トライガン・アーカイブ   作:パイマン

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今回登場する陸八魔アルと伊草ハルカの過去について、原作にはない捏造がありますのでファンの方はご注意ください。
あと、申し訳ないんですが、この二人に関しては今回限りのゲスト出演の予定です。
あくまで話のメインキャラはユメ先輩とホシノなんで。
っていうか、アルちゃんが強すぎてトライガンにアンパンマンが出るみたいになっちゃうからダメ! 〇刑!


#3.GUNMAN THE OUTLAW

 ゲヘナ学園所属の伊草ハルカ――三十分以上の時間を掛けて、その少女について分かったことはそれだけだった。

 全ての事情を自分の中に抱え込み、何も話そうとしない。ただ謝り続けるだけだ。

 ずっと何かに怯えていて、臆病な性格であることは分かる。

 また悲しいほどに自己肯定感の低い娘だった。

 名前以外にヴァッシュとアルに伝えることが出来たのは、ただひたすら『自分なんかの為に何かをしてもらって申し訳ない』という気持ちだけである。

 

「別に、私達が勝手にやったことなんだから気にしなくていいわよ」

「だけど、困ったなぁ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

 万引きの騒動を何とか治めた三人は、落ち着いて話せる場所へと移動していた。

 公園と呼ぶにはいささか飾り気のない広場である。

 申し訳程度の噴水があり、周囲に配置されたベンチの一つにハルカを座らせて、ヴァッシュとアルは顔を見合わせた。

 お互いに名前を交わした程度の初対面同士。

 体格や年齢にも差がある大人と少女である。

 しかし、妙に気を許せる信頼感がお互いにあった。

 何の得にもならない騒動に首を突っ込んで、付き合い続ける義務もないのに真剣に頭を悩ませている。

 変な人だなぁ、と。二人は相手のことをそう思っていた。

 

「えぇと、それで……ヴァッシュさん?」

「……えっ、さん付け?」

「な、何かおかしかったかしら? 一応、目上の方だからさん付けで呼んだ方がいいと思ったのだけど」

「いやぁ、僕のことは普通に呼び捨てでいいよ。気を使ってくれてありがとう」

 

 ヴァッシュはちょっとした感動と驚きを感じていた。

 つい先ほど、店の少女二人からえげつない罵倒を喰らった経験が、受ける扱いのギャップを大きくしている。

 キヴォトスの少女達は基本的に自分達が強者である自覚があるのか、大人に対して遠慮や配慮があまりない。

 社会的地位のある大人に対しても、敬語を使ったり敬意を払っている姿をほとんど見たことがなかった。

 だが、同時に納得もあった。

 少なくともヴァッシュが知る限り、敬意を払えるほど常識的な大人もほとんど見たことがなかったからだ。

 もちろん、主に出歩いているのが無法地帯であるブラックマーケットという場所だからこその遭遇率なのだろうが、それにしても悪人ばかりだった。

 そんな中で暮らしている少女達が大人に不信感を抱き、口が悪くなるのも仕方のないことなのだろう。

 だからこそ、このアルという少女の礼儀正しさは新鮮に映った。

 見た目も身だしなみをしっかり整えていて眼鏡を掛けており、実に真面目そうな優等生の印象だ。

 それ故に、ブラックマーケットに赴いてトラブルへ自ら関わろうとする破天荒な言動にギャップがあった。

 

「思ったよりも根の深い問題みたいだけど、アルの方の都合はいいの?」

「私のことは気にしなくていいわ。一度首を突っ込んだ問題、中途半端で投げ出すなんてカッコ悪いことするつもりはないもの」

「でも、わざわざブラックマーケットまで来てたんだから何か用事があったんじゃない?」

「特に用事があったわけじゃなくて、その……自分探しに来てたというか……」

「そういう曖昧な理由で気軽に来ていい場所じゃないと思うんだけどなぁ」

「とにかく! 私のことは気にしなくていいのよ!」

 

 返答を濁しているのか、それとも本当に言ったままの理由なのか、どちらもあり得そうだった。

 独自の行動原理を持つ少女である。

 

「そ、それよりヴァッシュの方はどうなのかしら?」

「僕? 僕の方も都合は気にしなくていいよ。君と同じで彼女を放っておけないし」

 

 それに、この伊草ハルカという少女が妙に気に掛かる。

 少し、誰かに似ているような気がした。

 何処かで見たことがあるような、知っているような――奇妙な既視感を感じるのだ。

 

「そう……だったら、この問題が解決するまでとことん付き合ってもらうわね!」

「ああ、頼りにしてるよ」

 

 実際に、アルの協力は頼もしかった。

 ハルカと自分では、年齢も立場も違いすぎる。

 同じ学生同士というだけでも察せる事柄や共感が多いはずだ。

 

「確か、その校章はゲヘナ学園って奴の物だよね」

 

 アルとハルカの制服に共通して刺繍されているシンボルを指して訊ねた。

 キヴォトスを代表する二大学園の一つであることくらいは、ユメ達から教わっている。

 

「ええ、あの子と私は所属する学園が同じみたいね」

「その言い分からすると、顔見知りではないわけだ」

「学年が違うからね。でも、あの子が抱えている問題が少し分かってきたわ」

 

 ハルカの耳に入らないよう、殊更声を潜めてアルが呟いた。

 

「――あの子、多分いじめを受けてるわね」

 

 その言葉の深刻さを、ヴァッシュは一瞬理解出来なかった。

 

「いじめられてるっていうのは……仲間外れとかそんな感じ?」

「随分とぬるい発想をするのね。アナタ、ゲヘナの気風を知らないの?」

「いやぁ、乱暴者が多いとは聞いてるけど。ひょっとして、もっと直接的な暴力に晒されてるとかかな?」

「それもあると思うわ。今回の万引きも、多分いじめてる奴らに強要されたんでしょうね」

「命令した奴は、そんなにあのぬいぐるみが欲しかったの? やっぱりアレって結構人気?」

「こ、個人の趣味はどうか知らないけど……でも、多分理由なんてないわ。いじめること自体が目的なのよ」

 

 吐き捨てるように呟くアルの顔には、明確に嫌悪感が滲んでいる。

 しかし、その言いよう自体には『いじめとはそういうものだ』という納得があった。

 

「……分からないな。欲しくもない物を他人に盗ませるなんて」

 

 人間の持つ様々な種類の悪意を見てきた。

 子供が集団になればいじめられる子が出る理屈は理解できるし、大人同士でも『自分とは違う』という理由だけで他人を排斥したりする。

 しかし、それは生活する環境も影響していた。

 生きるだけでも精一杯だったあの惑星で、余裕を失った人の心が荒み、捌け口を求めた結果だ。

 学校という特殊な生活空間で生まれる『いじめ』という悪意は、ヴァッシュにとって全く馴染みのないものだった。

 

「皆平等にご飯が食べれて勉強まで教えてもらえる場所なのに、そんなことをしたくなるなんて……」

「ゲヘナに限った話じゃないけどね。トリニティではもっと多くて陰湿って話よ」

「そこって裕福なエリートが多い学園でしょ? 豊かになるほど増える問題なのか。学校って難しい場所なんだなぁ」

「……その言い方、何だか学校に通ったことがないみたいね」

「そうだね。考えてみれば、僕は学校に通った経験がない」

 

 自分の子供の頃を思い出して、ヴァッシュは困ったように笑った。

 学校という概念は知っているし、実際にあの砂漠の惑星にも子供を教育する為の機関が大きな街にはあった。

 孤児院でも、将来の為に子供には最低限の学を与えていることが多い。

 しかし、ヴァッシュ自身はその特殊な生い立ち故に、学校に通った経験はなかった。

 宇宙を渡る移民船の中で、コンピューターから一般的な知識を学び、人生に必要な道徳などはレムという個人から教わった。

 クラスメイトや学友といった存在には全く縁がない。

 あるとすれば、ただ一人――。

 

「そう。キヴォトスでは珍しいわね……」

 

 思わず過去の回想に耽りそうになったヴァッシュは、アルの神妙な反応で我に返った。

 キヴォトスにおいて学籍や学歴といったものは非常に重要視される。

 このブラックマーケットの住人も、大半が休学や退学の処分を受けて学校に通っていない者達である。

 学校に通っていない人間は、必然的に『はみ出し者』や『社会不適合者』となる。

 それがキヴォトスの常識であった。

 ひょっとして失望されちゃったかな、と。

 恐る恐るアルの方を見てみれば、

 

「カッコいいじゃない!」

 

 何故か目をキラキラさせて、尊敬の念をヴァッシュに送っていた。

 

「学校が定めた道は歩かない、自分で選んだ道を行くって奴ね! 憧れるわ!」

「そ、そう?」

「ええ! どうやら、アナタは尊敬に値する大人のようね!」

「そうでもないような気がするけど……」

 

 どうやら、一般の学生とは違う独自の美学や感性を持っているらしい。

 最初に言っていた『自分探しの為にブラックマーケットに来た』という言葉が、妙に真実味を帯びてきた。

 アルの持つ強烈な個性に圧倒されそうになりながら、何とか話を最初に戻そうとする。

 

「と、とにかく! まずは彼女に盗みを強要した犯人を捜す必要があるわけだけど……まあ、話してくれるわけないよね」

「同級生でしょうから学年は絞れるけど、ゲヘナ学園の生徒数はそれでも膨大ね。特定するのは難しいわ」

「それなんだけどさ、多分犯人は近くにいるんじゃないかと思う」

「どうしてそう思うの?」

「いじめてる奴っていうのは、要するにハルカが傷ついたり追い詰められるところを笑いものにしたいんだろ? そういう奴は、大抵一緒に騒げる仲間を連れて近くで見てるよ。もしくは――」

 

「あれ~、ハルカじゃ~ん!」

「こんな所で何サボってんの~? ちゃんと言われた物盗ってきたぁ?」

 

 無邪気な残酷さを秘めた声が、横合いから割り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「待ち合わせ場所に全然来ないからさぁ、わざわざ探しに来てあげたよ」

「アンタが身包み剝がされて裸でやって来るんじゃないかって楽しみに待ってたのに、無視するなんてヒドいじゃん」

 

 嘲笑を浮かべながら現れたのは、五人のゲヘナ生徒だった。

 その五人の顔を見た途端、ハルカの顔が青褪め、引き攣った喉が過呼吸を起こし始める。

 当人達に確認するまでもない。

 ハルカに盗みを強要した、いじめのグループで間違いなかった。

 

「それで、アタシが頼んだ物はちゃんと手に入れてくれた?」

 

 五人のゲヘナ生達はヴァッシュとアルの存在に気付いていたが、一瞬視線を向けただけだった。

 ぬいぐるみを抱えて、ハルカが震える足で立ち上がる。

 

「は、はい……ここに、あります……」

「よこしなよ」

 

 ヴァッシュとアルは、そのやり取りを睨むように見守っていた。

 あのぬいぐるみが欲しくて、ハルカに命令したワケではないのだ。

 彼女をいたぶり、尊厳を踏みにじって笑いものにすることが目的なのだから、素直に物を受け取って話が終わるはずがないとは分かっている。

 しかし、そのことを咎めようにもハルカ自身が横やりを望まない可能性もあった。

 これまで自分をいじめ続けた相手に対して、もはや完全に屈服してしまっているように見える。

 これから目の前で起こるやり取りを黙って見過ごすつもりはない。

 ただ、口を挟むタイミングが酷く難しかった。

 

「……あ、あのっ」

 

 しかし、ヴァッシュ達にとっても相手のゲヘナ生達にとっても予想外のことが起こった。

 

「そ、その前に……私の、財布を……か、か、返して……ください……!」

「……は?」

 

 その場の全員が、耳を疑った。

 ただ従順に命令に従い、言われるままぬいぐるみを渡すかと思われたハルカが抵抗したのだ。

 

「お、おね、お願い……します! お金を、返さなきゃ……いけないんです……。わ、私なんかの為に、か……代わりにお金を払ってくれて……。だ、だから……お礼も、まだ言えてなくて……っ!」

 

 恐怖に涙を浮かべ、声はかすれている。

 身体の震えは更に酷くなり、不自然な呼吸のせいで言葉も途切れ途切れだ。

 しかし、それはハルカが初めて見せた自分の意思だった。

 やりたくもない万引きを強要されても助けは呼ばず、そのことで捕まっても釈明はしなかった。

 出来なかった。

 ただ成すがままに状況に流され、自分の内に抱え込んで蹲るだけだった。

 もはや、そうすることしか出来ないほど彼女の心は傷付き、弱っていたからだ。

 自分の意思を失っていた。

 しかし、ただ一つだけ。

 彼女は抗った。

 わずかな意思が残っていた。

 受けた恩を返さなければいけない、と。

 理不尽な日々に打ちのめされた心と身体で尚、弱弱しくも抗ったのだ。

 ヴァッシュとアルは、ハルカの閉ざした心の中にある本当の彼女の姿を見たような気がした。

 

「……ハルカさぁ、白けるからやめてくんない?」

 

 感動すら抱く二人とは反対に、反論されたゲヘナ生達の顔は不機嫌に歪んでいた。

 

「折角アタシらがアンタに万引きのスリルを味わって欲しくて『預かって』あげてたのに、他人に金出させてズルした上に財布返せとかマジ萎えるわ」

「そうやって裏切られるとさ、さすがのアタシ達でも悲しくなるんだけどぉ?」

「アタシら、トモダチでしょ? それなのに、そっちの赤の他人を優先するのってどうかと思うんだよねぇ~」

 

 あからさまに言葉だけを飾り立て、実際はなじるような口調で五人が口々にハルカを責め立てた。

 この後自分が何をされるのか、痛いほど知っている。

 恐怖に足は震え、もはや立ってもいられない。

 しかし、それでも――。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! で、でも、お願いします……お金だけ、払わせてください……!」

 

 地面に頭を擦り付けながら、ハルカは懇願した。

 

「――ッ、アンタさぁ! ウザいからやめろよ!」

「よせっ!」

 

 苛立ちに顔を歪めた五人が一斉に銃に手を掛けた瞬間、ヴァッシュは割り込んだ。

 もはや行動に迷いはない。

 その顔には怒りと決意が満ちている。

 ハルカを蝕む因縁を、ここで断ち切るつもりだった。

 

「もう答えは出た。ハルカに関わるのはこれっきりにしてくれ」

「アンタらさぁ、さっきから視界にチラチラと何なの? ハルカの知り合い? 家族?」

「違う」

「何考えて関わってんのか知らないけどさ、余計なことすんじゃねーよ!」

「そいつはアタシらのオモチャなんだよ! アタシらに遊ばれてりゃいいんだ!」

 

 若さゆえの考えなしとはいえ、これまでのハルカへの仕打ちや、開き直った自分勝手な言い分にさすがのヴァッシュも青筋を浮かべた。

 自然と口調も荒くなる。

 

「……ハタくぜ、お嬢さん方。そんな事勝手に決めつけてるんじゃねぇよ」

「アハハハ! アタシらが決めたんじゃないよ! ハルカが望んでるんだ!」

「そうだよねぇ、ハルカ!?」

「おい、いい加減にしねぇと――!」

 

 怒鳴りつけようとするヴァッシュの服を、ハルカがそっと摘まんだ。

 

「あ、あの……私なんかの為に、怒らないで……ください」

「何を言ってるんだ!? あいつらは君を弄んでるんだぞ!」

「い、いいんです……言われた通り、私が……望んでることですから……」

 

 ヴァッシュの見開いた眼と、ハルカの虚ろな瞳が交わった。

 

「こ、こんな私でも……お役に立つなら……え、えへへ……」

 

 涙でグチャグチャになった顔に浮かぶ、卑屈で媚びるような笑み。

 その歪な表情を見た瞬間、ヴァッシュは理解した。

 何故、彼女が誰かに似ていると思ったのか。

 抱いていた奇妙な既視感は何なのか。

 今、分かった。

 ハルカが似ているのは、自分だ。

 先ほど彼女が初めて抵抗した理由は、自分に与えられた恩に報いたいという一念のみだった。

 それは間違いなくハルカ自身が持つ善性だったのだろう。

 しかし、その根幹にあるはずの『自分の価値』が彼女からは完全に失われている。

 自分自身が報われることには、何の意味も見出していない。

 彼女はただ単に『意味のない自分なんかに与えられてしまった恩を意味のあるものへ戻さなければならない』と思い込んでいただけだった。

 それを理解し、絶望した。

 この娘は。

 いや、この娘『も』

 

 ――自分がこの世に居ることに価値を見ていないのだ。

 

 ヴァッシュの顔が、無惨なまでに歪んだ。

 今にも泣き出しそうなその顔を、ハルカが不思議そうに見上げていた。

 何かを言わなければならない。

 伝えることを諦めてはいけない。

 彼女に必要なのは言葉だ。

 自分の価値を思い出させる為に寄り添い続ける想いだ。

 しかし、ハルカの心を削り続けてきた時間はあまりに長く、それを補うにはあまりに時間が足りず。

 何より、自分などでは――。

 

「――気に入らないわね」

 

 それまで黙って状況を見守っていたアルが口を開いた。

 呟くような声にも関わらず、妙に場に響く言葉だった。

 

「さっきから黙って聞いていれば、その子の行動をアナタ達が勝手に決めるんじゃないわよ」

「はあ、今度はそっちが口出すわけ? いい加減、関係ない奴は消えてくんないかなぁ!」

「私は私のやりたいことをやるだけよ!」

 

 自信に満ちた笑みを浮かべて、アルは断言した。

 その力強い態度に、周囲は圧倒される。

 彼女の迷いのない言動が、場の空気を支配しつつあった。

 

「ハルカが何をしようと、何処へ行こうと彼女の自由よ。他人が勝手に誰かの道を決めるなんて、我慢ならないわ!」

 

 それが彼女の信念。

 人を惹きつける、陸八魔アルが持つ天性のカリスマだった。

 

「これからはハルカ自身が行く道を決めるわ。消えるのはアナタ達の方よ!」

 

 アルは啖呵を切りながら、ヴァッシュを押しのけて前に歩み出た。

 殺気立つ五人を相手に、たった一人で立ち向かおうとする。

 

「これ以上は話し合いじゃ済まないわね。ヴァッシュは下がってなさい」

「えっ!? いや、でも相手は五人もいるし、銃も持ってるよ。君一人じゃ危ないぜ」

「何言ってるの、危ないのはアナタの方よ! だって、アナタ生身じゃない!」

 

 ヴァッシュを背に庇いながら、アルは肩越しに軽く睨みつけた。

 

「銃で撃たれたら、死んじゃうわよ!」

 

 そんな当たり前のことも分からないのか、と。

 アルは怒ったように告げた。

 ヴァッシュは一瞬呆けたような表情を浮かべ、

 

「……ははっ、確かに。銃で撃たれたら、人は死んじゃうね」

「ちょっと、何笑ってるの!? ヴァッシュはもっと下がって、怪我するかもしれないんだから! 自分の身体を大切にしなさい! っていうか、アナタ達ももうちょっと銃を向ける相手を選びなさいよ! 人殺しになりたいの!?」

「えっ……いや、人殺しはさすがにヤバいんじゃない? ど、どうする?」

「はあ!? 日和ってんじゃないわよ! 足でも手でも撃ってビビらせりゃいいのよ!」

「このままさぁ、黙って引き下がれるわけないじゃん!」

「ハルカ! アンタ、これが終わったら覚えてなよ!?」

「フッ、覚えておく必要はないわね。アナタ達はこれから、この私に叩きのめされるんだから!」

 

 場の空気は加熱していく。

 お互いに銃を構え、敵意と共に言葉を交える様は戦闘が始まる前兆だ。

 どうすればいいのか分からず怯えるハルカを背に庇ったまま、ヴァッシュは静かに胸のポケットへ手を差し入れた。

 絶望に歪んだ表情は、もはや消えていた。

 代わりに、一つの決意を固めていた。

 ポケットから取り出したのはサングラスだった。

 かつて砂漠の星で愛用していた物だ。

 強い日差しから眼を守る為だけではなく、ある種の『スイッチ』として使っていた。

 それを掛ける。

 意識が切り替わる。

 迷いや躊躇いが消え、一つの決断が下された。

 

 ――銃で撃てば、人は死ぬ。

 

 その当たり前の事実から、ずっと自分だけを例外として外してきた。

 銃を取って、人を殺さない。

 その為には何でもしようと思った。

 そして、何でもした。

 自分が血を流すことで物事が治まるのなら、それでいいと思った。

 ずっとそうしてきた。

 そうやって、生きてきた。

 だけど、気付かされた。

 思い出した。

 自分がここで撃たれたら、きっとユメがまた泣くだろう。

 ホシノは凄く怒るだろう。

 この世界で自分が銃を手に取る理由は、それで十分だ。

 

「――レディースアンドレディース! シャーラッププリーズッ!」

 

 ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、再び銃を握る覚悟を決めた。

 

「俺の名はァ、ヴァッシュ・ザ・スタンピィィィードォ! 突然だが堪忍袋の緒が切れたので、俺的お仕置きタイムに入ろうと思うッ!!」

 

 殊更凄んだ表情と声を張り上げて、五人の注意を惹きつける。

 これ見よがしに腰の銃へ手を添えれば、それを挑発と受け取ったゲヘナの少女達は揃ってヴァッシュを睨みつけた。

 

「……何それ? いきなり頭イカれてんの!?」

「そんな小さな拳銃一丁で、何かやれると思ってんのかよ!」

 

 実際に、火力や手数の全てで絶望的な差があった。

 相手は五人である。

 銃口も五つ。

 拳銃よりも火力の高いライフルもあれば、連射性に優れたマシンガンもある。

 真正面から撃ち合えば、少女達が持つ銃への耐久性を無視しても一方的にヴァッシュがハチの巣になって終わるだろう。

 傍らのアルも慌てて止めようとするが、それをヴァッシュは一瞥で黙らせた。

 銃を扱う者として積み上げた経験と自信――その格の違いが、鋭い視線と不敵な笑みに宿っていた。

 

「自分が撃たれないって思って、舐めてんじゃないの!?」

 

 一人が怒りに任せて銃口を向けた。

 しかし、他の四人はまだ生身の人間を撃つことを躊躇っている。

 まだ、足りない。

 

「安心しなよ、君達の弾は僕には当たらない」

 

 左手の人差し指で手招きをしながら、小馬鹿にしたかのように鼻で笑う。

 

「なんせ、一発も撃てずに終わるからね。ノロマなお嬢さん方」

 

 その挑発が最後の一押しだった。

 ここに至るまで自分の思い通りにいかない苛立ちも募り、激情に任せて残りの四人も一斉に銃身を持ち上げる。

 ヴァッシュに同時に向けられる銃口。

 五つ。

 揃った。

 

「舐めるんじゃないわよ! こっちは五人いるんだから――!」

 

 その瞬間、勝負は決した。

 銃声が鳴り響く。

 ゲヘナの少女達が構えた銃が一斉に爆発し、銃身が吹き飛んでいた。

 

「……は? え?」

 

 一瞬の出来事に、当人達は状況を全く理解出来なかった。

 自分の手の中でスクラップになった愛銃と、いつの間に抜いたのか硝煙を上げる拳銃を構えたヴァッシュを何度も見比べる。

 

「残念。こっちは君らの五倍速く撃てるんだ」

 

 JACK POT!――と。不敵に笑うヴァッシュの言葉に、周囲はようやく何が起ったのかを理解した。

 あの一瞬で銃を抜き放ったヴァッシュが、自分に向けられた五つの銃口の中へ弾丸を撃ち込んだのだ。

 銃身内部に滑り込んだ銃弾は、装填されていた弾薬とぶつかって暴発を起こし、銃本体を吹き飛ばした。

 理解して尚、誰も現実を受け止めきれない。

 銃を抜いたことに気付かないほどの早撃ち。

 銃声が一発に聞こえるような速射。

 そして、針の穴を通すに等しい精密射撃。

 これら三つの動作を一瞬で行った、射撃技術の究極とも言える絶技だった。

 呆気にとられる少女達を尻目に、ヴァッシュはシリンダーを開放して中の銃弾を振り落とした。

 空になった薬莢が五つ、地面で乾いた音を立てる。

 最後の一発を手で受け止めると、ゲヘナの少女達に見せつけるように差し出した。

 

「弾はまだ一発残ってるぜ。特 別(スペシャル)なのがな」

 

 流れるような動作で、銃に再装填する。

 一連の動きを、少女達はただ見ていることしか出来なかった。

 銃弾を取り出した時点で襲い掛かれば、相手は銃を撃てずにどうにでも出来たはずだ。

 しかし、自身の銃を破壊された時点で彼女達の戦意はほとんど挫かれていた。

 銃を持つことが当たり前のキヴォトスにおいて、その銃を失うことはそれほどのショックだったのだ。

 

「君達は五人。こっちは一発」

 

 一発分の銃弾が装填されたシリンダーを指で回転させる。

 銃弾の詰まった薬室が、狙いすましたかのように撃鉄の位置で止まった。

 

「だけど、僕がこの一発を絶対に外さないことは君達も理解出来たはずだ。それで――」

 

「最悪の貧乏クジを引きたい奴は誰だ?」

 

 銃弾よりも速く、ヴァッシュの悪魔のような眼光が五人の戦意を粉々に撃ち砕いていた。

 

 

 

 

 

 

「……な、何も身包み置いてかなくてもいいのになぁ」

 

 目の前に積み上げられたゲヘナの少女達の荷物を前に、ヴァッシュは困惑の表情で佇むしかなかった。

 さすがに服までは置いていかなかったが、ハルカの財布はもちろん自分達の有り金や持っていた荷物まで、全部投げ出して泣きながら逃げていってしまった。

 ちょっとやりすぎたかな、と。こめかみに一筋の汗が流れる。

 

「ねえ、これどうすればいいかな? アル――」

「凄いじゃない、ヴァッシュ!!」

 

 同じゲヘナ学園の生徒として頼ろうと思ったアルは、興奮した様子で目を輝かせていた。

 

「さっきのはアレよね、クイックドロウって奴よね!? 映画で見たことあるわ! アナタはガンマンだったのね!?」

「ガンマン……まぁ、そうだねぇ。前いた所ではそんな感じのことやってたね」

「拳銃一丁を携えて荒野を流離う! 立ち塞がる者は腕っぷし一つでねじ伏せる! 根無し草の一匹狼!」

「大体合ってるんだけど、なんか妙なフィルター掛かってない!?」

「カッコいいわ! 私が目指す大人の理想像よ!!」

「ダメダメ! こんな大人、参考にしちゃダメだからッ!」

 

 暴走するアルを、何とかなだめて落ち着かせる。

 当面の問題は解決したが、まだ全てが解決したわけではないのだ。

 とりあえずは、目の前に置いていかれた荷物の処理だった。

 奪われたハルカの財布や、彼女達が万引きを強要した結果生まれた損失分の金額は、正当な対価としてもらってもいいだろう。

 しかし、まさか残りのお金や荷物を戦利品としていただくワケにもいかない。

 

「アナタ自身の力で奪った物なんだから、別に懐に入れても文句は出ないと思うわよ」

「ゲヘナ学園って、そういうのが常識になってるの? 話に聞く以上にマッポーの世ってカンジ」

 

 ヴァッシュはゲッソリとしながら幾つかある財布の中身を検めた。

 その内の一つに、ハルカの学生証が納められた物を見つける。

 

「はい、これ。君のだろ」

 

 ヴァッシュが優しく笑いかけながら、ハルカに財布を差し出す。

 しかし、当の持ち主は戸惑うだけだった。

 

「あの……どうして、私なんかの為に……こんなことを、してくれるんですか?」

 

 先ほどの戦闘を含めた一連の出来事の中で、ハルカはただ見ていることしか出来なかった。

 それ以外の、何かの行動を起こそうという発想すら生まれなかった。

 唯一自発的に行えたのは、ヴァッシュ達にお金を返そうという行動だけだ。

 結局それも他人の為。

 ハルカが自分自身の為に何かをしようとしたことはない。

 そんな価値はないと思い込んでいるから。

 それこそが、今回の件で一番の問題だった。

 いじめていたグループを撃退しても、それは根本的な解決にはならない。

 ハルカ自身の擦り減った自尊心を取り戻さなければ、また同じことが繰り返されるだろう。

 

「さっきも言ったでしょう? 私がやりたいからやったのよ」

 

 言葉を選ぶヴァッシュよりも早く、アルが微笑みながら語りかけた。

 

「それにね、ハルカ。私はアナタが気に入ったわ」

「えっ……? 私、なんかを……ですか?」

「ええ。アナタ、私達が代わりに払った分のお金を返そうとしたでしょう? そういう義理堅いところ、評価が高いわよ」

「そんな……お金を返すなんて、当たり前で……」

「当たり前と言い切る性根も素晴らしいわ。信頼出来る人間ね!」

「そんな、私なんか……え、えへへ」

 

 アルに褒めちぎられて、ハルカはぎこちなくも笑顔を浮かべた。

 いじめっ子達に向けていた卑屈なものではない。

 おそらく彼女本来の純粋な、恥ずかしそうに笑う姿だった。

 ヴァッシュは、そんな二人のやりとりを穏やかな眼で見つめていた。

 

「ヴァッシュ」

「何?」

「ハルカのことは、この私に任せてくれないかしら?」

「……任せて、いいのかい?」

「ええ、もちろんよ! ハルカが気に入ったのは、お世辞なんかじゃないわ!」

「そうか……だったら、もう安心だ」

 

 ハルカの傷ついた心を癒すには、この場だけの言葉では足りない。

 きっと長い時間が必要だ。

 多くの言葉が必要だ。

 寄り添う誰かが必要だ。

 そう考えていた。

 しかし、その必要なものは全て目の前にあった。

 ヴァッシュは心の底から安堵していた。

 

「――ハルカ」

 

 彼女の財布を、そっとその手に握らせる。

 

「君は、きっともう大丈夫だ」

 

 自分にとってのレムと同じ人を見つけたのだから。

 

「君はもう、何処へでも行ける」

「……私に、そんな価値はあるんでしょうか?」

「あるさ」

 

 恐る恐る問い掛けるハルカに、ヴァッシュは優しく笑いかけた。

 

「君の手の中にある切符は、いつでも行き先が書き込まれるのを待ってるんだ」

 

 ハルカは戸惑いながらも、自分の為に取り戻された財布を受け取った。

 もう片方の手に、未だに抱えられたままのぬいぐるみへ視線を移す。

 相変わらず独特なデザインのそれに苦笑を浮かべながら、ヴァッシュは言った。

 

「そのぬいぐるみも、よかったら記念にもらってよ。……君のセンスに合うかは分からないケド」

「いえ……大切に、します……。あのっ」

「うん」

「今日のこと……ご、ごめんな……さ……」

 

 ハルカは言いかけた言葉を飲み込み、

 

「……あ、あり……ありがとう、ございます」

 

 絞り出すような言葉は、ヴァッシュとアルの耳に確かに届いていた。

 二人は顔を見合わせると、会心の笑みを浮かべながらお互いの拳を軽くぶつけ合った。

 一つの盗みから始まった騒動が、今ようやく解決したのだ。

 

「……ところで、ヴァッシュ。なんだか、このままお別れみたいな雰囲気になってるけど?」

「ああ、そうだね。このまま荷物の処理まで全部投げっぱなしはよくないよね」

「いや、それはいいのよ。適当にゲヘナ学園へ紛失物として届け出るわ。それよりも、よ!」

 

 アルがヴァッシュに詰め寄る。

 その興奮気味の顔には、再びキラキラとした憧れを宿す瞳が輝いていた。

 

「アナタのことで、どうしても聞かなくちゃいけないことがあるわ!」

「ぼ、僕のこと? 何か気になることあったっけ?」

「アナタ、何の仕事をしてるの!?」

 

 それは全く予想していなかった質問だった。

 戸惑うヴァッシュに、アルが捲し立てる。

 

「私、ずっと将来のことについて悩んでたのよ。このまま真面目にコツコツと勉強して、普通の仕事に就くのが嫌だった。だから、ずっと探してたのよ! 胸を張って働ける、カッコいい仕事を!」

 

 目の前の少女の真面目さと善良さは美徳以外の何物でもないとヴァッシュは思っていたが、どうやら当人は違うらしい。

 ブラックマーケットに来ていた理由が『自分探し』で本当に間違いなかったことを悟り、苦笑いを浮かべて相槌を打つしかなかった。

 そんなヴァッシュの様子を尻目に、アルの語りはヒートアップしていく。

 

「そして、遂に見つけたわ! アナタよ、ヴァッシュ! 私はアナタみたいな大人になりたいの!」

「アハハ、それは光栄だね。だけど、さっきも言ったけど……」

「分かってるわ、安易にアナタの後追いをするつもりはない。だけど、せめて参考にしたいの。だから、知りたいのよ。アナタの仕事を!」

「……なるほどね」

 

 やはり、このアルという少女は独特の感性や信念の持ち主らしい。

 しかし、それは決して不快なものではなかった。

 少しばかり大げさだが、ここまで尊敬の念を向けられるとヴァッシュと言えども気分が良くなるというものだ。

 安直な他人の生き方の模倣ではなく、芯のある考えの元で参考にしようという意思も気に入った。

 

「アルの人生設計の役に立つなら、喜んで教えるよ。僕の仕事は――」

 

 快く質問に答えようとして、そこで言葉に詰まった。

 冷静に思い返したのだ。

 自分の今の立場を。

 

 ――僕は今、アビドス高等学校で女の子二人に養われている無職のプー太郎をやっています。

 ――仕事もせずに街中をふらついてトラブルに首突っ込んで銃ぶっ放してます。

 

 客観的に見れば少々悲観的過ぎる表現なのだが、万引き騒動の際に叩きつけられた罵倒は予想以上にヴァッシュの心を抉っていた。

 同時に、これをそのまま伝えればアルを大いに失望させてしまうだろう事実に苦悩する。

 冷や汗をダラダラと流しながら黙り込むヴァッシュの様子に気付かず、アルはワクワクしながら返答を待っている。

 

「いや、あえて……」

「あえて?」

「あえて言うとするなら」

 

 適当に誤魔化すしかない。

 ヴァッシュは意を決して口を開いた。

 

「愛というカゲロウを追い続ける平和の狩人……みたいなカンジ?」

 

 カッコをつけて言ってみたが、自分でも明らかに変な誤魔化し方をしていると実感出来る表現だった。

 チラリとアルの様子を伺ってみれば、彼女もヴァッシュの言いたいことが上手く理解できず、それでも何とか意味を吞み込もうと複雑な表情を浮かべている。

 

 ――だ、ダメか!? さすがに、この表現は若い子には伝わらないか!? っていうか、真面目に聞いてくれたのにワケわかんないこと言ってゴメン!!

 

 ヴァッシュは心の中で謝りながら、必死で別の言葉を探した。

 

「え、えーとね……一言で言うなら『荒野の無法者(アウトロー)』ってカンジかな」

「アウトロー!!」

 

 映画のガンマンのイメージがいたく気に入っているようなので、それらしい表現を使ってみる。

 何気なく口にしたその一言に、アルの困惑気味だった瞳に光が戻った。

 

「アウトロー……なるほど、私が目指すべきはアウトローなのね!」

 

 シンプルな言葉故に、その単語はアルの漠然とした将来のビジョンを強烈なまでに表現していた。

 人生の指針を見つけたかのようにはしゃぐアルを眺めながら、ヴァッシュは喜んでもらえたことへの安堵と共に一つの決心をした。

 これ以上深く聞かれて墓穴を掘る前にとっとと逃げよう、と。

 

 

 

 

 

 

 かくして、様々な騒動の最中を台風のように駆け抜ける一日は終わった。

 

「さて、ハルカ」

「は、はい……! アル様!」

「アル様? まあ、一応年上だしそれでいいのかしら……? とにかく! ハルカ、アナタは記念すべき一日に立ち会ったわ!」

「記念、ですか?」

「そうよ! この私、陸八魔アルが新しい人生の道を切り開いた――その記念すべきスタートに立ち会ったの!」

「こ、光栄です!」

「よろしい。そして、ハルカ。アナタはその道を共に歩む仲間よ。私と一緒に、一流のアウトローを目指しましょう!」

「わ、わ、私なんかが一緒にいてもいいんでしょうか……?」

「アナタがいいのよ!」

「あ……ありがとうございます! ありがとうございます! 私、頑張ります!」

「いずれ、私は自分だけの会社を作るわ。腕っぷし一つで裏の社会をのし上がり、金次第でどんな依頼も達成する真のアウトローなチーム! そして、愛というカゲロウを追い続けて平和を狩るとかなんとか……そんなカンジよ!」

「よ、よく分かりませんが……とにかく頑張ります! 愛とか平和とか、全部狩ります! アル様の道を邪魔する者を全部消します!」

「ん? まあ、それでいいのかしら……? とにかく! アナタは社員第一号に内定ね! あと、私の友達にムツキっていう娘がいるんだけど、彼女にも声をかけてみるわ」

「あ、アル様の友達ですか……」

「あら、そんなに不安そうにしなくても大丈夫よ。私が気に入ったアナタなんだから、きっとムツキも気に入るわ」

「は、はいぃ……私も、気に入られるように頑張ります」

「ただ、さすがに三人は会社として少なすぎるから、もう一人は欲しいわね。まあ、それは追々考えるとして、起業するのに必要な資金や物を集めないといけないわ」

「あの……ヴァッシュさんを、会社に誘うのは……無理でしょうか?」

「それはダメね。彼は愛というカゲロウを追い続ける平和の狩人よ。このキヴォトスの荒野を渡り歩く孤高のガンマンに、会社勤めは似合わないわ。何より、ヴァッシュは私が目指す一流のアウトローだからね! 次に会う時は肩を並べるくらいのアウトローになってないとカッコがつかないわ!」

「な、なるほど! 愛というカゲロウを追っていますもんね!」

「そうよ! それでね、ハルカ。会社を作ったら、まず制服代わりにサングラスを支給しようと思うのよ。ほら、ヴァッシュが付けてたみたいなカッコいい奴! それから銃は新しいリボルバーを買って――」

 

 神様は言った。

 若き少女達よ、大志を抱け。

 自らが選んだ道を踏み出した時、アナタ達の試練が始まるのだ――と。

 あと、形から入るのはいいけどアルちゃんにリボルバーは向いてないよ。予言するけどガンスピンの練習してる時に顔面ぶつけるよ――と。

 

「さて、ヴァッシュ」

「は、はい……ホシノ様」

「畏まらなくていいです。今日一日の出来事について説明してもらいましたし、事情も理解しました」

「はい……じゃあ、正座解いていいっスか?」

「ダメです」

「……はい」

「トラブルに首を突っ込んで、それを解決したのはいいです。その時の金銭的損失も最終的には補填出来たので、それに関して何か言うつもりはありません」

「……はい」

「銃を撃ったことに関しても、問題はありません。元々その為に渡した物ですし、怪我をして帰ってこなくてよかったです。またユメ先輩が泣き喚くので」

「はい、お気遣い感謝しま――」

「でも、最初のお使い忘れて帰って来るってどういうことですか?」

「…………ひぃん(裏声)」

「ぶっ飛ばしますよ」

 

 神様は言った。

 愛というカゲロウを追い続ける平和の狩人よ、明日もまた試練の時間がやって来ます――と。

 

 

 




トライガンフィルターを通したら、ハルカが大分お労しくなってしまった。
でも私、ギャグで軽く描写して誤魔化してるけど実は重いキャラの背景を勝手に深堀して妄想するの大好きだから…(歪んだ性癖)
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