やさぐれ天使と俺の、厄災をうちはらう正義の話(旧タイトル:でこぼこバディ) 作:朝食付き
バサリと空気を打つ音とともに、ふわりとホーリーエンジェモンが舞い降りる。黄金の輝きは消えていつもの姿だ。スマホをちらりと確認すると、申請時間が経過しましたと無個性なポップアップが開いている。
戦いが終わって後始末も済んだ。そうするともう話すことがない。
絶縁宣言まで飛び出した喧嘩の後である。忘れたことにするには短すぎる時間だ。お互いに気まずい。さりとて二人だったからこそ何とかなったこの状態。
どちらも自分が間違っていたとは思っていないし、謝りたいとは思っていない。だが、それでも踏み込みすぎた自覚があった。
「……もう少し速く来れなかったのか。おかげで翼が汚れただろうが。」
「……お前が助けてーって情けなく叫んでたらもっと速く着いたさ。」
だから憎まれ口をたたかざるを得ない。引っ込みがつかなくなった阿呆が二人である。
と、そこにおずおずと話しかけてくる人がいる。それまで守られ続けた保育士と園児である。
「あの、て、天使さん?私達を守ってくれてありがとうございましたっ!」
勢いよく頭を下げられる。驚いた様子のホーリーエンジェモンに、追撃とばかりに園児たちの幼い礼が続く。草太からすればただのチンピラだが、見た目はまさに天使そのものである。ましてや身を粉にして守ってくれた実績がある。
恐怖から開放された子供は無敵である。たちまち園児たちに囲まれるホーリーエンジェモンであった。
あっという間に子供のおもちゃと化すホーリーエンジェモンに、巻き込まれまいと離れようとする草太だったが、草太にも保育士が頭を下げ始める。ありがとうありがとうと、自分の両親ほどの年齢のご婦人に頭を下げられて平然とできるほど肝は太くない。
「ちょっ、頭を上げてください!俺は別になんにもやってないですから!礼はアイツにやってください!」
「いえ、あなたが来てくれれば何とかなるって聞いてましたから。だからお礼を言わせてください。」
「いや、何にもやって……、聞いてる?」
ホーリーエンジェモンと自分の関係性を知っているのはあとはテイルモンだけだ。であるのにも関わらず自分がくるのを待っていることを知っていた。そんなことをあのへそ曲がりがいうのだろうか。
「天使様は私達を守りながら、なんとかできる人が来るからそれまで耐えろって言っていたんです。」
穏やかな瞳が、それが草太のことだと、そう信じていることを伝えてくる。
「だからあなたにもお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました。」
そう言って頭を深々と下げる。草太にはもうなす術がない。ああ、だとか、いや、とかうにゃうにゃと言葉を濁してその場を離れる。保育士さんは不思議そうな顔をしてその姿を見送っている。
速足で保育園を後にする。さっさとこの場を離れたい草太である。
そして、同じく園児の群れから開放されたホーリーエンジェモンと期せずして隣り合う。
草太はホーリーエンジェモンを信じてこの場に来た。
ホーリーエンジェモンは草太を信じてこの場で耐え抜いた。
お互いが、なぜそこまで互いを信じられたのかは分からない。大して長い付き合いでもない。性格も考えも何もかもかみ合わない。絶縁するほどの喧嘩もした。それでも、信じるにたる確信があった。それは、思ったより悪い気分ではなかった。だから。
「薄っぺらいってのは言いすぎた。──悪い。」
「理由があったということにしてやる。──泣き言は聞かんがな。」
***
明るい日差しが長峰家のリビングを明るく照らしている。穏やかな気候を伝えるように、少し暖かいくらいの気温である。しかしそんな気持ちのいい空気など知ったことではないと、今日も騒がしい声が響く。
「全く貴様は学習能力がないのか?味噌を入れたあとに沸騰させるバカがどこにいる!カスがっ!!」
「ぐっ、ちょっと沸かしすぎただけだろ!お前こそ掃除は終わったのか?終わるまで飯にはしないからな!」
口を開けば罵声が飛ぶ。
「お前なんでも間でもエクスキャリバー申請してくるのやめろ!ピコンピコンうるさいんだよ!幼児でももっとまともな判断するぞ!」
「黙れ!私の目の前で悪が行われた以上、即刻やつに正義を叩き込まねばならん!さっさと承認しろ!!」
「たかが信号無視に過剰な戦力もちこむんじゃない!いかれてんのか!」
仲良くする気がまるでない。
二人のレベルの低い口げんかもここまでくれば筋金入りだ。様子を見に来たテイルモンがあきれている。
喧嘩にため息をつきながら、一昔前の携帯電話で現状報告をしている。
「はい、こちらは何とか対応できています。パンドラモンの捜索についてはお任せください。代わりにデジタルゾンビ化の治療と対策はお願いします。」
通話を切った後にもまた別の話題で喧嘩が始まっている。
「もう、仲がいいんだか悪いんだか・・・。」
やさぐれ天使と鬱屈少年の戦いは続く!
ここまでで1章となります
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