TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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第10話

 ブドゥーベル市に戻って一月。

 とある大貴族が我が邦を訪れていた。

 

「おぉ!! ロゼリア!! 会いたかったぞ!!」

「ちょ、お、お爺様!!」

 

 私の顔を見るなり、我が祖父プルーメラ大公ゴルディアは私を強く抱擁した。

 相変わらず、老人とは思えない筋力だ。

 

「いや、しかしロゼリア……見ないうちに大きくなったな。今はいくつだ?」

「けほっ……十四です、お爺様」

 

 私は祖父から逃れながらも答えた。

 すると祖父はなるほどと大きく頷き、私の体をジッと眺める。

 それから遠い目をした。

 

「うむ……シルヴィアはもっと華奢だったが。顔立ちや髪は生き写しだが……バークスの血か、ユガペの血か……」

 

 それから嬉しそうに頷く。

 

「いや、しかし良いことだ。うむ!」

 

 孫娘の胸と尻が順調に育っていることを露骨に喜ばないで欲しい。

 いや、下心はないんだろうけど。

 

「長旅、お疲れでしょう。お互い、積もる話はそれからで」

「そうだな。夕食を終えてから話をしよう」

 

 祖父と約束を交わす。

 その後、祖父は宮殿で歓待を受けた。

 父らと共に夕食を共にし……。

 

「しばし、孫娘と二人で話がしたい。よろしいか?」

 

 祖父は父に許可を得る。

 当主である父を差し置いて、その娘である私と二人で会談をするような行為は、割と非礼ではあるが……。

 祖父のこの態度はいつものことだ。

 何より、祖父にとって私が唯一の血縁者である事実を盾にされると、父も嫌とは言えないのだろう。

 

「もちろん。どうぞ、我が子と語り合ってください」

 

 父は内心、心穏やかではないだろうが、笑顔を浮かべながら頷いた。

 俺の子供だけどな。

 と、釘を刺しながらであったが。

 

「では……あらためて、ロゼリアの活躍を聞かせてくれ」

「はい」

 

 もはや、何度語ったか分からない内乱のあらましについて私は祖父に説明する。

 続いて祖父から、プルーメラ大公領での内乱についての説明があった。

 やはり聞いていた通りだが、内乱自体はちょっとしたボヤ騒ぎ程度の規模だったらしい。

 

「ロゼリアには不安な思いをさせてしまった。申し訳ない」

「悪いのは卑劣な帝家でしょう」

 

 個人的には帝家の陰謀能力は見習うべきだと思うが。

 この場では卑劣と詰っておく。

 

「それにいつまでもお爺様を頼りとできないことは、わたくしもわかっております」

 

 祖父には寿命というタイムリミットがある。

 今は元気そうだが……この世界には健康診断なんてない。

 いつ死ぬかの予測は現代日本以上に不可能だ。

 

「ふふ、頼もしいことだ」

 

 気を悪くすることなく、むしろ嬉しそうに祖父は微笑んだ。

 自分で言っておいてなんだが、ちょっとしんみりしてしまう。

 

「問題は誰を頼りとするべきかであろう」

 

 ドキっとする。

 祖父から賛同を受けられるかどうか。

 私にとって正念場だ。

 

「私は王家よりラークノール公爵家を寄るべきであると考えております」

「なるほど。であれば、そうすればよい」

「……」

 

 ……え?

 

「何を驚いている。反対されると思っていたか?」

「いえ……その、それだけでしょうか?」

 

 賛成するにしても、反対するにしても、何か質問とかあるんじゃない?

 いろいろ、考えてきたんだけど……。

 少し予想外というか。

 

「そもそも、ワシはロゼリアに意見を口にできる立場ではない。頭を下げて頼む立場だ」

 

 そう言う祖父はとても弱々しく見えた。

 いや、こちらの祖父の方が今の本来の祖父の姿なのかもしれない。

 

「ワシはブドゥーダル公爵と違い、老い先短い。今後のロゼリアの人生に責任など持てない。だからロゼリアが己の意思でその道を歩むと決めたのであれば、それを引き止める資格はない」

 

 ……そう言うの、やめてよ。

 寂しくなっちゃうじゃん。

 

「どうか、我が父祖の地と血を後世に繋いで欲しい。ワシの願いはそれだけよ」

 

 もし、私が「プルーメラ大公領なんか相続放棄してやる!」と宣言すれば、祖父は私に賛成せざるを得なくなる。 

 だから意見など意味がない、ということか。

 

「とはいえ、我が臣下たちは別だ。……夫君が変わることで、諸侯や騎士たちにそっぽを向かれるようでは困る」

 

 祖父は私の目をジッと見つめる。

 

「我が臣下たちが納得する相手であれば、ワシは喜んで賛成する」

 

 私がプルーメラ大公領を相続するには、プルーメラ大公領を構成する貴族や騎士たちに忠誠を捧げてもらう必要がある。

 大事なのは祖父の意見ではなく、臣下たちの意見である……と。

 

「皆さまはどのように思われているでしょうか?」

「浮足立っておる。候補が唐突に代わるとなれば、当然であろう」

 

 やっぱりそうだよね。

 今まではバルトナ王子と聞いていて、それで納得しようとしていたのに。

 話が急に変われば、不信に思うのも当然だ。

 

「トール殿の評判は……いかがでしょうか」

「良いか悪いかで言えば、悪いな」

「そ、そうですか……そ、それは……なぜ?」

「父親が父親だからな」

「そ、それは……そうですね」

 

 トール君の父親、ラークノール公爵の評判はすこぶる悪い。

 悪評は無名に優ると言うが、それでも悪評は悪評である。

 

「とはいえ、ユガペの子が特別、良かったわけでもない」

 

 バルトナ王子は王家の出身。

 エイルカラーがかなり強い。

 ニアルマ語圏のプルーメラ大公領の貴族からすれば、典型的な外国人だ。

 元々、印象はそこまで良くなかった。

 

 もっとも、トール君の場合は蛮族カラーマシマシなのでそれ以上に悪いだろうけど……。

 

「何より、先の戦での勝利は鮮烈であった。対面次第で考えをあらためる者もいるだろう」

 

 要するにトール君の魅力がちゃんと伝わればみんな支持してくれるかもしれない、と。

 そうなると、トール君をプルーメラ大公領の貴族たちに見せないといけない。

 しかし連れて行くのは難しいしなぁ……。

 

「しかし夫が誰かよりも、大事なことがある」

「大事なことですか?」

「分からぬか?」

 

 いや、祖父が言いたいことは分かる。

 

「わたくし自身、ですね」

「その通りだ」

 

 誰が夫であっても、ロゼリア・エル・ブドゥーダルが支配者であるならば納得する。

 プルーメラ大公領の貴族たちにそう思ってもらえれば、私の夫が誰であろうと問題ない。

 

「最後に寄るべきは己が力よ。努々、忘れるな」

「はい、お爺様」

 

 私は深く頷き、それから笑ってみせた。

 

「まずはお父様に勝利してご覧に入れましょう。プルーメラの地より、ご照覧ください」

「それでこそ、我が孫だ!」

 

 祖父は豪快に笑った。

 




高評価ありがとうございます(敬称略)
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