その日の月夜市は、とにかく変だった。
「あら、雪?」
「えっ、こんな季節に?」
「でも、綺麗ね……」
空からは雪が降り注いでいた。夏も近い季節だというのに……。それだけでは無い、街のあちこちで奇妙な事が起こっていた。乗用車同士が正面衝突事故を起こし、
「おい!いきなり前に現れてどういうつもりだ!」
「はあ!?いきなり前に現れたのはそっちだろ!?」
魚が空を泳ぎ、鳥が地面を這いずっている。
「どういう事だ?」
「写真撮っておこう」
かなり昔に亡くなったお札にも描かれている人物が喫茶店に来店し、
「え?何あれ?このお札とそっくりなんだけどあの人」
「コスプレかなあ……?」
飛び降りを図った男は上空へと落ちていった。
「ああああああああああああああぁぁぁぁっ!?」
このように月夜市では奇怪な出来事が頻発し、街はパニックに陥っていた……。
「一体どうなっているの……?」
「月夜市がおかしいぞ……」
「これは、夢なのかしら?」
人々が口々に言う。するとそこに、どうにも形容するのに困るが、半分が赤色、もう半分が青色でフジツボのような突起がいくつもついた巨大な物体が姿を現すのだった。
◇ ◇ ◇
月夜市内にある城東大学でも異変は起きていた。水道から火が出たり、物体がまるで無重力空間の様に空を舞ったり、通路がまるででたらめな場所に繋がったりしていて、混乱が生じている。
「ああもうどうなってるの!?」
ワトが階段を降りて避難しようとするが、階段を降りても降りてもまったく下の階に行けない。まるで何かのだまし絵の様に階段がループしているかのようだ。
「さっきから写真を撮っても去年亡くなった爺ちゃんの顔しか写らないぞ!どうなってんだ!?」
トオルは窓から見える怪獣の姿を撮影しようとしているが、上手くいかず、去年亡くなった彼の祖父の写真しか写らないようだ。まるで心霊写真の様である。
「会長!何やっているの!?早く避難しないと!」
ワトはトオルに声をかけるが、トオルは上の空で、
「爺ちゃん……。俺、まだ死にたくないよ……」
と呟いていた。
◇ ◇ ◇
その頃地球防衛隊の基地では、隊長が部下達に指示を飛ばしていた。
「各員戦闘配置につけ!あの怪獣を倒すんだ!」
「はい!」
そうして、防衛隊の部隊は発進していく。
◇ ◇ ◇
その頃レオはというと、講義室に居た。その講義室内は上下が逆さまになっていたが。
「何が起こっているんだ……?」
そう呟くレオにメカ子が、
『マスター、この月夜市に大規模かつ無秩序な四次元空間が発生しています。キャンパスや街で起こっている異変はそのせいかと』
淡々と話す。すると、同じく講義室に居たプラミー教授は、
「間違いない。怪獣の姿を見たがあれはブルトンだね」
と言う。
「ブルトン?」
レオのその言葉にプラミー教授は、
「うむ、宇宙に伝わる伝説の怪獣で、宇宙の不条理そのものの具現化と呼ばれている存在だ。四次元空間を操り、ブルトンがひとたび現れた場所はカオスな事になるという……」
と説明した。その頃、月夜市内ではブルトンの出現に対して出動した戦闘機隊が周辺の市民の避難を確認し、ミサイル攻撃を放つ。すると、ブルトンの突起からアンテナの様なものが伸びてくる。すると、ブルトンに放たれたミサイルは消えてしまう。
「何が起こった!?」
驚く防衛隊のパイロット。すると、防衛隊の戦闘機隊の後方から消えたミサイルが出て来た。
「なっ!?」
回避しようとするが、戦闘機隊はミサイルが命中し被弾してしまった。
「何てことだ……!」
レオはその光景を見て呟く。次は防衛隊の戦車隊が到着し、ブルトンに砲撃を加えるが、ブルトンはまたもアンテナを伸ばす。すると今度は戦車隊が消えたかと思うと、そこから50mくらいの上空に出現してそのまま地面に落下していった。
「あれは不条理の塊だ。この星の人間の現時点での科学力ではどうにもならないだろう。ウルトラマンでも勝てるかどうか……」
あくまで冷静に状況を分析するプラミー教授。
「どうすればいいんですか!?」
と叫ぶレオにプラミー教授は、
「今の我々にできる事は祈る事だけだ。ウルトラマンが来る事をね……」
と言うのだった……。
◇ ◇ ◇
四次元空間の内部でブルトンは謎の笑い声をあげていた。その笑い声はキャンパス内にも響いており、それを聞いた人々は恐怖するのだった。
「くっ……、ウルトラマンでも勝てるかどうかだって?でもやるしかないよな……」
レオは講義室を出て、ブルトンと戦いに行く為に走っていた。そして構外に出る為にドアを開ける。すると、
「!?」
レオがドアを開けた先は前に倒したギランボの屋敷のリビングになっており、そこでは人間の姿のギランボが紅茶を飲んでいた。
「あら?」
と、レオを見るギランボ。レオは、
「き……、君は、死んだ筈だ……」
と震えながら言う。ギランボは紅茶をテーブルに置くと、
「私ならここに居るわよ」
と言ってレオに抱きついた。
「あ……」
逃げようとするレオだが、異次元人であるギランボの力は中々強く、振りほどけない。
「そ、そうか、時空が歪んでいるから死んだ君もここに居るんだ……」
「ねえ、そんな野暮な事は言わないで?今はこの逢瀬を楽しみましょう……」
「いや、でも……」
レオはギランボから離れようとするが、ギランボはその小さくない、柔らかな胸を押し付けてくる。
「うふふ……、レオのここ、硬くなってるわよ?」
「いや、これは……」
「ねえ、私の事好き?私は貴方の事大好きよ。貴方は私と一緒になる運命なの。さあ、ここで一緒になりましょ?」
そう言ってギランボはレオをソファに押し倒す。レオは正直性欲に身を任せたかったが、
「ごめん……。今はそんな場合じゃないんだ」
サンフラッシャーを起動し、人間大のウルトラマンテラスになる。そして、抱き着いていたギランボを優しく引き離して、
「さようなら……」
と言い残し、四次元空間の外へ出て行く。
「ああっ!待って!」
ギランボはテラスを追いかけるが、テラスは既に建物の外に出ており、そのまま飛び去った……。
◇ ◇ ◇
月夜市内のブルトンは、転がるように移動する。その度に物体が空に浮かんだり、逆に突然開いた穴に落ちたりした。そんな中、テラスはブルトンの前に降りたつ。
「ジュアッ!」
ファイティングポーズを取るテラス。ブルトンはアンテナを伸ばし、そこから光線を放つ。テラスはバリアでその光線を防御する。すると、ブルトンはアンテナを回転させる。そうすると今度は、何もない場所からセイウチの様な姿の怪獣、トドラが出現した。ブルトンの能力によって呼び出されたのである。牙を振りまわしてテラスに襲い掛かるトドラ。
「ジュッ!」
テラスはトドラにチョップを食らわせる。しかし、トドラはビクともしない。そしてそのままテラスに噛みついた。
「ジュアッ!?」
苦しむテラス。すると、ブルトンのアンテナがさらに回転した。今度は、テラスの足元が陥没する。抜け出そうとするテラスだが、トドラの攻撃もあって中々上手くいかない。その長い牙をテラスに突き刺そうとするトドラ。
その時、光弾が飛んできてトドラの背中に命中する。思わずテラスから離れるトドラ。光弾を発射して来たのはテラスを助けに来たバルタン星人サヨメだった。
(サヨメさん!)
テラスはサヨメにテレパシーで呼びかける。すると、
(レオ!無事だったか!)
と返事が返ってくるのだった……。
「ジュア!」
トドラに向かって走るテラス。その勢いのまま飛び蹴りを食らわせるが、トドラの牙によって弾かれてしまう。しかし、テラスも負けじとその長い牙を掴む、そして手にエネルギーを纏わせてチョップでトドラの片方の牙を叩き折る。
「ジュワッ!」
悲鳴の様な声を上げるトドラ。テラスは立て続けにチョップを食らわせ、最後にキックで吹っ飛ばす。一方サヨメは光線でブルトンを攻撃するが、ブルトンはバリアを発生させて光線を防ぎ、反撃とばかりに周囲の瓦礫を浮かせてサヨメに向かって投げつける。
「ジュアッ!」
テラスはサヨメの盾になるようにして瓦礫を受け止める。そして、そのままブルトンの方へ押し返す。それを何とか避けるブルトン。テラスも光線を発射してブルトンにダメージを与える。
(今だ!)
テラスの声に頷くと、サヨメはトドラに向かって必殺の光波手裏剣を放つ。光の手裏剣は回転しながら飛び、見事にトドラの首を切り落とした!
(やった!)
と喜ぶテラスだったが、ブルトンは身体から複数のアンテナを伸ばして回転させる。すると、サヨメの姿が消えてしまった。
「ジュアッ!?」
◇ ◇ ◇
サヨメが飛ばされた先は、
「ここは……」
どうやら月面の様だった。ブルトンの能力で月に飛ばされ、サヨメが戻ってくるのに時間がかかるだろう……。一方、地球の月夜市ではテラスがブルトンの四次元攻撃に晒されていた。何もない場所からの爆発や、地面を陥没させてくる攻撃などに翻弄されるテラス。
(くっ……)
何とか攻撃を避けながら、ブルトンに接近するテラス。そして、そのまま飛び蹴りを食らわせるが、やはりビクともしない。今度はブルトンからの攻撃が始まる。四次元光線でテラスを攻撃するブルトンは、さらにアンテナを回転させる。だが、ブルトンのアンテナを掴み、千切り取った者が居た。
「ジュアッ!?」
驚くテラス。ブルトンのアンテナを千切ったのは、かつて地球を守り、そして何時しか現れなくなった筈のウルトラマン、ウルトラマンアヴァンだった。
「あれは!」
「ウルトラマンアヴァンだ!」
アヴァンの出現に嬉しそうな顔をする年配の市民。アヴァンはテラスに、
「ジュアッ!」
と声をかけ、ブルトンを見据える。そして、ゆっくりと歩み出すのだった……。
ブルトンはアンテナを回転させ次々と2人のウルトラマンに攻撃していくが、2人のウルトラマンはその攻撃をくぐり抜けてブルトンに接近し、ブルトンから伸びるアンテナを次々と千切っていく。
「ジュアッ!」
「フッ!」
と2人のウルトラマンは頷く。そしてアヴァンは光線を、テラスはサンジェント光線をそれぞれブルトンに向けて放つのだった。
2人のウルトラマンの光線を受けたブルトンは、そのまま爆発し小さくなっていったのだった……。
「ジュッ……」
「シュワッ」
しばし視線を交える2人のウルトラマン。すると、アヴァンは小さくなったブルトンを拾って握り、そのまま空へと飛び去っていった。それを見ていたテラスも空へ飛び立つのだった。
◇ ◇ ◇
「おそらくあのウルトラマンアヴァンは、ブルトンの影響で過去の世界からやって来たのでしょう」
事件解決後、インタビューを受けるプラミー教授。
「ウルトラマンアヴァンが、再び私達の前に現れることはあるのでしょうか?」
その質問にプラミー教授は、
「わかりません。しかし、人がそう願う時、ウルトラマンは現れるのでしょうな」
と、答えたのだった……。一方星雲荘に帰って来たレオ。
「今日は大変だったな……。ん?」
自分の部屋のテーブルの上に何か置かれていた。それは中にお菓子が満載されたハロウィンのカボチャ型の入れ物と、
「こ、これは……!パ、パ、パン……」
どう見ても女性用のアレであった……。そして、書置きも置いてあり、こう書かれていた。
『愛しのレオへ、寂しくなった時はそれで私を思い出してね♡ギランボより』
「……」
レオは無言でその書置きを丸めてゴミ箱に投げ捨てると、そのままベッドに横になった……。
「もう寝る!」
こうして月夜市の夜は更けていくのだった……。
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等お待ちしております。