

 

また、ダンジョンから戻ってくるたびにソロではありえない量の魔石を持ち込んでいたりと、その強さにも信用があった。

 

だからこそ、7階層に行くことを許した。

「少しでも危険だと感じたらすぐに帰還する」と約束つきではあるが。

 

 

 

エイナはミィシャの言葉に小さく頷きながらも、どこか釈然としない表情を浮かべた。

ミィシャはその様子を見て、さらにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「もしかして、ちょっと特別に気にしてたり?」

 

「そ、そんなことないから!」

 

エイナは慌てて顔を上げ、首を振った。だが、その頬はわずかに赤らんでいた。

ミィシャはその反応を見逃さず、楽しそうに声を上げる。

 

「やっぱり気にしてるんじゃない~!ねぇねぇ、どうなの?トウジ君って、エイナ好み?」

 

「本当に違うから!私はもっと頼り無いくらいの男性のほうが……

 

 

エイナは真剣に否定しながらも、頬の赤みがさらに増していく。そんな彼女の様子を見て、ミィシャは小さくクスクスと笑った。

 

 

 

「ま、何にせよ、エイナがちゃんと見ててくれるから、彼も安心してるんだろうね。じゃ、私は仕事に戻るよ!」

 

ミィシャはそう言い残すと、軽やかな足取りでその場を去っていった。

 

エイナは彼女の後ろ姿を見送りながら、深く息を吐いた。そして、そっと自分の頬に触れると、その熱さに気づいて小さく苦笑いを浮かべる。

 

「本当に……もう……」

 

呟くようにそう言うと、再び机の上の書類に目を戻した。だが、心の片隅には、あの冒険者の姿が浮かんで離れなかった。

 

 

 




Q:賭場とか娼館に行ってないの?
A:ヘスティアが嫌がりそうなので、行ってません。

Q:魔法使えるようになる?
A:いずれ使えるようになります。

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