◆ 幻想入り編:登場人物紹介 ◆
● 時崎 創英(ときざき そうえい)
本作の主人公。退魔師の一族・時崎家の分家筋に生まれた少年。
十三歳の夏、曽祖父である創厳から幻想郷への移住を告げられるところから、物語は始まる。
かつて妖魔に襲われたことをきっかけに霊能力へ目覚め、以降は時崎宗家のもとで退魔師としての修行を積んできた。
本人はどこか達観したように軽口を叩くが、その内側には、奪われた日常への傷と、それでも前を向こうとする意地がある。
自分を特別だとは思っていない。けれど、その在り方は八雲紫の目に留まり、幻想郷へ迎え入れられることとなった。
料理が得意で、手作りの洋菓子は大妖怪さえ唸らせるほど。
霊刀《風花》に主として認められたことで、彼の歩む道は単なる移住ではなく、時崎の名を背負う旅立ちへと変わっていく。
● 霊刀《風花》(かざばな)
時崎一族に代々伝わる霊刀。
本来は一族の長たる者が受け継いできた宝剣であり、創厳のもとで長く管理されていた。
単なる武器ではなく、自我のようなものを宿しているらしく、担い手として認める相手を選ぶ。
創英がその名を呼んだ瞬間、風花は彼を主として受け入れた。
流れ込んだ霊力は冷たく、しかし清らかで、驚くほど創英の身体に馴染んでいた。
風花が見たのは、創英の強さではなく、心の在り方だったのかもしれない。
● 時崎 創厳(ときざき そうげん)
創英の曽祖父にして、時崎一族の最高権威にあたる人物。
創英からは、普段は「ジジイ」と呼ばれているが、その呼び方の奥には、反発だけではない確かな親しみがにじんでいる。
厳しく、強引で、時に説明不足。だが、創英を幻想郷へ送り出す最後の場面では、彼を一人の退魔師として、そして一族の人間として認める姿を見せた。
本当は、創英を幻想郷へ送ることに反対していた。
妖魔によって多くを奪われた少年を、妖魔の楽園へ送り出すことが酷だと知っていたからだ。
それでも創厳は、創英の中に消えない光を見た。
だからこそ、代々受け継がれてきた霊刀《風花》と、対妖魔用の捕縛具を餞別として託し、送り出すことを決めた。
最後に流した涙は、権威ある長としてのものではない。
一人の曾祖父が、孫を送り出すための涙だった。
● 八雲 紫(やくも ゆかり)
幻想郷を管理する賢者にして、千年を生きる大妖怪。
隙間から現れるその姿は少女のように可憐でありながら、創英の感覚には、場にいる誰も敵わないほどの圧として映っていた。
創厳とは旧知の仲らしく、時崎家に対しても一定の縁を持っている様子がうかがえる。
創英の幻想郷入りを認めた張本人。
審査の中で彼の何を見たのか、詳しい理由は分からない。
ただ、彼女は創英に「自分を特別だと思ったことがあるか」と問い、その答えに満足したような反応を見せている。
気品と妖しさをまといながら、からかい上手で、甘いものには目がない食いしん坊な一面もある。
創英の手作りロールケーキを気に入り、以降、彼を見る目にはどこか楽しげな期待が混じるようになった。
創英にとっては、恩人であり、案内人であり、どうにも勝てる気のしない相手でもある。
● 宗谷師範(そうやしはん)
創英に体術を叩き込んだ、宗家の師範。
修行では容赦なく創英を鍛えた人物だが、ただ厳しいだけではない。
創英が立ち向かえば必ず褒め、技を一つ覚えるたび、自分のことのように喜んでくれた。
その姿は、創英にとって父のような威厳を持つものだった。
幻想郷へ渡る創英に対しても、最後まで研鑽を欠かすなと伝え、送り出している。
彼の教えは、創英の身体に残っている。
そしてきっと、これから先の戦いの中で何度も創英を支えることになる。
● 千歳(ちとせ)
宗家の屋敷で、創英の世話役を務めていた女性。
創英が宗家へ来たばかりの頃も、自暴自棄になっていた時も、修行で傷だらけになった時も、悪夢にうなされていた夜も、そばで支え続けてくれた人。
彼女の献身は、創英にとって母のような温かさだった。
幻想郷へ向かう別れの場面では、涙を浮かべながら創英の言葉を受け止めている。
創英がもう一度前を向けたのは、厳しい修行だけのおかげではない。
千歳のように、傷ついた少年の心に寄り添ってくれた人々がいたからこそである。
● 神恵(かもえ)
宗家の料理長。別れの場面では名前のみの登場だが、創英にとっては屋敷での日々を支えた一人。
厨房を預かる立場から、食事を通して創英の生活を見守ってきた人物。
創英が料理を得意とする背景には、神恵の存在も少なからず影響している。
いつか、創英の料理の原点として語られる日が来る……かもしれない。
● 清里(きよさと)
宗家の屋敷運営を取り仕切る人物。大きな屋敷と、そこに暮らす人々の生活を支えている管理役。
派手に前へ出る人物ではないが、創英が修行に集中できる環境を整えていた一人である。
創英が宗家で過ごした日々は、修行と勉学だけで出来ていたわけではない。
その裏には、清里のように屋敷そのものを支える人々の手があった。
● 壮瞥(そうべつ)
創厳の側近。
創厳のそばに控える人物として登場し、宗家の規律と格式を感じさせる存在。
創英にとっては、気を抜けばすぐに見咎められる相手でもあった。
創厳の側近を務めている関係上、一族の内情にも深く関わっている。
● 人間の里で出会った少女
創英が幻想郷へ到着して間もなく、人間の里でぶつかってしまった少女。
紫色の髪に花飾りをつけ、若草色の着物と赤い袴をまとった麗しい少女。
創英は倒れそうになった彼女を咄嗟に支え、至近距離で目を合わせてしまう。
ほんの短い邂逅だった。けれど、創英はその姿に目を奪われ、別れたあとも顔の熱を意識してしまっている。
名前はまだ語られていない。ただの偶然か、それとも幻想郷での新しい縁の始まりなのか。
その答えは——まだ、この時点では分からない。
◆ 幕間で顔を見せた面々 ◆
● 博麗 霊夢(はくれい れいむ)
創英の昔語りを静かに聞いていた少女。
創英が席を立った際には手伝いを申し出ており、彼との間に気安い距離感があることがうかがえる。
現時点の創英にとって、彼女はすでに日常の中にいる相手らしい。
● 霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)
つまみ食いを狙って、創英にあっさり見つかった少女。
屈託のない笑顔と遠慮のなさが印象的で、創英とのやり取りからは気心の知れた悪友めいた空気が漂う。
叱られながらも手伝いに回るあたり、ただ騒がしいだけの少女ではないようだ。
● 十六夜 咲夜(いざよい さくや)
創英の作業を手伝おうと、すぐに控えていた女性。
落ち着いた立ち振る舞いで、創英からも丁寧に接されている。
相互に一定の信頼関係を築いているようで、創英もまた、場の流れを読んで自然に動ける人物として彼女を見ているようだ。
● フランドール・スカーレット
創英の手伝いをしたがる、吸血鬼の少女。
そわそわとした様子で声をかける姿から、創英に懐いていることが伝わってくる。
創英もまた、彼女を危なげなくあしらいながら、優しく待つよう促していた。
● チルノ・大妖精(だいようせい)
台所へ元気よく飛び込んできた二人組。
チルノは勢いのまま創英に突撃し、大妖精はそれを慌てて追いかける。騒がしいが、どこか微笑ましい二人である。
創英の日常が一人きりではなく、多くの者に囲まれたものになっていることを示す存在である。
● 八雲 藍(やくも らん)・橙(ちぇん)
紫とともに姿を見せた八雲家の面々。
大きな会話こそないが、紫だけでなく藍と橙も訪れていることから、創英と八雲家の関係が一時的なものではなく、日常的な繋がりへ変わっていることがうかがえる。
創英にとって八雲家は、幻想郷入りの案内役であり、やがて騒がしい日常の一部にもなっていく存在なのかもしれない。