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――カチャリ。
比較的軽快な音を立てて開かれた扉の先には、何の変哲もない和室があった。
一つ気になる事があるとすれば、畳の敷き方だろうか。
「家族の葬式の時に見た敷き方……なんて言ったっけな、この敷き方」
一般的な和室に見られる風車のような敷き方とは異なった形。
畳の合わせ目が十字になるそれを『不祝儀敷き』と呼ぶことは、当時の俺は知らなかった。
だが、普段は縁起の悪さからやらない敷き方がなされているこの光景を見て、分からないなりにも強い違和感を覚えていた。
誰が、何のために、このような敷き方を成したのか。
これの意図する所はなんなのか。
答えは、すぐに分かった。
「畳の一角が……浮き上がってる?」
下に物でも挟まってるかのように少しだけ浮いているのを見つけた俺は、その畳をそっと持ち上げた。そして、絶句した。
「っ!!!」
そこには、なにか強い力で押し潰されたように平たくなった人の顔があった。
それだけではない。その顔の周りには、時が経って変色したと思しき血の跡がおびただしいほどに残っており、よくよく見てみれば人の臓器であったものもぺしゃんこに潰され、圧縮されていた。
畳の下の異様な光景に息を呑む。そして、嫌な想像が脳裏に働いた。
――別の畳の下には、もっと居るんじゃないのか?
「か、確認しなきゃ……」
一枚、また一枚と、室内の畳を捲り上げていく。
……最終的には、最初に見つけた人の他に7名程の潰された遺体が見つかった。
「うぐっ……ゲ、ェェェ……」
あまりの凄惨な光景に、胃の中身をその場に吐き出した。
人としての最低限の形すら留めきれていない様子に強いショックを受けたのを、今でも覚えてる。
「何が、あったんだよ。この家は何なんだよ……!」
得体の知れないものに対する恐怖を感じ、扉の元へ引き返そうとした、その時。
「な、あ……無い!? 扉がどこにも無い!!」
自分が入ってきた扉が、忽然と消えて無くなっていた。
それに少し遅れる形で室内に響き始めた木の軋む音に、俺は即座に気がつき、上を見る。
――天井が、ゆっくりと迫り下がって来ている。
「冗談じゃねぇぞ……!」
すぐに窓辺へ駆け寄り開こうとする。
しかし、多少ガタつくものの窓を開くことが出来ない。
ならば、と窓ガラスを素手で殴りつける。
だが、窓ガラスはビクともせず割れる気配は無い。
腰に帯びた風花を外して鞘に差したまま一息に突き破ろうとも試みたが、それも効果は無し。
思いついた限りの脱出しうる手段を用いても、求めていた結果を得られなかった俺は酷く狼狽した。
「潰される!! この人らみたいに潰されて死んじまう!!」
冷静で居られなくなった俺は、とにかく何とかならないかと考えて部屋の中で暴れ始めた。
壁を思いっきり蹴りつけてみたり、床にへばりついた人らなんて気にも留めずに拳で殴り付けたり、今まで扉があった所へ目掛けて体当たりを仕掛けてみたりと……まぁ色々やってみたのだが、そのどれもが無意味に終わった。
「こんな所で……死んでたまるかぁ!!」
最終的にヤケっぱちになった俺は、風花を抜刀して闇雲に振り回した。
"パキンッ"
すると唐突に、聞き慣れない音が室内に響き渡る。
驚いて音の発生源を見やれば、そこにはごく僅かながらも空間にヒビが入っているのが見えた。
それを見た俺は、試しにそのヒビへ向けて風花を振り下ろすと……
"バキンッ!"
先程よりもより硬質な音が響くと同時に、生じたヒビがより大きく拡がった。
その先には、人間の里の景色が見えている。
「なんだか知らんが、もしかしたら……!」
一縷の望みにかけて、風花で何度も何度もそのヒビに斬り掛かる。
しかし、ある一定の大きさからは拡がらなくなり……それは、まだまだ人が通れる程の大きさには達していなかった。
その間にも天井は降りてきていて、既に頭のすぐ上あたりまで迫ってきていた。
「不味い不味い不味い!!」
必死に風花を振るうが手応えは全くなく、ヒビを素通りする。
そうしている内にとうとう、降りてきた天井が圧倒的な力で脳天を押し始めた。
「頼む……頼むっ!!」
圧迫され、まともに立てなくなった為に身を屈めて中腰に。
次第にそれすらもキツくなり、膝を折って屈み込む。
その間も風花を振り続けたがヒビはそれでも拡がらず……しまいには、降ってきた天井にヒビが埋もれてしまった。
望みも絶たれ、万事休す――この時の俺は、文字通り死を覚悟していた。
しかし、それでも死にたくなかった俺は……
「頼むから――開いてくれェェェェ!!!!」
やぶれかぶれで、風花に霊力を込めて強く振り抜いた。
"キィンッ!!"
今まで聞いたことがないような甲高い音が部屋に響く。
その直後、風花で斬りつけた空間が奇妙な音と共にぱっくりと口を開くように裂けた。
「開いた!!」
急いで裂けた空間に飛び込む。
ほぼ地面の目線まで下がっていた姿勢からヘッドスライディングの要領で飛び込んだことで、地面に対して顔面から何からものすごい勢いで滑り込む形となり、強い痛みと土の味に苛まれる。
慌てて顔をもたげて後ろを振り返ると、閉じゆく空間の先に天井が降り切った光景が見えて……すぐにピタリと空間が閉じたのだった。
読者の皆様へ。
日頃より「幻想回帰節」のご愛読、誠にありがとうございます。
誠に申し訳ございませんが、私生活の多忙(仕事の繁忙期突入)により十分な執筆時間を確保できなかったため、やむを得ず更新日を来週の金曜日まで延期させていただくことになりました。
楽しみにしていただいている読者の皆様にはご迷惑をおかけし、大変申し訳ありません。
次話では、皆様にお楽しみいただける内容をお届けするため精一杯努めてまいりますので、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。
引き続き応援のほど、よろしくお願いいたします。