やさぐれ天使と俺の、厄災をうちはらう正義の話(旧タイトル:でこぼこバディ)   作:朝食付き

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5.お久しぶりリアルワールド

 幾人もの天使型デジモンが入れ替わり立ち替わり、それぞれの力を注ぎ込みゲートの生成を行っている。

 準備に時間がなどと言っていたが、本来ただの人間を適当な場所にリアライズする程度ならそこまで時間がかからないものらしい。

 かける必要があったのはセラフィモンのリアライズを想定していたためだ。もしくは草太が送られることを考えていたため。

 強力な力をもつ究極体を送るのは容易なことではないのは草太にもわかる。そして、ホーリーエンジェモンという完全体の力をたらふく体に蓄えている草太にも同じことが言える。どこへでも飛ばして構わないなら多少の雑さは許容されるうが、パンドラモンが猛威を振るう草太の街へ正確に繋げる必要がある。そのために教会中のデジモンが協力していたわけではある。だが、セラフィモンが出撃する必要がなくなったため、最大戦力がゲートの作成に力を振るえることとなり、ゲートの構築は一気に進んでいく。

 

 次第に姿を現していくゲートの前に立って待っていると、セラフィモンから声がかかる。

 

「君にはいくら礼を言っても足りんな。あの子のことも含め、世話になる。」

「別にいいさ。俺だって1人じゃ帰れないのに手伝ってもらってる。お相子だろ。」

「ふっ、そういうところを彼らは気に入ったのかもしれんな。」

「彼ら? ──もんざえモンか」

「彼は私の先輩だ。君のことは彼から聞いていた。心優しい少年だと誉めていたな。」

「もんざえモンなら札付きの不良相手にだってそう言うだろうさ。それよりゲート開けるのに専念してくれ。」

 

 スポーツ以外で褒められるのは照れ臭さが勝る。さっさと話を変えるに限る。セラフィモンにはお見通しだったろうが、実際重要な話でもある。

 

「後3分で準備が終わる。君の準備は──、良いようだな。」

 

 準備も何も、デジタルワールドに来てから増えた荷物は防寒用に手に入れた上着だけ。スマホに家の鍵と財布。大事なものは全て持っている。別れを惜しむような相手もこの場にいない。

 

 長かったようで短かったデジタルワールドでの日々。名残はあっても後悔はない。

 ヴゥンと響く低い音とともに、セラフィモンたちがゲートを開いていく。ホーリーエンジェモンの丸いヘブンズゲートとは異なり、文字通り扉のような門だ。その先には形容し難い不思議な光と色が続いている。

 ……これに入るのか。仕方ないとはいえ、こんな不思議空間に飛び込まないとならないことにゲンナリする。これが最後になることを祈るばかりだ。

 そしてセラフィモンへ礼を告げてゲートに飛び込む。あっという間に視界全てを光が覆い尽くしていく。

 

 一切の躊躇を見せずに飛び込んでいった草太を見送り、セラフィモンはゲートを閉じていく。

 

***

 

 人の視覚に捉えられる波長よりさらに広い、光そのもの草太の目に飛び込んでくる。あまりにサイケデリックな光景なので目を閉じるが、瞼を通しても明滅が鬱陶しい。気持ちが悪くなりそうだ。

 いつまで続くのかとげんなりしていても、次第に落ち着いてくる。上下の感覚すらなくなっていたが、体が重さを思い出す。重力とは有り難いものだ。

 気づけば明滅も収まり、頬に風が触れる。目を開けると、馴染み深い光景が見える。雑居ビルの屋上、フェンスで覆われたスペースに空調用の配管やら室外機。

 どうやら無事に戻って来れたようだ。妙に薄暗いが、夕暮れ時なのだろうか。

 

 変わらない景色だが、明らかな変化が二つ。

 

 人の気配がない。人の会話や足音、生活音はもとより、車のエンジン同じすら聞こえてこない。ここは駅近くの繁華街のはず。だと言うのに見える限りに人がいない。

 そして街の中心に聳え立つ黒い塔。曖昧な輪郭のそれは、街中どこからでも見えるほどの高さを持っている。草太の目には、街中至る所からうっすらと靄が塔へと繋がっているのが見えた。もやの元を辿るために屋上から地上へと降りていく。

 もやの一つを辿ると屋内に繋がっている。何かの会社の一階、ガラスの内側に人が蹲っているのが見えた。何人もの人が横たわり苦悶の声を漏らしている。苦しげに時々みじろぎするその人達の背に、靄が繋がっている。

 おそらく、この街の住民一人一人、ただ一人の例外もなく靄が人を繋いでいる。

 一つのもやに気がつくと、その全容にも気がつく。天を仰ぎ見る。太陽は中天にある。つまり、あまりの靄に街が沈んでいる。

 

 セラフィモンからまずい状況と聞いていたが想定以上だ。おそらく新たな災いをパンドラモンは生み出した。

 ホーリーエンジェモンと早く合流しなければならない。が、それでも街の人々の全てがパンドラモンに繋げられているとすると、どれだけの力を蓄えているのか。

 自分たちで対処できるのか。弱気の虫が蠢いて、操られるだけで邪魔になるからと断った援軍のことが惜しく感じてくる。

 

「これは…ちょっとやばいか?」

 

 だがやらねばならぬ。そのために帰ってきたのだから。

 まずはホーリーエンジェモンと合流する。すべてはそれからだ。

 

 わずかな時間ではあったが、命がけの戦いと、デジタルワールドで過ごした日々は草太の鬱屈を吹き飛ばした。

 駆け出す草太の足取りに迷いはなく、その瞳は靄に沈む街のなかで唯一輝きを放っていた。

 

 

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