やさぐれ天使と俺の、厄災をうちはらう正義の話(旧タイトル:でこぼこバディ) 作:朝食付き
古今東西、噂をすれば影が差すという。それは世界の違う生き物であっても通用する概念のようだ。
翌日の夕暮れ、繁華街の空にエアドラモンが姿を見せた。傾いた太陽のオレンジのひかりを受けて燃えるような姿で悠々と空を泳いでいる。
テイルモンの知らせで駆け付けたものの、エアドラモンはただ街の上空を旋回するばかりで高度を下げる様子がない。
これは、と三人で顔を見合わせる。どうやらパンドラモンは草太達が空で戦えるのかを見たいらしい。
あまりに高い位置を飛んでいるため、まだ街の人々は誰も気が付いていない。言い方は悪いが、「たかが成熟期が一匹」である。ホーリーエンジェモンの剣が届くのであれば即浄化完了で終了となるところ。脅威としては大きくはない。
が、その位置が問題であった。
おりしも議論がなされた直後である。
エアドラモンは明らかに高度を下げることを嫌っている。地上どころかホーリーエンジェモンのパスギリギリの高度すら届かない高さを保ったままだ。さすがに上空から危険度の高い攻撃こそできないようだが、黒い靄を撒き散らかしており、完全な放置はできない。
対策はないものの、余裕はある。少なくとも即時大破壊を出来るようなデジモンではないからだ。
物は試しとホーリーエンジェモンが試しにパスの限界高度まで上昇すると、さすがにエアドラモンも明確な敵意を見せ、スピニングニードルをまき散らしてくる。
流石に高空から一方的に攻撃されるのはホーリーエンジェモンも分が悪い。鋭い針をエクスキャリバーで弾きながらも、それ以上どうもできない。じりじりと高度を下げていっても釣られて高度を下げる様子もない。
ホーリーエンジェモンが地上へと戻って来る。手も足も出なかったのは事実なのでかなりイライラした様子で羽音がうるさい。
「完全に届かんな、あれ以上はパスが切れる。」
「ヘブンズゲートで吸い込めないか?」
「開く前に射程範囲外まで逃げられる。少しでも降りてくれば三枚におろしてくれるものを。」
ああだこうだと意見を出し合うも、対策が無いとすでに結論は出ている。検討事項の確認にしかならない。
二人が新たなアイデアを求めて宙に視線がうろつき始めると、突然テイルモンが手と声を上げる。
「私に任せてください。」
草太の足元、せいぜい膝を越える程度の身の丈。何を任せられるというのだろうか。
いぶかし気に見つめる草太だが、ホーリーエンジェモンは違うらしい。明らかに興味を持って問いかける。
「何をするつもりだ?」
「私がエアドラモンに取りついて高度を下げさせます。
ホーリーエンジェモン、あなたは私をエアドラモンに投げてください。いえ、直撃ではなく、エアドラモンよりも高くへです。そうしましたら私がエアドラモンに飛び乗りますから、そのままエアドラモンをあなたの元まで誘導します。ええ、エアドラモンの上さえ取れれば後は自力で行けますからお気遣いなく。」
確かにホーリーエンジェモンがパスギリギリまで上がったうえで、そこから全力で投げればエアドラモンよりもさらに上空を取ることも可能だろう。しかし、所詮は猫もどきの体。あの広い空でテイルモンがエアドラモンの元へとたどり着けるのかは疑問だ。
「テイルモン、ミスったらどうするんだ?エアドラモンに当たらなかったり、届かなかった場合は。」
「あの、当てる必要はありませんからね?
私とて元々は天使ですから風を読むこと程度お手の物です。それに、一瞬だけなら翼を呼ぶことくらいはできるはずです。」
「できるはずって・・・。」
「いいだろう。」
むんずとテイルモンの頭部をわしづかみにするホーリーエンジェモン。そのままゆっくりと飛翔を始める。
「…お前、もう少し持つところ考えろよ。テイルモン固まっちゃってるだろ。」
「投げるなら持ちやすいところがいい。しっぽでも掴んだ方が良かったか?」
「ホーリーエンジェモン。これが終わったら話があります…!」
明らかに怒っている。が、ホーリーエンジェモンが怒られればいい話だ。他人事なだけに草太は気楽である。
ただ、当事者のホーリーエンジェモンはそれに輪をかけて気楽だ。
「ふふ、あの鳥ガラめ、こいつを直撃させてやる…!」
手も足も出ずに戻ってきたのを根に持っているようだ。状況を変える一手を得たことに満足げな天使は、すでにテイルモンの怒りも右から左だ。
頭をガシリとつかまれたまま、浮き上がっていくテイルモンの姿は、UFOキャッチャーに少し似ていた。
パスの限界高度ぎりぎりまで到達したホーリーエンジェモン。そのさらに上空にエアドラモンが位置する。先ほどの戦闘(というか一方的な攻撃)に気をよくしたか、エアドラモンは旋回しながら威嚇をするばかり。明らかにホーリーエンジェモンを舐めている。エアドラモンからすれば、飛行高度に制限のあるホーリーエンジェモンなど、鎖付きの犬に等しい。
だが、今度はホーリーエンジェモンも無策ではない。
本来空中戦というものは、いかに速度を落とさずに攻撃を叩き込めるか、それに尽きる。だから先ほどの偵察(戦闘ではなく!)では一度たりとも静止することはなかった。
だが、あえて今度はホバリングするように一定の範囲内の空間にとどまる。それが何を意味するのか、エアドラモンには分からない。
動かない相手に一方的に攻撃できる立場にあるエアドラモン。その状況でわざわざ旋回を続けて攻撃の精度を落とすこともない。だんだんと攻撃に単調が生まれ、エアドラモン自身も空中に静止してしまった。当然ながら、ホーリーエンジェモンとテイルモンの狙い通りだ。
エアカッターの一枚をエクスキャリバーで打ち砕く。その瞬間、あえて強く剣を輝かせる。
猛禽に限らず空に住む生き物は目がいいものだ。まして邪悪な力に操られているのなら尚更に光が効く。
一瞬の目つぶしではあるが、テイルモンを放り投げるには十分な時間だ。
上空に投げ放たれたテイルモンが描く放物線は、容易くエアドラモンを追い越していく。その頂点を越えて落下軌道に入ると、テイルモンはスカイダイビングよろしく全身を大きく動かしてエアドラモンの上を取る。
さすがのエアドラモンも上空から襲われるなどとは思いも寄らない。突然体に落下物が衝突してさぞ驚いただろう。
「さあ、地上までゆっくり道案内させてもらいますね。」
言うや否や、エアドラモンの顔に額を寄せて、その目に必殺のキャッツ・アイを直撃させる。
”キャッツ・アイ!テイルモンの必殺技だ。この眼光を受けたものをテイルモンは操ることが出来る!!”
一気にエアドラモンが下降していく。すでにゾンビタトゥーによってパンドラモンに操られているためか、一つの頭に3つの意志が入り込んだためか、ろくに制御も効いていない。降下というよりは墜落に近い状態だ。
すでにホーリーエンジェモンは申請─承認を済ませ、構えている。
テイルモンがエアドラモンを足場に大きく飛び上がり離脱する。そのままビルの屋上で待つ草太へと飛び込んでいく。が、猫程度の大きさでも見上げる高さから落下してくる生き物を受け止められるわけがない。草太は一歩引いてテイルモンをスルー。
テイルモンは猫らしく柔らかに着地、とはいかずに勢いのままゴロゴロとビルの屋上を転がっていく。まあ勢いをうまく逃せるだろう、と草太は気にしないことを選ぶ。屋上のフェンスがガシャンと大きな音を立てているのに背を向けて、ホーリーエンジェモンに視線を戻す。
せいぜい2,3秒の出来事ではあったが、目を戻したその時には既にエクスキャリバーの剣閃がきらめき、エアドラモンを支配していたゾンビタトゥーを切断、浄化している。今日は上空での戦闘であり、人々が気づく前にすべてが完了している。被害者がいてほしいわけではないが、ちやほやされるのもまんざらではないホーリーエンジェモンとしてはやや物足りなさが残る戦いであった。
受け止めなかった草太に「なぜ避けたのですか」と、盛大にまくしたてるテイルモンをしり目に、ホーリーエンジェモンは我関せずとヘブンズゲートを開くのであった。