という訳で、今回は挿絵アリです。AIイラストを利用している&グレーアウトさせて配慮はしましたが少々の流血表現アリなので、苦手な方はご注意を。
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◆ side:博麗霊夢 ◆
地下室は、もはや“部屋”の形をなしていなかった。
壁は砕け、床は波のように歪み、天井には赤い亀裂が走る。
そこに――暴風のような紅の光を纏い、フランドール・スカーレットが立っていた。
呼吸すら、爆発のように揺らいでいる。
破壊の力が、感情のままに漏れ出している。
「フラン……ッ」
レミリアが名を呼ぶが、その声は届かない。
妹は、ただ泣きながら笑っていた。
「やだ……やだよ……わたし、もう、いらないのなら――」
次の瞬間、紅が弾けた。
「――ッ来る!」
咄嗟に飛翔。霊符を構えて身をひねる。
時間すら歪めるような圧が頬をかすめ、背後の壁が音もなく粉砕された。
「この子……手加減できない状態ね」
咲夜が息を呑む。右腕に裂傷が走り、血が落ちる。
彼女はそれでもナイフを構えた。
「お嬢様、下がってください! ここは……私が!」
「バカ言わないで! 姉が逃げてどうするのよ!」
レミリアの声は強かった。
あの迷いと弱さを、もう一片も残していない。
「フラン……見ていなさい。絶対に一人にはしない!」
紅い翼が広がり、吸血鬼の魔力が噴き上がる。
フランドールの暴走した魔力と激突し、空気が震えた。
だが――相性が悪い。
同じ吸血鬼の血を持つせいか、レミリアの力はぶつかり、拡散し、打ち消される。
(押し返せてない……!)
なら、私がやることは一つ。
「封魔陣!」
床に白い光の円が奔り、結界の壁となってフランの動きを押し留めた。
紅い暴風がぶつかり、火花のような光と音を撒き散らす。
だが――
「――やだ。どいてよォ」
囁くような声で、結界が軋んだ。
圧縮された破壊が、内部から壁を破ろうと膨れあがる。
「だめ……抜けるわ!」
「咲夜!」
「了解しました――時間停止ッ!」
時間が凍る……はずだった。
フランドールは、止まらない。
空間が弾け、咲夜の停止した時間に侵入する。
亀裂が走り、固定された世界が崩れた。
「っ――咲夜!」
咲夜の身体が吹き飛ぶ。
床を削るように滑り、その先には砕けた柱。
その瞬間――小さな影が飛び込んだ。
「咲夜さ――んッ!!」
翠の髪の妖精メイドだった。
妖精とは思えない速度で、咲夜を抱きかかえるように受け止める。
だが勢いが強すぎた。
二人まとめて宙へ弾かれ、まっすぐ柱へ叩きつけられる――はずだった。
「――天龍脚ッ!!」
轟音。
柱ごと地面が砕け、別方向へ弾かれた衝撃に乗るように、咲夜と妖精メイドの身体が柔らかく受け止められる。
着地の衝撃が土煙を上げた。
「大丈夫ですか、咲夜さん! ラッシュ!」
轟音と共に、色鮮やかなチャイナ服の影が飛び込んできた。
土埃を巻き上げながら、美鈴が二人を抱えて着地する。
頬に埃を付け、肩で息をしながら叫ぶ。
「地面が揺れて……悪い予感しかしませんでした! 全員、無事ですか!?」
「無事じゃないわ! あの子、暴走中!」
レミリアが指差すと、美鈴の表情が一瞬で強張る。
フランドールは、泣きながら笑っていた。
美鈴に助け出された咲夜は咳をしながら息を整え、ラッシュは震えた声で咲夜にしがみつく。
「……ラッシュ……」
「ご、ごめんなさいメイド長……守り切れませんでした……!」
咲夜は痛みをこらえながら、かすかに笑った。
「いいえ……ありがとうラッシュ。助かったわ」
ラッシュと呼ばれた妖精メイドの瞳が揺らぎ、涙が落ちる。
「ねえ……壊れちゃえ」
フランドールの手がかすかに持ち上がり、紅が閃く。
美鈴は咄嗟に掌を前へ突き出す。
「水形太極拳――ッ!」
透明な衝撃波がフランの攻撃を弾き、床と空気を震わせた。
しかし弾かれた衝撃で、美鈴は片膝をつく。
「っ……想像以上ですね……」
「無茶よ、美鈴!」
「守りますよ、お嬢様と……みんなを!」
その声が終わるより早く、空気がねじれた。
フランドールが、美鈴の背後へ『消えた』。
七色の翼が残像を引き、掌が振り下ろされる。
「――っ!?」
衝撃が地下室全体を揺さぶり、美鈴の身体は壁へ叩きつけられた。
崩れた瓦礫の中へ沈み込む。
「美鈴ッ!!」
咲夜が叫び、霊夢が術を展開しながら駆け寄ろうとした――その瞬間。
瓦礫が、内側から吹き飛んだ。
「――まだ、倒れませんよ」
傷だらけの美鈴が立ち上がる。
その足元には――頭から血を流し、ぐったりとした創英が横たわっていた。
そして、美鈴の足元に縋りつくように、ラッシュも膝をついていた。
「……創英、様……?」
ラッシュの声は震え、胸元を掴んだ指も震えていた。
「お願いです、返事をして下さい創英様! ごめんなさい、ごめんなさい! フランドール様を、止められなくて……っ!」
美鈴は急いで脈を取り、息を確かめる。
「……息があります! まだ、間に合います!」
掌に“気”を宿し、光が少年へ流れ込む。
「ラッシュ、補助を!」
「っ! はいっ!!」
その横で、ラッシュは小さな手を創英へ当てた。
妖精の魔力――微弱だが、温かい光が重なる。
「戻ってきて下さい創英様! 死んではダメです……!」
その光景を見た瞬間、レミリアの顔が揺れた。
咲夜も血を流しながら立ち上がる。
――その瞬間。
フランの動きが止まった。
倒れた少年を見て、紅い瞳がかすかに揺れる。
ラッシュの悲痛に塗れたその声が、暴走する紅の暴風を一瞬だけ揺らした。
「……にぃ……に……?」
その一言のあと、紅の魔力が再び暴走しようと膨れあがる。
「――抑えきれない!」
私が飛び込むより早く、背後の空気が揺れた。
「れーいむ!!」
「遅くなったわ!」
魔理沙達だった。
魔理沙はスター型の魔法陣を展開し、ネグリジェ姿の少女は本を開いたまま床に陣を書き込む。
「小悪魔、補助を!」
「了解しました、パチュリー様!」
光の壁が幾重にも展開し、暴走した破壊の波が押し返される。
フランドールは叫ぶ。泣きながら、笑って。
「やだ……もっと、もっと壊したいッ! だって、見てくれなかったからァッ!」
その叫びは、誰かへの恨みではない。
ただ、泣いている声だった。
(この子は……ダメね。もう限界よ)
全員がわかっていた。
殺してはならない。傷つけすぎてもだめだ。
しかし、これ以上は誰かが犠牲になってしまう。
その前に――強引にでも、止めるしかない。
魔理沙が叫ぶ。
「霊夢! 合わせるぜ!」
「合図して!」
「応! いくぞ――三、二……」
その一瞬。
フランドールの視線が、創英を捉えた。
紅い魔力が収束し、細い指がゆっくりと伸びる。
「にぃに……置いていかないで……」
破壊ではない。
ただ、触れようとした。
「――っ!」
美鈴が創英を抱いて後退する。
レミリアが割って入り、紅の翼で妹を押し返そうとするが、無造作に振るわれた一撃で弾き飛ばされてしまう。
そのとき――創英の指が、微かに動いた。
ほんの少し。
誰よりも弱い、人間の動き。
だが、それは。
暴走していたフランドールを、確かに止めた。
「…………にぃ、に……?」
紅の光が震え、霧散し始める。
この瞬間。
創英の意識が――帰ってきた。
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◆ side:時崎創英 ◆
――熱い。
肺が焼けるみたいに熱い。けれど……なんとか息はできてる。
けれど、頭に霞がかかったようにぼやけていて、何を考えたのかも、どうしていたのかも思い出せない。
ただ、泣き声だけが頭の奥で聞こえていた。
だから、俺は。
「……フラン」
気づけば俺は、誰かに抱きかかえられた状態で、何とか上体を起こしていた。
それが誰なのかは……ぼやけた視界では分からなかった。
その誰かが何かを言っている。けど、それすらも上手く聞き取れない。
だから俺は、ただ一言――「大丈夫だ」とだけ、口にした。
必死に目を凝らして前を見る。
すると、少し離れた場所で、フランは立ち尽くしていた。
目を見開き、焦点の合わない視線を彷徨わせながら。
まるで、別の誰かを見ているみたいに。
『……にぃに……どこ……?』
沢山のくぐもる声の中で、俺を呼ぶ声だけが鮮明に聞こえてくる。
その声を聞いた瞬間……胸が、締め付けられた。
声の響きも、震えも、何もかもが”あのときの絢香”と同じだった。
――絢香が、独りで家を飛び出して居なくなった時があった。
何も分かってなかった俺は、親父に殴り飛ばされた事で、自分がどれだけ愚かだったのかを初めて理解した。
その後は、日が暮れかけていた中で必死に探し回った。
そうしてようやく見つけた時……絢香は泣いていた。
俺の名を呼びながら、何度も何度も謝っていた。
……今のフランは、そのときの絢香と全く同じ声色で、俺を呼んでいる。
「フラン……?」
思わず名前を呼んだ。でも、その声は届かない。
彼女は首を傾げ、涙を滲ませながら、何かを探すように手を伸ばしていた。
『……こわいよ、にぃに……暗いの、もうやだよ……』
瞳が赤く染まり、七色の翼の結晶が光り始める。
そこから吹き出した妖力が、空気を歪めた。
まるで世界そのものを砕こうとするかのような圧に、屈してしまいそうになる。
(マズい……完全に我を失ってる)
風が爆ぜた。
床石が割れ、壁が抉られる。
光の塊が弾幕にもならずに飛び散り、暴風と一緒に吹き荒れる。
反射的に風花を構えた。
空間を裂き、爆発の軌跡を逸らす。
だが対処が追いつかず、身体のあちこちを裂いてゆく。
『どうして……どうして、みんな行っちゃうの!?』
『なんでわたしだけ置いてくの!?』
『にぃに、どこにいるの!? わたし、いい子にしてたのに!!』
支離滅裂で、錯乱しているかのような声の中に、絢香とフランの2人の姿が見えた。
2つの人格が入り混じり、境界が溶け合っている。
その叫びは、魂から発せられた悲鳴の様に思えた。
「フランッ!!」
「フランドール様!!」
――初めて、誰かの叫び声が聞こえた。
悲痛で、祈りにも似たその声は、確かにフランの身を案じたもので……俺は、その声に安心感を覚える。
フランは、自分は独りだと嘆き、悲しんでいる。だが――フランは決して、独りなどではなかった。
互いが互いに、不器用なだけだったんだ。
「……もういい、フラン」
そう呟いて、俺は一歩踏み出した。
誰かに止められた気がした。
だがそんなのは無視した。
目の前に居るんだ。赦しを求めてる子が。
爆風が吹き荒れる。
破壊の光が、頬を掠める。
熱い。皮膚が裂け、血が溢れる。
それでも――俺は、止まらなかった。
(きっと、絢香も――同じ顔で泣いてたんだ)
あの夜の記憶が、胸を貫く。
守れなかった妹。届かなかった手。
それを、今度こそ。この腕に抱くまで――止まれやしない。
「もう……独りで泣かなくていいんだ」
灼けつくように痛む肺から息を吐き、声を張る。
光の奔流が俺を襲う。もう身体も動かなくなり始めた。
それでもと、風花で受け流しながら、距離を詰める。
それも、長くは続かない。
やかて限界が来て、足が止まりかけた瞬間――
『――にぃに!』
その声が、悲鳴のように響いた。
同時に、紅の光が爆ぜた。
視界が一面、真紅に染まる。
衝撃。
腕が、腹が、焼けるように痛む。
何かが身体を貫いて、同時に沢山の悲鳴が木霊する。
それでも――それでも。俺は。倒れてやらなかった。
フランが、泣きながら叫んでいた。
まるで、自分を責めているように。
自分の放った力に、怯えながら。
だから……倒れてなんかいられなかった。
「……もう、いいんだ」
血を吐きながら、俺はそのまま彼女の前に立った。
そして――俺は、めいいっぱい抱きしめた。
※AIイラスト(使用AI:ChatGPT)
細い身体。冷たい肌。
それが、儚く震えていた。
『にぃに……にぃに、痛いの……? ごめんなさい、ごめんなさい……』
「いいんだよ、フラン」
『ちがうの……わたし、壊しちゃうの……!』
「壊してもいい。壊した分だけ、また作り直せばいいんだ」
それは、誰に言うでもない言葉だった。
かつて絢香にかけてやれなかった想いを、今ようやく口にできた。
この子は“代わり”なんかじゃない。
でも、同じ痛みを抱えた“妹”なんだ。
「……もう独りにしない。俺は……いや”俺達”は、お前を決して独りにはしない」
暗くなっていく視界。その中に、フランの姿が映る。
段々と滲み、鮮明には見えなくなってゆく。
それでも……俺は、もうほとんど見えない目でフランを見つめた。
その瞬間、フランの体からあふれていた妖力が、音もなく静まった。
結晶の光が落ち着き、紅の輝きが鎮まってゆく。
フランは、俺の胸の中で小さく呟いた。
「……にぃに、だいすき」
声が、震えていた。けど、その震えには、もう……
「……ああ。俺もだよ、フラン……」
そう言い残して、俺は、意識を手放した――。