やさぐれ天使と俺の、厄災をうちはらう正義の話(旧タイトル:でこぼこバディ) 作:朝食付き
街中に悲鳴が広がっていく。タトゥーの暴力衝動に支配されたフライモンの群れは、うずくまる人々を傷つけ始める。殺すのではなくいたぶる。
やろうと思えば人など一噛みで引きちぎれるだろうに、嗜虐性を増幅されたフライモンは、一方的に人を傷つけ笑っている。
ビルの影、街路樹や植え込みに身を隠しながら草太はホーリーエンジェモンを探す。
頼りのパス──ホーリーエンジェモンとの契約の証だ──はまだ切れていない。つながってもいないが。
頼りにならないと舌を打つ。
今この街で凶暴化したフライモンをなんとかできるのはホーリーエンジェモンだけだ。あのうっとおしい羽音で普通の人間は立つことすらままならない。
しかしホーリーエンジェモンが全力を振るうためには草太の制限解除が必要だ。
まずはホーリーエンジェモンを見つけ出さなくてはこの混乱を沈めることはできない。
──奴はどこにいる?
草太は考える。
街中で悲鳴が上がったなら、ホーリーエンジェモンはどうするか。
間違いなくおっとり刀で駆け付けるだろう。だが制限状態では守ることのできるものは限られる。
あきれるほどのアホではあるが、取捨選択を間違えるほどではない。
逆にフライモンは、どのような相手を狙うのか。ゾンビタトゥーで暴力衝動にかられた毒虫が狙うものの中に、ホーリーエンジェモンが執着するものはあるか。
理性をなくしたからこそ、脅威など一つもないはずの弱いものを狙うはずだ。事実、うずくまる無力な人々を傷つけている。
それだけか?
フライモンは悪意や嗜虐性を増幅されている。要はすごい嫌な性格になっている訳だ。
嫌な奴は弱い者いじめはしても強いものに喧嘩を売ることはしないはずだ。
………なら、強いものが弱くなっていたらどうか?
今のホーリーエンジェモンは見た目だけで、通常よりもはるかに弱い状態だ。力に制限がかかっているのだから。フライモンは自分より上の存在をいたぶる機会を逃しはしないだろう。
ましてやパンドラモンの支配下にあるのだ。自分を捕まえにきた相手を逆に嬲れるならば最優先で狙われたっておかしくはない。フライモンがホーリーエンジェモンを見つけたのなら、徹底的に攻撃を加えるはずだ。
ホーリーエンジェモンは自身が集中的に狙われるとして、フライモンから逃げるか?
間違いなく逃げる。あの阿呆は正義の番人気取りだが、その本質は野生の猛獣に近い。意味もなく勝てない戦いをすることはしないはずだ。
さっさと逃げ出して、それから陰湿な不意打ちでもするのが目に浮かぶ。
だが、それはホーリーエンジェモンだけが狙われたらの話だ。
いつか見た不可解な態度。パトロール中の公園でやつは子供を見ていた。
転んで泣いた子供の元へ保護者が駆け付けるまでの一部始終を。子供の声が耳障りだというくせに、子供が泣き止むまでその場を離れようとしなかった。思えば公園に幼稚園、小学校。奴が選んだパトロールルートは子供のいる場所ばかり。
──ああそうだ、きれいに折られた紙のメダルなんて、誰があの天使に贈るというのか。
この辺りで一番子供が多いのは、公園そばの保育園だ。やつが好んで回るパトロールコース。
今の時間帯なら、仕事が終わった大人たちが迎えに来るのを待っている子供たちがいる。かつては自分も通った保育園だ。間違いない。
見つからないように静かに、そしてできる限りの速度で駆け出す。──膝が痛むかもしれないなんて、そんなことかけらも思い浮かばなかった。
***
国道をそれた小さい市道に入ると地域で一番大きい保育園がある。日当たりの良い大きな園庭にはいつも可愛らしい子どもたちのはしゃぐ声が聞こえていた。
それが今はどうだ?不愉快な羽音と破壊音、泣き叫ぶ声。
か弱い子供の悲鳴だ。近づくほどに強く、自分にも聞こえている。
ならばその声が、やつに届かないはずがないのだ。あの傲慢極まりなく、頭も素行も最低で身勝手な屁理屈を振りかざす自称大天使。
薄っぺらい正義をかざして人を従わせようとする、草太にとっての疫病神。
だが、弱いものを守る正義の番人でもある。誰でもなく、草太がそれを知っている。
園庭には泣き叫ぶ幼児たちと必死にかばう保育士がうずくまっている。親の迎えを待つ間、園庭は解放されているから、その状況で襲撃を受けたのだろう。
そして一塊になった彼らを、ホーリーエンジェモンがかばい続けている。
左手の盾は常に彼らを守るために向けられ、自らをかばうことはない。それどころか、自らの肉体すべて、背の翼までもをなげうって子供たちを守り続けていた。
どれだけ打ち据えられようともその背中は揺るがず、決して倒れることがない。
草太は叫ぶ。そして打てば響く返答は速やかに。
「待たせた!」
「遅い!承認しろ!!」
即時申請が来る。表示される間すらもどかしい。
「承認!!やれ、ホーリーエンジェモン!!」
二人をつないだパスを通じて、ホーリーエンジェモンの力が解放される!
きらめく光が逆流するようにスマホまでも輝かせる。むろん、ホーリーエンジェモン自身が放つ光はその比ではない。
解放されたホーリーエンジェモンが放つ存在感は圧力さえ覚える。傷ついた翼すら曇りのない白色を取り戻していく。4対8枚の翼を広げたその姿は、名実ともに大天使型デジモンの威容である。
ふわりと浮き上がり、鬱憤を晴らすように羽ばたき散らす姿だけが、普段と変わらない柄の悪さを伝えている。
「さて、たかが羽虫程度が調子に乗ったものだな。一匹ずつ羽を引きちぎってくれよう」
フライモン達は様子の変わったホーリーエンジェモンへ警戒心を向けて、距離を取っている。
しかし、その程度の距離では不足している。
翼の一打ちが生み出す推進力はフライモンの比ではない。音を纏う速度で一体のフライモンの上を取る。そうして繰り出されるのは、体全体を引き絞るような溜めからの打ち下ろしの右。フライモンが反応する暇すら与えずにその拳がフライモンの胴体を撃つ。
激しい衝撃にまるでボールかなにかのごとく地面に叩きつけられるフライモン。顕れた力はエンジェモン時代の得意技、聖なる肉弾戦の代名詞、ヘブンズナックルである。
地面へ落下したフライモンには目もくれず、草太にむけ次なる力を要求する。
「草太!申請!!」
スマホが震える。見るまでもない。スマホから浮き上がるように輝く文字にはホーリーエンジェモンが誇る聖剣の使用申請が浮かぶ。
「エクスキャリバー承認!!」
叩き返すように叫ぶ。
光の聖剣がきらめく。右腕から伸びる青白い刀身は草太の身の丈ほど。ホーリーエンジェモンは胸元に手首を返し、刀身越しにフライモンの群れを覗く。
下段に剣を構え、翼の一打ちでフライモンの眼前に飛び込む。フライモンが前足を振るうよりも速く身をかわしてフライモンの上を取る。曲芸のように上下さかさまに反転したまま、フライモンの体に刻み込まれたタトゥーだけを切り裂いていく。
切り裂かれたタトゥーは黒い靄を噴出しながら、光に焼かれるかのように消えていく。
タトゥーが消えることで暴力衝動から解放されたフライモンであったが、さすがにタトゥーとエクスキャリバーのダメージは大きく、ゆっくりと地面に着地していく。
力を解放されたホーリーエンジェモンは、凶暴化したフライモンを歯牙にもかけない。成熟期と完全体にはそれほど大きな力の差がある。一体ずつ、確実にフライモンが浄化されていく。後から後から街中に散らばっていたフライモンが集まってくるものの、鎧袖一閃とばかりに聖剣が煌めき、そのことごとくを浄化していく。群れであったとしても力の差が埋まることはない。
だからそれを覆そうと思うならば、無法に手を染めるしかない。
黒い靄”ゾンビタトゥー”が明確な意思を持って蠢きだす。浄化される前のフライモン達からタトゥーから黒い靄に姿を変えて中空に集まっていく。悪意そのものを形にしたような漆黒の球が現れる。美しさすら感じさせるそれは、まだタトゥーを残したままの一体のフライモンを飲み込んでいく。触れた場所から靄がフライモンの体を引き寄せるように蠢く。まるでアリにたかられる蛾のように、毒々しい羽も警戒色そのままの体も黒い靄に包まれる。
フライモン一匹を丸々飲み込んだ黒の球からは、フライモンの絶叫が聞こえてくる。ぶちぶちと何かがちぎれる音が響く。フライモンが靄の中で何かひどいことになっている。
フライモンを取り込んだ靄の球からは、鞭となった靄が振り回され、ホーリーエンジェモンも手を出しあぐねる。
そして、だんだんと球が小さく薄くなり、フライモンの姿が見えてくる。元の姿とはかけ離れた姿となって。
ゾンビタトゥーを介して注ぎ込まれた力は、フライモンの肉体という器を無理広げ、強制的に巨大化させている。
力による巨大化に耐えきれずにちぎれた肉体の隙間は、黒い靄が埋めている。遠目には身体中にひび割れたような黒い線が見える。そうして無理矢理に膨れ上がったフライモンの肉体は元の3倍を超えるほどの大きさとなってホーリーエンジェモンの前に現れた。
生き物の強さは多くの場合、大きさだ。強い生き物は大きい。正面切っての争いでライオンは象に勝てない。絶対的な質量はまぎれもない力そのものである。
それはデジタルモンスターであっても同じことだ。例外はあれど、成長期から成熟期、完全体に至るまで、より強く『大きく』なることこそを命題として進化し続けるのがデジモンである。
本来であれば成熟期と完全体では埋めがたい力の差がある。多少の大きさを覆せる差だ。しかしそれを補うのがゾンビタトゥーである。パンドラモンがゾンビタトゥーを介して与えた力によって、フライモンの位階は完全体以上まで引き上げられている。
巨大フライモン、いやその裏に潜む影、パンドラモンが笑う。
「シネ」
巨大化したためにその動き自体は緩慢である。飛び続けることよりも悪意を優先した巨大フライモンがビルのアンテナを止まり木として、その巨体を下す。
そして羽を高速で震わせていく。その巨大化した羽がもたらすハウリングノイズもより威力を増している。
同時に放たれる黒く染まった鱗粉が一帯を染め上げるように広がっていく。
気がつけば二人の背後では、守っていたはずの子どもたちが苦しそうにうずくまっている。
フライモンが強大化したことにより、より多くの悪意を振りまく形態に変わったのだ。
タトゥーの靄は尽きることなく振りまかれ、辺り一帯はより深い暗い闇に覆われていく。
小さく柔らかな光が消えていく。無条件に信じていた未来が失われる絶望。
ホーリーエンジェモンが慌てたように地上に降りてくる。草太には目もくれず、子供達の前に立つ。声をかけるでもなく、手を差し出すわけでもなく、ただ立ちすくむように。
草太はホーリーエンジェモンとこの子供達がどんな関係なのかは知らない。ただの気まぐれで近寄ったら懐かれた。概ねそんなところだろうと思う。
まだ何者でもない、何にでもなれる可能性の塊。
ホーリーエンジェモンは戦うすべしか知らない。苦しむ子供にしてやれることを知らないのだ。ただ撫でてやるだけでも子供は安心するものなのに、それすらわからないのだ、この天使は。
呆然とするホーリーエンジェモンをそのままにしては置けない。初めて見せた弱さをそのままにしておきたくはない。なにより、こいつなら苦しむ子供たちを救うことが出来るはずなのだ。
ここに来るまで何十人もの人々がフライモンのハウリングノイズに苦しめられていた。耳をふさいでも防ぐことのできない苦しみを受け、立ち上がることさえできていなかった。そんな人々の中を、草太一人だけホーリーエンジェモンの元へと駆け抜けてくることが出来た。
より強大となったハウリングノイズに苦しむことなく、今草太は立っている。そこに鍵がある。
草太とホーリーエンジェモンは契約によって魂を直接接続するパスが生成されている。このパスを通じてホーリーエンジェモンの力が草太にも流れ込んでいる。邪悪を滅する聖なる光が草太の体を守っているのだ。だから草太はハウリングノイズに耐えられたし、毒の影響を受けていない。
ならば手はある。草太にはホーリーエンジェモンの可能性が見えている。
草太を守る光などわずかなものである。草太自身が今まで意識すらしなかったものだ。ただ繋がっているだけで伝わってくる光でも、悪意の毒に対することが出来るのならば、大本であるホーリーエンジェモンならば毒も靄もすべて吹き飛ばすことが出来ると。そして、その力があればどれだけの命を守れるかを。
立ちすくむホーリーエンジェモンの背中に手を当てる。
「俺が今ここに立っていられる理由を考えてみろ。」
「──ッ、消せるのか…?」
「分かったならボケっとしてんな!さっさと毒を消し飛ばせば済むだろうがッ!!」
「………貴様に言われるのは癪だな。まあいい。ならば見ているがいい、私の力を。」
ホーリーエンジェモンの4対の翼に光が集う。羽根一枚一枚に宿るは猛き光である。
瞬時に高く舞い上がり、その翼が力のある風を起こす。静かに広がっていくその風は、聖なる光を運ぶ優しくも苛烈な暴風となる。街中にまき散らかされた毒鱗粉が光に溶けて吹き消されていく。
毒に苦しむ人々の顔が風を受けて穏やかな呼吸に変わっていく。草太の後ろにうずくまる子供たちの泣き声も小さくなる。ホーリーエンジェモンはそれを横目でしっかと見つめている。
鱗粉をあらかた吹き消したホーリーエンジェモンが草太の元へと戻ってくる。毒をまとめて吹き飛ばされたフライモンは再び宙へと浮かび上がり、二人を警戒している。
二人は、合わせたかのように巨大フライモンへと同時に向き直る。
草太からホーリーエンジェモンへ。ホーリーエンジェモンから草太へ。二人をつなぐパスが伝えるのは力だけではない。
弱いものを守ること。”泣き声を少しでも早く止めたい”
暴れさせられているデジモンを救うこと。”暴力をさせている奴に腹が立つ”
フライモンは大人しいデジモンであることをホーリーエンジェモンは知っている。目の前の巨大なフライモンが上げた悲鳴を草太は聞いている。
自身の欲望のために人を傷つけること。
草太はそれが許せないと思う。たかが一つの傷が夢を奪うことだってある。
ホーリーエンジェモンは、それこそを”悪”と断ずる。弱さが生む悲劇を知るがゆえに。
性格、心情、生まれも種族も、世界さえ異なる二人だが、悪へ立ち向かう意志、その一点だけは違えることがない。
ならば弱い心に手を差し伸べること。未来を穢すものに立ち向かうこと。つまり、それが今この場における二人にとっての正義である。
「草太。」
「ああ。」
猛き意志が同じ焦点を結ぶとき、二人の魂が共鳴する。
共に立つ二人の体からは黄金の光が溢れ出す。ホーリーエンジェモンの力が、草太との共鳴によってかつてないほどの高まりを見せる。
半身になって左手のスマートフォンを、巨大フライモンへと向ける。
背中越しに、ホーリーエンジェモンの右手のエクスキャリバーが向けられているのが見えた。
「全力を振え、ホーリーエンジェモン!!」
その力を向けるべき悪を示す。
「言われるまでもない、奴は微塵も残さん!!」
溢れる光が悪を討たんと気炎を上げ、空高く飛び上がる。
黄金の光を纏う4対の翼が震え、爆発的な光が広がる。その光は朝焼けにも似て、街を埋め尽くす靄を切り裂くように焼き払う。暗がりを打ち破るその光は、靄がもたらす暗闇のことごとくを駆逐し、月を掲げる優しい夜の色を取り戻していく。フライモンがもたらした破壊や痛みに苦しむ人々すら、その光に恐怖を忘れた。
吹き荒れた光は陰ることなく、ホーリーエンジェモンへと焦点を合わせて行く。曙光を束ねたがごとし黄金の輝きが、ホーリーエンジェモンの右腕で形を成す。
エクスキャリバー、その刀身は優しく柔らかな黄金の光そのものとなった。
見るだけで温かくなるような、太陽にも似た穏やかな光。
そしてそれは、幾万の悪を焼き尽くす苛烈な光でもある。
「エクスキャリバー」
その剣の銘がつぶやかれる。
「さあ、正義の時間だ。フライモン、お前にこびりついたクソを今払ってやろう」
どこまでも高慢で、上から物を言う、変わらない姿。
むろん答えが返るはずもなく、巨大フライモンからは三度強烈なハウリングノイズが強烈な毒針と共にが射出される。ハウリングノイズで身動きを止め、わずかでも付着すれば骨までも溶かす猛毒を確実に当てる。フライモンの必勝パターンがホーリーエンジェモンを狙う。避けることが可能でも、その背後には草太と子供たちが位置する。
正義を標榜する輩にはこの手が一番効く。フライモンを操るパンドラモンは、デジタルワールドの天使型デジモン達に敗れとらわれたとはいえ、災いを元にさんざん暴れまわったデジモンである。天使型デジモンの弱みをよく知っていた。
だから、知らなかったのはデジモンと人が共に戦う強さである。
ホーリーエンジェモンが左手を前にかざす。まるで大砲のように猛烈な勢いで飛ばされた毒針は、ただそれだけでまがまがしい毒液が浄化され、一滴たりとも地に落ちることすらなく消えていく。物理法則すら捻じ曲げる光の力。
本来デジモン自身が操ることのできる力は、そのデジモンのレベルによって大枠が決まる。いかな完全体であっても、靄によって強制的に位階をあげられたフライモンの毒針を浄化などできるはずもない。
しかし、人とデジモンが心を一つにした時の力はいかなる悪意も吹き飛ばす光を生み出す。
フライモンへ向けた左手をそのままに、弓を引くかのように半身になってエクスキャリバーの切っ先をフライモンへと向ける。そして体中の力全てを剣に乗せて突貫する。雷のような刺突が、まっすぐに巨大フライモンの体を苦しめるゾンビタトゥー、その中心を確かに貫く。
そして、エクスキャリバーの黄金はさらに輝きを増して、ゾンビタトゥーどころか、膨れ上がったフライモンの肉体を癒すように全身を黄金に染め上げた。
ホーリーエンジェモンがゆっくりとエクスキャリバーを引き抜くと、すべてのタトゥーが塵のようにくずれて消えていく。4対の翼が巻き起こす風が、その塵すら浄化し消し去っていく。
ボロボロと膨れ上がった肉体が剥がれ消えていく。元の大きさにしゅるしゅると戻っていき、そのまま地面に伏せるフライモン。
もうフライモン達に戦う術はない。戦いは終わりだ。
ゾンビタトゥーに操られたとはいえ、街や人を散々苦しめたフライモンをみんなが見ている。そもそも操られていたことを草太達以外誰も知らない。弱った姿をいいことに追撃しようと考える人がいてもおかしくはない。
「ホーリーエンジェモン、全部まとめて吸い込んでやれ」
「わかり切ったことを貴様が指図するな。さっさと承認だけしていろ!」
ヘブンズ・ゲートの申請を即座に承認する。通常は亜空間につなぐゲートではあるが、今回の任務として、天使連が作り出した隔離空間へと接続されている。ホーリーエンジェモンよりも更に高位の天使型デジモンたちが作り出した聖なる力に満ちた空間である。ゾンビタトゥーを瞬時に浄化し、傷ついたデジモンの治療にもなるだろう。もとより現世にこんな悪意に満ちた力を残しておくわけにはいかない。
見慣れた門が空に開き、街に残る靄と気絶したフライモン達が吸い込まれていく。
その日、誰しもがホーリーエンジェモンの輝く光を見上げていた。