TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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反抗期の子供は可愛い


第6話

「それでどのようなご用件でしょうか。母上」

 

 ラークノール公爵家の評議会が終わった後のこと。

 自身の母から呼び出されたトールは、彼女が淹れた茶に手も付けず、開口一番にそう言った。

 

 どうせ、先程の評議会での態度についての説教だろうと当たりを付けていたトールだが……。

 

「そう結論を急がなくても良いでしょう。まずはお茶でも飲んでゆっくりしなさい」

「……」

 

 母親に促されたトールは、「不満です」という顔をしたままお茶に口をつけた。

 初めて飲んだ時はその香りに感激したトールだが……。

 

(ロゼリア姫に飲ませてもらった茶と比べると、遥かに劣るな)

 

 もちろん、母がトールに敢えて安いものを飲ませているというわけではない。 

 トールの母はこのお茶が“本物”であると思っているのだ。

 

 お茶は西大陸では栽培できない。

 高品質のお茶の入手手段は限られる。

 

「トール。私は男の子は多少、やんちゃな方が良いと思っております」

「その節は……」

「謝らなくて結構。あなたが反省も後悔もしていないことは分かっています。ただ、母を心配させることだけはどうか、控えてください」

「……はい」

 

 帰国した時。

 叱るよりも先に泣きながら抱きつかれたことを思い出したトールは、少し気まずい気持ちになりながらも頷いた。

 

(別に反省していないわけではないが……)

 

 心配と迷惑を掛けて申し訳ないという気持ちはトールにもあった。

 ただ、それを口にすると「もうやるな」と言われてしまう。

 あの時はあれ以外の選択肢はなかったとトールは考えているため、そう簡単に謝ることができないのだ。

 

「もうあなたは立派な男なのですから、もう少し落ち着いて欲しいものです」

「……善処いたします」

「どうすればあなたが落ち着くか、母は考えました」

 

 満面の笑みを浮かべる母親の姿にトールは嫌な予感を覚えた。

 

「結婚して家庭を持てば、きっとあなたも落ち着くはずです」

 

 やっぱりその話だ。

 トールはげんなりした。

 

「それではどうか、私の恋を応援してください。母上」

「あなたのために良い縁談を用意しました。あなたの想い人よりもずっと賢く、器量の良い女性たちです」

「……」

 

 へぇー。

 ずいぶんと大きく出たものだな、このババア。

 

 トールは内心で毒づいたが、それを口には出さなかった。

 母親を内心でババアと罵倒する程度にはトールは反抗期ではあったが、それを口に出して母親を傷つけることを良しとしない程度には彼は孝行息子だった。

 

「それでは聞くだけ、聞きましょう」

 

 すでに結論が出ているこの無駄な問答を早々に終わらせたいのがトールの本音である。

 しかし最低限、話を聞かない限りは母親は諦めないだろう。

 子供の我が儘と思われるのは癪であるため、聞いた上で全て論駁してやろうと決める。

 

「まずはこちらの女性です。あなたも一度、会ったことがあると思いますが……」

 

 人物画と共に、その人物の身分、家柄、そして人柄についてトールの母親は説明を始めた。

 女性たちの多くは、トールが一度は会ったことがある者たちだった。 

 誰もこれも、ラークノール公国の重鎮、もしくはラークノール公爵家の派閥に属する有力貴族の娘たちだ。

 

 それ故にトールは聞いているだけで、うんざりとした気分になってしまった。

 

「どうですか、トール」

「……そうですね。少々、驚いています」

「そうでしょう、そうでしょう。これだけの縁談を用意するのは、とても大変だったのですよ?」

「母上は公爵(ドゥークス)よりも伯爵(コーメス)の方が階位が上だとお考えのようだ」

 

 ラークノール公爵家に従属するような立場の貴族である以上、彼女たちはみな、伯爵以下の階位の田舎貴族たちだった。

 家系を遡れば、かろうじて名門に当たるような、もしくは家系図そのものが胡散臭い……その程度の家柄だ。

 

「私は次期公爵です。ならば、その花嫁は最低でも同格の女性でなければならないでしょう」

「そ、それは……!」

 

 痛いところを突かれたトールの母は、言葉を詰まらせた。

 そしてどうにか息子を説得しようと、現実を教えようと、言葉を探る。

 

「トール、あなたの気持ちは……よくわかります。しかし、その、あなたの一族は……公爵様……あなたのお父様は、ですね……」

「父上とあなたの家柄と出生の話はしていません。俺の話をしています!」

「で、ですから……」

「薄汚い海賊の末裔。成り上がりの田舎貴族。卑劣な私生児の息子……そう思われていることは、重々承知!」

 

 ラークノール公爵家の家格は、ラークノール公国の外側ではよくて伯爵相当であると思われていた。

 そしてまた、ラークノール公国の内側の伯爵たちからも、家柄で侮られていた。

 

 それ故に「公爵相当」の女性との縁談を用意することは極めて難しい。

 元々、男爵家相当の家柄の出身であるトールの母にとっては、尚更だ。

 むしろ自身よりも階位が上の一族たちから、政略結婚の交渉をもぎ取って来ただけでも、快挙であるかも知れない。

 

「だからこそ、俺は陰で見下すことしかできない女と結婚する気は毛頭、ありません。此方から願い下げだ!」

 

 トールは声を荒らげた。

 それから呆気に取られ、驚く母親に表情にハッとし……バツが悪そうに視線を逸らす。

 

「……少し気が立ってしまいました。申し訳ございません。しかし家柄云々を抜きにして、果たして彼女たちと結婚して、どのような利益があるというのか」

「利益って……皆、我が邦の重鎮の娘たちですよ。彼女たちと縁を結べば、より公国の支配が盤石となります」

「すでに十分に盤石です。屈服させた相手と縁を結んで、どうするというのか」

「今は確かに盤石です。しかし公爵様はもうお年……いえ、まだまだお元気ではありますが。しかしあなたよりも先に亡くなられるのです。私はその時を見据えているのです」

 

 ラークノール公爵には正式な妻であるトールの母親以外に、妾の女性がおり、彼女たちとの間に息子がいる。

 彼らは全員、貴族として独立しており、領地を持っている。

 今はラークノール公爵家の一員として大人しくしている彼らが、ラークノール公爵の死後に、自らが公爵となるべく反旗を翻すのではないかと、トールの母親は恐れていた。

 

 トールが妾腹の兄たちに殺されるのではないかと、恐れていた。

 他ならぬ、彼女の夫がそうしたように。

 

「杞憂だ」

 

 トールは母親の心配を一蹴する。

 もちろん、トールも兄たちを盲信しているわけではなく、隙を見せればそういう可能性がないわけではないことを理解していた。

 しかしそれを恐れるあまりに、婚姻で妥協するつもりは全く無かった。

 

「私は過去よりも未来のことを考えたい。私を支え、私と共にこの邦を豊かにしてくれる女性と結婚したいと思っています」

「もちろんです。彼女たちは家柄だけではなく、家を切り盛りするには十分に賢い女性たちで……」

「そうでしたか。私は彼女たちから今まで、一度もその手で書いた手紙をいただいたことはありませんが」

 

 貴族であっても、必ずしも字の読み書きができるわけではなかった。

 女性であれば、それは尚更だった。

 

「……貴族の妻に字の読み書きなど、不要です」

「母上はできるでしょう?」

「私は……必要に迫られてのこと。男爵家の小娘と、公爵の妻になるような高貴な女性は異なります」

「母上も公爵の妻でしょう」

「今はそうです。私は昔の話をしています」

「ロゼリア姫も美しい字を書かれますよ」

「トール。あれは代……いえ、その話はやめましょう」

 

 トールの母は首を左右に振った。

 何を言っても無駄だろうとも言いたげなその態度にトールはムッとした。

 

「とにかく、彼女たちならばあなたを支えてくれるでしょう」

「彼女たちは私には不要です。彼女たちにできることならば、私一人でもできるのですから」

「子供は……」

「それを言い出したら、誰でもいいでしょう。私は私にできないことで私を支えてくれる女性との結婚を望みます」

 

 ――父上にとっての、母上のように!

 

 トールはそう言うと、話は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。

 そして母の制止を無視し、退出した。

 

 




名前:ヨローズ・エル・ニーアヘル
性別:女
身分:貴族、ニーアヘル男爵、ラークノール公爵后、平野党党首
年齢:30後半
性格:傲慢・頑固・強欲
趣味:お茶会
補足:あんなに素直で可愛かったトールがどうして……。おのれ、ブドゥーベルの淫婦め!!


ちなみにトールは家柄・教養コンプレックスなので、裏返しで家柄・教養フェチです。
字が綺麗な女性が好きです。
自分にないモノを自分のモノにしてぇ!(野心的)みたいな感じの性癖です。
だからロゼリアはストライクバッターアウトゲームセットです。


高評価ありがとうございます(敬称略)
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