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「ふう……一旦ここらで一息つくか」
幻想郷へ来るまでのあらましを語り終えた俺は、傍らに置いてある湯のみを手に取り口元に運ぶ。
すっかり熱が冷めたお茶を一息に飲み干すと、静かに腰を上げた。
「新しいつまみを用意しようか。今から作ってくるから少しだけ待っていてくれないか?」
「私も手伝うわよ、創英」
俺の話を黙って聞いていた霊夢はそう声を掛けてくる。
それに対し、俺はやんわりと断りを入れつつ台所へ移動を始める。
「作ること自体はすぐ終わるから、座ってて大丈夫だよ霊夢」
「では、運ぶのは私がやりましょうか」
すると今度は、横合いから咲夜さんの声が上がった。
既に立ち上がって横に控えていたので、それならばと提案を受け入れることにする。
「ありがとうございます咲夜さん」
台所へと場所を移した俺は、ササッと盛り付けを済ませて小皿を咲夜さんへ手渡した。
「それじゃあ頼みますね」
「そーえー、私にも何か手伝えることはあるー?」
そんな俺と咲夜さんのやり取りを台所の外から見ていたフランは、ソワソワした様子で立候補してきた。
多分手伝いたいんだろうなとは思ったが、人手は足りているのでそのまま待っていてもらう事にする。
「大丈夫だよフラン。霊夢達と一緒に座って待ってな? ……あと魔理沙、お前つまみ食いしたら許さんからな」
黙って横を抜けようとした魔理沙の肩をガッシリと掴む。
ビクッと跳ね上がる魔理沙をみて、俺は軽くため息をついた。
「何故バレた!?」
「いや……逆に聞くが、真横を通っておいてなんでバレないと思ったんだよ?」
魔理沙の事をじっとりと見つめてやるが、特に気にしていないのか屈託のない笑顔を浮かべながら口を開く。
「いやぁ、話に夢中になってるし今なら大丈夫かなって」
「残念だったな、ちゃんと気が付いてたよ。ほら魔理沙、折角ここまで来たならお前も運ぶの手伝ってくれよ。どうせ暇なんだろ?」
「仕方ないな、手伝うとしますかぁ」
渋々と言った感じでつまみを盛り付けた小皿を受け取った魔理沙は踵を返す。
そんな魔理沙と入れ替わる形で2人の影が入ってきた。
「創英! アタイは、アタイは!?」
「ちょっと、チルノちゃん! 創英さんの邪魔になっちゃうよ!」
元気ハツラツと言った感じで突撃をかましてきたチルノを受け止めつつ、オロオロしてる大妖精に目配せをしてからチルノに声を掛ける。
「おー……そうだな。じゃあ手伝ってもらおっかな? 今小皿に盛り付けるから、終わったら持ってってくれ」
「わかった! 大ちゃん、一緒に持ってこ!」
「わわっ! 待ってよチルノちゃん!」
そうしてようやく静けさが戻ってきた台所の一角に、今度は奇妙な音が鳴り響く。
ぱっくりと割れて不気味空間が露になると、中から紫さんが現れた。
「今日はまた一段と賑やかねぇ。そろそろ誰を娶るか決めたのかしら?」
「うげ、何が出たかと思えばゆかりんじゃん」
「人を虫か何かみたいに言わないで欲しいわね?」
扇子でペシっと軽くはたかれる。
お互い冗談だと言うことは分かっているので、俺は特に気にすることも無く手を動かし、紫さんはその様子を眺め始める。
「毎度の事だけれど、宴会の度に駆り出されて貴方も大変ね。断ったって別にいいでしょうに、そういう所は会った頃から律儀なんだから」
「好きでやってるから良いんですよ。気にしないで下さい」
そう言いながら盛りつけをする最中、横合いから伸びた細い手指がひょいとツマミを拐ってゆく。
「……お手つき一回です。次やったら手をはたきますよ、紫さん」
「少しくらいいいじゃないの〜……創英のケチー」
「幽々子さんの真似をしたってダメです。食べたいなら向こうの席で待っていて下さい」
「ふふふ。そうさせてもらうわね」
ひとしきりからかい終わって満足したのか、大人しく台所から出ていく大妖怪。
チラリと見えた先には藍さんと橙の姿が見えたので、今日は八雲家総出で来たのだろう。
「全く……気が付けばいつも大所帯だ。一人になる時間も有りゃしない」
そう言いながら、自然と笑みが出てくる自分を自覚する。
「……まぁ。こういうのも悪くは無いな」
深く目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んでから、一気に吐き出す。
気持ちを切り替えるためのこのルーティーンは、ここ最近では主に、過度に浮かれないように心を律する目的で使っている。
ちょっと浮ついているなと感じた時にこれをすると、良い感じに落ち着きを取り戻しつつ心地良さの余韻を感じられるのだ。
「さてさて、お待たせしたね。それじゃあ……」
諸々の支度を済ませて広間へ戻り、席へ着く。
熱々のお茶を注ぎ直した湯のみを片手に、俺は。
「話の続きをしようか」
中断していた話を、再開した。
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涙の別れを済ませた後、俺と紫さんは隙間を経由して移動を始めた。
最初こそあの異空間の中で居心地の悪さを感じたものだが、途中から周囲に浮かぶ目を無視したら徐々に慣れ始めた。
人ってのは適応能力のオバケだな。うん。
……なに? それはアンタがおかしいだけだって? うっさい。
「さぁ、着いたわよ創英くん。ここが、今から貴方が住む事になる所――人間の里よ」
そんな紫さんの発言と共に、視界が急にひらけた。
そして、目先の景色に息を呑む。
そこには、外の世界の郷土資料館とかで見たような光景が広がっていた。
木造の長屋が並び、メインストリートと思しき大きな道を和服姿の人々が行き交う様に、過去の日本にでもタイムスリップしたかのような錯覚さえ覚えた。
今目の前に見えている町並みは、無理やり当てはめるとするなら外の世界で言う明治時代辺りだろうか?
「これから貴方の住む家に案内するわ。はぐれないように着いて来てね」
「あっ……はいっ」
隙間から出て、町の通りを歩く。
紫さんの服もだが、俺の服も周りの光景からしたら相当浮いているらしく、周囲を行き交う人々からは物珍しそうな目で見られていた。
「きゃっ!」
「おっと……だ、大丈夫ですか?」
あまり周りに目を向けていると居心地悪いものを感じそうだったので目を伏せながら歩き始めたのだが、それが仇となって誰かとぶつかってしまった。
慌てた俺は、ぶつかった反動で今にも倒れそうな目の前の人の腰に咄嗟に手を回した。
「あっ……」
そして、その方と目が合う。
紫色のセミロングに、花の髪飾りが映える美少女がそこに居た。
服装は、若草色の着物に袖に花が描かれた黄色の中振袖を艶姿のような感じで重ね着をしていて、その上で赤い袴とルーズソックスのような足袋を履いている。
見たまんまの麗しい少女に、思わず目が奪われたのを覚えている。
「あ……えっと、その」
「ご、ごめんなさい。怪我とかしませんでしたか?」
「いえ……お陰様で、なんとか」
相手の無事を確認すると、咄嗟に腰に回した手を即座に離し、少し距離を取る。
余りに近い距離に居たためか、互いにどぎまぎしてしまっていた。
「えっと……お、俺はそろそろ……同行人とはぐれるといけないので……」
「は、はい……申し訳ございませんでした」
「い、いやいや……こちらこそ、すみませんでした」
足早に、その場から逃げ出すように歩き始める。
少しだけ火照った顔の熱が、自分の心の乱れを嫌でも自覚させてきて少しだけ嫌だった。
あれは事故。そう、ただの事故だ。ちょっと距離が近くて、ビックリしただけだ。そう言い聞かせて、紫さんの後を必死に追った。
「さぁ着いたわよ……って、どうしたの創英くん。そんなに顔を赤くさせて」
「ナンデモナイデス」
黙々歩いてようやく辿り着いたのは、町の外れにある一件の現代風な家屋だった。
町に並ぶ他の建物と比べて明らかに浮いていて異質に感じるこの家は、いつの間にかここに出現した得体の知れない家として、里の人々から気味悪がられていたらしい。
それを、八雲家の管理の元で引き取ったのだそうだ。
紫さんが管理しているのなら大丈夫だろう。そう思っていた俺は、次の瞬間にはその思いを撤回する羽目になる。
「今からこの家に住んでもらう訳だけど、一つだけ注意点があるの」
目の前に佇む俺の家になる予定の家屋を前に、神妙な顔つきで紫さんはとんでもない事を口にした。
「どうやらこの家はね……中に入ったが最後、外に出られなくなるみたいなの」
……幻想郷へ来て早々に、俺は一波乱経験する事となる。