天与呪縛がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:ウッウ

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#7 合縁

「さぁ!トウジ君!今日もステイタス更新をしようじゃないか!」

 

「あぁ……」

 

気の抜けた返事を返すが、ヘスティアはお構いなしだ。

まるで親が子供を引きずるように、俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

 

「そんなめんどくさそうな顔しない!」

 

「毎日やる必要ねぇだろ」

 

俺はけだるげに答えたが、ヘスティアは全く気にする様子もなく胸を張って言い返してくる。

 

「そんなこと言わずに!ほら、服を脱いで横になるんだ!」

 

「わかった、わかった……ったく、しつけぇな」

 

観念した俺はベッドに腰を下ろし、ゴロリと横になる。皮膚に当たるマットの感触が妙に冷たく感じられる中、ヘスティアが張り切った様子で俺の背中に座り込む。

 

いつも通りの手順。

どうせ何も変わっていないだろうと内心で決めつけていた。

 

「おおっ!これは!」

 

しかし、ヘスティアの声が興奮に震えた。

予想外の反応に、俺は思わず顔を上げる。

 

「どした?」

 

「トウジ君!これが今の君のステイタスだ!」

 

 

 

―――――――

 

 

フシグロ・甚爾

Lv:1

力: I 0 → I 21

耐久: I 0 → I 15

器用: I 0 → I 12

敏捷: I 0 → I 9

魔力: I 0

 

≪魔法≫

【】

 

≪スキル≫

幸福の呪い(フェリキタス・カース)

・早熟する。

・誰かを想い続ける限り効果持続。

・想いの丈により効果向上。

 

―――――――

 

 

 

「…………マジか」

 

俺は紙を何度も見返す。

ステイタスの数値が初めて動いていた。

 

「ほら見たことか!更新してよかったろ?」

 

ヘスティアは得意げに胸を張りながら笑う。

少しむかつくが、確かにその通りだった。

 

「……まぁな」

 

俺は短く答えながら、あの時のことを頭の片隅に浮かべる。

エイナが言うには、あのモンスターの正体はおそらくインファイトドラゴンの強化種とのことだった。

 

本来なら10階層には現れることはない。

所謂、異常事態(イレギュラー)というやつだ。

 

 

 

(なるほどな……)

 

俺は紙を握りしめながら心の中で呟く。

雑魚をいくら潰しても、俺のステイタスは上がらねぇ。

 

つまり、命のやり取り――自分が死ぬか、相手を殺すか。

その境界線上に立って、初めてステイタスは変化するってわけだ。

 

 

 

「さぁ!今日は君の成長を祝って、じゃが丸くんパーティーだ!」

 

 

そんなことを考えていると、ヘスティアは無邪気に声を上げ、どこからともなく袋を取り出した。中には大量のじゃが丸くんが詰め込まれている。

 

「……はぁ」

 

俺は思わずため息をつくが、ヘスティアは頬を膨らませて言い返す。

 

「何ため息ついてるんだい!じゃが丸くんは最高のご馳走だよ!」

 

ヘスティアは大げさに胸を張りながら言い放つ。

その真剣な顔を見ていると、逆に俺が間違っているのかと思えてくる。

 

「どうせバイト先の残りもんだろうが……」

 

「ちっちっち!」

 

ヘスティアは指を振りながら得意げに笑う。

 

「違うんだなぁ、トウジ君!これ、特別に取り置きしてもらったやつなんだから!」

 

「…………大差ねぇだろ」

 

俺は心底呆れたように言い放ったが、ヘスティアは全く気にした様子もなく、むしろますます得意げな表情を浮かべた。

 

「もう、そんなこと言わないの!ほら、まずは一つ食べてみてよ!」

 

押しつけるようにじゃが丸くんを手渡され、俺は仕方なく口に放り込んだ。

サクッとした衣の感触、そして中からあふれ出るホクホクとしたジャガイモの甘み。

 

その味は――――

 

 

 

「悪くねぇな……」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

翌日、俺は朝早くにホームを出た。

 

朝の街はまだ静かで、人通りも少ない。

空気はひんやりとしていて、石畳の道を歩くたびに乾いた音が空気に響く。

周囲の店はまだ閉じられ、店内には開店準備にいそしむやつらの姿も見える。

 

こういう時間帯は嫌いじゃない。

 

俺はポケットに手を入れながら、ゆっくりと歩いていた。

考えていたのは、これからの方針だ。

 

稼ぎを良くするにしろ、ステイタスを上げるにしろ、俺はもっと下の階層に行く必要があるだろう。

リスクは高まるだろうが、それだけの価値がダンジョンにはある。

 

金はいくらあっても困らねぇしな。

 

(さっさとあのぼろいホームを建て替え……)

 

 

 

 

 

ジロリ

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

嫌な感覚が全身を走り抜けた。

反射的に後ろを振り返る。

 

(なんだっ……!?)

 

 

 

()()()()()()

 

間違いない。誰かが、何者かが俺を視ていた。

まるで、肌を直接舐められたような不快感が体に残る。

 

 

(どこだ……どこから見られた?)

 

ゆっくりと視線を巡らせ、暗がりや建物の隙間、路地の奥に警戒を巡らせる。

影の一つひとつが異様に濃く見え、ただの風の音ですら神経を逆なでする。

 

だが、何もいない。見えるのは揺れる看板や、わずかに漂う朝の薄明かりだけだった。

 

 

(気のせい……)

 

そんなはずはない。

あんな視線は生まれて初めてだった。

 

呪霊でさえ、あんなふうに俺を見たりしない。

人を品定めするような、そんな気色の悪い視線だ。

 

 

 

 

周囲を警戒していたその時――

 

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

不意に背後から声が聞こえた。

振り返ると、薄鈍色の髪を持つ若い女が立っていた。

 

冒険者のような荒々しい雰囲気はまるでない。

どこにでもいそうな、柔らかな空気をまとった「街娘」といった印象だ。

 

「なんか用か?」

 

「お腹すいてませんか?」

 

「は?」

 

唐突すぎる質問に、思わず顔をしかめる。

女はまるで俺の反応を意に介さず、にこやかに微笑んでいる。

 

「お腹すいてませんか?」

 

女は全く同じ言葉を繰り返した。

今度は少し身を乗り出し、俺の顔を覗き込むような仕草を見せる。

 

 

「……いや、別に」

 

俺は少し警戒しながらも、女の顔を見つめながら答えた。

 

「でも、朝食をとられてないですよね?」

 

「なんでそう思ったんだよ」

 

根拠もないその言葉に、眉をひそめながら問い返す。

 

「うふふっ、女の勘です」

 

女は軽やかに笑いながら答える。

何を考えているのか全く読めないが、敵意は感じない。

 

返答に困る俺をよそに、ふと手に持っていた小さなバスケットを差し出してきた。

 

「これ、よかったらどうぞ」

 

屈託のない笑顔とともに差し出されたそれには、パンがいくつか詰まっていた。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「………………」

 

俺は何も言わず、ひとまずそれを受け取る。

断る理由もなければ、この状況をどう解釈していいのかも分からなかった。

 

 

「で、なんで俺に?」

 

俺がそう問うと、すぐに口元を引き締めて自信たっぷりに頷いた。

 

「冒険者さん、これは利害の一致です」

 

「は?」

 

予想外の返答に、思わず気の抜けた声が出る。

 

「冒険者さんはここで腹ごしらえができる代わりに、今日の夜、私の働くあの酒場で晩御飯を召し上がっていただかなければいけません」

 

女が指差した先には、木造の酒場が見えた。

 

「…………」

 

そして同時に、こいつの目的がわかった。

どうやらしてやられたようだ。

 

「……とんだペテン師だな」

 

「うふふ、ありがとうございます」

 

 

悪びれる様子もなく堂々と笑う女の顔を、呆れたように見つめる。

目を細めて挑発的に笑う女の表情には、悪びれる様子など微塵もない。

 

むしろ、したり顔だ。

 

俺は呆れたように女を見つめながら、バスケットからパンを一つ取り出した。

香ばしい匂いが鼻をくすぐり、思わず一口かじると、思った以上に美味かったのがさらに腹立たしい。

 

「夜には美味しい料理をご用意しますから、ぜひいらしてくださいね」

 

「……俺が行かなかったらどうする?」

 

女は少し首を傾げて俺を見つめた後、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「あなたはそんなことしないでしょ?」

 

 

 

その断定的な言葉に、俺は言葉を失った。

 

「……何でそう思う?」

 

睨むように女を見つめながら問いかけると、ふわりと首を傾けた。

 

 

「女の勘……ですよ?」

 

女は再びそう言って、屈託のない笑顔を見せた。

 

その笑顔に返す言葉を見つけられず、パンをもう一口かじることで誤魔化した。

面倒なことに巻き込まれた気がしつつも、こいつに対して不快感はなかった。

 

俺はため息をつきながら、渋々口を開く。

 

「……飯がマズかったら二度と行かねぇ」

 

その一言に、女の笑顔がさらに弾けるように明るくなった。

 

「大丈夫です! きっと気に入ってもらえますよ!」

 

その堂々とした態度に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 

俺はポケットに手を突っ込み、ゆっくりと歩き出した。

その背中越しに、女の明るい声が追いかけてくる。

 

「お待ちしてますね!」

 

その声が消える頃には、朝の街の喧騒が俺を包み込み始めていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「ったく、エイナの野郎……」

 

俺が今いるのはダンジョン―――ではなくバベルの塔。

いつもならダンジョンへ向かうところだが、今日は事情が違った。

 

いつも通り、もっと下の階層に行く許可をもらおうとしたのだが――その時の条件を二つ出された。

 

一つは装備の新調。

 

曰く、

 

「もっとちゃんとした装備にすること!」

 

だそうだ。

 

その勢いに、俺も押し黙らざるを得なかった。

確かに武器はそろそろ変えようと思っていたし、タイミング的には悪くない。

 

 

だが、問題は()()()()

 

 

 

「……考えたくねぇな」

 

俺がそう呟くと、エレベーターがガタンと音を立てて止まる。

目の前にはそれほど高価なものでもない、武器や防具が売っている。

 

エイナが言うには、新米の鍛冶師の作品がここで売られているらしい。

装備を新調するにはここが最適だと勧められた。

 

「まっ、確かに安いな」

 

俺は店内を見渡しながら、目に留まった剣を手に取る。

バランスを確かめるが、どうにも馴染まない。

 

「……なまくらだな」

 

そう言って剣を戻し、棚を見渡す。

安物ばかりの武器が並んでいるが、どれもこれも今使っているのと違いはなさそうだ。

 

(別んとこで探すか……)

 

そんなことを考えながら、奥のコーナーへ向かうと、そこには雑に置かれた武器や防具が並んでいた。

 

「……ん?」

 

その中であるものが目に留まる。

それは埃を被った鎧、いわゆる「ライトアーマー」だ。

 

俺はそれを手に取ると、埃を軽く払ってみる。素材は革と金属が組み合わさっており、動きやすさを重視して作られているのが分かる。

 

「……へぇ」

 

おそらくだが、この中じゃ頭一つ抜けて性能は高い。

くるりとひっくり返すと、そこにはとあるサインが刻まれていた。

 

「ヴェルフ・クロッゾ……ね」

 

エイナが言っていた「掘り出し物」ってのは、こういうもんを指すのだろう。

体格的に俺には合わないが、悪いものではない。

 

「……まっ、なんかの役には立つだろ」

 

そう思い直し、俺は鎧を手に取ったままカウンターへ向かった。

 

 

 





Q:ヒロイン登場しますか?
A:未定です。

追記

Q:ベル君出てこないんですか?
A:でてきます。ただ、まだ先の話です。
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