TRK26 - To the next century 地域再生!? 女子高生ストリッパー・鈴木桜の挑戦   作:添牙いろは

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星見野のアイドル事情

「い、いやいやいやいや!! 私、ここの人間じゃないですし!?」

 反射的に首をブンブン振る。ここでまさかのスカウト展開!?

「なんや、自分のチームがあるんか?」

「そ、それは……」

 燎さんの目は真っ直ぐで、逃げ道を見つけられない。だから、私は嘘をつくことができなかった。

「部活はあって……けど、メンバーが……」

 それを聞いて、燎さんはフッと笑う。

「出場には最低四人必要なんやろ? ほんなら、あたしらでちょうどええやん!」

「えええっ!?」

 いや、待って。展開が急すぎる!

「安心しぃ。ストリップ・アイドルをこの地に持ち込んでくれたお前を差し置いて、あたしらが自分たちの手柄にするほど腐っとらんて」

 そこはこだわってるところじゃないんだけど。

「つまりな……」

 燎さんは堂々と上段に構えて。

「あたしらが鈴木のチームに入るんや!」

「私の!?」

 目を丸くする私に、燎さんはさらに真剣な目で続ける。

「顧問がどんなヤツかも、学校がどんなとこかも知らん。でも、鈴木。お前が選んだ舞台やったら、あたしはお前を信じるで」

 その言葉が、まるで強い風のように私の心に吹き込んできた。燎さんは、私を真っ直ぐに見つめている。こんなに信じてもらえるなんて――

 けどここで、隣から綾ちゃんの震える声が聞こえてくる。

「水差すようやけど……その四人、もしかしてわたくしも入っとるんです……?」

 燎さんは当然のように頷く。

「当たり前やろ」

 その一言に、綾ちゃんの顔色が真っ赤に爆発した!? うん、その反応は普通だと思う。

 だけど……いや、顔は真っ赤なままなんだけど。

「……はぁ、仕方ないですわね。燎ちゃん、ほっといたらナニやらかすかわからんきん」

 いえ、いままさにやらかしてる最中なんですが。

「そのー……あまり無理しないほうが……」

 こういうのには、向き不向きがあるわけですし……

「いいえっ、わたくしだけ除け者なんて、寂しいやん!」

 綾ちゃん、そんなこだわりポイント!?

「みんなが一丸となっとるんに、わたくしだけカヤの外なんて……そんなの、自分が許せへんっ!」

 綾ちゃんは拳をギュッと握って、涙目で言い切った。その真剣な顔を見て、私は言葉を失う。綾ちゃんの友だちへの思いは想像以上に深いらしい。

「青山もやるやろ?」

 燎さんが当然のように澄香ちゃんに視線を向ける。その問いかけに、澄香ちゃんは一度スマホから顔を上げて、ゆっくりと頷いた。

「望むところ」

 えっ!? なんでそんなに即答なの!? 澄香ちゃんの言葉は短いけれど、その瞳には揺るぎない覚悟が宿っていた。そして、その後またすぐにスマホに視線を落とす。画面には――ああっ! 過激な画像が並んでる! 年齢制限マークがバッチリ表示されるであろうやつ!! アイドル大好きなのはさっき実感したけど、自分自身が踏み込むのにも躊躇ないんだ!

 私の頭の中に警報が鳴り響く。なんか一気に後戻りできないところまでぶっ飛んできた気がするんだけど!?

「まあ、いきなり言われて驚くんも無理はないわな」

 燎さんは落ち着いた様子で私に向かって言う。

「けどな、昨日のお前のパフォーマンスを見て、あたしもほんま衝撃受けたんや」

 その思いは――言葉以上のもので、昨日受け取っている。みんなの前で踊ったあの瞬間――私なりに必死でやったことが、誰かにちゃんと伝わっていたって。

「あ、ありがとうございます……」

 素直にお礼を言うと、燎さんはフッと笑って――

「だからよ、あたしのストリップも見せちゃる! ついてこいや!」

 と言い放つ。

「えっ!? えええええっ!?」

 有無を言わさぬ力強さに、私は思わずその場で飛び上がりそうになっちゃったよ!

「まっ、待って! 私、その……ここで待っててって言われてるから!」

 何とか必死に引き留める。だって、ここから動くなってのは優菜ちゃんとの約束だったし!

 けれども、この程度で怯む燎さんじゃない。

「ふぅむ……ならええわ。ここで見せたるわ」

「はあぁっ!? ここ!? どこ!? ここでっ!?」

 私の心臓がドクンッと跳ね上がる。ここ、塾の玄関のすぐ傍だよね!? 誰かが出入りしたら、簡単に覗き込めちゃう場所だよね!? そんなところで、一体何を披露する気なの!?

 燎さんはスマホを操作中。これ、絶対歌って踊り始めるやつじゃん! しかも……私たちが目指すのはストリップ・アイドル!

「ちょっ、燎さん! こんな場所じゃダメですって! もっと奥! 奥に行きましょう!」

 私は全力で燎さんの背中をぐいぐい押していく。だって、ここは傍に玄関あるし、誰かが出入りしたら丸見えじゃないですか!

「澄ちゃんはあっちから人が来んか見張っとって! わたくしはこっちを!」

 ピシャリと綾ちゃんが指示を出す。なんて頼もしい! けど……澄香ちゃんはスマホに夢中で、ちゃんと見張れるのかちょっと心配。

「ひゃ~……も~……燎ちゃん、言い出したら聞かんきんなぁ」

 綾ちゃんはちょっとだけ不安そうな顔をしつつ、自分の持ち場へと向かっていく。ああ、もう、こうなったら私も最後まで付き合うしかない……!

 燎さんは音楽をセットすると足元に置く。そして、スッと片手を挙げて大きく息を吸った。ただそれだけのことなのに――綺麗な姿勢――何度も鏡の前でチェックしてきたんだろうな、ってのが伝わってくる。

 そして、流れ始めたのは――おお~……『 Beyond after school(ビヨンド・アフター・スクール)』だ。お父さん世代の名曲として何度もいろんなところで話題に挙がるからみんな知ってる。

「一ページずつ~破り捨ててく教科書~ッ♪」

 わっ! めっちゃうまい! いやいやいやいや、普通にすごいんですけど! 技術的に云々ってより、全身から声が放たれてる感じ。お腹の底から力強く響いてくる歌声は、まるでステージ上のスターそのもの。

 それに、ダンスもすごい! 振り付けが完璧すぎるし、手足の動きに迷いが一切ない。きっと、長い間練習してきたんだろう。燎さんもまた、澄香ちゃんと同じくらいにアイドルに入れ込んできたんだなぁ。

 しかも……こ、これ……燎さんのボタンが外れていく――!

 ブラウスの前身頃をふわっと開きながら、クルリと回ってステップを踏む。元曲にこんな振り付けはないから、ここがストリップ・アレンジなのだと思う。動き自体はキビキビで、高度にまとまっていて……基礎からしっかり積み重ねてきたうえでのアレンジ、って感じだ。

 けど――!

 ちょっと待って! それ以上はダメ――!

 心の中で叫びながらも――止められなかった。やっぱり私は――燎さんのパフォーマンスを観ていたかったから。

 ヒラヒラしていたブラウスから腕を抜いて放り捨てる。続いて、スカートのホックをサッと外し、腰をくねらせながら曲線を撫でるようにゆっくりと下ろしていく。この手際……なんかもう、これプロじゃない!?

 そして――この時点でまさかの全裸!? ……あー……そっかー……パンツも売っちゃってたんだなぁ……。深緑の隙間から射す木漏れ日が健康的な肌を照らし、燎さんのシルエットが幻想的に浮かび上がる。もはや美しさすら感じるほど堂々としていて、潔い――

 もし、誰か来たら大変なことになってしまう。そんなことはわかっている。だけど――私はつい、魅入ってしまった。裸のまま二番を歌って踊り、大サビに向かっているところで――見えるはずのないものが、私には見えてしまっているから。

ブラとパンツが――まるでそこに“ある”かのように。

 これは、ただのダンスじゃない。

 指先の動き、腰のうねり、細かな仕草――それらはまるで、見えない衣装を脱いでいるかのよう。

 こんなの、本当に魔法みたい。

 ――ストリップ・アイドル。

 全国大会では、適当に脱いだだけでは通じない。そこにはある種のルールがあり、セオリーがある。一番と二番の間で下着になり、二番から大サビに向けて――いまがまさに、そのときだ。

 燎さんは、それをしっかりと押さえていて――いや、もっとその先まで知っている。

 最初は止めようと思っていた。けれど――気づけば曲が止まり、私は最後まで見届けてしまっていた。そして、無心で拍手を送っている。

「燎さん、すごい! 上手です! 最近始めたものじゃないですよねっ!?」

 私は心の底から思ったままの言葉をぶつける。燎さんは――ほんの少しだけ、照れたように笑ってくれた。

「ははっ……まぁ、子どもの頃はアイドルに憧れとったきんなぁ」

 そして、その想いはいまも続いている。

「親父に無理言うてオーディションまで受けさせてもろたこともあるんよ」

「すごい!」

 思わず大きな声を出してしまった。

 けれど――

 燎さんが、少しだけ遠くを見るように目を細める。その視線の先には過去の自分がいるのかもしれない。

「で、まー……さすがに落ちたんやけどな。そんとき親父、何て言うたと思う?」

 私は黙って続きを待つ。その答えが、良いものじゃないってことは、燎さんの表情だけで分かるから。

「『気は済んだか?』やて」

 ――その言葉が、重く胸に突き刺さる。

 自分の夢を、最初から信じてもらえてなかったこと。

 夢にかけた情熱や努力を、「気は済んだか」の一言で片付けられてしまったこと。

 それはどれほど、痛くて苦しかっただろう。

「ま、いまさらどうでもええわ。親なんてそんなもんやしな」

 燎さんは笑ってみせたけれど、その表情はどこか寂しげ。私は、なんて声をかければいいんだろう――そんなわずかな沈黙を切り裂くように――

 

「それで、“あんな酷いこと”したわけ?」

 

 不意に聞こえたその声に、私はビクリと肩を跳ね上げる。振り返ると、そこには――

「優菜ちゃん!? じゅ、授業は!?」

 どうして――こんなところに――!?

「親友が危険な目に遭ってるかもしれないってのに、呑気にお勉強なんてしてらんないでしょ」

 ――親友。その言葉が、心に温かく広がる。従姉妹じゃなくて、親友って呼んでくれたことがすごく嬉しかった。

「なんやテメー。見せもんやないで」

 えっと……確かに、全裸なんだけど……なんでこんなに凄みがあるんだろう。普通、スッポンポンってだけで威圧感ゼロになるはずなのに。

「てか、青山は何を見張っとったんや」

 燎さんは澄香ちゃんのほうをちらりと見やる。当の澄香ちゃんは、いまもスマホに夢中だ。これに、優菜ちゃんは呆れて苦笑。

「来るとき北高のコいたけど、チラっと一瞥されただけで、普通に通してくれたよ」

 ……ああ、たぶん澄香ちゃんは『男の人だけ通さなければいい』って思ったんだろうなぁ……。なんというか、澄香ちゃんらしい。燎さんは、やれやれ、と額に手を当てるが、怒っている様子はない。まぁ、いつものことなんだろうな。

「ともかく、見ての通り危険な目に遭っとらんきん、お前はもう帰れや」

 いやいやいや、ある意味現在進行形で危険だと思うよ!? いろいろと!

 これに、優菜ちゃんは一歩も引かず、むしろ堂々と踏み込んでいく。

「危険な目に遭う前にさくっちは連れて帰るけど!」

「そうはいかんわ! まだ話は終わっとらん」

 燎さんの眼差しは真剣そのもの。

「優菜ちゃん、この人はそんなに危ないわけじゃ……」

 言いかけた瞬間、優菜ちゃんは強い口調で私を遮る。

「ナニ言ってんの! ソイツはね……」

 キッと燎さんを睨み、そして――

「新年早々、村中を暴走するようなヤツなのよ!」

「えっ……?」

 村中を、暴走――? どういうこと!? 何それ!? ドラマのワンシーン!?

 けれど、それは創作物語などではなく――燎さんの顔が、さっきまでの余裕に満ちていた表情から一転して苦々しく歪む。その目は過去の後悔と、拭えない罪悪感を映しているように見えた。優菜ちゃんは、その身に揺るぎない怒りと、少しの悲しみを宿して訴える。

「それに巻き込まれて……うちのお父さん、大怪我するところだったんだから!」

 その言葉が放たれた瞬間、時間が止まったかのような静寂が訪れる。私は息を飲み、燎さんの反応を待っていた。

「お前……海望旅館の……?」

 燎さんの声は震えていた。まるで、封じ込めていた記憶が一気に溢れ出たかのように。

「そうよ! 幸い軽い打ち身で済んだけど……」

 優菜ちゃんの声は張り詰めているけれど、涙を堪えているようにも感じる。

「あれは……ほんまに悪かった。あれからバイクはすっぱり辞めたし、ちゃんと謝罪して賠償もしたんや……」

 その言葉に嘘はない。燎さんはもうバイクを降りて、自転車でここまで来たのだ。それに、海望旅館の車が新しくなっていた理由も――きっとそのとき新調されたのだろう。

「もしかして、急に勉強を頑張り始めたのって……」

 優菜ちゃんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに表情を引き締める。

「そこに最悪の反面教師がいるからよ!」

 その言葉は、鋭い刃物のように燎さんへと突き刺さる。けど優菜ちゃん、事故のことなんて、何も話してくれなかったのに。それだけ、ショックだったんだろうな。言葉にできず、自身のすべてを変えてしまうほどに。

 けれど、燎さんは――過去を受け止めながらも、前に進もうとしている。まっすぐな瞳で、優菜ちゃんを見つめ返して。

「けどな、ストリップは暴走とちゃう。危ないことなんてナンもないし、全国大会もあるんやろ? お前に止める権利はないはずや」

「ある!」

「ねぇわ」

「あるもん! だって……私……私……」

 短い攻防の末、優菜ちゃんは拳をぎゅっと握りしめ、俯いた。その肩は小刻みに震えている。でも――その震えが止まると、彼女は力強く顔を上げた。

「さくっちとストリップ大会に出るのは、私なんだから!」

 その言葉に、私の胸が熱くなる。嬉しい。嬉しいけれど――こんな形で言い争いをしてほしいわけじゃない。

「優菜ちゃん……」

 私にはその名を呼ぶことしかできなかった。だけど、燎さんは驚きもせず、ただじっと優菜ちゃんを見つめる。しかし、その口元には、かすかに笑みを浮かべると――

「ほんなら……見せてみいや。お前のストリップっちゅうヤツを」

 えっ!? いまここで!? いやいやいや、待って、待って!! なんでそうなるの!? けど――燎さんのこの状況、これ以上の説得力はない。

 だから、優菜ちゃんも――覚悟を決めたのだろう。後ろを振り向いたのは逃げるためじゃない。これから立ち向かうためのものだ。

「いいわっ、見せてあげる」

 周囲に他の人がいないのを確認すると――優菜ちゃんは前を向いた。その瞬間、空気がピリッと張り詰める。まるで、ステージの幕が上がる直前のような緊張感。そして――取り出したのは二本のヘアゴム……? それを――頭の右上のほうで軽く束ねて結んで――同じように、左側も――その動作は、どこか神聖で、どこか儚くて、そして――

 おおおお……っ! 優菜ちゃんのツインテール……! 今年ずっと下ろしていた髪を、ふたつに束ねて……!

 燎さんは腕を組み、その様子をじっと見つめる。私はというと――ただ、ドキドキしながら見守ることしかできない。この一瞬に、何かが変わった――そんな予感が、静かに胸を締めつける。

「……優菜ちゃん、かっこいい……!」

 ここまで、ずっとギクシャクしていたけれど、ここにきて――ようやく、私の知っている優菜ちゃんが帰ってきてくれたんだ――

 スマホを操作して音楽を流し始める優菜ちゃんの手つきは完全に()()()()()()――優菜ちゃん、絶対、ずっと練習してたよね!?

 スピーカーから流れ出したのは、未兎ちゃんの『ブラザー・コンプレックス』。最近リリースされたばかりの可愛らしい曲だ。

「お、おぉっ……!」

 イントロから、私はつい前のめりに。だって、優菜ちゃんのダンス――めっちゃキレッキレ! 手足の動き、表情、目線……どれをとっても完璧。でも、それだけじゃない。オリジナルのはずの脱衣パートも、まるで元からあった振り付けみたいだ。

 ブラウスの前を軽やかに開き、スカートもリズミカルに揺らしながら――その動きに原曲にはなかった『挑発』や『可愛らしさ』の要素が組み込まれてる。う、うわぁ……! 未兎ちゃんの楽曲の『弟への可愛らしい愛情』が、ひとりっ子の優菜ちゃんからしっかりと伝わってくるよ。ツインテールも相まって、これはもう……可愛さが限界突破!

 そして、曲が終わって――その瞬間、私は思わず全力で両手を叩く。

「すごいよ! それに、カワイイっ!」

 素直な言葉が溢れ出る。息が切れた優菜ちゃんは、少し照れくさそうに微笑んだ。脱ぎきった後の首元に銀のペンダントだけが残されてるのって、なんか色っぽいなぁ。それに、優菜ちゃん自身のキャラクターと楽曲もベストマッチだったし、それに技術的なところも――うん、そうだよね、優菜ちゃんは、やると決めたら真っ先に全力でぶつかる性格だから。“やる”“やりたい”――そんな言葉が出る前に“やりきった”――何を言わずとも、行動で証明できるのが、海藤優菜ちゃんなんだ。

 私が感動しているのと同じように――やっぱり、伝わる人にはちゃんと伝わる。

「ず……ずりぃで……ッ」

 燎さんが震える声で言葉を搾り出す。その顔には、悔しさがにじんでいた。

「そ、それ! 出たばっかの曲やんか!! そらー、見栄えもええに決まっとる!!」

 えー……それを言っちゃあおしまいだってば。

「そんなの、そっちの選曲ミスじゃない!」

 優菜ちゃんはすかさず反論。燎さんの歌った曲は、私たちが生まれる前のもの。一方、優菜ちゃんの選曲は「今」の曲。そりゃあ、新しい曲のほうが映えるのは当然だ。

「あたしはリリちゃんが好きなんや!!」

「だったら、私は未兎ちゃんが好きだわ!」

 ――って、ナニナニ? この言い合い!? なんだか微笑ましいんですけど!! ふたりとも目をキラキラさせて、好きなアイドルを主張してるし。それにしても、燎さんが“リリちゃん推し”って、なんか意外かも。

 そんなほっこりした空気に包まれたところで――

「この際だからさ、一緒に組めばいーじゃない」

 軽いトーンで、誰かがひょいっと間に割り込んできた。

「……ん?」

 ふたり同時に振り向く。私もつられて目を向けると、そこに立っていたのは、なんと……

「――えっ!? 中村先生!?」

 海望旅館でもお馴染みのゆる~い雰囲気をまとった中村先生が、ひょっこり現れた。これには私も優菜ちゃんも、もちろん燎さんも、全員ポカーン。

「せ、先公やと? なんでこんなとこにおんねん」

 燎さんは一瞬固まった後、慌てて脱いだ服を拾い上げてガバッと羽織った。優菜ちゃんも少し赤面しながら着直している。

 そんなふたりを前に、先生は相変わらずのニコニコ顔。ゆったりとした髪を耳にかけながらのんびり話し始める。

「そりゃー、海藤さんに呼ばれてねー」

 ああ、そういうこと。優菜ちゃん、本当に私のこと心配してくれてたんだなぁ。

「なんでそんな大人まで巻き込んどんよ」

「先生、南高でストリップ部の顧問やってるから」

 さすがは教師だけに、燎さんの剣幕に怯むことはない。ビール片手のいつものトーンで、ことも簡単そうに言ってのける。

「どーせふたりともストリップやりたいんでしょ? だったら一緒に組んで試合に出ればいいじゃない。そしたら、人数も足りるし」

 えっ!? 待って待って、そんな簡単に言わないでー!

「先生……『総合』の枠、かぶってます……」

 だって、優菜ちゃんも燎さんも、絶対『総合』って感じじゃん。同じチームに入ったら競合しちゃうよ!

 私からの指摘に、先生は――

「うん?」

 何で不思議そうに首傾げてるの!? もしかして、いま知った!? 顧問なのに!

「いやー、細かい役決めはみんなに任せるよー。先生が脱ぐわけじゃないしさー」

 それ、完全に他人事! 無責任すぎる!! 優菜ちゃんは呆れてるし、燎さんもすっごい嫌そうな顔してる……。で、そんな嫌そうな顔のまま、私の肩をグイっと引き寄せて――

「残念やけどな――」

 ちょ、近い近いっ!!

「鈴木はウチのチームから出るきん! 人数、もう足りとるわ!」

「ええええええっ!?」

 燎さんの中で決定事項になってる!

 すると、今度は優菜ちゃんが私の腕を!

「こっちこそ足りてますーっ! さくっちは私たちと出るんだから!」

 わわわっ、両側から引っ張られる! これじゃ大岡裁きだよ!!

 燎さんと優菜ちゃんの視線がバチバチにぶつかる。うわぁ、なんか火花散ってるよ!? ひぃぃぃぃっ!! なんでこうなるの!?

「え、えーっと……」

 やばい、どうしよう……ここでふたりに任せておいても収まりそうにないし! 両側から引っ張られながら、私は必死に頭を回転させる。そうだ! こういうときは――

「と、とりあえず!! 親御さんの許可をもらってきてくださーい!!」

 私の叫びに、ふたりがピタッと固まる。

「おっ……親!?」

 燎さんの顔が引きつる。

「ほ、ほら、部活とはいえ、結構攻めた競技ですし……あとで家庭と揉め事になったらイヤじゃないですか!」

 我ながらいいこと言ってる……? って思ってたけど……あっ、そうだった。燎さんの家ってアイドルの件で険悪になってて……

 けれども、優菜ちゃんはそれを知ってか、渡りに船とばかりに乗ってくる。

「そうよねっ! まずは一番身近なところをしっかり固めなきゃ!」

 対して燎さんは。

「身近やねーわ! あたしはもう自立しとるきん!!」

 燎さん、必死に反論。早口になりすぎて、何言ってるかわからないレベルで!

「そ、そうなんですか……?」

 確かにこの時代、義務教育を終えて働きながら学校に通う人も少なくないけど。

「……黄石製鉄に務めとるんや。社宅の世話になっとる」

「黄石……?」

 その名前に、私の頭の中でひとつのイメージが浮かぶ。あっ……綾ちゃん! そうそう、綾ちゃんの苗字は黄石だったはず。なるほど、年下の綾ちゃんが燎さんを『燎ちゃん』呼びできる理由が、なんとなく腑に落ちた気がする。何にせよ、仕事と学校両立させてるってすごいなぁ……

「っちゅーわけやから、あたしに親の許可なんぞいらんわい!」

 燎さんは言い切るけど、こっちだって『はいそうですか』とは引っ込みづらいわけで。

「で、でもっ! やっぱり安心して活動したいですし……私としては、ちゃんと家の同意が得られてたほうがいいかな、と……」

 苦肉の策というか、私の精一杯の提案に、燎さんは……なんか、悔しそうに唇を噛んでいる。

「ちっ……チクショウ……!」

 苦々しく呻くものの、これ以上押し切れる手はなさそうだ。

「チッ……覚えとけよ! 吐いたツバ飲まんとけや!」

 そう捨て台詞を残して去っていく燎さんの背中は――悔しそうにも見えるけど、このままでは終わらせない、という強い意思も感じられる。こういうところ、やっぱり強い。そして、自転車のハンドルを掴むと、そのまま勢いよく走り出して……ああ、行ってしまった。それに、澄香ちゃんと……綾ちゃんは一礼すると、ゆったりと燎さんの後に続く。特に、自転車を追いかけるように慌てて駆け出すことはなく、軽い小走りで。たぶん、どっかで合流する手筈になってるんだろうな。

 少なからず申し訳ない気持ちで見送る私の隣で、優菜ちゃんは……なんか誇らしげ!?

「ふふっ、さくっちも案外策士ね」

 言われて……いや、いや、そんなつもりじゃ……! もちろん、最初は優菜ちゃんをストリップに誘うつもりでいた。ううん、いまもそのつもり。けど……燎さんのパフォーマンスも本物だった。そのどちらかを()()()()なんて……そんなこと、私にはできない。だから、一旦保留にしただけ。何より――あの燎さんがこのまま終わるはずがない――そんな気がする。

 そんな私たちを見て、中村先生が車のキーをくるりと回しながら尋ねてきた。

「でも本当に許可取ってきたらどうするの?」

 先生の言葉に、一瞬、空気がピタリと静まる。けれども、優菜ちゃんは楽観的だ。

「ないない。あの親子、うちに謝りに来たときも別々だったみたいだもの」

「う、うーん……」

 確かに、燎さんの家族関係は少し複雑そうだ。

「ちなみに、黄石製鉄の社長さんと、その娘さんも謝りに来たって。うちの社員がとんでもないことをしたー、とかナンとか」

 それを聞いて――褒められたことではないのだけれど、不覚にも少し心がジーンとした。事件を起こした燎さんを切り捨てるのではなく、一緒になって謝って、支えてくれるなんて……。やっぱり、北側の人たちの連帯感ってすごいんだな。あと、さっきから『みたい』とか『来たって』とか……優菜ちゃん、謝罪のとき同席してなかったのかも。それだけ、本気で怒ってたんだなぁ……

 燎さんたちとの一件も済んだということで、優菜ちゃんは塾の授業に戻っていった。なので、この場に残されたのは私と中村先生だけ。ものすごく気まずい雰囲気だけど、先生のほうは全然気にしていない。

「そんじゃ、桜ちゃん、旅館まで送ってってあげよう」

 優菜ちゃんも、最初からそのつもりで先生を呼んでいたのかもしれない。けれど、先生のほうも……うん、やっぱり私に話したいことがあったんだ。

「海藤さんはああ言ってたけどさ、先生としてはやっぱり北高と南高で組んだほうがいいと思うんよねぇ。あ、もちろん桜ちゃんが良くないってわけじゃないんだけど」

 先生が、少しだけ真面目な口調で言う。車は少し古めかしい見た目のセダンタイプ。ダッシュボードには小さな招き猫のキーホルダーがぶら下がり、助手席には教科書やプリントが無造作に積まれている。車内にはわずかに消臭剤の甘い香りが漂っていて、どこか『先生の車』という安心感がある。私は後部座席にいるので、運転席に座る先生の表情はよく見えない。

「いえ、私も地元同士で組んだほうがいいと思います」

 というか、そのほうが自然だ。まだメンバーが集まっていないようなら私も入れてほしかったけれど……結局のところ、私はただの旅人にすぎない。

「てことで、もしさっきの子がご両親の許可をもらってきたら……悪いんだけど、引いてもらえる?」

 先生の言葉に、私は小さく頷いた。

「……もちろん、そのつもりです」

 その言葉に嘘はない。もし燎さんが、本当にご両親の許可を取ってきたら――私が身を引くべきなんだ。それが、正しい形なんだ。

 だけど。

 ……そう簡単にはいかない気がする。

 私の胸の中に、小さな不安と、少しの予感が渦巻く。燎さんの中に燻っているのは――南側への対抗心()()()()()()気がするから。

 私の役割は、まだ終わっていない。

 車は静かに走り続ける。星見野の山を駆け抜ける中、私はシートベルトを少し強く握りしめた。

 どんな形になったとしても、私は私の全力を尽くすしかない――そう、信じて。

 

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