TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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第30話

 騎士サンブラッグの策に私は乗ることにした。

 すぐに宮廷の全騎士たちが集められ、反攻作戦の詳細が告げられた。

 急な方針転換に騎士たちは驚き、困惑する様子を見せた。

 

「騎士サンブラッグ! あなたの役目は姫様を説得することではなかったのか!?」

「一体、何を吹き込んだのか!」

「姫様への負担があまりに大きく、危険な策です。姫様、どうかご再考を……」

 

 騎士たちは口々に騎士サンブラッグを始めとする重鎮たちを非難し、私に再考を求めた。

 騎士サンブラッグが反論するよりも先に、私は立ち上がり、口を開いた。

 

「すべてはわたくしが決めたことです。小娘の命に命を掛けられないと思う者は、この場を去ることを許します。わたくしは去る者を追いません。また、今後、それを責めることも決してしないと約束いたします」

 

 私の意思であることを示すと、騎士たちは押し黙った。

そして最後まで従ってくれることを約束した。

 帰りたいやつは帰れ、とは我ながら卑怯な言い回しだ。

 

「もっと反対されるかと思いました。……納得してくださったのでしょうか」

 

 不承不承に従っているだけではないか。

 士気に影響しないだろうか。

 出陣前、少し不安になった私は小声で騎士サンブラッグに尋ねた。

 

「主君の命に従うことが、我らの責務です」

 

 納得感なんてどうだっていいという意味だろうか? しかしやりたくない仕事、やりたい仕事くらい、心の中ではあるだろう。

 

「それが無謀であれば、我々は全力でお止めします。主君が道を誤らないよう、正すのも我らの役割です。しかしそれが危険であるだけならば、お止めする理由はありません」

「……危険だという意見もありましたが?」

「はい。ですから、重要なのは姫様の意志です。姫様がそれを承知の上で、断固とした覚悟で決断されたのであれば、我々はその命に従うのみでございます」

 

 意思とか覚悟とか、そんな少年漫画みたいな精神論言われても……。

 それ関係あるの?と、顔に出ていたらしい。

 

「……つまり姫様が私の傀儡になっていないか、彼らは懸念していたのです」

 

 小さな声でぶっちゃけてくれた。

 言いにくいことを言わせてしまった。ちょっと申し訳ない。

 

「その懸念は払拭できたのですね?」

「はい。……もしあの時、姫様が不安そうな表情で私の顔を見るようなことがあれば、説得には苦労したことでしょう。しかし姫様の対応は毅然としていらっしゃいました」

 

 ご立派なお姿でした。姫様のご成長を喜ばしく思います。

 騎士サンブラッグはニコニコと笑みを浮かべながら言った。

 

 その理屈だと、少し前までの私の態度は主君として落第……。

 いや、今それを言っても仕方がないか。

 

「ところで姫様、よくお似合いですね」

「だと良いのですが……」

 

 騎士サンブラッグのお世辞に私は苦笑した。

 私は今、鎧を着込んでいる。

 この世界は魔法の攻撃力が過多気味なせいか、鎧は防御よりも動きやすさが優先される。

 そういう意味で着心地は悪くないが、正直に言うとあまり似合っていない。

 コスプレ感がする。

 いや、もちろん、おっぱい丸出しとか、足丸出しとか、腋丸出しみたいなことはない、ちゃんと全身を覆う鎧ではあるのだが……。

 

 鎧が新品ピカピカなのが悪いのかもしれない。

 姫騎士という用語が脳裏を過った。

 何だか、敗北して屈しそうな感じがしてきたので、考えるのをやめる。

 

 そんな話をしているうちに、作戦決行の時間になった。

 

「騎士スティーン。留守を頼みます」

「お任せください。あの小男には決して、城門を潜らせません」

 

 騎士スティーンはトルーニヤ城に残り、クーランベル伯爵の軍を引き付ける役割を担っている。

 近隣の騎士たちを集めて防備を固めることになるが、どれだけの兵が集まるかは未知数だ。

 クーランベル伯爵や帝家、近隣諸侯の動きが読めない以上、一番危険な任務かもしれない。

 

「ご武運を。……お兄様」

 

 私が小声でそう伝えると、騎士スティーンは目を大きく見開いた。

 それから頬を綻ばせる。

 

「姫様もご武運を。しかし何よりもご自身の命を大切にしてください。……臣下として、兄として、姫様のご無事を祈っております」

 

 別れの挨拶を終えると、私達は地下通路を通り、城外へと脱出する。

 この手の脱出路はそれなりの規模の城であれば、どこにでもある。

 ……ここまでの動きは、市内に潜んでいるであろう密偵にも悟られてはいないはず。

 

 私は一緒に城を脱出した侍女長、そしてルージュに向き直った。

 

「それでは、侍女長。ルージュを頼みます」

「はい。……姫様もご武運を」

 

 ルージュは当初の予定通り、ラザァーベル伯爵領へと避難することになっている。

 もしもの時の保険、そして陽動も兼ねている。

 

「ルージュも……侍女長の言うことをよく聞くように」

「はい。……ご武運を、お姉様」

 

 ルージュたちに別れを告げた。

 彼女たちは不自然にならない程度に目立った動きをする予定なので、密偵たちの目もそちらに向けられることだろう。

 これで私とルージュは、北……ラザァーベル伯爵領へと逃れたと密偵たちは考えるはず。

 

「まずは闇夜に紛れ、クーランベル伯爵領へと向かいます。日が昇るまでに領境への到着を目指します」

「ええ、わかっています。……それでは魔力供給を行います」

 

 私は事前に作成しておいた経路(パス)を通じて、騎士たちに魔力を流し込む。

 これで部隊全員の行軍速度は飛躍的に上がる。

 

「では参ります」

 

 騎士たちは私を中心に六角形の陣形を作ると、街道を真っ直ぐ南へと進み始めた。

 数時間もしないうちに、トルーニア伯爵領とクーランベル伯爵領の境へと到着する。

 

「先触れが戻るまで、しばらくお待ち下さい」

 

 言われるままに待機していると、騎士がこちらに戻ってきた。

 どうやら関所を守る騎士とは交渉が成立したらしい。

 

「念の為、関所を通過するまでは気を抜かないようにお願い致します」

「ええ、心得ています」

 

 先触れの騎士に先導されながら、関所へと近づく。

 主要街道から外れているせいか、関所はかなり寂れているように見えた。

 門の前には騎士が二人、傅いている。

 私は馬から降り、騎士たちに近づく。

 

「心遣い、感謝いたします。戦後には必ず、相応の恩賞を与えます。……こちらはわたくしからの感謝の品です。どうぞ、お受け取りください」

 

 私は指に嵌めていた指輪を外し、それを隣で控えていたデラーウィアへと渡す。 

 デラーウィアを介して、騎士たちの手に指輪が渡る。

 

「ありがたき幸せ……」

「それではわたくしたちは先を急ぎます」

「はは、姫様もご武運を」

「姫様の勝利を祈っております」

 

 騎士たちは傅いたまま、そう答えた。

 私達は足早に関所を通り過ぎ、山道を登っていく。

 

「一先ず、第一関門は突破したと考えてよいかと」

「……ふぅ」

 

 騎士サンブラッグの言葉に私は肩に入れていた力を抜く。

 今回の作戦、それは敵地であるクーランベル伯爵領を通り、山脈を超えてブドゥーダル公爵領へと撤退、シュミシオン城へと入城するという冒険的なものだ。

 

 これならブドゥーダル公爵領で大軍を招集できる。

 それに領内に留まっているので、領外へと逃げるよりは印象が良い。

 

 クーランベル伯爵領は中心地であるクーランベル市以外は山や森ばかりの地形であるため、少人数であれば密かに通過することは可能だ。

 

 カルテマ帝の“山脈越え”という実例もある。

 

 もちろん、クーランベル伯爵も情報を遮断するため、人を通さないように領内各地に触れを出している。

 主要な街道の守りは固めているだろう。

 故にクーランベル伯爵への不満を溜め込んでいるであろう騎士たちの領地を選んで通過する。

 もちろん事前交渉なんてしていないので、ぶっつけ本番だ。

 

 後から裏切られるリスクもある。

 そうなれば敵中で孤立し、囚われの身になるかもしれない。

 

 しかし私はそれなりに勝算……といえるほどではないが、手応えを感じている。

 というのも私は実際に過去何度もクーランベル伯爵領で巡幸を行っており、騎士たちの中にはその顔と声を知っている者もいるからだ。

 

 先程の関所を守っていた騎士たちも、そういった騎士たちの一人だ。

 調略できそうな騎士とそうでない騎士は、肌感覚でわかる。

 

 それに通常、一つの騎士家が抱える騎士の数は多くで五騎。

 私に随行している騎士は三十騎なので、最悪、強行突破も可能だ。

 

 もちろん、後から援軍が駆けつけてくるのでやりたくはないが。

 

「それでは姫様。ここからは魔力を抑えてください」

「はい」

 

 騎士サンブラッグに言われるままに私は体に満ちていた魔力を抑え込む。

 普段、無意識下に発動している身体能力強化の魔法が切れる。

 体がずっしりと重くなり、心もとない気持ちになった。

 

「姫様のお命は我々が命に代えてもお守りいたします。どうか、我々が合図を出すまでは魔力を決して漏らさぬようにお願い致します」

「ええ、わかっております」

 

 もちろん、全ての騎士が私に対して友好的なわけがない。

 そもそも彼らはクーランベル伯爵の直臣であり、私の封臣ではないのだ。

 だから交渉が難しい騎士家の領地を通る場合は、魔力感知に引っかからないように移動しなければならない。

 

 それはつまり、本来であれば私の体を守っている魔力の鎧が消滅することを意味する。

 魔力を制限している時の私の防御力、身体能力は普通の十三歳の少女と同じだ。

 小石一つでも頭に当たれば死ぬ。

 騎士たちが猛反対したのはこれが理由だ。

 

「……ここからは非常にお辛い思いをされるかもしれません。しかし引き返すことはできません。どうか、お覚悟を」

 

 もし私が途中でベソを掻いたり、泣き出したり、喚いたりしたらどうしようもなくなる。

 という騎士たちの立場や気持ちは分かるのだが、何度も確認されるといい気分にはならない。

 

「覚悟は城を出る時に済ませておきました。何度も確認せずとも、結構です」

「……失礼いたしました」

 

 私が若干、不機嫌になったことを察したようで、騎士サンブラッグは頭を下げた。

 それから土地勘のある騎士の先導に従い、山道を登ったり、降りたりを繰り返す。

 段々と道は険しくなり、獣道のように変わっていく。

 ……これ、本当に正しい道順なのだろうか。

 

 ちょっと心配になってくるが、大口叩いた身の上で弱音は吐けない。

 文句は言わずに進んでいくと……行き止まりになった。

 

「……道が途切れてしまいましたが」

 

 目の前にあるのは、崖だった。

 いや、急斜面と捉えられなくもないけど。確かに登ろうと思えば登れなくもないかもしれないけど……。

 

「安全のため、馬から降りて徒歩でお進みください。念の為、私が踏んだ場所を踏むようにお願い致します」

「……」

「姫様。もしご不安であれば、少し遠回りになりますが……」

「わたくしは山羊の娘です! この程度、どうということはありません!!」

 

 私は叫ぶように宣言した。

 

 

 

 

 

「ぜぇ、はぁー、はぁ……」

 

 何とか、登り切ることができた。

 鎧は汗と泥で汚れ、全身の筋肉は痙攣している。

 

「お疲れ様です、姫様。こちらはお水です。ごゆっくり、お飲みください」

 

 そういうデラーウィアは疲れた表情を見せているが、しかしまだまだ余裕がありそうだ。

 当然だが、彼女以外の騎士たちも多少の疲労の色はあるものの、両足でしっかりと立っている。

 そして地味にショックなのは、シークがケロっとした顔をしていることだ。

 文官だから貧弱キャラだと思っていたが、頑強な方だったらしい。

 

 倒れそうになるほど疲弊しているのは私だけだ。

 魔力を抑えているという意味では、条件は同じはずなのに……。

 

「そういえば、馬はどうするのですか?」

「今、引き上げている最中です」

 

 放置せずに連れて行くらしい。

 少し安心する。

 これからは徒歩で歩いていくださいとか言われたら、さすがに心が折れる。

 

「騎士サンブラッグ。この後の道程ですが――方が良いかと」

「姫様の――を考えると――を――して……」

「輿を使っても……」

 

 水を飲みながら休憩していると、何やら騎士たちが打ち合わせをしているのが聞こえてきた。

 私は早くも筋肉痛の予兆を感じ始めた腹筋に力を入れ、声を上げる。

 

「わたくしに事前の相談なく、道程を変えることは許しません」

 

 足を引っ張っているのは私だし、気遣われているのも分かる。 

 騎士たちが心配したくなるような姿を晒していることも自覚している。

 私が体調を崩すようなことがあれば何もかも破綻する以上、無理はできないことは分かっている。

 だけど、私に一言もなく、勝手に私の体力と精神力を見積もられるのは非常に癪だ。

 

「失礼いたしました。……今、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「構いません。休憩中であっても、目と耳と頭は使えます」

 

 私の言葉に騎士サンブラッグたちは心配そうな、しかしどこか嬉しそうな表情で私の目の前に地図を広げた。

 そしてあれこれと指を指しながら説明してくれた。

 まとめると、さっきの悪路が続くような道と、危険性と距離が伸びる代わりに歩きやすい道の二択があるらしい。

 そして後者であれば、輿に乗って移動することも可能だそうだ。

 

 ……正直、かなり心がグラっと来た。 

 もうあんな道と言えるか怪しい道を通りたくない。

 輿に乗って、騎士たちに担いでもらって楽に移動したい。

 

 しかし非常に残念ながら、休憩しているうちに体力の方が回復してきてしまった。

 頑張ろうと思えば、頑張れそうだ。

 自分の頑健な体が憎たらしい。

 

「このまま予定通りの道を進みましょう」

「かしこまりました」

 

 騎士サンブラッグたちは何か言いたそうな顔ではあったが、私の意を汲んでくれたのか、黙って頷いてくれた。 

 何だか、非常に申し訳ない。

 

 

 

 その日の夜は当然野宿だった。

 疲れていたおかげか眠りはすぐだったが、深夜に強烈な筋肉痛に襲われ、結果としてあまり眠れなかった。

 疲労を溜め、全身の筋肉痛に苦しみながらも、私は再び悪路を進むことになった。

 

 酷い獣道を通ったり、沼のような場所を進んだり、腰まで川に浸かったり、虫に刺されたりと散々だ。

 それに標高が高いせいか空気も薄く、息が切れやすく、何度も呼吸が乱れ、立ち止まってしまった。

 

 そして挙句の果てには山賊と鉢合わせ、戦闘になった。

 山賊は魔力を解放した騎士たちにより、一瞬で三枚おろしにされたが、その絵画がちょっとグロくて吐きそうになった。

 

 初日よりも散々な目に遭いながら、二日目を終えた。

 二日目の夜は疲労がピークに達していたのか、私は泥のように眠った。

 

 そして三日目。

 

「また山賊ですか。随分と多いですね」

 

 騎士たちによって皆殺しになった山賊を見下ろしながら、私はため息まじりに呟いた。

 魔力を持たない平民出身の山賊なんて、魔力を解放した騎士数人で対処は可能だ。

 脅威でも何でもないが、襲われるとびっくりする。

 

「この辺りは一部の商人の間では有名な関税抜けの通り道ですから」

 

 クーランベル伯爵は財政難からか、通行税を限界まで引き上げている。

 そのためクーランベル伯爵領は、「関税抜けルート」が発達しているらしい。

 おかげで、こういった山道を通る遍歴商人は少なくなく、山賊も好景気なのだとか。

 

「商人も大変ですね」

 

 こんな過酷な道、使う人間がいるのか……。

 いや、通れるって分かっているから通っているわけで、使用例があるのは当然だけど。

 

「一時的とはいえ魔力を使いました。場所を移そうと思いますが……よろしいですか?」

「構いません。山道にも空気の薄さにも、慣れてきました」

「それでは歩を早めます」

 

 騎士サンブラッグの指示で部隊の移動速度が上がる。

 慣れてきたのは本当だが、疲労は抜けていないので、辛いものは辛い。

 

「この山を下れば、騎士シクルミラの領地となります。彼は姫様に好意的です。一泊、泊まることも可能でしょう」

「だと……はぁ、よいですが……ぜぇ、はぁ……」

 

 騎士たちの励ましの声が胸に突き刺さる。

 年齢的に仕方がないとはいえ、私が全体の足を引っ張っている。

 何だか悔しい。

 それもこれも、魔力に頼り、素の体力向上の鍛錬をしていなかった私の怠慢だ。

 

 私、貴族だし。お姫様だし。

 戦場に出ることなんて、まずないし。

 魔力を制限して隠密行動なんて、することないでしょ?

 などと甘く考えていた過去の自分が憎たらしい。

 

 この戦争が終わったら、魔力抜きの鍛錬メニューを増やしてもらおうかな。

 

 そんなフラグを立てたのが、悪かったかもしれない。

 

「失礼いたします、姫様!」

「うぐっ……」

 

 突然、隣を歩いていたデラーウィアに頭を押さえつけられた。

 派手に地面にキスする羽目になり、思わず呻く。

 

 私以外の騎士たち、全員も地面に伏せている。

 また山賊か?と思ったが、すぐに違うことに気付いた。

 緊張感が違うし、何よりただの平民の山賊相手でここまで警戒する必要はない。

 

「騎士です、姫様」

 

 デラーウィアが小声で私の耳元で囁くように言った。

 その言葉でようやく、私は魔力を持つ人間の集団が、こちらにゆっくりと近づいていることに気付いた。

 数は十……いや、二十か。

 

 自然にこんな人数は集まらない。

 どこからか情報が漏れていたのか……?

 

 混乱している私の耳元でデラーウィアが囁く。

 

「やり過ごせぬと判断した時点で、魔力を解放いたします。……騎士サンブラッグの指示に従ってください」

「……はい」

 

 今は理由を考えている暇はない。

 私は緊張しながら時を待ち……。

 

「抜剣、解放!」

 

 騎士サンブラッグが叫ぶと同時に騎士たちは一斉に立ち上がり、私を中心に陣形を組む。

 そして魔力を解き放った。

 私も抑えていた魔力を解放する。

 

 するとほぼ同時に、敵と思しき集団からも魔力が放たれる。

 ……全員が騎士級だ。

 少し安心する。

 

「何者か!」

「誰だ!」

 

 双方から怒号が聞こえる。

 しばらくの沈黙の後、木々の向こう側から声が聞こえてきた。

 

「私はこの地の守護者、騎士シクルミラ。貴公は何者か、お尋ねしたい。名乗られぬのであれば、我らとて剣を抜かざるを得ない」

 

 騎士シクルミラ。

 彼は以前、結婚式に盛大に遅刻してきた遅刻騎士であり、そして私にクーランベル伯爵の関税情報についてチクった密告騎士である。

 私の足にキスし、感動していた男だ。

 

 味方だと思っていたのに……。

 かなりショックだ。

 

 いや、彼はそもそもクーランベル伯爵の直臣だし、この情勢下で私に味方しないのは当然の判断だけど……。

 

「名乗っても?」

「はい。……刺激せぬように、お願いいたします」

 

 騎士サンブラッグの許可を得てから、私は名乗り上げる。

 

「わたくしはブドゥーダルの地の守護者、ロゼリア・エル・ブドゥーダルです。貴殿の領地に断りなく足を踏み入れたことを謝罪します。わたくしの望みはあなたと剣を交えることではなく、この地を通ること。……どうか見逃して頂けると、助かります」

 

 人の領地に土足で入っている以上、十ゼロでこちらが悪い。

 しかし戦力で優っているのはこちらだ。

 地の利はあちらにあるが、強行突破は可能。

 ここは平和的に解決できると良いのだが……。

 

「おぉ!! この魔力、そのお声……やはりロゼリア姫でしたか!! あぁ、何たる僥倖……!!」

 

 騎士シクルミラと思しき人物は喜びの声を上げながら、こちらに近づいてくる。

 僥倖……やはり待ち伏せだったか?

 

 疑問に思っているうちに、木々の間から彼の顔が見えてきた。

 やはり何時ぞやの密告騎士で間違いない。

 

「止まれ! それ以上、近づくことは許さん!!」

「おっと……ロゼリア姫! 私です! 騎士シクルミラでございます。その勇ましき御足にキスを捧げさせていただいた!」

「……えぇ、覚えております。騎士シクルミラ」

 

 あれ? ……なんか、テンションおかしくないか?

 私が疑問に思っている間にも、騎士シクルミラは饒舌に話し続ける。

 

「姫様はなぜ、このようなところに……まさか、“山脈越え”ですか! なんと、勇ましい!! 騎士ニーアヘルめ、姫様は逃げるなどと適当なことを言いおって……外れているではないか」

 

 騎士シクルミラは一人で興奮し、怒り始める。

 するとその言葉を聞いたのか、木々の向こう側からも声が聞こえてきた。

 

「ロゼリア姫!? まさか……」

「さすがはロゼリア姫! カルテマ帝の御子!!」

「カルテマ帝の再来ではないか!? なんと、素晴らしい!!」

「うぉおおお!!」

 

 なんか、分からないけど盛り上がっている。

 全く状況が分からないが、彼らはもしかして敵ではないのか……?

 

「騎士シクルミラ。あなたはどうしてこのようなところに?」

 

 単刀直入に聞くと、騎士シクルミラはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに答えた。

 

「我ら、姫様の元へ駆けつけようと、密かに移動中でございました。しかしながら……今、それは不要となりました」

 

 密告騎士が裏切り騎士へとジョブチェンジした瞬間だった。

 あれ……?

 

 もしかしてこの戦争。

 勝ったか……?

 






飲み会来ない陰キャのオフ会に行くわけねぇだろ






高評価ありがとうございます(敬称略)
図書室在住 杏林堂 みちいり 黒コーヒー テケテケてけ
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