TRK26 - To the next century 地域再生!? 女子高生ストリッパー・鈴木桜の挑戦 作:添牙いろは
星見野盆踊り大会といえば、この夏一番のお祭りだ。街中のみんなが集まるその場所で――
「えええええええっ!?」
私は思わず素っ頓狂な声を上げる。ロビーで飲んでいたおじいちゃんたちがどうしたのかとこっちを見たので、私は目を逸らしてさーっと住居ゾーン――二階の優菜ちゃんの部屋へ。絶対コレ、話し合いが必要なやつだから!
パタパタとふたりで駆け込み、ピシャっと扉を閉める。そして、一息ついたけれど……ここで、改めて状況を再確認。盆踊り大会とストリップなんて、相性悪すぎる! というか、むしろ最悪の組み合わせかもしれない。さすがに、子どもたちの前で裸になることはないだろうけど……『管理社会時代』の老人会の皆さんが見たら、即・炎上案件だよ! 下手したら、星見野からストリップが永久追放されちゃう!!
けれど、私は優菜ちゃんの言葉を思い出す。――ううん、優菜ちゃんが言語化してくれただけで、私だって、燎さんのストリップからちゃんと受け取っていた。『大人の裸は、認めさせるもの』――それを、実践に移そうと――
まさか、そこまで無茶はしないよね……? と思いたい、けれど――燎さんならやってしまう気がする。というか、たぶんする。燎さんのことをよく知る優菜ちゃんは、より確信を持っているだろう。
燎さんの気持ちは、私たちには深く届いた。けどね……ストリップってのは、観る側にもそれなりの素養が必要なんだよ! だからこそ『競技ストリップ』は男子禁制で、健全な形で行われるものなんだから!
私はスマホを取り出して、澄香ちゃんに連絡しようとする。でも、連絡したところで止まる気がしない。燎さんたちは、こうと決めたら一直線な人たちだから。
はぁ、と優菜ちゃんがため息をつく。そこに言葉はないけれど、私が思っていることをすべて代弁してくれているようだった。
だから、いまここで、私たちが打てそうな手はあまりない。私は燎さん――澄香ちゃん経由になるけど――からの追加の連絡を待ちつつ、優菜ちゃんも美咲ちゃんや凛ちゃんたちとできることを探してみる――そのくらいしかなかった。
それから数日経ったけど、北側からは特に音沙汰なし。燎さんは決戦、としか言っていないので――もしかしたらちゃんとした会場を押さえてあるのかも? なんて最大限に楽観的な観測の下、私たちはストリップの練習を……。お風呂の清掃時間を使って、脱衣所の大鏡の前で踊れるのはやりやすくていいなぁ、なんて現実逃避。
「……三日間のお祭りの、最終日に合わせてくるあたりが、無駄に気遣っててムカツク」
とぼやくのは凛ちゃん。ははは……初日からぶっ放したら、その後のお祭りも中止になっちゃうかもだからねぇ……
「ただ目立ちたいだけじゃないの。大トリって意味で」
優菜ちゃんは、北の人たちにはどこまでも冷たい。けれど、燎さんのストリップに魅せられたことには違いなく――だからこそ、ストリップ・アイドルとして向き合うべく、こうして練習は欠かさない。
そんなこんなのある朝のこと――
朝ご飯のあと、伯父さんがちょっと困ったような顔で私に声をかけてきた。
「すまないけど……ちょっと今夜は優菜の部屋に泊まってもらえないか?」
「えっ?」
突然の提案に目をパチクリさせる私。何かあったのかな?
話を聞いてみると……本鮪の間に泊まっていたアイドルさんたちにトラブルがあったらしい。どうやら、仕事のスケジュールを一日間違えていたとかで(たぶん絶対まこさんだ)、早朝、大慌てでチェックアウトしていったのだとか。
けど、残されたLunaruさんひとりに六人分の宿泊費を背負わせるのもアレだし、最後の一泊はひとり分でいいですよー、って伯父さんは提案したんだけど、それは申し訳ない、とLunaruさんは固辞。そんな綱引きの末――ここ、ひとり用の磯巾着の間に移ることで決着したらしい。まあ、六人用の本鮪の部屋にポツンといても落ち着かないだろうし。
「わかりましたー。夕方までに移っときますね」
ま、元々他のお客さんが泊まるようなら優菜ちゃんの部屋を間借りする予定だったし。その相手がLunaruさんなら、むしろ何だか光栄な気分。
私は急いで自分の荷物をまとめ始める。Lunaruさんが塾から戻ってくる前に支度しとかなきゃだしね!
けれど、そんな最中に――
コンコン。
部屋のドアがノックされる音。誰だろう? 優菜ちゃん? それとも伯父さん?
「はい?」
ドアを開けると、そこには――中村先生が立っていた。
「……先生? どうしたんです?」
ロビーで鉢会うのならともかく、わざわざ部屋まで尋ねてくるなんて意外だ。けど、先生のほうも意外そうな顔をしている。
「……あれー? ここに東京のアーティストが泊まってるって聞いてたんだけど……桜ちゃんのこと?」
「そんなわけないですって……」
相変わらず雑だな、この先生……。自分で言いながら、『だよねー』みたいな顔してるし。
「Lunaruさんなら夕方には戻ってくると思いますけど。何かご用事ですか?」
私が大きなため息をつきながら説明すると――先生は急激に表情を曇らせる。教師の顔つき、ともいえる。
「うーん、ナニやら北高の子たち、また無茶しそうって話じゃない?」
ああ、優菜ちゃんから相談を受けたのかな。
「だからね、有名人を引き込んで説得すれば、向こうも考え直すかなーって」
確かに、Lunaruさんはプロだし、燎さんはアイドル好きだ。その影響力は大きいかもしれない。でも、プロをそんな気軽に動かせるわけないじゃん! 高額なギャラとかも発生するかもだし!
けれど、それより、何よりも。
「先生、Lunaruさんに頼んでも、燎さんたちは絶対動いてくれませんよ」
「そうかなぁ。けど、せっかくのチャンスなんだから、できることは何でも試さなきゃ」
その気持ちはわかるけど……先生、
「燎さんたちが南側と組みたがらないのは、
「え? どういうこと?」
何故なら、優菜ちゃんは、燎さんのパフォーマンスから、その想いをしっかりと受け取っていた。だからきっと、燎さんも優菜ちゃんの思いを受け止めている。そのうえで手を取り合えないのだとしたら、足りないものは――そう、この騒乱の原因であり、それを収められる人物は――
***
『決戦は8月2日の夜8時、ハシモトゼミナールで』
送信ボタンを押したあの瞬間、私は自分の中の全エネルギーを注ぎ込んだ気がする。返事はなかった。でも、澄香ちゃんたちなら絶対に受け取ってくれてる。そんな根拠のない自信だけが私を支えていた。
そして、当日の定刻前――私たちはハシモトゼミナールのロビーに立っていた。夜の帳が降りて、静かな月明かりだけがガラス越しに差し込む。自動ドアの電源が落とされた玄関は開けっぱなしで、ぬるい夏の風が室内をゆるゆると通り抜けていく。夜なのに熱気は残っていて、肌にまとわりつくようだ。
「……やるよ。準備はいい?」
優菜ちゃんが小さく息を吐く。
「けど、来なかったらどうしよう……?」
美咲ちゃんは心配そう。だけど。
「ううん、絶対に来てくれるよ」
私の声がそっとロビーに響き渡る。心臓がバクバクして、いまにも飛び出しそうだ。
――八時。その瞬間、スマホを通じて、大音量の音楽が流れ始める。曲は、星見野の住人なら誰もが知っているご当地ソング――『星見野音頭』。素朴だけど耳に残る、夏の夜にぴったりなメロディ。
「いっくよーっ!」
私たちは一斉に照明オン! 真昼のようなロビーで輪になって踊り始める。観客はいない。いまはまだ。でも、この踊りは届くはず――絶対に。
正面玄関の向こう――静かな暗がりの中で誰かの影が動いた気がした。見てる、絶対に見てる。
さて、ここまでが、一番――
優菜ちゃんは完璧な振り付け。無駄のない動きの中に、オリジナルのステップを織り交ぜている。こういうところでも絶対に妥協をしないのが優菜ちゃんだ。
美咲ちゃんはというと、少し照れ臭そうに笑いながら踊ってる。けれど、その表情と、浴衣から覗くうなじのギャップが、むしろ可愛い。
そして、凛ちゃんは……もう、なんというかいろいろズルい。元々お風呂に凝っていたからか、こういう方向のお色気は得意ジャンルなんだろうなぁ。どこか小悪魔的な微笑みと計算された指先の動きと角度――そこに“あざとさ”さえ感じる。だからこそ、その一つひとつが観る人の目を離させない。
でも――
やっぱり、本物の『オトナ』の魅せ方には勝てない。そんな気がした。
「星が舞い散る夜に、光れ星見野、愛の舞~♪」
二番に入っても音楽は続いていく。夜風がロビーに入り込み、私は浴衣の裾をふわりと落とす。その瞬間、私は横目で見ながら――思わずドキリ。
私は地元でストリップ部に所属しているし、顧問の先生が踊るところを見たことがないわけじゃない。でも――やっぱり違う。オトナの女性が『魅せる』って、こんなにも圧倒的なんだ、と改めて思い知らされた。恥じらいを残しながらも、自分がすべきポイントをしっかりと把握している。一つひとつの動きに迷いがない。その所作の中に、自信と経験が宿っている。
ゆるりと結われた後ろ髪から覗くうなじ――そのひとつをとっても、美咲ちゃんが魅せる自然体とも、凛ちゃんが作るあざとさとも違う。そこには確固たる信念――圧倒的な『迫力』と『美しさ』があった。
――すごい。ただ、その一言しか出てこない。これが、オトナの女性――先生の本気なんだ。
そして、最後の一枚が舞い落ちた。浴衣がすべて脱げて、先生の姿があらわになった。そこには、何の躊躇もない。大胆で、それでいて美しい。一緒に踊っている私たちさえも圧倒するような、まさに『本気の女性』の姿だった。
てか先生、本番にも強いタイプなんだなぁ。先生がすごいのは、練習中からもわかってた。けど、
どうやら、やっぱり少し離れたところから見ていたらしい。けれどもこんなとき、輪の外で眺めていることなんてできない――それが北高であり、それが燎さんだ。
「お前ら、やるやんか」
ロビーにやって来て、燎さんは笑う。その顔はどこか誇らしげで、少しだけ嬉しそうに見えた。歌の三番が始まるタイミングで、燎さんは私たちの輪に加わった。それに続いて、綾ちゃんと澄香ちゃんも。
「こんなことなら、あたしも浴衣で来るんやったわ」
短く告げると――うん、燎さんくらいになれば、星見野音頭は熟知している。
「星見野の~空を~仰げば~♪」
燎さんの歌声は力強く、振り付けもまた指先までキッチリ美しい。けれど、何より――楽しそう。この街が大好きな燎さんだからこそ、ここまで表現できるのだと思う。
その想いは中村先生も同じはず。けれど――北と南で手をつなぐのに足りなかった最後のひとつ、それは――燎さんは、
その理由はわかる。大人は、夢を語りながら、その内心でその夢を信じていない。だから、結局『現実』に負けてしまう。現実に負けたことさえ認めず、傍観者として済まし顔のまま、その舞台に立とうとさえしない。燎さんから見た中村先生も、ずっとその『信用できないオトナ』のひとりだった。
でも――ここ数日間、一生懸命練習して、先生は私たちと同じ舞台に立ってくれている。裸で。これは、『ストリップ・アイドル』に対する理解と覚悟を示すものだ。……もっとも、練習中は「先生なんかが脱いで、何かいいことあるんかねぇ」とやる気のなさこそ見せていたけれど。それでも、想いはその身に宿る。
さっきまで裸と着衣のチグハグだった盆踊りの輪も――最後の五番が終わる頃には肌色一色に染まっていた。
「みんなで踊れば心はひとつ~」
私たちは最後まで踊り続ける。だって、私たちは――ストリップ・アイドルなんだから。
「はー、終わったぁぁ……!」
星見野音頭のリズムが耳に残る中、私はペタンと腰を下ろす。ロビーにはまださっきまでの余韻が漂っているようだ。風が入り込む玄関の隙間から夜の涼しい空気が流れ込んでくる。
先生は『九時くらいまでロビー貸し切らせてー』ってお願いしたって言ってたけど……うん、やることやったら速やかに撤収しといたほうがいいよね! はぁー……いくら貸し切り状態とはいえ、さすがにハラハラしっぱなしだったよ~
「まー……おたくんとこの先公がそこまで言うなら、お前らと組んでやってもええ」
服を着直しながらそう口にする燎さんは、ちょっと照れくさそうだった。
「星見野のためやないけれど、星見野のためになったほうがええですしね」
綾ちゃんが落ち着いた様子で微笑む。澄香ちゃんは無言だけれど、きっと同じ気持ちに違いない。北高の人たちに、私たちの思いが伝わってくれて、全員ホッと息をつく。
けど。
「……ただし、『総合』の座は渡さないから」
優菜ちゃんは真剣な目つきで燎さんに宣言する。うん、さすが優菜ちゃん。絶対に譲れないものは譲らない。
これに、燎さんはちょっと挑戦的な笑みを浮かべて迎え撃つ。
「フン、ええよ。そこは実力主義といこーや」
その言葉はどことなく清々しい。けれど。
「なら、もっと最近の曲にも耳を傾けや」
澄香ちゃんがさらっと釘を刺す。背後から撃たれて、燎さんの口元も歪み気味?
「……チッ、善処する、とだけゆっとくわ」
そのやりとりに、私たちはつい吹き出してしまった。やっぱり、綾ちゃんや澄香ちゃんがいてこその、燎さんなんだなぁ、って。
笑い声がロビーに響いて、空気が少し軽くなった気がする。そんな和やかな雰囲気を引き連れて、装いを整えた私たちは外へ出た。そして、ふと夜空を見上げる。
――綺麗だなぁ。
空には星が瞬いていて、その向こう側に私の地元がある。
私の、ストリップ部がある場所。
星見野に来て、燎さんたちとぶつかって、優菜ちゃんと悩んで、そして――一緒に踊った。
「……やっぱり、私は帰らなきゃ」
自然と、そんな言葉が口をついて出た。地元には私の帰りを待っている人たちがいる。そして、私自身がやらなきゃいけないことも、きっとたくさんある。
「ねぇ、優菜ちゃん。私、帰ったらもっともっと練習するね」
「当然でしょ。だって――」
優菜ちゃんの笑顔に小さく頷いて、私たちは笑い合う。
星見野でのこの夏の日々は絶対に忘れない。
ここで得たものを胸に、私は地元に戻る。そして――
***
荷物をぎっしり担いで旅館の玄関から外へ出ると、暑いながらも爽やかな夏の風が私をゆっくりと撫でていく。今日はついに、星見野を離れる日。
昨日のうちに美咲ちゃんたちとはしっかりお別れを済ませておいた。だけど今日の駅までの道のりは、何だかこれまでにないほど切なく感じる。伯父さんの運転する車の後部座席で、隣には優菜ちゃん。
「もう南のコたちと喧嘩とかしちゃダメだよ」
私がそう言うと、優菜ちゃんはフッと小さく笑ってから、しっかりした口調で答える。
「それは南次第ね」
……ああ、やっぱり優菜ちゃんは優菜ちゃんなんだなぁ。けど、北高の人たちも、そんな優菜ちゃんを望んでるんじゃないかな――そんな気がしていた。
そして、星見野駅に到着すると、そこには……えっ!? なんで!? 駅前のロータリーの奥でドーンと待ち構えているのは、例のオンボロ自転車に跨った……燎さん!?
「……ま、黙って帰したら、あとで文句言われそうだしね」
やれやれ、と肩を竦める優菜ちゃん。私の行く手を遮るように陣取る燎さんは、わさっと長い髪がたなびいていて、どことなくワイルド。いや、ワイルドに感じるのは……ああ、またノーブラっぽいなぁ……
「……お父さん、ちょっと待ってて。あの女と話つけてくるから」
優菜ちゃんも燎さんの胸元を察した様子。そんなわけで、女子ふたりだけで外へ出た。私たちは小走りで急ぐけど、急がせている本人はまったく気にしていない。
「まぁ、お前と一緒に踊りたかったけどよ」
それが、燎さんの第一声。どこまでもストレートで、どこか温かい。けれど、続けざまに挑発的な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「けど、お前と本番でぶつかるのも面白ぇ」
そして、私の肩をグイと抱き寄せて。
「『総合』で出てこいよ。そこで決着をつけようや」
もちろん! ――と返そうとしたところで、優菜ちゃんがすかさず口を挟む。
「残念だけど、そこでさくっちを倒すのは私だから」
――バチッ! その瞬間、目に見えない火花が散った気がする。ふたりの間に漂う緊張感と、どこか楽しげな空気。何故なら――
「けどな、鈴木との勝負はさておき、大会はチーム戦や」
燎さんは決して自己中心的な暴君ではない。
「あたしら、星見野の人間は団結するとつえーきんな。鈴木、お前のチームのメンバーもしっかり鍛え上げとき」
その言葉には、ただのライバル関係だけじゃなく、燎さんなりのリーダーとしての責任感がにじみ出ていた。
「あ、あはは……」
思わず乾いた笑いが漏れる。嬉しいような、でもやっぱりちょっと怖いような。とはいえ――敵ながら、いや、ライバルだからこそ、頼もしさを感じてしまう。
「じゃ、次に会うのは……」
優菜ちゃんがポツリと呟く。それは、冬休みや来年ではなく――
「うん、全国大会で!」
言って、私たちは笑い合った。駅の時計は、もうすぐ電車の出発時間を告げようとしている。私は手を振りながら、後ろ髪を引かれる思いでホームへ向かう。星見野の空は、どこまでも青く、そして広かった。
次にここに来るときは、もっと成長した私でありたい。けど、その前に――優菜ちゃん、燎さん――まずは全国大会で、また会おうね!
ホームで待っていた電車に滑り込むと、私はぐっとキャリーケースのハンドルを握りしめる。星見野の空、優菜ちゃんや燎さん──そして、みんなとの思い出が、一瞬でフラッシュバックする。
「……またね、星見野」
背後で扉が閉まると、車窓の景色はまるで時間が巻き戻るみたいにどんどん遠ざかっていく。鈍行のゆっくりとした速度は、私の心を少しずつ現実に引き戻すようだ。
けれど、しばらく先で急行に乗り換え、その次はリニアへ。加速していく景色は、いつの間にか慣れ親しんだビルの密林へと変貌していた。
――ああ、東京に帰ってきたんだ――!
懐かしいホームに降り立つと――キラキラと輝くネオン、せわしなく行き交う人々、遠くで鳴るアナウンス……ああ、これが東京なんだなぁ。慌ただしいはずなのに、何故か落ち着く。やっぱり、ここが私の場所なんだ。
荷物を引っ張りながらリニアの改札を抜けようとした、そのとき。
「……え? 紗季!?」
どうしてこんなところに!? 眼鏡越しの視線は、相変わらず何かを見透かすように鋭い。耳の下あたりにきちんと束ねられたふたつのおさげと端正な顔立ちにはどことなく威圧感がある。今日はシンプルな白いブラウスに黒のスカート――行き交う人々の流れを受けて、膝下の丈がふわりと揺れる。制服のときよりはいくぶんか穏やかだけど、根っこのところの厳しさは変わらない。
そんな紗季が、私の姿を捉えた瞬間、少しだけ顔に笑みを浮かべる。意外にも、少し柔らかな表情だった。
「買い物しに出てきたから、ついでに。それに……」
彼女は少しだけ笑みを浮かべる。
「ここなら邪魔も入らないだろうから」
……うわ、なんか尋問されそうな予感。紗季は少しだけ近づいて、私の目を真っ直ぐ見つめる。
「桜、貴女なりのストリップは見つかったの?」
その問いに、私は言葉を詰まらせる。あの山で、川で、優菜ちゃんや燎さんたちと過ごした日々。裸になって向き合った自分の気持ち。それは確かに私の中で何かを変えた。
とはいえ。
「……それはまだかな。けど……」
私の言葉に、紗季は目を細める。まるで答えを見透かすように。
「それを探すのもまたストリップ、とでも言うつもり?」
うっ。その言葉は思いっきり棘があった。でも、紗季の真剣な目は、いい加減なことを言ったら許さないぞ、という意思表示に見える。だから、私は勢いよく首を振った。そして、一息ついて。
「ただ……私、意外と伝えたいこと、いっぱいあったんだなって」
ぽつりとこぼれた言葉は、自分でも驚くほど素直だった。
最初は勢い任せで始めたストリップ部。人を引っ張るなんて大それたこと、私にできるわけないと思ってた。でも、星見野で燎さんたちと過ごして、優菜ちゃんとぶつかって……わかったこともある。
「私のチーム作りは失敗しちゃったかもしれない。けど、後悔はないよ」
胸に広がるのは、残念な気持ちじゃなくて温かさ。私が伝えたかったこと、みんなが伝えたかったこと――それは確かに交わしあった。
ただ踊るだけじゃない。
裸になって、自分の本音を、心の奥底までさらけ出して伝える。
それが、私たちのストリップなんだ!
紗季は小さくため息をつく。
「つまり、貴女からの答えを聞くには……」
「うんっ!」
答えはきっと、ステージにある。自分のストリップを見せることでしか伝えられない。だから――私のストリップを止めることは、もう誰にもできない。止めたら、きっと紗季にも本音を伝えられなくなっちゃうから。
紗季は少しだけ目を細めて、静かに口を開く。
「それじゃ、ここでは何もできない……か」
……駅の構内だもんね。こんな人混みの中じゃ、私の本音は表現できない。
だから――紗季はくるりと踵を返す。
「帰るしかなさそうね、貴女のステージに」
「あっ、待ってよ!」
私がすぐさま追いつくと、紗季は私のキャリーケースに手を伸ばし――あ、持ってくれるんだ。
その心遣いは――確かに私の言葉を受け止めてくれたのかも――そんな気がした。