やさぐれ天使と俺の、厄災をうちはらう正義の話(旧タイトル:でこぼこバディ)   作:朝食付き

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3章です。よろしくお願いします。


3章 草太とデジタルワールド
1.おもちゃのまちっていい感じ


 

 だだっ広い草原に気持ちの良い風が吹く。膝下くらいの高さの草が風に撫でられてさざ波のように揺れる。

 草太の住む街ではまず見られない光景だ。ここにサッカーコートを作るとしたら何面分に当たるのか。広すぎて逆に見当がつかない。

 草原から先に目をやれば、北には白く雪を被る山脈がそびえ立つ。日の光を反射してここからでも眩い白が峰と空を隔てている。

 南はといえば黒煙噴き上げる山々。大気の揺らめきがここからでも分かる。人の視界に入る程度の距離なのに、南北の風景は呆れるほど変化が大きい。

 つい先ほどまでいたリアルワールドでは考えられない極端さ。確かにデジタルワールドに来たのだと、否応なしに感じる。

 

「じゃあ、まずはまちに行こうか。」

 

 デジタルワールドの水先案内はもんざえモン。ここに飛ばされてきて、初めて会ったデジモンだ。

 傍目には黄色い熊のぬいぐるみ。草太よりも少しだけ低い身長で、背中にはチャックがある。柔らかそうな体であっても背筋をしっかりと伸ばして歩く。

 生真面目さを感じる立ち振る舞いの一方、ぽてぽてと足音は妙に間が抜けている。

 

 他にどうしようもないので、もんざえモンについていく。もんざえモンの言う街はすぐに見えてきた。

 

「あれがおもちゃのまちだよ。どうかな、なかなか素敵な街に見えないかい?」

 

 外観は名前の通り、まさにおもちゃのまち。色とりどりのブロックが街を作り上げている。もんざえモンの声も問いかけではあるが、一切の疑いのない口調だ。

 

「外からみた感じだけど、面白そうな街に見える。」

 

 そうだろうそうだろうと、繰り返し満足気に頷くもんざえモン。

 

「随分思い入れがありそうだな。もんざえモンは住んで長いのか?」

「むふふ、実はね、おもちゃのまちは私が作ったんだ。この辺りはいいブロックが採れるものだから、試しに一つ家を建てたらあとはもう止まらなくてね。まあ名前は他所から借りてきているんだけれど。」

 

 ブロックは採れるものか?デジタルワールドがそういう変な世界なのか、それとももんざえモンのジョークか。どちらにしても深堀りしたくはない。創設者ということが分かれば十分である。

 色々とまちづくりの苦労や蘊蓄を聞きながらおもちゃのまちまで道を行く。けもの道めいてはいるが意外と歩きやすい。ここももんざえモンが時々均しているとのこと。しかし、草原を熊のぬいぐるみと歩く。なんと牧歌的なことか。つい先程までパンドラモンとやりあって、あわや死ぬところだったというのに、このギャップに目が回りそうだ。

 

 おもちゃのまちへの入り口は、ひと際カラフルに彩られた門をくぐる必要があった。

 別に塀があるわけでもないので門をくぐる必要性はないのだが、自慢げに門のデザインを語るもんざえモンの手前くぐらないわけにはいかない。

 少し頭を下げてぶつからないように街へ入る。

 街のつくりはシンプルだ。まちの中心には噴水のある広場があって、広場を取り巻くように家が並んでいる。上から見たらバウムクーヘンのように家と道が交互に並んでいるのが分かるはずだ。

一抱えもあるブロックで積み上げられた家は、大きさも形もばらばらだ。しかし、よくよく見てみるとまちの中心ほど家が小さくなっている。家によっては草太でも煙突を覗き込めるサイズだ。

 

 デジモンごとにサイズを変えているのか?そう疑問を投げかけようとした瞬間に答えがやってきた。

 一頭身のマスコットめいた姿のデジモンが、家から姿を見せたのだ。手足はなく、まん丸とした頭に角が生えているデジモンは、もんざえモンに気がつくとその大きな口に見合った声量でお帰りなさいと声を上げる。

 身体全体(頭全体?)を使ってぴょんぴょんと跳ねてくる。

 

「ただいま、ツノモン。今日も元気だったかい?」

「げんき!」

 

 言葉の通り元気に答えるこの小さいデジモンはツノモンと言うらしい。とりあえず自己紹介しておくかと口を開くつもりだった。

 しかしその前にツノモンの声に反応した他のデジモンが次から次へと家から飛び出してくる。子犬の群れを思わせる無秩序な塊が、草太ともんざえモンを囲む。そして響くのは、小さなデジモンのお帰りなさいの大合唱である。

 まちを作ったというのも伊達ではなく、ここの住民たちはみなもんざえモンを慕っている。

 もんざえモンが一匹ずつにただいまと声をかけている。おかえりなさいを言うだけで満足して離れていくデジモンや、草太に興味津々なまなざしを注ぐデジモンもいる。

 

 そして一通り挨拶が終われば、草太に注意が向くのも当然の流れである。好奇心にあふれる視線が草太に突き刺さる。そんな中もんざえモンがお客さんだと草太を紹介したものだからテンションが上がる一方だ。

 あまり小さい子と接する機会がない草太としては、こういう時にどう振る舞えばいいか戸惑ってしまう。

 

「普段お客さんがくることもないからね。少しだけこの子達に付き合ってくれると嬉しい。」

「ん、まあ、もんざえモンには助けてもらったしな。でも遊び方なんて分からないぞ。」

「大丈夫。ほらみんな!草太にかっこいいところを見せてあげないと!」

 

 途端に幼年期のデジモンたちが一斉に街の中心へと移動を始める。草太も近くにいたツノモンに促されて同じ方向に向かう。

 まちの中心は噴水のある広場だ。小さなデジモン達は噴水を越えて回りこんだ先、フェンスに区切られた小さめのスペースへと向かっていた。小広場といったところで、そこだけは地面が芝生になっていて、転がっても怪我しないようになっている。

 先に行った幼年期の子供たちはその小広場に何匹か入っていて、それ以外はフェンスにかじりつくようにしてきれいに並んでいる。

 

「ここで何をするんだ?」

「ここはね、クンレンジョウ!あっちのまとにわざをうつんだ!ほら、みてて!」

 

 そういうと、ツノモンが小広場へとかけていく。小広場の中心にはいくつかラインが引かれていて、その対面側には的に見える看板がある。金属製のパイプにぶら下がったその的の上には、妙にレトロな雰囲気の電光掲示板があって、パッと電源がつく。

 ツノモンはラインの手前に位置取ると、ぴょんぴょんとその場で弾んでみせた。すると電光掲示板に0の表示が付く。

 足元にスイッチでもあるのかもしれない。

 ツノモンは掲示板が付いたのを確認すると、ブルブルと体を膨らませる。そして次の瞬間にはいくつもの泡が口から飛び出していく。シャボン玉よりは分厚そうなその泡は、見事に的に命中。泡の衝撃で的が揺れて、電光掲示板に点数が表示される。

 結果は78点。

 100点満点ならなかなかいい点数だろう。

 

「ああ、パンチングマシンみたいなもんか。」

 

 すごいでしょ、ぼくもできるよ、もんざえモンがつくってくれたなどと、草太の周り中から一斉に声が上がる。聖徳太子でもあるまいし、全部聞き取るのは無理だ。おお、すごいなとざっくり回答しておく。

 

 ツノモンのデモンストレーションが終わった後は、次々に的あて練習が始まった。テンポよく的に当てる幼年期たちを座って眺める。いつの間にか膝に乗ってきたツノモンを適当に撫でながら、真剣な姿の幼年期たちに時々声をかけてみる。

 体がぶれてるぞとか、撃つときに目をつぶっちゃだめだとか、役に立つのか怪しいアドバイスだ。それでもうれしげにアドバイスを聞いてくれる幼年期たち。

 なんとなくサッカーを始めた頃を思い出す。シュート練習をするんだと言って、いつまでも公園でボールを蹴る練習をしたものだ。その時は父が見てくれていて、うまくシュートが決まると色んな言葉を駆使して自分を褒めてくれていた。だからその真似をして、できる限り良いところを探して声かけをしてみたのだった。

 

 いつまでそうしていたのか。ポテポテと特徴的な足音に振り返ると、案の定もんざえモンが様子を見にきていた。

 

「むふふ、草太は子供の相手が上手だね。この子たちがこんなに集中してるのは初めて見たよ。」

「そう?ずっとこんな感じかと思ってたけど。」

「いつもはひとまわりふたまわりするとみんな飽きちゃうんだよね。まだ子供だからそうなるのも仕方ないんだけど。今日頑張ってるのは草太が褒めてくれるのが嬉しいからだろうね。」

「……俺が小さい頃、父さんがこうやって褒めてくれてたんだ。飛ばすのは泡じゃなくて、ボールだったけど。それが嬉しくてさ、母さんが迎えに来るまでずっとボールを蹴ってたなって思い出した。まあ、嬉しく思ってくれてたなら、俺も声かけした甲斐があるよ。」

 

 サッカー以外で褒められるのはなかなか照れくさい。だから思わず言い訳のように自分の経験など語ってしまった。どうにもこのまちでは調子が狂う。こういうときはさっさと話を流すに限る。それでどうしたのかと促してみる。

 

「君の家を用意したから、案内しようかと思ってね。ああ、ご飯はまだ準備中だよ。」

「そうか、ありがとう。いきなり押し掛けちゃったのに色々用意してくれて助かる。何か手伝いが必要なことがあれば何でも言ってくれ。できる限りのことはする。」

「そうかい?ならちょっとだけ力仕事を手伝ってもらおうかな。」

 

 荷物があるわけでも用があるわけでもない。ならばと家に行くより先に手伝いをすることにする。

 子供達に声をかけてから席を外し、もんざえモンに連れられてついたのは町外れの崩れた家。ブロックが散乱し、家の中が見えている状態だ。ブロックはただ崩れたのではなく、何か力がかけられたのか、ひしゃげている。

 

「これ何があったんだ?自然に崩れるような家じゃないだろう?」

「うん、この間随分酔っ払った子がきてね、止めるまでにやられてしまったんだ。本当は壊した本人に直してもらうつもりだったんだけど、自分はやっていないの一点張りで直しに来ようとしないから困っていたんだ。草太が手伝ってくれると言ってくれて助かったよ。」

「酒癖の悪い奴がいるもんだな。これ、壊れたブロックを外して入れ替えれば良いんだろ?」

「ああ、よろしく頼むよ。私は晩御飯の用意をしておこう。そうだ、直すときにブロックの色は好きにしてくれて構わないからね。」

 

 そう言うともんざえモンは来た道を戻っていく。食事の準備を始めるのだろう。

 もんざえモンが行ってしまうと、草太は一つため息を吐いた。別に理想的な世界だと思っていたわけではないが、明確に暴れるようなデジモンがいるということに少しがっかりした気分を草太は受けていたからだ。

 リアルワールドで戦っていた相手は、皆パンドラモンによって無理に暴れさせられていた。このまちで出会ったデジモンも皆穏やかで暴力的には見えない。そういう前提が頭にあったから、デジタルワールドは平和な世界なのかもと思い始めていた。だが別にそんなことはないのだ。誰かに勝手に戦わされるのが嫌なだけで、血の気の多い奴は人もデジモンも変わらないのだ。そもそもホーリーエンジェモンがいる時点でそんな理想的な世界ではないと分かるだろうに。誰がいるわけでもないのに、バツが悪くて頭をかく。

 

 もんざえモンが用意していたらしいバールのような工具で壊れたブロックを取り外し、邪魔にならないところに避けておく。ブロックは見た目の通りプラスチック程度の重さだ。とはいえ一抱えほどのサイズだからそれなりの重量になる。

 ひしゃげたブロックは簡単には取り外せないから、何度もバールを叩き込んで隙間を無理矢理広げて力ずくで外していく。全身汗だくになりながらもなんとか壊れたブロックを外し切る。これでおもちゃの家は大分風通しが良くなった。あとはブロックを組んでいけば完成だ。完成なのだが、問題がある。

 家の構造は簡単でブロックを嵌めるだけ。難しい作業ではない。なら何が問題かと言うと、ブロックの色を選ばなければならないのである。

 周りの家はどれも色とりどりに見栄えが良く、しかも一つとして同じ色合いではない。この中に草太が選んだ色合いの家が建つわけだ。なにせもんざえモンからは自由に組んでいいと言われている。が、芸術系というより体育系で生きてきた草太に色をどう合わせればいいかなどという知識などない。周りから浮く組み合わせの色になることは必至。その手の彩りについて無頓着に生きてきたツケが回ってきたようだ。

 

「全部青とかにしたら流石に浮くよなぁ…。」

「じゃあぼくが選んであげるよ!」

 

 気がつけば足元には見事な一本角のデジモン。

 

「…ツノモンだったよな。お前こういうのできるのか?」

「できるよ!そういうの得意だから!」

「よし、頼む。ツノモンの言う通りにブロック組むから、どれを組めば良いか教えてくれ。」

 

 そうして初めはゆっくりと、色を決めて置く場所を合わせる。即興の建築士と大工のコンビだ。ツノモンの頭にはすでに完成図が見えているらしい。草太への指示も段々とこなれてきて、あっという間におもちゃの家が完成した。

 

 カラフルさは周りと比べても遜色なく、それでいて色合いは穏やか。自分だけで組んだらこうはいかなかっただろう。おそらく申し訳程度に色がついただけの茶色の家になったはずだ。間違いなく悪目立ちすること請け合い。

 ツノモンに感謝を告げつつ、その場に腰を下ろす。ぶっ通しで作業し続けたので少し休憩が必要だ。あぐらをかくと、ツノモンがそこに収まる。両手を後ろに着いて体を伸ばすと、ツノモンもノビのような仕草を見せる。

 

「よし、いい感じに出来上がったな。ツノモン、ありがとうな。」

「いいよ!ぼくもこういうの経験つまなくっちゃだから!」

 

 経験? 草太が首を傾げると、ツノモンが少し恥ずかしげに、それでいてキラキラと光を集めたような目でその理由を話してくれた。

 

「ぼくね、デジタルワールドに新しいまちをつくりたいんだ。」

 

 それはツノモンの夢だ。

 自分がかつて諦めたもの。自分の胸の奥で燻り続けている未練。もう一度手に取りたいと思うもの。

 だからツノモンに続きを促す。

 

「もんざえモンが教えてくれたんだけど、ファイル島ってところに、はじまりのまちっていうところがあるんだって。いろんなデジモンがみんな仲良く暮らすまちなんだって言ってた。

このおもちゃのまちもみんな仲がいいけれど、進化していったら体も大きくなるし、すがたも変わっちゃうから、ここにはいられないんだ。

だからみんな進化したらここを出ていって旅をするんだけど、だけどね、せっかく同じまちで育ったのに、ずっとバラバラなのは寂しいでしょ?

だから僕もはじまりのまちみたいに、いろんなデジモンが仲良く暮らせるようなまちを作るんだ。」

 

 自分たちのいつか帰る場所を作るのだと、熱っぽく語るツノモンは、はじめに見せた照れはもう見当たらない。

 

「なあ、もう作る町の名前は決めてるのか?」

「まだ!おもちゃのまち2とかどうかな?」

「最後まで聞かないとこの街とどっちかわからないのは良くないんじゃないか?」

 

 そうやって益体のない話をしていると、もんざえモンが迎えにきてくれた。

 平たいブロックで整備された道を三人で並んで歩いていく。着いた先は街の中心から少し離れた一軒家。ここに一晩お世話になる。黄色をベースに何色かのブロックが混じっていて、草太の目から見てもいいセンスに思えた。

 先ほどまでならただの色がついた家に見えただろうに、今はなぜかとても素敵な家だなと素直に思えた。

 

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