トライガン・アーカイブ   作:パイマン

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エピローグは一話にまとめるとかなり長くなりそうだったので、「シロコ」「ハルカ」「ホシノ」の三つの視点で描いた三話構成に分けようと思います。
正直、本編の終わり方も綺麗だなと個人的に思いますので、「本編だけでも話として完結」「三話の内どこからでも、あるいは一話だけでも話として終われる」というのを目標に書くつもりです。
また、エピローグは後日談なのでトライガン要素は少なく、クロスオーバー作品というよりも「クロスオーバー要素によって変化した原作との差異を楽しむ話」として読むのが一番いいかもしれません。
いずれにせよ、お好きな形で楽しんでいただければ幸いです。


エピローグ
Side:シロコ 『WOLF THE WOOD』


 ――お腹が空いていた。

 ――喉が渇いていた。

 ――だけど、何よりも寒かった。

 

 砂漠の夜は冷える。

 季節が冬ともなればなおさらだ。

 寒々しい夜空からは白い雪が降っている。

 砂と雪の上を、シロコは歩いていた。

 自分が何処に向かっているのか、分からない。

 そもそも自分が何処からやって来たのかも、分からない。

 暗い闇の中、ずっと一人で歩き続けていた記憶しかなかった。

 振り返れば、背後に広がるのは一面の砂漠。

 あの砂漠の向こうから、自分はやって来たのだろうか?

 あるいは、ここではない何処かから唐突に砂漠に放り出されて、帰る場所も分からずに彷徨っているのかもしれない。

 いずれにせよ、今のシロコにとってそんなことを考えるのは意味のないことだった。

 飢えていた。

 乾いていた。

 寒かった。

 

 ――寂しかった。

 

 独り、少女は歩く。

 足を止めても、この追い詰められた状況は変わらない。

 誰も助けてはくれない。

 だけど――歩いても意味はないのかもしれない。

 飢えと寒さに体力を奪われていく中で、シロコの心を諦めが蝕み始めていた。

 こんな時に、挫けそうな心を支えてくれる記憶がシロコにはない。

 ここで力尽きて倒れるか、もうちょっと歩いた先で倒れるか。

 どちらも大して変わりはしないだろう。

 誰も知らない。

 誰も気にしない。

 ただ一人、砂と雪に埋もれてこの世界からどうでもいい存在がいなくなるだけ。

 朦朧とする意識の中で、そんな風に考え始めた時――『それ』を見つけた。

 

「……木?」

 

 視界の中にポツンと一点、何か場違いな沁みのように緑の色が映った。

 疲れ、冷え切ったシロコの身体と心が思わず動いてしまう、驚くべき光景がそこにはあった。

 辺り一面砂と雪しか見えない世界に、鮮やかな緑が生い茂っていた。

 見上げるような巨大な木を中心に、幾つもの草や木が群生する一帯が広がっていた。

 砂漠という場所、冬という季節にも関わらず、その自然は瑞々しい生命力に溢れている。

 シロコは一瞬、自分が夢の中にいるのではないかと錯覚した。

 引き寄せられるように、足が動く。

 近づくと、木と土の香り――強い自然の匂いがした。

 砂だらけの不毛の地で、そこには生命力が満ち溢れている。

 その一帯だけが、まるで別世界だった。

 シロコは、その空間に足を踏み入れた。

 

「……寒くない」

 

 ひと際大きな一本の木の根元に身を寄せる。

 広がった幾つもの枝と葉が降り注ぐ雪を遮り、周囲の草木が冷えた空気からシロコを守ってくれているようだった。

 

「今日は、ここで寝ようかな……」

 

 シロコは木の幹に座り込んだ。

 これまで積み重なった疲労がドッと押し寄せてくる。

 一度歩くのを止めて腰を下ろしてしまうと、もう立ち上がることも出来なくなった。

 ここから動けない。

 寒さは少しマシになったが、相変わらず飢えと渇きが辛かった。

 

「……おなかすいた」

 

 シロコは力なく呟いた。

 その言葉に応える者はいない。

 黙って座っていたって、誰も食べ物を運んできてはくれない。

 誰も助けてくれはしない。

 そんなことは分かっているはずなのに。

 それが現実なのに――。

 

「えっ?」

 

 自分のすぐ傍に何かが落ちる音が聞こえた。

 思わず顔を上げると、そこには真っ赤なリンゴが一個落ちていた。

 驚きに目を見開く。

 慌てて周囲を見渡すが、そのリンゴを渡してくれるような人影はない。

 周りに誰もいないのなら、と。頭上を見上げて見れば、木の枝に幾つかの実が成っているのが見えた。

 シロコは納得した。

 寝床にしようとした木に成っていた実が幸運にも(・・・・)自分の傍に落ちてきたのだ。

 木をよじ登って実を取りに行く体力すら残っていないシロコは、文字通り降って湧いた幸運に感謝しながら、そのリンゴに齧りついた。

 瑞々しい甘さが口いっぱいに広がり、空っぽだったお腹を満たす。

 夢中で食べながら、シロコは自分でも知らない内に涙を流していた。

 飢えと渇きが満たされる時――それはどうしようもない絶望が癒される時だからだ。

 

 ――おいしい。

 ――生きてる。

 ――わたしにまだ生きていていいって、誰かが言ってくれている。

 

 シロコはリンゴの皮も芯も、残さず食べた。

 

「……もう一個欲しい」

 

 そう、呟いてみる。

 誰も応えてくれる人なんていないはずなのに。

 ちょっとした期待と甘えを抱きながら。

 

「んっ!」

 

 すると『仕方ないなぁ』とでも言うように、もう一個リンゴが落ちてきた。

 シロコは頭上の木に向かって満足げに親指を立てると、二個目のリンゴも平らげた。

 渇きを潤し、飢えを満たしたシロコは、大きく息を吐いた。

 安堵の一息だった。

 自分の置かれた状況に至る記憶もロクにない中、ただひたすら歩き続けてきた果てに、ようやく身も心も休められる一時を得た安堵だった。

 木の幹に身を寄せたまま、ぼんやりと辺りを眺める。

 森と呼べるほど木々が生い茂っているわけではない。

 しかし、地面は乾いた砂ではなく肥沃した土が広がり、その上を緑の草が覆っている。

 周囲の砂漠から、まるで見えない壁か境界によって隔てられたような空間だった。

 この場所は、きっと安全だ。

 シロコは無意識にそう確信していた。

 そうして安心すると同時に、眠気が襲ってきた。

 瞼が重い。

 木の幹と出っ張った根っこの窪みに入り込むような姿勢で横になる。

 周囲の草木が風を遮ってくれるとはいえ、外気に晒されたこの場所は眠るのに十分な暖が取れる状況ではない。

 しかし、不思議と寒いとは感じなかった。

 孤独だとは感じなかった。

 誰かが傍にいてくれているような気がした。

 

「……おやすみなさい」

 

 ――ああ、おやすみ。

 ――君はもう、大丈夫だ。

 ――目を覚ました時、君を待っているのはラブ&ピースさ。

 

 微睡みの中、誰かが頭を撫でながら優しい声でそう言ってくれているような気がした。

 

 

 

 

 

 

「おーい」

 

 優しい声が聞こえる。

 きっと自分を呼んでいる。

 

「こんな所で寝てると風邪ひいちゃうよ~?」

 

 優しい温もりを感じる。

 誰かが頭を撫でている。

 

「よっぽど大変な目に遭ってきたんだね。大丈夫だよ、ここにいれば安全だからね」

 

 優しい想いが伝わる。

 何処からやって来たのか、自分でも分からない人間を受け入れてくれている。

 

 ――君はもう、大丈夫だ。

 

「だから、目を覚まそうね」

 

 ん。

 分かった。

 目を開けよう。

 きっと、大丈夫。

 この暖かな夢から目を覚ましても、待っているのは寒々しい現実じゃない。

 きっと、素敵なことが待っているはず。

 そう、らぶあんどぴーすってヤツ――。

 

「や、おはよう」

 

 シロコが目を覚ますと、見知らぬ少女が笑顔で覗き込んでいた。

 寝起きの曖昧さが消え去り、湧き上がる警戒心が身体を動かした。

 抱き締めるように抱えていた銃を、素早く目の前の人物に突き付ける。

 

「わっ!? ちょ、ちょっと待って! 暴力反対! 私は敵じゃないよ! 話し合いマショ!?」

 

 桃色の髪を短いポニーテールにした少女は、慌てた様子でホールドアップしながら無力を訴えた。

 しかし、シロコの中の緊張感は抜けなかった。

 一見すると、目の前の少女は丸腰で何の脅威にもならない無害な存在に思える。

 銃口を向けているのはこちらだ。

 しかし、何か――。

 隠している。

 力を。

 刃のような意志を。

 見えない『銃』を持っている。

 それはきっと、自分の持つ銃よりも強力で、もしもその銃口を向けられれば成す術もなくやられてしまうだろう。

 目の前の相手が何故かその銃に安全装置を掛けていて、懐に仕舞ったまま抜こうとしないから、この状況が成立しているのだ――。

 理屈ではなく、本能でそう確信していた。

 

「うへ~、滅茶苦茶警戒されてるねぇ。すごく感性の鋭い子みたい。昔の私みたいだなぁ」

 

 睨みつけるシロコに対して、少女は困ったように頬を搔いた。

 銃口を突き付けられた状態ながらヘラヘラと能天気に笑っている姿は、やはり強者故の余裕を匂わせる。

 

平和主義(ラブ&ピース)って貫くの難しいね。私じゃ、ヴァッシュみたいに上手くやれないや」

「……何の話?」

「いや、こっちの話。それよりも、まずは銃を降ろさない? 本当に、私は君の敵じゃないよ。学校に登校したら知らない子がグラウンドで寝てるから、心配になって声を掛けただけなんだ」

「学校? グラウンド?」

 

 言われて、シロコはようやく周囲を見回す余裕が出来た。

 自分が眠っていた大樹を中心に広がった自然。

 更にその外側には、フェンスで囲まれたグラウンドが広がり、巨大な校舎が佇んでいた。

 昨夜は砂漠の中にある自然という特異な部分に目を引かれ、暗闇に紛れていたこともあって気付けなかった。

 ここは、確かに何処かの学校の一角だった。

 

「ちょっとばかし寂れてるけど、ここはれっきとした学校だよ。名前はアビドスっていうんだ。そして、私はこの学校に在籍する生徒で、名前は小鳥遊ホシノだよ。よろしく」

 

 ホシノは自己紹介をしながら、銃を握るシロコの手にそっと自分の手を重ねた。

 その動きがあまりに自然で、あまりに優しかった為、シロコには払い除けようとする考えさえ生まれなかった。

 

「君の名前を聞かせてくれないかな?」

 

 力なんて少しも込められていない。

 だけど、ホシノの手に促されるまま、構えていた銃口を下に降ろしていた。

 

「……シロコ。砂狼シロコ」

「シロコちゃん、だね。ここが学校だって気付いてなかったみたいだったけど、偶然迷い込んじゃった感じ? 何処の学校から来たの?」

「……分からない」

「うへ~、何かワケありっぽい?」

「ワケなんてない。何も覚えてないから」

「……あらら?」

「砂漠を歩いていたら、大きな木が生えてるのを見つけて、驚いたから近づいただけ」

「……」

「何処から来て、何処へ行こうとしてたのかも分からない。自分の名前以外、何も覚えてない」

「……そっかぁ」

 

 そう一言だけ呟いて、ホシノは納得したように頷いた。

 記憶喪失を自称するシロコに対して、不信感や警戒心を抱いている様子はない。

 ただ、少しだけ何かを懐かしむように笑っていた。

 

「大丈夫だよ、そういうの案外珍しくないからね」

「……何が?」

「砂漠の向こうから、このアビドスに迷い込んでくる人が――ね」

 

 意味ありげな苦笑を浮かべながら、ホシノはシロコの隣に腰を下ろした。

 孤独で、寒々しい印象を受けるシロコに寄り添うように身体を近づける。

 それを拒む気にはなれなかった。

 最初に抱いていた警戒心は消え失せ、引き金からも無意識に指を離していた。

 油断させて不意を打とうなんて、きっとこの人は考えていない。

 ただ、自分の傍にいてくれようとしているだけなんだ。

 自然と、そう信じることが出来た。

 

「昨日の夜からここにいるの?」

「うん……」

「ごはんは食べた?」

「リンゴを二個、もらった」

「もらった? あ、この木に成ってるヤツか」

「うん。落ちてきた」

「不思議な木でしょ。もう収穫期は過ぎてるらしいんだけど、たまに実を付けるんだよね。夏に成る実は少し酸っぱくて、暑い日に食べるとおいしいんだ」

「甘くて、おいしかった」

「それはよかった。でも、残りの実はまだ熟してないみたいだし、朝ごはんはおじさんが奢ってあげるよ」

 

 自分を『おじさん』などと自称して、子供を笑わせようとする道化のように振舞う。

 ホシノは肩に下げていたバッグから、サンドイッチの包みと保温ビンの水筒を取り出した。

 

「サンドイッチの中身はね、サーモンサンドだよ。おじさんのおすすめ」

「……食べていいの?」

「いいよ。色々と話したいことはあるけど、まずはお腹をいっぱいにしよう。それから先のことは、その時に考えればいいよ」

 

 自分の通う学校に、突然現れた見ず知らずの少女。

 名前以外の記憶を失って、何処から来たのか、何処へ行くつもりなのかも分からない。

 そんな得体の知れない不審な来訪者を問い詰めることも、何かを急かすこともなく、ゆっくりとホシノは語りかけていた。

 

「コーヒーは飲める? 本当は甘いミルクとかの方がいいんだろうけどね」

 

 あっという間にサンドイッチを平らげたシロコに、湯気の上がるコーヒーのコップを差し出しながら訊ねる。

 小柄で幼さの残るシロコを気遣っての言葉だったが、シロコ自身は自分と大して体格の変わらないホシノに子供扱いされてムッとした。

 

「ん。コーヒーくらい飲める……苦い」

「あはは、朝は苦いくらいが丁度いいらしいよ。アチチ……」

 

 コップをシロコに譲ったので、自分は水筒に直接口をつけながらチビチビと飲む。

 朝の冷たい空気の中に、二人分の白い息が立ち昇っていた。

 シロコは昨夜と同じような気分を味わっていた。

 空腹が満たされ、少しずつ口につける苦みが内側から身体を温めてくれる。

 何よりも、孤独ではなかった。

 隣に寄り添ってくれる存在が、一人増えた。

 この優しさに包まれたまま、もう一度眠ってしまいたくなった。

 

「ここ一帯の自然はね、『ジオ・プラント』っていうらしいんだ」

 

 背を預けた木を見上げながら、ホシノが誰に聞かせるともなく言った。

 

「じお……ぷらんと?」

「アビドスは昔から砂漠化が進んでてね。人工的に管理された花壇や街路樹を維持するだけで精一杯、新しく自然が生まれる余地なんてなかった。そんな干からびた土地を肥沃化させて、植物が育つことの出来るようになった場所をそう呼ぶんだ」

「ここは、人の手で作られた場所なの?」

「そうだよ。最初は、この木が一本生えてただけだったんだ。この木を中心に、こうして緑が増えていったんだよ」

「……すごい」

「そう、凄いんだよ。この木はね」

「そうじゃない」

「え?」

 

 砂漠の中にただこの木が一本あるだけで、何もせずにここまで自然が広がるはずがないことくらい、シロコにも分かった。

 飢えと渇き、そして独りであることの厳しさは身に染みて理解していることだ。

 誰かが寄り添ってくれなければ、きっと近い未来に自分は死んでいた。

 この木もそうだっただろう。

 どんなに生命力に溢れた不思議な木であろうと限界はある。

 独りでは生きていけない。

 だから、これは誰かがずっと寄り添っていた結果なのだ。

 

「きっと、あなたが頑張ったからなんでしょ?」

「……まあね」

 

 シロコの言葉を受けて、ホシノは照れくさそうに笑った。

 

「一年くらい前はね、おじさんの腰くらいしかない小さな苗木だったんだよ。そこから始めたんだ」

 

 簡潔に語られた話の中には、自分には想像もつかないような濃密な過去があるのだろうとシロコは感じた。

 たった一本の小さな木が、この途方もなく広い砂漠に飲み込まれることなく、むしろ逆に押し返そうとしている。

 その傍で共に抗うホシノが、これまで積み重ねた苦労はきっと多かったことだろう。

 しかし、ホシノの顔に辛い過去を思い返す悲壮感は欠片もなく、むしろ希望に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

「終わっていくしかなかったアビドスで、この土地が育っていく。それにどれだけ私達が支えられてきたか、言葉にならないよ」

 

 ホシノは木の表面を、慈しむように撫でながら言った。

 その言葉には嘘偽りのない、万感の想いが込められていた。

 

「まだ始まったばかりだけど、ここには新しいアビドスの歴史と希望があるんだ――」

 

 そう語るホシノの瞳には、輝かしい未来を信じる強い意志が宿っていた。

 そんなホシノの横顔を見つめながら、シロコは心の底から羨ましく感じていた。

 ここには――そして彼女には過去があり、未来がある。

 確固たる道を歩んできた記憶と、これから進む先への展望がある。

 自分には、そのどちらもない。

 何処から来たのかも分からないし、何処へ行けばいいのかも分からない。

 この木やホシノに比べると、自分は空っぽで酷く虚しい存在に思えた。

 

「そして、シロコちゃん。君はそんな木を見て、ここへ来てくれたんだね。なんか『運命』というか『縁』を感じちゃうな~」

 

 その言葉に、俯きかけていた顔を思わず上げた。

 

「……縁?」

「そう、この木が結んだ(えん)ってヤツ。(みどり)なだけに。なんつって~、アハハ」

「……」

「ハハハ……うへ~、滑ったぁ~」

「ん。回りくどくて、何が言いたいのか分からない」

「辛辣ぅ。いや、おじさんも提案に対して前置きしすぎた感じあるけどね」

 

 ホシノは恥ずかしさを誤魔化すよう咳払いを一つ挟み、

 

「シロコちゃん。行くとこないなら、うちに来る?」

 

 優しく微笑みながら、そう提案した。

 

「『うち』って……」

「私の家って意味じゃなくて、この学校にだね。元の学校が分からないなら、とりあえずアビドスに入学してみない? これからどう生きるにせよ、学籍は必要でしょ」

「……いいの?」

「うちとしては、入学希望者は大歓迎だよ。この見た目の寂れ具合の通り、只今絶賛復興中のアビドスは在籍する生徒が少ないからね。実は二年生は私一人しかいないんだ」

「他に生徒はいないの?」

「今年、二十人ほど入学する予定なんだけど、皆初等部なんだ。だから、今入学すればシロコちゃんは自動的に先輩になるってワケ。どう? 君もアビドスに入学して、右も左も分からない後輩達を導いてみないかい!?」

 

 芝居がかかったジェスチャーと大げさな言い方で勧誘しつつ、シロコの手を握り締める。

 一方のシロコは、突然現れた未来の選択肢に目を白黒させていた。

 ここまで、ただ砂漠を彷徨って、これから行く先にもまるで宛てのなかった人生に、思いもよらず道が出来始めた。

 

「……分からない」

 

 シロコは戸惑っていた。

 怯えていたと言ってもいい。

 既に信頼し始めていたホシノから、こんなに都合のいい未来を提示してもらえるなんて、想像もしていなかった。

 自分で自分の道を選ぶことが怖かった。

 

「大丈夫だよ、シロコちゃん」

 

 シロコの抱く不安を見透かしているかのように、ホシノはゆっくりと言い聞かせた。

 

「何処へだって行っていいんだ」

「……」

「君の手の中にある切符は、いつでも行き先が書き込まれるのを待っているんだから」

 

 そうして優しく笑いかける顔。

 握られた手のぬくもり。

 それに導かれるように、シロコは恐る恐る頷いた。

 

「……ん。お世話になる」

「よし! 決まりだね!」

 

 シロコの手を力強く引いて、ホシノは立ち上がった。

 

「じゃあ、早速学校の中で手続きを始めよう。間に合わせだけど、昔のアビドスの制服が幾つか残ってたはずだから、まずはそれに着替えようね。うへ~、よく見たら随分と薄着だしボロボロだねぇ。見ているこっちが寒いよ」

「実際、寒い……」

「長々と話し込んじゃってごめんね。とりあえず、これ巻いておきな~」

 

 ホシノは自分が身に着けていたマフラーを解くと、それをシロコの首に優しく巻いた。

 小柄なホシノには少々大き目だったマフラーは、更に小柄なシロコの首はもちろん口元まで覆ってしまう。

 ちょっと不格好かな? と。眉をしかめるホシノに反して、シロコは初めて口元を僅かに綻ばせた。

 

「あったかい……」

 

 人生が汽車に乗った旅ならば、時折疲れて身体を休める場所は駅だ。

 始まりは何処からだったのか。

 進んだ先にどんな終点が待っているのか。

 暗闇の中、そこに確かなレールが敷かれているのかは分からないけれど、そんな自分にも未来への切符があるのだという。

 何処へだって行っていい。

 この手の中には、行き先の書かれていない白紙の切符があるのだと言ってくれた。

 だから、きっと――。

 

 このアビドスという学校。

 この大きな木の導き。

 このホシノという人間との出会い。

 様々な奇跡の元で、自分の人生が始まったのだ。

 

 

 

 ――砂狼シロコがこれから歩む道の先々で経験する、ここがあまねく奇跡の始発点。

 

 

 

 

 

 

「……ん。懐かしい夢を見た」

 

 爽やかな気分で、シロコは目を覚ました。

 強い緑の匂いが鼻をくすぐっている。

 ほのかな風に揺られる葉の音が心地よかった。

 相変わらず、この場所での昼寝は最高だ。

 シロコは預けていた背中を木から離して、伸びをしながら周囲を見回した。

 アビドスの校舎と、その背景に間抜けなくらい青い空が見える。

 空は快晴。

 本来ならば少し暑いくらいの日差しも、木の枝が遮ってくれていて丁度いい塩梅だ。

 

「いい景色」

 

 平穏な母校の光景に、口元には自然と笑みが浮かぶ。

 高校二年生となったシロコは、あの頃よりも更に大きく成長したアビドスの木の枝に腰かけていた。

 後輩達からは危ないからやめろとよく言われるが、ここでの昼寝はどうしてもやめられない。

 実際、何度か枝からずり落ちたことがあるから危ないのだが……今は寝相も改善したから大丈夫だ。多分。

 シロコの成長は、常にこの木の成長と共にあった。

 シロコ自身が小さかった頃は細かった枝も、身体の成長に合わせるように大きくなって、この身を預けられるだけの懐の広さと丈夫さを保ち続けてくれた。

 この木はシロコにとって親友も同然であり、家族のようでもあり、同級生と言い換えることも出来る存在になっていた。

 この木を中心に広がる自然地帯は、月日を経て更に広がり、今や学校の敷地の半分以上は緑に包まれている。

 大小様々な木々や草花は、アビドスの生徒にとって天然の遊具であり、殺風景な砂漠を彩る花壇であった。

 絶望的な砂漠化によって半ば見捨てられていたアビドスが、たった二年程度で急速な緑化を進行させている成果はキヴォトス全土でも注目されており、特にその中心となるこの木はミレニアムを代表とした技術組織の興味を引き続けている。

 定期的な研究と調査、サンプルの提供にアビドス側が協力する代わりに、相手側からも技術や資金の援助をもらう。ギブ&テイクの関係が築かれていた。

 シロコには、その辺りの難しいことは分からない。

 ただ、この木がアビドスの価値を押し上げて周囲との良好な関係を築く足掛かりとなってくれていて、復興活動に尽力する自分を含めた多くの人々の心の支えとなっている事実を誇らしく思っていた。

 現在のアビドスの象徴と呼んでも過言ではない存在だ。

 しかし、だからこそ『外敵』から狙われる存在にもなってしまう。

 

「……ん?」

 

 校舎の三階に届くほど大きく成長した木の枝からは、周囲が一望出来る。

 その広い視野で、シロコは砂煙を上げて接近する集団を発見した。

 

「アヤネ、聞こえる?」

 

 シロコは左耳に付けたピアスに触れながら呼び掛けた。

 ミレニアムから提供された装備の一つで、ピアスに偽装した超小型の通信機だ。

 通信とGPS機能の二つを備えたシンプルな道具で、通信の有効範囲は狭いが小さくて使いやすく、何よりもオシャレだった。

 

『あ、はい。聞こえます、シロコ先輩』

 

 すぐに後輩の反応が、クリアな音声で返ってくる。

 アヤネの方は、ピアスではなくペンに内蔵されているタイプのはずだ。

 小型でオシャレで高性能、個人の趣向に合わせる気も利いている――シロコはこの小道具を気に入っていた。

 

『お昼寝されてましたよね? 通信ということは、何か緊急事態ですか?』

「ん。また敵襲。相手は前と同じカタカタヘルメット団。だけど、今回は何台か車両を連れてる」

 

 接近してくる集団を高所から観察しながら、情報を送る。

 

戦闘車両(テクニカル)が三台。荷台に重機関銃二丁と……グレネードランチャーを一丁確認」

『グ、グレネードですか? 凄いの持ち出してきましたね』

「撃たれたら校舎もそうだけど、木が危ない。先にこちらから仕掛ける。ノノミとセリカはフォローに回らせて」

『分かりました、すぐに知らせます!』

「ん。それと、ホシノ先輩は?」

『それが、まだ帰ってきてません』

「分かった。奴らも先輩の不在を狙って襲ってきたと見るべき。私達だけで撃退する」

 

 通信を終えると、すぐ傍の枝に引っ掛けてあった愛銃を手に取った。

 アビドスは昔から外敵からの襲撃を度々受けていた。

 相手は大抵、ヘルメット団を代表とする様々な種類の不良グループだ。

 その目的は明確には分からない。

 毎回『学校を占領する』だの『お前らを追い出す』だの好き勝手宣戦布告してくれるが、それを達成した後の最終的な目的が見えてこないことを先輩であるホシノはいつも気にしていた。

 おそらく背後に本当の目的を持った黒幕がいるのだろう、とも。

 しかし、自分を含めた後輩達にとって、現状こういった手合いに対する結論はシンプルだ。

 奴らはこちらの士気を挫く為に、この木を破壊しようと積極的に攻撃してくるのだ。

 そんなことは許せない。

 私の友達をよくも。

 私達のクラスメイトをよくも。

 

 ――この木を傷つける奴らは、誰だろうと全員ぶっ飛ばす!

 

 アビドスの復興を支えるこの木の下で結束した生徒達は、何度も襲い掛かる敵に対して士気旺盛に反撃し続けていた。

 それは今回のような不意の襲撃であっても同じことだ。

 いつ襲ってくるか分からない敵に対して、不安も恐れもない。

 

 ――いつだってかかって来い。

 ――アビドスは全て迎え撃つ!

 

 シロコは戦闘前の銃のチェックを手早く済ませると、マガジンを装填し直した。

 ふと、銃を掛けていた枝に熟した実が成っているのを見つける。

 ついでとばかりにその実をもぎ取ると、一口齧りついた。

 

「んっ。こっちも栄養補給(リロード)完了」

 

 口の中に広がるのは、昔と変わらない瑞々しい甘さ。

 力が湧いてくる。

 アビドス名物のこのリンゴは非売品で、口に出来るのは学校に在籍する生徒だけの特権だ。

 数口で皮ごと身を齧り尽くし、最後に残った芯を咥えると、シロコは足場である枝から空高く飛び出した。

 校門前に辿り着いた敵の頭上から、銃弾の雨を浴びせる。

 

「うわぁあああっ!? いきなり撃ってきやがった!」

「宣戦布告くらいさせろー! 卑怯だぞ、このヤロー!!」

 

 好き勝手なことを喚き散らすヘルメット団に対して、一マガジン分の銃弾を叩きこむ。

 空中という不安定な姿勢であり、距離もあることから十分な効果は見込めなかったが、それでも数人が直撃を受けて倒れた。

 敵が慌てて銃口を向ける頃には、シロコは地面に着地して、近くの物陰に飛び込んでいた。

 一呼吸遅れて、着地地点を無数の銃弾が抉る。

 さすが数がいるだけに火力は圧倒的だ。

 シロコは逃げ込んだ物陰に釘付けにされた。

 

「ん。狙い通り」

 

 背中越しに激しい銃撃が遮蔽物を叩く音と衝撃を感じながら、落ち着いた動作で銃弾を装填する。

 しかし、残されたマガジンが一つだけであることに気付いて、僅かに眉をしかめた。

 

「……弾が足りない」

「真っ昼間からうるさいのよ! とっとと消えなさい、このボンクラどもーッ!!」

 

 元気な罵声と共に、敵のものとは違う銃声が鳴り響いた。

 

「残りの奴らが出てきたぞ! こっちにも射線よこせ!」

「グレネードだ、グレネード! 何の為に持って来たんだよ!? 狙いは適当でいいからぶっ放せ!」

「ちょ、ちょっと待て! こんなの使ったことないから、向き変えるのに手間取って……!」

「は~い、オイタはよしましょうね~!」

「ぎゃぁああああっ!!?」

 

 重厚なモーター音と高速で連続発射される銃声が重なり合い、虫の羽音にも似た独特の音となって響き渡った。

 総重量百キロを超えるミニガンから吐き出される火線が、敵の集団を文字通り薙ぎ払う。

 敵の銃撃が途絶えたことを確認したシロコは、物陰からそっと顔を出して戦況を見定めた。

 同級生のノノミが、校舎の二階から高所優位のアドバンテージを活かして制圧射撃を加えている。

 その混乱の最中に、玄関から後輩のセリカがアサルトライフルを効果的に点射していた。

 

「ノノミ、グレネードを載せた車両を潰して」

『もう狙ってま~す』

 

 シロコが指示を出すまでもなく、ミニガンの集中射撃を受けた車両が一台、ガソリンに引火して大爆発を起こした。

 その火力を一度も発揮することなく、グレネードの砲台が火に飲み込まれる。

 そこへ更にセリカとシロコの射撃が襲い掛かり、敵は次々と打ち倒されていった。

 たった三人とはいえ、アビドスの保有する火力とチームワークの練度は、ゴロツキの寄せ集めであるヘルメット団程度歯牙にも掛けない。

 しかし、敵はその戦力差を豊富な武装によって補っていた。

 残った二台の戦闘車両に積まれた重機関銃が、ノノミのいる校舎の一角に向かって火を吹いた。

 二階の窓枠が周囲の壁ごと吹き飛ぶ。

 

「ノノミ、無事?」

『間一髪ですね。只今、射撃地点の移動中で~す』

『あいつら、ノノミ先輩が移動してることには気づいてないみたいよ。っていうか、トリガーハッピーになってるわね。調子に乗って撃ちまくって、うるさいったら!』

「ん。贅沢な奴ら」

 

 コンバットハイによる哄笑を上げながら機関銃を撃ちまくる敵に対して、三人は落ち着き払った通信を交わす。

 これまでにない敵の圧倒的な火力を前にしても、シロコ達に焦りや恐怖はなかった。

 順当に勝ち筋さえ見えていた。

 しかし、同時に自分達が抱える問題も冷静に認識出来てしまう。

 

「アヤネ、弾が足りない。こちらは予備のマガジンが一個だけ。補給が欲しい」

『分かりました、ドローンで弾薬を送ります』

『撃ち落とされないように気を付けてくださいね。必要なら援護しま~す』

『前々から思ってたけど、やっぱりおかしいわよ! こっちは弾丸一発でも節約しなきゃいけないのに、なんであんな奴らが好き勝手撃ちまくれるわけ!? あー、もうっ! 銃弾じゃなくて、校舎の修理費置いてけ!』

 

 苛立った声と共にセリカの放ったと思われる銃弾が、敵の一人を打ち倒した。

 しかし、敵の数はまだまだ多い。

 手数でも火力でも、相手の方が圧倒的に上だ。

 特に、二台の戦闘車両が厄介だった。

 

「アヤネ、銃弾と一緒に手榴弾を幾つか送って。あの車両を潰す」

『ちょっと待って! シロコ先輩一人であれをやる気!?』

「銃で無力化するには時間が掛かりすぎる。爆破した方が早い」

『もうすぐ移動完了しますから、私が撃った方が安全に処理できませんか?』

「ノノミの射撃でも完全に黙らせるには時間が掛かるし、その間にもう一台に狙われる。まずは私が一台潰す。その後でノノミが最後の一台、セリカは私の援護。これで行こう」

『……分かりました~。無茶しないでくださいね、シロコちゃん』

『それでは、今から物資を送ります……ああっ!?』

「ん? どうしたの、アヤネ?」

『しゅ、手榴弾が……! ご、ごめんなさい! いつの間にか装備の一部が持っていかれてました! 多分、あの子達(・・・・)です!』

『なんですってぇ!? あのワルガキども……!!』

 

 何かを察したセリカが悪態を吐くのと同時に、校舎の屋上から数台のドローンが飛び立つのが見えた。

 

「……なるほど。援護する」

 

 アヤネや自分が使う物とは違う大型で古いタイプのそれらを見て、シロコも何が起こっているのか察しをつける。

 すぐさま残された銃弾を使って、敵全体に圧力を掛けるようなバースト射撃を行った。

 

「おい、なんかドローンが来たぞ! 撃ち落とした方がいいか!?」

 

 ヘルメット団の方も自分達の頭上を飛ぶドローンに気付いて、何人かが銃口を向けようとする。

 

「……いや、待て! あれは多分ただの囮だ! それよりも、あの三人から目を離すな! 攻撃が激しくなりやがった!」

「こっちは無視していいのかよ!?」

「よく見ろ! ありゃ、旧式の輸送用ドローンだ! 街の郵便や荷物運搬に使われるような奴さ、軍用じゃねぇ!」

「あ、本当だ。しかも、ボロボロじゃないか」

「スクラップ置き場に転がっててもおかしくない代物さ。武装なんて積んでねぇし、そんなに重い物は運べねぇ」

「見せかけだけの脅しだ! 特攻にだけ気を付けろ! 近づいてきたら撃て!」

 

 その判断は常識的で、的確ですらあった。

 案の定、頭上まで到達したドローンの群れは、そのまま何をするわけでもなく周囲を迂回するだけである。

 ヘルメット団はドローンへの警戒を解き、銃撃を続けるシロコ達に再び集中した。

 

「――ん。作戦通り」

 

 敵の注意を惹きつけることに成功したシロコは、人知れず心の中でガッツポーズをした。

 この戦いが、こちらの勝利に終わることを確信したからだ。

 それを裏付けるように、ヘルメット団の頭上を取ったドローンから幾つもの小さな物体が地上に向けて投下された。

 金属質な音を立てて、車両の中や足元をそれらが転がる。

 

「ん?」

「何だ?」

 

 不意の落下物に、多くの者達の視線が下に向けられる。

 頭上から降って来た物。

 それは――ピンの抜かれた手榴弾だった。

 

「ひっ――」

 

 悲鳴は連続的に発生した複数の爆発によってかき消された。

 爆撃機からの攻撃を受けた地上よろしく、降り注いだ手榴弾によってヘルメット団が次々と吹き飛ばされていった。

 二台の戦闘車両は言うまでもない。

 爆発、炎上し、完全にスクラップと化していた。

 かろうじて爆発のダメージを耐えきった者達も、その隙を逃さず加えられたシロコ達の射撃によって、あっという間に討ち取られていく。

 戦況は一瞬でひっくり返された。

 ヘルメット団の視点からすると、一体何が起こったのか全く分からない。

 戦意を喪失し、呆然と頭上を見上げれば、相変わらず複数の輸送用ドローンが飛んでいた。

 やはり、爆発物を投下出来るような武装は積んでいないように見える。

 代わりに、そのドローンの上から小さな人影が顔を出した。

 

「……子供?」

 

 ドローンの上には、おそらくまだ十歳にも満たないであろう初等部と思われる少女が乗っていた。

 全てのドローンに一人ずつ、小柄で体重の軽い子供が隠れて乗っていたのだ。

 

「まさか、このクソガキどもに爆弾を持たせて……!?」

「だれがクソガキだって?」

 

 ドローンに乗った子供は『あっかんべー』をしながら、片手で器用に手榴弾のピンを外した。

 

「もう二度とくんなよ……ク・ソ・バ・カ」

 

 起爆までの時間を計算し、きっちり一呼吸分程度間を置いてから放り投げる。

 すでにボロボロの壊滅寸前だったヘルメット団は、顔を青褪めさせながら必死に叫んだ。

 

「に、逃げろォォォーーーッ!!」

 

 二度目の悲鳴もまた、爆発によって飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

「おとといきやがれー!」

「次にきたら、シリに火をつけてやる!」

「みぐるみおいてけ、コラー!」

 

 這う這うの体で逃げ出すヘルメット団の後ろ姿に、つたない口調で罵声が飛ぶ。

 それを見ていたセリカは、頭痛を堪えるような仕草でため息を吐いた。

 足し算や引き算も怪しい子供達なのに、口の悪さは日々進歩するばかりだ。

 

「アンタ達、ちょっと来なさい!」

 

 セリカは怒りを滲ませながら、声を張り上げた。

 その号令に応えるように、目の前に集まる小さな子供達――総勢約二十名。

 全員、アビドスに通う初等部の生徒達だった。

 

「セリカ、やったよ! あいつらやっつけたよ!」

「しょーきん! 敵のボスたおしたから、あたしに賞金ちょうだい!」

「えー、ちがうよ! ボスをたおしたのは、わたしの爆弾だよ!」

「まったく、なさけないわね! セリカたちがたよりないから、助けてあげたわ! し、しかたなくなんだからね!!」

 

 仁王立ちするセリカは、今まさに生徒を叱りつけようとする先生の如き怒りのオーラを発していたが、子供達は畏縮する様子など欠片も見せずに好き勝手騒いでいた。

 戦闘終了を確認して、校舎の外に出てきたノノミとアヤネが困ったように笑っている。

 目の前で行われるやりとりは、アビドスでは日常茶飯事となるほど何度も繰り返されているものだからだ。

 

「アンタ達ねぇ、戦闘が始まったらどうするのか! 何度も言ってるでしょ!?」

 

 セリカの説教が始まった。

 これから自分達の行為が褒め称えられるのだと思っていた子供達は、あからさまにテンションを下げた様子だった。

 

「敵が襲撃してきたらどうするの!? そこのアンタ、言ってみなさい!」

「……一階の教室に避難しまーす」

「そうよ! それなのに、何で手榴弾片手に飛び出してんのよ!? 怪我したらどうすんの!?」

「チッ、うっせーな。……反省してまーす」

「あんだってぇ!?」

「お、落ち着いて! セリカちゃん!」

「アヤネちゃん! あたし、敵のボスやっつけたよ! えらい!?」

「う、うん。そうだね、偉いよ」

「やったー! 賞金ちょうだい! アイスでもいいよ!」

「あー、ずるい! アヤネちゃん、その子ウソついてるよ! だって、ボスたおしたのわたしだもん!」

「ウソじゃないもん!」

「け、喧嘩しないで! ね? 賞金はないけど、アイスは三時のおやつに用意してあるから。皆の分あるからね」

「なー、ノノミ。ヘルメット団の残してった車、見に行っていい? エンジンとか使える部品残ってるかも」

「う~ん、まだ燃えてるから少し待ちましょうか。ほら、セリカちゃんもまだ話してる途中だし、ね?」

「いいよ、どうせいつものお小言だよ」

「おい、やべーって! あいつら結構武器落としてったぞ! 見たことねー新型だ!」

「マジかよ!? 早く拾おうぜ!」

「話を聞かんかー! オンドレらァァァーーーッ!!」

 

 年長者に対する敬意などという結構なシロモノは欠片もなく、無秩序極まった有様にセリカの苛立ちが爆発した。

 しかし、その怒号にも怯えるどころか気に掛ける様子すらない。

 自分達の行いがアビドスに勝利をもたらした事実と、その戦利品を得ることに大半の子供達の関心が向いてしまっている。

 完全にセリカ一人の空回りだった。

 そんな彼女をフォローしつつ、子供達の物言いにも心を砕いてなんとか場を治めようとするアヤネ。

 テンションの高い子達を、のんびりとした物言いで自然と落ち着かせていくノノミ。

 賑やかなやりとりを横合いで眺めながら、シロコは一人頷いた。

 

「ん。戦闘終了。平和が戻って来た」

 

 ちょっとした突発イベントが終わり、アビドスの日常が戻って来たことを実感するのだった。

 

「何が平和よ! ちょっと、シロコ先輩からも言ってやってよ!」

 

 セリカがシロコに話を振る。

 目の前の荒ぶる獣の如き集団は、何故かシロコの言葉をよく聞くのだ。

 セリカはその理由を未だに理解出来ていなかった。

 

「……ボス、アタシ達はこれからどうすればいい?」

 

 子供達の中で一番年長者の少女が、シロコに訊ねた。

 

「ん。皆、まずは戦闘お疲れ様。よくやった」

 

 シロコの労いに、子供達全員が笑顔を浮かべる。

 セリカは不満そうな顔をしていたが、口は挟まない。

 シロコの言動は時としてあまりに突飛なものが飛び出してくるが、こと初等部生徒の指導という点では、同じ先輩という立場であっても自分では到底及ばないほど毎回完璧にこなしているからだ。

 

「ここからは戦利品の獲得タイム。皆、分担して行動開始。三時のおやつまでには終わらせること」

「はーい、倉庫から消火器取ってきまーす!」

「ドローン、メンテするから何人か一緒に来て―!」

「倉庫行くなら、ついでに空の弾薬箱何個か持ってきて! 回収した銃から弾抜くから!」

 

 シロコの端的な指示一つで、子供達は一斉に動き始めた。

 初等部の中でも高学年の者が低学年の者に一人一人適した役割を与え、それぞれが分担して行動を起こしていく。

 横合いから口を挟む必要もない、各々が自分の出来ることを把握している動きだ。

 つい先ほどまで好き勝手にその場で騒ぐだけだった子供達は、あっという間に周囲へと散っていった。

 

「……いつ見ても理不尽だわ」

 

 ゲッソリと疲れ果てたように、セリカはため息を吐いた。

 

「私の言うことは全然聞かないのに、何でシロコ先輩にはあんなに従順なのよ」

「ん。セリカはちょっと優しすぎる。あの子達は修羅の国からやって来たケダモノの群れ。優しさではなく強さに従う」

「修羅って……ケダモノって……」

 

 セリカはシロコの表現にドン引きしていた。

 しかし、その言葉が事実以外の何物でもないことを彼女は理解していない。

 アビドス初等部の子供達は、全員がブラックマーケットで運営されている孤児院の出身だった。

 入学する予定だった学園が財政難などで閉校し、幼い身で世間に放り出され、もしもアビドスが受け入れなければ彼女達は学籍のない社会のはみ出し者として生きていくことになっていただろう。

 ともすれば絶望的な未来しか待っていないシビアな環境で育った彼女達を支配するルールは酷くシンプルだ。

 

 ――自分よりも強い者に従う。

 

 弱肉強食の理の下で幼少期を生き抜いてきた子供達は、だからこそ逞しく、また同時に無償で与えられる優しさというものを必要としなかった。

 その価値観を完全に共有出来るシロコの言葉を受け入れ、従うのも当たり前のことだった。

 シロコは年長者として、またそれ以上に獣の群れの頂点に立つボスとして、その実力と貫録を子供達から認められているのだ。

 その点で、セリカとは絶望的なまでに相性が悪い。

 どんなにキツイ言い方をしようとも、セリカの根底にあるのは幼い後輩達に対する愛と優しさである。

 セリカが子供達を口うるさく叱ることはあっても、実力行使に出ることは絶対にない。

 高等部としては一番後輩の立場なだけに、更にその下にいる初等部の後輩達が本当は可愛くて仕方がないのだ。

 先輩として、この世のあらゆる危険や残酷さから守らねばならないという使命感すら抱いている。

 そして悲しいことに、その甘さ故に子供達からは舐められているのだった。

 シロコはその辺りの認識のすれ違いを、セリカに何度も伝えようとした。

 いや、実際に言った。

 

『ん。セリカ、奴らは人間ではなく獣。躾のされていない猿の群れを相手にすると思って接した方がいい』

 

 それが少しばかり誇張の強い、過激な表現であったことは認めざるを得ないだろう。

 しかし、間違いなく真実の一端であることをシロコは確信していた。

 

『なんてこと言うのよ、シロコ先輩! あの子達はまだ幼いだけなの! 私達が先輩として、これから守って導いてあげなくちゃいけないのよ!』

 

 セリカの慈愛に満ち溢れた反論を、シロコは黙って受け入れた。

 報われぬ献身に、密かに涙する情がシロコにも存在した。

 以来、シロコはセリカの指導方針に口を出すことはなくなった。

 セリカの献身が報われることを祈って、見守り続けることにしたのである。

 いずれ、あの子達が成長すればセリカの想いにも気づくだろう。

 多分。

 知らんけど。

 

「でも、実際にさっきの戦闘ではよくやってくれた。こういう時はまず褒めてあげるべき。いきなり叱ったら、あの子達も拗ねて意固地になるだけ」

「うっ……でも、あんな危ない真似して……」

 

 シロコの指摘に一理あると思ったのか、セリカの反論が尻すぼみになる。

 

「確かに危ないですけど、あの子達も私達と一緒に戦いたかったんですよ~。もうっ、可愛い後輩達ですよね☆」

「あのドローン、スクラップ置き場から拾ってきて修理したのはあの子達なんです。きっと、こういう時の為に準備していたんですよ」

 

 セリカが落ち着いた様子を見て、ノノミとアヤネが苦笑しながら話に加わった。

 

「ん。ドローンに乗って敵の頭上から爆撃するというのは、いい考えだと思う。制空権を支配出来るのはかなりのアドバンテージ。一考に値する戦術」

「でも、色々と問題も多いですよ。私やシロコ先輩の使っているドローンと違って、武装がないから自衛も出来ませんし、何より体重の軽い小さい子しか乗れません」

「今回はシロコ先輩が注意を引いたから撃ち落とされなかったけど、手口がバレたら真っ先に狙われるでしょ。二度目はやらせられないわ」

「元がスクラップ品ですから、ドローン自体の耐久性も低いでしょうしねぇ。さすがにそこはセリカちゃんに同意します」

「大丈夫、あの子達は恐れを知らぬ狼の群れ。一部が囮になっても群れで獲物を狩る」

「本当に恐れを知らないから困るのよ! あの子達がこの前の戦闘で何したか、シロコ先輩は忘れたの!? 自前で手に入れた中古の拳銃片手に突撃しようとしたのよ!」

「あれは別に勝てると思ってやった無謀な突撃じゃない。自分達が囮になることを自覚してやっていた。見事な群狼戦術(ウルフパック)だった」

「もっとダメでしょ!? あの子達を囮にするくらいなら、私が一人で突撃するわよ!」

「セリカちゃん、本当にあの子達が大切なんですね……」

「その優しさが当人達にイマイチ伝わっていないことが悲しいですね~」

 

 ノノミの言葉に対して、アヤネは困ったように笑うしかなかった。

 セリカほどではないが、アヤネの方も初等部の生徒達からは軽く見られていた。

 これは年功序列の意識も関係している。

 学年こそ高校一年生ではあるが、セリカとアヤネは今年入学した新入生だ。

 それに対して、初等部の子供達はシロコやノノミと同じ時期に入学している。

 彼女達の視点から見れば、二人はアビドスに後からやって来た実績のない新参者の扱いだった。

 セリカと違い、アヤネはそういった子供達からの認識を自覚していた。

 その自覚の差が、子供達の間でアヤネの扱いをセリカより上に持っていっているのだから皮肉なものである。

 

「――ところで、話は変わりますが先ほどの戦闘で発覚した問題についてです」

 

 四人で会話を交わしながらもタブレットを操作し続けていたアヤネが、表情を引き締めた。

 その様子の変化に、深刻な話が持ち出されるのだと察した他の三人が口を閉ざす。

 

「皆も薄々察していると思いますが……武器弾薬の備蓄が底を尽き始めました」

「……ん。そうだと思った」

「前々から、そんな感じはしてたもんねぇ」

「あと、どのくらい余裕はありますか?」

 

 ノノミの質問に、アヤネは素早く予測計算を終えた。

 

「補給無しで今回と同じような規模の戦闘を行った場合、次はもうまともに戦えませんね」

「今回と同じ規模かぁ……そんな戦闘、もう一回やること自体御免なんだけど」

「今回は相手も大分奮発してましたね~。かなりの損害を与えたと思うんですけど、次の襲撃までの猶予が大きくなったりとかは……」

「多分、ない。毎回徹底的に叩きのめしてるのに、次の襲撃ではむしろ戦力が増してる。それの繰り返し」

「シロコ先輩の言う通りだと思います。人的被害は相手も無視できないでしょうが、装備は間違いなく一新されているでしょう」

「やっぱり、裏に何か大きな後ろ盾がいるのよね。ホシノ先輩が調べてくれてるらしいけど、このままじゃキリがないわ」

 

 セリカが全員の心を代弁するように、大きなため息を吐いた。

 敵がこちらを物資的にも精神的にも消耗させて、持久戦による勝利を狙っているのは間違いなかった。

 ヘルメット団が何処からともなく豊富な武器と弾薬を持ち出すのに対して、アビドス側の物資は減る一方だ。

 定期的に繰り返される戦闘では毎回完全勝利を収めてはいるが、戦略的な観点からすれば自分達は徐々に追い詰められ、敗北へと近づいている。

 しかし、全てが敵の思惑通りに進んでいるわけではないとシロコは感じていた。

 少なくとも、自分達を精神的に消耗させようという目論見は全く成功していないのだから。

 

「愚痴ってもしょうがないか。とにかく、物資の補給が急務ってことね?」

「はい。ですから、また近い内にブラックマーケットへ買い出しに行きましょう」

 

 アヤネの提案に対して、セリカは顔を顰めた。

 悪名高き無法地帯は、一般的な生徒ならば近づくことのない場所である。

 しかし、初等部の子供達繋がりで、アビドスはブラックマーケットに幾つかのコネがあるのだった。

 

「……私、あの店苦手なのよね」

「でも、セリカちゃんはガンショップの店主さんと結構仲いいよね?」

「あの店主さんはいいのよ、意外と常識的な人だし。問題は他の店よ。声デカイし、無茶苦茶口悪いし……買い出しには初等部の子も何人か連れてくんでしょ?」

「あの子達からすれば古巣だからね。きっと、孤児院の人達と会いたがると思うから」

「だから困るのよ。教育に悪いわ」

「セリカママの悩みは尽きませんね~」

 

 アビドスは現在、苦しい状況にある。

 昔から続く借金の返済や、街の大半を飲み込んだ砂漠、ある時から突然始まった敵の襲撃――問題は山積みだ。

 しかし、アビドスは決して孤立無援ではなかった。

 自分達の奮闘を見てくれている人がいる。

 それを応援してくれている人がいる。

 そして、自分達の進めた歩みを引き継いでくれる後輩達がいるのだ。

 それだけで、心は決して挫けない。

 

「早く学校への輸送ルートも開通して欲しいわね。市街地が優先なのは分かるけどさ」

「でも、昔に比べれば街のインフラは大分復旧してきてますよ。住人も増えてますし、アビドスの復興は順調ですね~」

「ノノミ先輩の頃は、今よりもずっと苦労されてたんですよね?」

「私の頃なんてまだまだマシですよ~、ホシノ先輩が一年生の頃は復興の目途どころか周囲から関心さえ向けられてなかったらしいですからね」

「それを考えると、私達の悩みなんてまだ贅沢なものなのかもね」

「より良い環境を求めるのは、何も間違ったことではないですよ。私達が苦労したからといって、後輩のセリカちゃん達にも同じ苦労を経験して欲しいなんて思わないですからね~」

「そうですね。初等部の子達が私達と同じ学年になる頃には、今よりももっと快適な学校生活を送れるようにしてあげたいですね」

「当たり前よ! 借金なんて私達の代で全部返して、あの子達に余計な苦労なんて背負わせないわ! あの子達の後に続く、新入生の子達にもね!」

「おお~、セリカちゃんは先輩としての使命に燃えてますね~」

「モチベーションが高いのはいいんですけど、それが空回ることも多いんですよね。セリカちゃんってば」

 

 険しいことは、これからもまだまだ沢山あるだろう。

 このアビドスは――この世界は、およそ楽園ではない。

 シロコはそれを十分承知していたが、しかし、少なくとも、ここには確かに――。

 

 未来があった。

 輝かしい未来へと繋がる道が幾つも存在していた。

 その道を好きに歩いていい、と。

 何処へ行ってもいいのだ、と。

 この手の中に、白紙の切符を握らせてくれた人がいた。

 

「さて……それじゃあ話し合いはこれくらいにして、私達も働きますか」

「私は、今回消耗した物資について、改めて計算してきますね。買い出しは明日にでも行きたいですから」

「私とセリカちゃんは、あの子達のお手伝いに行きましょうか~。シロコちゃんはどうします?」

「ん。ドローンのメンテナンスを手伝ってくる」

「……って、コラ! アンタ達、そんな重い物を無理して持とうとするんじゃないわよ! 私に貸しなさい!」

 

 車載されていた機関銃を危うい手つきで持ち出そうとする子供達を見ていられず、セリカが駆け出す。

 それを苦笑しながらアヤネが見送り、ノノミが楽し気に追いかけていった。

 シロコは、その光景を見ていた。

 子供達が笑っている。

 友達が笑っている。

 それを見守るように、大きな木が佇んでいる。

 自分の望むものが全て目の前にある。

 あんな光景が、これからも続けばいい。

 このアビドスで、一年後も、二年後も。

 困難で、ままならなくて、だけど決して挫けない――このタフで優しい日々を続けていこう。

 

「――ん。いい景色」

 

 透き通るような青空の下で紡ぐ青春の物語を、シロコは微笑みながら見つめていた。

 

 

 

◆ 

 

 

 

 ――次の日の朝、シロコは登校途中の道で奇妙なモノを見つけた。

 

「あの……」

 

 乗っていた自転車を止めて、シロコはその物体に話しかけた。

 いつも通りの朝。

 いつも通りの起床。

 いつも通りの通学路。

 毎朝の習慣通りに、途中のコンビニで今日の昼食と数個のお菓子袋を買った。

 お菓子は初等部の子供達に与えてやる為だ。

 シロコにとって初等部の子供達との関係は、獣の群れがそうであるようなシビアな上下関係に近いものだったが、同時に群れのボスとして彼女達を養っていかなければならないという使命感も抱いていた。

 初等部の子供達に対する庇護欲は、根幹となる感情の種類や大きさに違いはあれどアビドス高等部の者ならば誰もが抱いている。

 今日も可愛い子分達の食い扶持を稼ぐ為に、一日頑張ろう。

 そんな想いをモチベーションにして普段通りの通学路を進んでいた時――普段とは違う出来事が転がっていた。

 

「……大丈夫?」

 

 道端に人が倒れていた。

 しかも、大人の女性だった。

 どう見ても行き倒れである。

 本日も空は快晴。朝から日差しは強く、湿度は低い。

 暑さに耐えられず脱ぎ捨てたのだろうスーツの上着が傍に転がり、本人は尻を天に突き出した無様な恰好で倒れ伏している。

 シロコの言葉に反応したのか、その尻が小さく揺れた。

 

「み、水……」

「あ、生きてた」

 

 シロコはひとまず安堵し、自転車のボトルホルダーに備え付けてあったミネラルウォーターのペットボトルを手にした。

 

「あ、あと、お腹も空いて……」

 

 やけに注文の多い行き倒れだな、と思いながらバッグから昼食にするつもりだったサンドイッチを取り出す。

 近くまで歩み寄ってしゃがみ込むと、その人物は弱弱しくも顔を上げた。

 スーツの似合わない童顔で、ヘイローがない(・・・・・・・)ことから大人の女性だと判断したが、学生でも通用しそうな容姿だった。

 緑がかった薄い水色の髪をショートカットにしている。

 あと、おっぱいがデカかった。

 ノノミと互角……いや、上か? 何者だ?

 シロコは密かに戦慄しながら、目の前の大人に訊ねた。

 

「……ホームレス?」

「ち、違うよー。わたしは『先生』だよぉ……ひぃん」

 

 自称『先生』は情けなく鳴いた。

 




【現在のアビドス所属の生徒達】

小鳥遊ホシノ
・ウヘウヘツヨツヨで愛というカゲロウを追い続ける平和の狩人おじさん。

砂狼シロコ
・好きな物:アビドスの木。その木に成るリンゴ。木の上で昼寝すること。銀行強盗。

十六夜ノノミ
・原作とキャラや背景はほとんど変わっていない。アビドスの復興が順調なのでホシノへの負い目が少なく、ユメとヴァッシュについてある程度話を聞いている唯一の人物。

黒見セリカ
・守るべき後輩とその未来がある為原作よりも士気旺盛。先輩としての使命感に漲っている。

奥空アヤネ
・実は意外と初等部の子供達から尊敬されている。技術や交渉担当なので、文字通り別格扱い。

初等部の子供達
・四話の体験入学でアビドスに興味を持ち、その後アビドスの復興が進んで財政が回復してきたので正式に入学することが出来た子供達。
アビドス内でのヒエラルキーは以下の認識
ホシノ>(越えられない壁)>シロコ>>>ノノミ>自分達>>>アヤネ>セリカ>>>ヴァッシュとユメ
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