◆ side:霧雨魔理沙 ◆
五月に入ったというのに、魔法の森は相変わらず雪に覆われていた。
枝葉の隙間から差し込む陽射しは随分と柔らかくなってきた気がするが、肝心の気温は一向に上がらない。木々の根元には厚い雪が残り、森の奥へ目を向ければ、冬の間とほとんど変わらない白い景色が広がっている。
おまけに、今日は朝から風が強かった。
「ったく、いつまで冬を続けるつもりなんだかな」
私は箒に跨がったまま、外套の襟を引き寄せた。
人里の連中も、そろそろ本気で困っている頃だろう。雪が降れば道は塞がるし、畑仕事だって進まない。山に住んでいる妖怪ならともかく、人間にとって季節が変わらないというのは、案外洒落にならない問題なのだ。
もっとも、私がこうして飛び回っている理由は、それだけじゃない。
「……あいつは、今頃どこを調べてるんだろうな」
ふと、創英の顔が頭に浮かんだ。
この前、博麗神社で霊夢と話していた時には、あいつも異変の調査を始めていると聞いた。人里の方で何か見つけたらしいが、詳しいところまでは分からない。
まったく。いつの間にか、すっかり異変解決の常連みたいな顔をするようになりやがって。幻想郷へ来たばかりの頃は、飛ぶことさえまともにできなかったくせに。今では剣を振り回しながら、弾幕まで撃つようになっている。最近じゃ魔力の扱い方まで覚え始めたらしいし、あいつの成長の速さには呆れるばかりだ。
……いや、感心してる場合じゃないな。このままじゃ、そのうち本当に追い抜かれかねない。
「ふん。そう簡単に負けてやるつもりはないぜ」
私は小さく笑い、箒を握る手に力を込めた。
異変の原因を先に見つけるのは私だ。霊夢にも、創英にも、咲夜にも負けるつもりはない。そう決めて、私は再び森の奥へ視線を向けた。
そもそも、今回の調査には一応の手掛かりがある。あの薄桃色の花びらだ。
雪の中を漂っていた、桜の花びらに似た妙なもの。霊夢にも見せたが、あいつは炬燵から出ようともしなかった。
結局、私一人で調べることになったわけだが……。
「……あれから、さっぱり見つからないんだよな」
私は溜息を吐いた。
最初に見つけた時は、そこら中に漂っているのかと思った。ところが、いざ探し始めると、これがなかなか見つからない。
魔法の森を何度か回り、人里の近くまで足を延ばしてみたものの、特に手掛かりらしい手掛かりは得られていなかった。
「もしかして、見つけた場所が悪かったのか?」
私は箒の速度を落とし、眼下の森を見下ろした。
雪の積もった木々の間には、ところどころ細い道が見える。普段なら茸採りにでも使う道だが、今はすっかり雪に埋もれてしまっていた。
そんな景色を眺めながら飛んでいると、不意に視界の端で何かが動いた。
「ん?」
私は顔を上げた。木々の間を、小さな影が横切った気がしたからだ。
最初は鳥か、そこらの木っ端妖怪かと思ったが、それにしては動きが妙だった。枝から枝へ飛び移るわけでもなく、ふわりと宙を滑るように移動している。
(……何だ? 妖精か?)
私は箒を傾け、その影を追った。
すると、雪を被った枝の向こうに、小さな人形が浮かんでいるのが見えた。
「人形……」
青い服を着た、小さな少女の姿をした人形だった。
背中には何か仕掛けでもあるのか、こちらへ顔を向けたまま、空中で器用に姿勢を保っている。
私は思わず目を細めた。森で、人形を使う奴なんざ限られている。
「おいおい。こんなところで人形遊びか?」
そう呟いた瞬間、人形がくるりと向きを変えた。
そして、私の方へ片手を伸ばす。
「……ん?」
次の瞬間、人形の周囲に小さな光弾が幾つも浮かび上がった。
「うおっ!?」
私は反射的に箒を横へ倒した。直後、光弾が先ほどまで私のいた場所を通り過ぎる。
背後の木々へ向かった弾は、幹に当たる直前で弾け、淡い光の粒となって消えていった。
「危ねぇな!」
私は箒を立て直し、辺りを見回した。
すると、少し離れた木の枝の上から、聞き覚えのある声がした。
「あら、ちゃんと避けるのね」
「あん?」
声のした方へ顔を向ける。そこに立っていたのは、金色の髪をした少女だった。
青を基調とした服に、赤い髪飾り。手には一冊の本を抱えている。
その周囲には、先ほどの人形とよく似たものが何体も浮かんでいた。
「……やっぱり、アリスか」
私が名前を呼ぶと、少女――アリス・マーガトロイドは、涼しい顔で頷いた。
「久しぶりね、魔理沙」
「久しぶり、じゃないだろ。いきなり何しやがる」
「別に。少し試してみただけよ」
「何をだよ」
「貴方の反応」
アリスは何でもないことのように答える。全く悪びれることもなく、しれっと言ってのけるその様子に、私は思わず額に手を当てた。
「相変わらず、やることが唐突なんだよ」
「そうかしら?」
「そうだよ。普通は久しぶりに会った相手へ、いきなり弾幕なんか撃たないぜ」
「幻想郷では珍しくないでしょう?」
「まあ、それは否定しないけどな」
私は肩を竦めた。
アリスとは、以前から何度か顔を合わせている。魔法の森に住む魔法使い同士、まったく接点がないわけではない。とはいえ、いつも一緒にいるような仲でもなく、会えば軽口を叩き合う程度の関係だ。
ただ、こいつの人形を使った弾幕には、前から少し興味があった。
魔力で人形を操り、複数の方向から弾幕を仕掛けてくる。私のように、ド派手な火力を叩き込むやり方とは随分と違う。よく言えば理知的で、悪く言えば、いかにも「魔法使い」って感じのインテリな弾幕だ。
「……で、何の用だ?」
「特に用事があるわけじゃないわ」
「だったら、何で撃ってきたんだよ」
「ちょうど新しい人形の動きを試していたところだったの。そこへ貴方が通り掛かったから」
「それで?」
「相手をしてもらおうかと思って」
アリスは本を閉じ、こちらを見上げた。その口元には、僅かな笑みが浮かんでいる。
「どう? 少し付き合ってくれない?」
「弾幕勝負か?」
「ええ。最近、試したい組み合わせが幾つかあるのよ」
「へぇ……」
私は思わず笑った。なるほど。そういうことなら話は早い。
「いいぜ。ちょうど行き詰ってたところだ」
「異変のこと?」
「ああ。って、何で知ってるんだ?」
「貴方がこんな雪の中を飛び回っている理由なんて、それくらいでしょう」
「まぁ、そうだが」
私は帽子の鍔を指先で持ち上げた。
「少しくらいなら構わないぜ。異変の原因もまだ見つかってないしな」
「それなら決まりね」
アリスは枝からふわりと浮き上がった。周囲にいた人形たちが、彼女を中心に円を描くように並んでいく。
私は箒を構え直した。
「手加減はしないぜ?」
「望むところよ」
アリスが小さく微笑む。次の瞬間、人形たちが一斉に動き始めた。
最初に飛んできたのは、細かな光弾の群れだった。人形がそれぞれ異なる方向へ散り、そこから交差するように弾幕を放ってくる。
「おっと!」
私は箒を傾け、弾幕の隙間へ飛び込んだ。
左右から迫る光弾を避け、そのまま上昇する。けれど、アリスの人形はすぐに配置を変えた。
私の進路を先回りするように移動し、今度は頭上から弾幕を降らせてくる。
「なるほど、そう来るか!」
私は笑いながら八卦炉を構えた。掌の中で魔力が集まり、光が膨らむ。
「だったら、こっちはこうだ!」
放った魔力弾が、正面の弾幕をまとめて吹き飛ばした。
光が弾け、雪の積もった枝が大きく揺れる。その隙間を抜け、私は一気にアリスへ距離を詰めた。
「……相変わらず強引ね」
「褒め言葉として受け取っておくぜ!」
アリスは小さく息を吐き、片手を上げる。すると、今度は赤い服を着た人形が数体、私の前へ飛び出してきた。その手には、小さな槍のようなものが握られている。
「……お?」
人形たちが一斉に突進してくる。私は箒を捻り、最初の一体を避けた。
続く二体を魔力弾で弾き飛ばし、最後の一体が迫ってきたところで、箒を大きく振った。
「ほいっと!」
人形は弧を描いて吹き飛び、雪の積もった地面へ落ちていく。
……と、思ったのだが。
「……ん?」
落ちていったはずの人形が、空中でぴたりと止まった。そして、こちらへ顔を向ける。
——その胸元が、淡く光り始めた。
「……おい、まさか」
「遅いわ」
アリスの声が聞こえる。
次の瞬間、人形が盛大に爆ぜた。
「うおおっ!?」
咄嗟に箒を加速させる。背後で光が膨らみ、熱を帯びた風が外套を揺らす。
どうにか直撃は免れたものの、帽子が吹き飛ばされそうになり、慌てて押さえた。
「危ねぇなっ! 自分の人形を爆発させるなよ!」
「戦術のひとつよ」
「怖えーよ! 勿体なくないのか!?」
「元々、使い捨てにする前提で作ったものだから。弾幕も撃たせ切って、魔力も空。なら、後は爆発させるだけ」
「……へぇ、エコロジーだな」
私は感心したように頷いた。こいつもなかなかに容赦がない。
ただし、そんな攻撃を何度も喰らってやるつもりはなかった。
「だったら、こっちも少し本気を出すとするか」
私は箒の上で姿勢を整え、八卦炉を握り直した。
アリスの人形たちが再び周囲へ展開していく。今度は逃げ道を塞ぐように、上下左右へ広がっていた。
……なるほどな。確かに、正面から突っ込めば囲まれる。けれど、弾幕の数が増えたからといって、全部を相手にする必要はない。
私は口元を吊り上げた。
「アリス」
「何?」
「悪いが、そろそろ終わらせるぜ」
眼前に突き出した八卦炉へ魔力を集め始める。小さな炉の中心に、眩い光が灯った。
それを見たアリスが、僅かに目を細める。
「まさか……その構えは」
「とっくにご存じだろ?」
私は笑った。
「派手なのが、私の取り柄だってことをな!」
アリスはすぐに人形たちを動かし、私の周囲へ弾幕を展開した。
けれど、もう遅い。
「恋符——」
魔力が一気に膨れ上がる。
雪の降る森が、白い光に照らされた。
「——《マスタースパーク》ッ!!」
極太の光線が、正面へ向かって放たれた。
アリスの人形たちが展開した弾幕を、眩い光がまとめて呑み込んでいく。
雪の積もった枝が激しく揺れ、押し出された空気が震えた。
「っ!!!」
アリスは咄嗟に人形を集め、正面へ防御陣を作る。幾つもの魔法陣が重なり、光の壁となって私の攻撃を受け止めた。
……けれど。
「守りごと押し切るぜ!」
私はさらに魔力を注ぎ込んだ。
光線が一段と太くなり、防御陣へ亀裂が走る。そして次の瞬間、ぱきん! と乾いた音が響いた。
魔法陣が砕け、光の壁が崩れ去る。
「きゃっ!?」
アリスの身体が後方へ押し流されるのを見て、私はすぐに八卦炉から手を離し、魔力の放出を止めた。
光が収まり、森に静けさが戻る。舞い上がった雪が、ゆっくりと地面へ降り積もっていった。
「ふぅ」
小さく息を吐く。正面へ目を向けると、アリスが少し離れた場所で姿勢を立て直していた。
服に目立った傷はない。周囲の人形たちも、幾つかは動きを止めているものの、大半は無事らしい。
「大丈夫か?」
「……ええ。問題ないわ」
アリスはそう答え、軽く髪を払った。その表情には、悔しさよりも考え込むような色が浮かんでいる。
「……やっぱり、アレは正面から受けるものじゃないわね」
「だろ?」
「分かってはいたんだけれどね」
「分かってるなら避ければよかったじゃないか」
「そうしたら、試したかったことが試せないでしょう?」
「……ああ、なるほど」
私は思わず笑った。こいつにとっては、勝ち負けだけが目的じゃなかったらしい。
まあ、研究熱心な魔法使いというのは、こういうものなのかもしれない。
「それで、満足はしたか?」
「ええ。おかげで、幾つか改善点が見つかったわ」
「そいつは何よりだぜ」
私は箒を降ろし、雪の積もった地面へ足を着けた。アリスも、近くにいた人形たちを周囲に伴って、ゆっくりと降りてくる。
「それにしても、魔理沙」
「ん?」
「貴方、相変わらず無茶苦茶な魔力の使い方をするのね」
「そんなに褒めるなよ、照れるぜ」
「呆れてるのよ」
「ははっ、そいつは残念だな」
私は肩を竦めた。アリスは小さく溜息を吐いたが、その口元には僅かな笑みが浮かんでいる。どうやら、悪い気はしていないらしい。
「……さて、と」
私は箒を持ち直した。
「そろそろ私は行くぜ。異変の調査も進めないといけないしな」
「そうね。引き留めて悪かったわ」
「別にいいさ。こっちもいい運動になったしな」
そう言って箒へ跨がろうとした時だった。
「ああ、そうだ。魔理沙」
「……ん?」
アリスが何かを思い出したように声を掛けてきた。
「ちょうどよかったわ。貴方に頼みたいことがあるの」
「頼み?」
「ええ。人里へ行く機会があったら、これを届けてほしいのよ」
そう言って、アリスは服の内側から細長いものを取り出した。
これは……髪紐か?
「何だこれ」
「見ての通り、髪を結ぶための紐よ」
「それは分かるんだけど、何でこれを私に?」
「森の外れで拾ったのよ。持ち主に返そうと思っていたんだけど、なかなか会う機会がなくてね」
アリスはそう言って、髪紐を差し出した。
私は受け取り、指先で軽く広げてみる。特別な飾りが付いているわけでもない、普通の髪紐だった。
……ただ、この髪紐には何となく見覚えがある。
「なんか見覚えがあるんだけど、これ誰のだ?」
「時崎創英のよ」
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
「え、創英?」
「ええ」
「何でお前が、あいつの髪紐なんか持ってるんだ?」
「だから、拾ったって言ったでしょう?」
「いやそうじゃなくて」
私は髪紐を見下ろした。
創英の髪が長くなっていることは知っている。最近は後ろで纏めていることが多いし、こういう紐を使っていても不思議ではない。
でも、問題はそこじゃない。
「お前、創英と知り合いだったのか?」
「ええ。何度か会っているわ」
「いつの間に……ってか、何度かって、何度も会ってるのか?」
「そうね。最近は、割と頻繁に会っていたわ」
アリスは何でもないことのように答えた。
私は思わず目を瞬かせる。
「ちょっと待てよ。頻繁に?」
「ええ」
「何でだ?」
「魔力の扱い方を教えているからよ」
「…………はぁ? いや、待て待て、どういう事だ???」
今度こそ完全に言葉を失った。
創英が最近、魔力の操作を覚え始めたという話は当人から聞いている。けれど、まさかその相手がアリスだったとは夢にも思わなかった。
「お前が、創英に?」
「そうよ」
「魔力の扱い方を?」
「何度も言わせないで頂戴」
アリスは少し呆れたように眉を寄せる。
私は額に手を当てた。
「……マジかよ」
「そんなに驚くこと?」
「驚くに決まってるだろっ!」
思わず声が大きくなった。
「だってあいつ、もともとは退魔師だぞ!? 魔力なんて使わなくても、霊力だけで十分戦えるだろ!」
「だからといって、使える力を放っておく理由にはならないでしょう?」
「いや、そりゃそうだけど……」
私は言葉を詰まらせた。確かに、アリスの言う通りではある。
創英が魔力を扱えるようになれば、それだけ戦い方の幅は広がる。しかも、教えているのがアリスだというなら、変な癖を付けることもないだろう。
……いや待て。そういやこいつ、人形遣いだぞ? まさか創英まで人形を使い始めたりはしないだろうな?
「おいアリス」
「何?」
「創英に変なこと教えてないだろうな?」
「変なこと?」
「人形の作り方とか、操り方とかをだよ」
「教えてないわよ」
「本当か?」
「ええ。今のところはね」
「今のところって何だよっ!?」
アリスはくすりと笑った。
……こいつ、私の反応を見て面白がってるな。
「まあ、安心しなさい。今は基本的な魔力操作を教えているだけよ」
「そうか……」
「彼は飲み込みが驚くほど早いわ。教えたことをすぐに覚えてモノにするから、こちらとしても教え甲斐があるのよ」
「へぇ?」
私は思わず口元を緩めた。なるほどな。あいつ、そんなところでも頑張ってるのか。
……少し前まで、魔力の存在すら知らなかったはずなのに。
まったく。本当に、目を離している間にどんどん成長しやがるな、あいつは。
「……それで、魔理沙」
「ん?」
「髪紐、届けてくれるの?」
「ああ、任せとけ」
私は髪紐を握り、外套の内側へしまった。
「どうせそのうち会うだろうしな。見つけたら返しておくぜ」
「助かるわ」
「しかし、何でこんなところに落としていったんだろうな」
「さあ? 風にでも飛ばされたんじゃないかしら」
「あー……まあ、今日は風が強いからな」
私は空を見上げた。木々の枝が揺れ、積もった雪がぱらぱらと落ちてくる。確かに、こんな風なら髪紐くらい簡単に飛ばされそうだ。
「……さて、今度こそ行くぜ」
「ええ。気を付けて」
アリスは軽く手を振った。
私は箒へ跨がり、雪の積もった森の上へ舞い上がる。冷たい風が頬を撫でた。
「それじゃ、またな!」
「ええ。また」
アリスの姿が木々の間へ小さくなっていく。私は前方へ向き直り、箒を加速させた。
……それにしても、創英とアリスが知り合いだったとはな。しかも、魔力の扱い方まで教わっているとは。
「……ふっ」
思わず笑みが漏れた。どうやら、あいつも私の知らないところで色々やっているらしい。
だったら、なおさら負けてられないな。
私は帽子の鍔を押さえ、さらに速度を上げた……その時だった。
「ん?」
視界の端に、薄桃色の何かが映った。白い雪の中を、ふわりと漂っている。
私は反射的に箒の速度を落とした。
「あれは……」
桜の花びらに似た、妙なもの。以前、霊夢へ見せたものと同じ奴だ。
「……ようやく、見つけたぜ」
私は口元を吊り上げた。
花びらは風に流されるように揺れながら、木々の上をゆっくりと進んでいく。
私は手を伸ばし、それを摘まもうとした。けれど、指先が触れる直前で、花びらはふわりと向きを変える。
「おっと……」
私は箒を傾け、後を追った。すると、少し離れたところにも、同じ薄桃色の花びらが漂っているのが見えた。
一枚だけではない。雪の中を、幾つもの花びらがゆっくりと流れている。
「……なるほどな」
私は目を細めた。どうやら、こいつらは似たような方向から流れてきているらしい。風向きだけでは説明できないような、妙な動き方をしている。
……ってことは。
「あっちに何かあるのか?」
私は花びらが漂ってきた方向へ目を向けた。
雪雲の向こうには、白く霞んだ空が広がっている。その先に何があるのかは分からない。けれど、少なくとも、ようやく手掛かりらしいものが見つかった。
「……よし」
私は箒を握り直した。
アリスとの勝負で、少しばかり魔力を使った。けれど、まだまだ余裕はある。むしろ、身体が温まってちょうどいいくらいだ。
「待ってろよ、霊夢。創英」
私は小さく笑った。
「異変の原因は、私が先に見つけてやるぜ!」
そう言って、箒を加速させる。雪の降る森を抜け、薄桃色の花びらが漂ってきた方角へ。
長い冬を終わらせる手掛かりを求めて、私は白い空へ飛び込んでいった。