天才は恋を口にするか   作:ろろん

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マダム・ヘルタに脳を焼かれました。美しく可憐すぎて辛い。





天才と仲裁官

 

 

 

 

 

天才とは往々にして不遜である。自らの理を突き通し、凡人の足跡を塗り替え決して辿ることの叶わない道を作り。探求、研鑽、時に利己的な案件を引き起こし─────────────世界の【均衡】を著しく揺るがす。

 

なんとも独善的な彼彼女らの所業は星海の理になることもあれば、星々間での戦争にも発展する。甘く評価を下せば知恵(ヌース)の眼差しを受けた祝福されし者達、厳しい評価を下せば傲慢を体現した人種。そう窺えるのも無理がないと断言出来るほど、多くの民草から見た天才は一線を画している。

 

正に天才とはそういうものであると、俺は理解をしていた。

 

 

 

 

 

「宇宙ステーションヘルタにて6システム時間前、星核が確認された」

 

 

ディスプレイに浮かぶそれは正しく呼称するに悩みの矛先。この先に起こり得る不確定要素の原因であると、私は通信を即座に飛ばしていた。

星核。万界の癌とも呼ばれるものが先ほど、一人の名も無き者の身体に宿った。それだけでも度し難いというのに、更には暴走の兆しを見せ宇宙ステーションを壊滅せしめんとしていたのだ。

 

 

「そうみたいだね。でも、宇宙ステーションはそれくらいじゃ壊れないから。あなたも知ってるでしょ?」

 

「主題はそこではない。天才たる君から見れば新たな研究の芽と認識しているやもしれないが⋯万民の立場から言わせてみれば澱み無く壊滅の象徴だ」

 

「全部含めて問題ないって言ってるの。それにあんな特殊な事例を今すぐ排除するなんて、それこそ問題じゃない?」

 

 

静謐なる無機質。否、通信先には相手がいるのだから感情を持っているのは確かなこと。だが、危険性を訴えようとも声色は一遍たりと変わる気配はなかった。

彼女はそういう人物だと理解していても、未だに俺は理解に苦しむ。名だたる天才の多く、こと宇宙ステーションの主たる一人の天才には特に。

 

 

「全く以て天才の言葉は理解し難い。あれはいずれ、星々に厄災を振り撒くだろうに」

 

 

いつまでも結論の出ない生産性皆無な話題を切り上げ、溜息を吐く。もはやこれ以上の会話に意味はなく、また続ける必要すらない。

 

 

「とにかくあなたは気にしなくて大丈夫。今はそれよりも自分の心配をしたら?」

 

「⋯と、言うと?」

 

「また原始博士の信奉者を(なら)したんでしょ?これで⋯65くらいだっけ」

 

「正確には67だ。君との通信前にふたつ、草を刈ってきた所でな」

 

「ふーん。⋯それで?最後の遺言とかはなかったの?」

 

 

どうやら彼女の興味は早速と移ろうようだ。凡人には頭痛の原因でもある星核を、あたかも雑談にでも興じる素振りで話題を変える。まさしく天才にしか許されない所業だろう。

 

 

「遺言を聞く必要が何処にある?俺はただ、世界の均衡を崩す原因を駆除しただけだというのに」

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

「本当、彼の行動原理は理解できない」

 

 

精巧に造られた人形。宇宙ステーションヘルタを歩くその姿は職員からすれば何の変哲もない光景だった。

しかし、今日の彼女を見た者の大勢は表現し難い違和感を抱くことになる。否、抱かざるを得なくなったのだ。

 

 

「どうかしましたか?あ、その顔は⋯」

 

「言わないで。それともわざと私を揶揄ってる?」

 

 

此処の所長としてステーションに所属するアスターは何かを察したように口を開くと、即座に彼女は口先から溢れ出す言葉を制止せんと言葉を扱った。良くも悪くも話題に出す人物に関連するものは天才の思考を鈍らせるか、はたまた冷静を欠かせるか。アスターは「いつもの事かぁ」なんて内心理解しながらも、歩み寄ってきた彼女を眺める。

 

 

「さっき、星核の潜在的な危険を彼が訴えてきたの。あれは輪を乱す原因だから放置するのは如何なものか、ってね」

 

「あ~⋯それってすごく彼が言いそうなことですよね」

 

「そう。私からすればいつものお節介なんだけど、今日に限ってはずっと私に構ってきてて」

 

 

自分が構ってあげてるとは思わない所、アスターは他の人間とは一線を画す彼の存在を興味津々で尋ねていく。自分の知る天才クラブ#83のヘルタは他人に興味を示すことは少ないし、片や異性だとか同性だとかを気にするタイプでもない。そんな彼女がこうして髪を弄りながら、しかも少しだけ口角を上げているのは観察しててとても楽しいものなのは間違いない。

 

 

「何、その目は」

 

「別になんでもありませんよ?ただ⋯ミス・ヘルタが彼のことを語る時の顔がすっごく楽しそうだから」

 

「⋯彼は私の研究対象なの。だから興味を示すことはあるし、考えもする。当然の帰結でしょ」

 

 

更に楽しいことと言えば、彼女自身がこれら含む会話を交える際の変化を一切自覚していない点だ。口角が上がっていることも、無意識に嬉しそうな瞳をすることも。無表情で氷のような精巧な顔立ちにこれほど変化が出るとなると、アスターにとっても話し相手となるのが愉しくて仕方がない。

 

 

「あ、そういえば。先ほど彼が宇宙ステーションに立ち寄るって連絡が⋯」

 

「待って。なんで今になって重要な連絡を届けたの?⋯持て成す準備が出来てない」

 

 

ジト目の女の子は可愛いものである。アスターから評価してヘルタのことは信頼というか、いざと言う時にステーションを守ってくれる良き上司。ただこうした会話に於いては人形の見目の若さから歳頃の女の子にしか見えず、微笑ましい限りだった。

 

 

「今すぐ紅茶を用意して。あとは茶菓子と星間通信の履歴を送っておくこと。いい?」

 

「分かりました。すぐに用意して、履歴は送信しておきますよ」

 

 

淡々と語っている風に見えて実は楽しみが増えた、なんて思っているアスターを余所に、彼女は軽く浮き足でその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯遅い。何システム時間待ったと思ってるの?」

 

 

広大な星々を移動する星間航行の技術が確立されてから人々の移動は大幅に利便性を増した。当然時短にも貢献するその技術を以て最速で宇宙ステーションヘルタへ辿り着いたかと思えば、傲慢不遜たる天才から小言を貰う一連の流れ。最早、何百回と既視感のある光景である。

 

 

「これでも3つほどの時短は叶ったんだが」

 

「あなたならもっと早く移動できる。その能力は私との時間に使って」

 

「⋯全く傲慢な意見を有難う、ヘルタ」

 

「傲慢じゃなくて当然。あなた、私との時間を無駄にしてもいいと思ってる?」

 

「そうは考えていない。あくまでも君との時間は貴重なものであって、決して無為に過ごそうという気はない」

 

「⋯なら、いい」

 

 

反物質レギオンの襲撃を受けたとはいえ、宇宙ステーションの損害は少ない様だ。これも職員の奮励努力の賜物か、或いは此方に来訪しているという星穹列車の人員によるものか。

彼女からの有難い文句を横に流しながら、漸くと辿り着いた一室。少々隣の天才がそっぽを向いていることが気にはなるが、敢えて追及は止めておこう。

 

 

「座って。あなたは⋯ダージリンが好みだっけ」

 

「君から差し出されたものを拒みはしない。一任しよう」

 

「毎回判断を委ねるのは止めて。私はあなたの意見が聞きたいんだけど」

 

「⋯では、ダージリンを」

 

 

機械的な廊下とは裏腹の、淑女が暮らすような居室。彼女の案内でのみ戸を開くこの部屋は彼女の印象に合致している。優雅か、気高さの象徴か。どちらにせよ、目前で紅茶を淹れる天才は歓迎の意を示してくれるようだ。

 

 

「はい、これ。私が淹れた紅茶だよ。味の保証はしないけど」

 

「有難う。⋯そう不安がらずとも、君自ら用意してくれたものは総じて美味だ」

 

「⋯紅茶、どう?」

 

 

恐らく高級な柔らかいソファに腰掛け、ソーサーに置かれたカップを片手に取る。味わい深い華やかな香りが鼻腔を抜け、そうして口元に運ぶ。

 

 

「美味しい。相変わらず君の淹れた紅茶は完璧だな」

 

「そう。⋯よかった」

 

 

ふわりと揺らぐ。風が吹き、華が靡くように。その顔は微笑んで、見守る。もしも私が星々に住まう只の人間であれば見惚れてしまう程、彼女の表情はとても愛おしかった。

などと口にすれば考える迄もなく冗談を言うなと叱られる為に、私は自らの言葉を封じて紅茶を味わっていく。

 

人形ではない()()の女性が隣に腰を落ち着かせる、気品に満ちた一連を傍観しながら。

 

 

「⋯ねぇ」

 

「何かな、ヘルタ」

 

「あなたは何のために私との時間を設けてるの?」

 

「唐突だな。⋯何のため、とは?」

 

「惚けないで。あなたなら私と良好な関係を築く意味はないし、知恵(ヌース)の眼差しも必要ない。ハッキリ言って無意味でしょ」

 

 

此度の邂逅は普段通りのティータイム。かと思いきや唐突に投げ掛けられた疑問によってカップをソーサーに置くにはそう時間を要さなかった。

 

 

「無意味ではないとも。君はとても興味深く、また俺の疑問に応えてくれる。良き友人を作ることに理由は必要か?」

 

「あなたにとっては必要がないでしょ。そもそも、友人なんて関係を必要としないのに」

 

 

当然と言えば当然のことを口にした。友人を作り、会話に興じる。それは生命体にとっては当たり前の、ごく普通のことだ。だがしかし、天才の前においてはこの回答では不足なのだろう。

 

 

「生命活動に於いて他者との関わりは切り離せないもの。物を買う、乗り物を利用する、取引に応じる。全ての事柄が必ず人を繋ぎ、輪を形成する。天才の君が如何程に考えているかは理解できないが、あくまで俺は人脈を築くことで星々の均衡を保てると信じているんだ」

 

「殊勝だね、なんて言ってあげない。だってあなたは⋯」

 

「理由がどうであれ君が干渉する必要はないよ、ヘルタ。それともこう言い替えた方が好みか?⋯どうか私の生き甲斐を否定しないでくれ、と」

 

 

カップから漂う湯気が天に昇って消える。そして霧散し、宙を漂う。それらは元々紅茶として有を成していた群れであったが、霞むことで個に分散した。

ひとつひとつの個に力はない。だが、集約されることでその存在を大きく見せる。魅力的に人々の興味を惹く。

 

そう、個人の魅力などたかがそんなものだ。天才という枠組みの彼彼女らを除いて多くの個は集まることで力を持つ。故に俺は個を重視しない。重視した所でこの身が起こせる変化など漣に等しく、無価値なのだから。

 

 

「本当にあなたは変わり者。善人とは言えないけど悪人とも言えない。曖昧で、不確かで、だから⋯もっと理解したい─────────」

 

 

 

 

 

 

「───────均衡の体現者。仲裁官イブ・ライカの存在意義を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ヘルタ / みんな知ってる天才クラブ#83の女性。ちなみに無自覚デレが得意である。

仲裁官 / みんな知らない星神 互 の仲裁官。均衡を保つために動いているらしい。ちなみにヘルタが好きである。



拙作ではありますが、以前執筆した青雀ちゃんは休みたい!も一読頂けると幸いです。



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