やさぐれ天使と俺の、厄災をうちはらう正義の話(旧タイトル:でこぼこバディ)   作:朝食付き

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1.これってそういう仕組みだったの?

 

 食卓は静かに進む。基本的に草太とホーリーエンジェモンは仲良く話をする間柄ではないので、お互いの失点が目につかなければこんなものである。

 きれいにアジの塩焼きを骨だけにしていくホーリーエンジェモン。その雰囲気は普段のだらけた姿とは比較にならない真剣さである。

 食感が気に入ったのか、延々ときゅうりの漬物を食べ続けるテイルモン。立ち振舞も言葉遣いもたおやかさのあるテイルモンではあるが、美味しい美味しいと同じものを食べ続ける様は見た目相応だ。

 食事のさなかではあるが、草太が本題を切り出す。

 

「食べながらでもいいから聞いてくれ。最近の状況についてだ。」

 

 箸を止めることこそないが、二人の注意が草太に向く。

 

「多分だけど、パンドラモンは俺たちを探っている。実際に動ける戦力と行動範囲、対応能力をだ。」

「先に根拠を言え。」

「ここ最近出てきたデジモンを考えてみろ。」

 

 一口味噌汁で喉を湿らせる。

 

「ちょっと前にデカい木のドラゴンが出てきただろ。あいつは確か完全体だって言ってたよな?」

「そうですね。エントモンです。ホーリーエンジェモンと同格、いえ、同じ完全体でも上位のデジモンですね。」

「私の敵ではなかったがな。」

「それはパンドラモンに操られていたからでしょう?」

 

 無駄にマウントを取りに行くホーリーエンジェモンをテイルモンがたしなめる。この大天使は大体誰に対しても対抗心をむき出しにするので、まともに取り合うだけ時間の無駄だ。

 

「そこはどうでもいい。要は、用意することのできる中で、上位のデジモンを出してきたってことだ、大事なのは。

でもその力押しはホーリーエンジェモンに押し返されている。ただでさえ今までさんざん邪魔してきたのが俺たちだ。そのために虎の子まで出しても排除できなかったわけだろ。じゃあ次はどうするかって話になる。」

「確かにな。普通ならそうなる。だがパンドラモンの脳みそはそこまで上等に出来てるか?」

「それは知らん。テイルモン、確認するけど、その完全体より強いやつ、究極体?が出てくることはないとみていいんだな?」

「それは間違いありません。パンドラモンが脅威であることは確かですが、ゾンビタトゥーは完全体以上に対しては強制力がかなり落ちます。動かない相手にひたすらゾンビタトゥーを打ち込み続けるような条件でもない限りは、究極体が操られることはあり得ないでしょうね。」

「そうだといいがな。言っておくが、完全体のエントモンですらあのざまだぞ?」

「エントモンは究極体ではありませんよね?」

「分かった分かった。可能性としてはかなり薄いってことで理解しておく。」

 

 ここまででようやく前提である。いちいち混ぜっかえされるせいでなかなか話が進まない。

 まして食事中でもある。自然と話が途切れ、味噌汁をすする音、漬物を楽しむもの、おかわりをしに行くものとそれぞれに食事が進めていく。

 

「今まではデジモンの数を増やしたり、エントモンとかでかいデジモンを使ってきてたよな。でも昨日はやたらと小さいデジモンで逃げながらちまちま攻撃してきてた。明らかにこれまでとは毛色が違ってる。

俺たちより弱いやつを数だけ用意する意図はなんだ?今までの戦いからしても敵わないことは分かってたはずだ。

もし考えなしの行動でないのなら、これは試しだ。モルモットよろしくいろんなタイプのデジモンを嗾けて、俺たちがどこまでなら対処できるのかを調べている。俺はそう考えてる。」

 

 パンドラモン自体のことを草太はあまり良く知らない。その実力や悪意については、ホーリーエンジェモンとテイルモンからの伝聞である。長く封印されていたデジモンであり、それなりに弱っている可能性だってある。

 だが、弱く見積もるのが悪手であることは言うまでもない。ホーリーエンジェモンとテイルモンの判断次第になるが、改めて草太は戦うべき相手のことを知る必要があると感じていた。

 これまで通りの、戦えるから戦うなどというスタンスでは致命的なミスが起きる。

 元とはいえ、将来を期待されるサッカー少年だったのだ。格上相手にガチガチの対策を決めて大金星を上げたことも、格下だと舐めてかかって無様に負けた経験だってある。だからこそ自身と相手の評価を正しく行う必要がある。

 

「弱いデジモン相手ならテイルモンも戦えるし、問題なかった。力押しもダメ、数で押すのもダメ。なら次はどんな手で来る?

パンドラモンは俺たちの弱点を探してる。だから少しでも対策を考える必要がある。違うか?」

「まずもって、貴様自身が最も大きな弱点だということを思い出すことだな。」

 

 ホーリーエンジェモンが立ち上がり、食器をまとめて流しに持っていく。

 

「そこは私たちがフォローするんですよ、ホーリーエンジェモン。草太さん、なるべくホーリーエンジェモンか私から離れないようにしてくださいね。」

 

 食器を重ねようとするテイルモンを制して草太が立ち上がる。さすがに客人に片付けなどさせられない。ソファーで待っててくれと言って片付けに入る。

 テイルモンはおとなしくソファーに向かい、上品な仕草で腰をおろす。柔らかさが気に入ったのか、肘掛けに手を当てて反発を楽しんでいるようだ。

 

「爪研ぎはするなよ。」

「するわけないでしょう !私をなんだと思っているんですか!」

 

***

 

 床にあぐらをかくホーリーエンジェモン。テイルモンの隣に腰を下ろす草太。ローデスクには麦茶が3つ。テイルモンのために茶漬けとして残っていた漬物も出す。

 

「弱点その一は俺か。ただ実際の所、パスからお前の力の余剰が来てる。フライモンの毒とかも効かなかったし、多少は粘れるんじゃないか?」

「浅はかだな。粘ったところで助けがいるのでは足手まといのままだろうが。」

「私も草太さんの考えは賛成できません。ホーリーエンジェモンの言うことももっともではありますが、そもそもとして私たちは草太さんを矢面に立たせたくはないのです。」

「だから隠れてこそこそ承認だけしてろって?」

「草太さんに助けられていることも、その助けなしにこれからを進められないことは分かっています。でも草太さんにはまず自分の安全を考えてほしいんです。」

 

 自分のこれまでの行動が、安全を度外視したものである自覚は合った。だから真摯に草太を心配するテイルモンに返す言葉がない。

 

「だがそうも言ってられんのは事実だ。のこのこと前に出てこられても役には立たんが、亀のように引っ込まれても私が困る。

テイルモン、そもそもパスを延長は出来ないのか? 例えば、別の場所に同時に出られた場合はつぶすのに時間がかかる。そいつがゆっくり歩いてくるのを待つわけだからな。」

「それとパスの届かないような空の上だな。なあ、パンドラモンが逃げられないように境界を作ってるとか言ってたけど、それは空の上でも有効なのか? あとは地下も可能性としてはあるな。地面に出た場合についても教えてくれ。」

「ちょっ、ちょっとまってください!一度に2つも3つも言わないでください。

ええと、まずパスの延長については難しいです。私たちもどういう仕組みなのか正確に分かっているわけではないので。」

「「は?」」

 

 草太とホーリーエンジェモンから同時に声が上がる。流石に看過できない回答だ。

 

「待て、この承認システムはお前ら天使連が作ったんじゃないのか?」

「そんな仕組みもわからんシステムだとは聞いていないぞ!」

 

 またしても同時に詰め寄られてテイルモンはタジタジである。

 

「だから一つずつ…。分かりました! ちゃんと答えますから、落ち着いて一つずつ聞いてください!」

 

「まず、この承認システムというのは、私たちが一から作り出したものではありません。これは選ばれし子どもたちとパートナーデジモンのデータを基にして再構築したシステムになんです。と、いうよりは出来る限りをコピーした模倣品ですね。

ええと、まず選ばれし子どもたちというのは、かつてデジタルワールドに危機が訪れた時に、パートナーとなったデジモンと共に世界を救った子どもたちのことです。

選ばれし子供たちとそのパートナーデジモンには特異な進化というものが見られました。成長期のデジモンが、選ばれし子供たちに呼応して一気に進化するというものです。天使連としては、この理由を解き明かしたいという研究目線での取り組みがこのシステムの始まりでした。」

 

 ちらりと草太を見る。この少年はそもそもデジタルワールドを見たこともなければ行ったこともない。興味のうすい話を続けるよりは、用件だけを説明する方がよさそうである。

 

「これは前提ですが、デジモンの進化というものは自然に行われる類のものではありません。特に成熟期から完全体、完全体から究極体なら尚更です。デジモンの進化というものは基本的に幾重にも重ねた戦いで練り上げられた力によって行われるものです。私もホーリーエンジェモンも、相応に戦いの経験を積んでたどり着いた姿なのですよ。

ですが、選ばれし子供達のパートナーデジモン達は、戦いを重ねこそすれ、普通では考えられない速度で進化をしていました。選ばれし子どもたちの危機や強い感情に反応して、一気に進化をしていたのです。

個体によっては一気に究極体まで進化したとも言われています。それでも平時には元の成長期として過ごしていたそうです。」

「見た目としてはともかく、中身は逆だな? 私は進化するのではなく、元々の力を抑制されているのだからな。」

「そもそもとしてはリアルワールドへの影響を抑えることが第一でしたからね。それと、ホーリーエンジェモン、あなた自身の素行の問題でもありますからね!」

「…ちっ。」

「待て、他にも理由があったなら言っておいてくれ。下手に隠されて情報に齟齬が出ても困る。」

 

 テイルモンがチラとホーリーエンジェモンを伺う。が、今更草太からのホーリーエンジェモン評が変わることはないだろう。一人で納得して理由を告げる。

 

「知っての通りホーリーエンジェモンは荒っぽい上に、天使連からの指示も逆らいがちでした。今回のパンドラモン捜索についても、天使連としてはふさわしい人選になかなか悩んでいたようです。なにせホーリーエンジェモンは草太さんも知っての通り、かなりの札付きですからね。

それでもホーリーエンジェモン以外に適任はいませんでした。なので、どうにか首輪をつける必要があったわけです。リアルワールドで好き勝手暴れ放題になった場合への対策として。」

「…お前どれだけ信用されてないんだよ。いや、テイルモンは元々は完全体だって言ってたよな?ホーリーエンジェモンもそうすればよかったんじゃないか?そうすれば元のシステムとも整合性取れるし。」

「私は元々そういうのが得意なだけで、誰もが進化や退化を簡単に出来るわけではないんです。だからこそ選ばれし子どもたちはすごかったわけですが。」

「そこは分かった。続きを頼む。そのパートナーデジモンが進化する云々についてだ。」

「まず、当然のことですけれど普通の成長期のデジモンが究極体に進化するだけの力、エネルギーを持っているわけがありません。そんな力があるならそもそも成長期のままでいる必要がありませんから。でも事実進化をしている。では、そのための進化エネルギーはどこにあるのか。

草太さんはどう思いますか?」

 

 そもそもとして草太はデジモンの進化を見たことがない。ここまでの話もややふんわりとした理解である。ただ、ホーリーエンジェモンをはじめ、これまで遭遇したデジモンは全て人を超越した力を持っていた。

 ただの人間にデジモンに与えられるほどの力があるとは思えない。選ばれし子供達という特殊な存在だとしてもだ。なら、進化するための力はデジモンから生まれることに間違いはないはずだ。デジモンと子供。このワンセットによって進化するための力が生み出される。セットが決まり条件は何か。相性が良ければいいのか?

 

「…人に力を貯めてるのか? つまり、デジモンが普段生み出すエネルギーのうち、自然に発散して消えるような余剰分が人に流れて蓄えられていく。で、いざという時に人に溜まった力が逆流してデジモンに還る。選ばれし子供にためられたエネルギーが一気に注ぎ込まれるから、進化する条件を満たす。選ばれし子供になるのは、子供とデジモンのパスを生成するのに相性が絡むから。どうだ?」

「…お見事です。草太さんの言う通り、進化するのに必要なエネルギーが、選ばれし子どもたちに蓄えられていると天使連の技術者は考えたわけです。ただその仕組みの再現にはかなり苦労したようです。当然のことながら、選ばれし子供にも協力を仰いでのシステム構築ですが、不確定要素があまりにも多かったんですね。とはいえ曲がりなりにも余剰となる力を送るためのシステムとしては完成してましたから、今回ホーリーエンジェモンの暴走対策に採用されたというわけです。まあ、草太さんとホーリーエンジェモンが使うまではここまで機能するとは考えていなかったようですけども。」

「とんだモルモットだったわけか。」

「で、肝心の距離を伸ばすってのはどうなんだ?」

「…まあ、なんといいますか、再現できただけすごいシステムなんですよね。ふたりともそう思うでしょう?思いますよね??」

 

 ホーリーエンジェモンが舌打ちをかます。草太も流石にため息を吐く。

 

「色々手を入れてもらってはいるんですが…。何分人とデジモンを繋ぐのは相性次第なところがあるみたいでして…。」

「なら、例えば俺と他の人、誰かを繋げて大容量のタンクにとかできないのか?」

「それは無理でしょうね。人同士の場合は力よりも意識の割合が大きくなりますから。全く別のことを考えている人を繋いでもノイズになるだけだと思います。人とデジモンだと、種族の差がフィルタの役割してくれるのでそのあたりの調整は必要ないみたいですけれどね。」

「ま、そんなにうまくはいかないか。」

 

 お茶うけにした漬物を口に放り込む。ポリポリと気持ちのいい音がする。釣られたようにテイルモンも箸を伸ばす。

 ちなみに漬物自体はホーリーエンジェモンが一本漬けしたものだ。食通気取りは伊達ではなく、いい塩梅に塩っ気が利いていてついつい食べ過ぎてしまう。

 

「実際のところ、もし上空から降りてこないデジモンが現れた場合、ホーリーエンジェモンが草太さんを抱えて飛ぶことになるんでしょうね。」

 

 漬物を食べる片手間にテイルモンが二人にとっての爆弾発言を放り込む。

 絵面を想像してぞっとする。ホーリーエンジェモンに抱えられるなどまっぴら御免だ。ホーリーエンジェモンも盛大に顔を顰めている。

 

「嫌そうですね…。なら、足にでもぶら下がりますか?」

「命綱無しでぶら下がるのはぞっとしないな…。」

 

 結局その後も大した案は出ずに解散となるのだった。

 

 




※独自解釈による設定です。念のため。
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