TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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補足
クーランベル伯爵は退位により代替わりしています。
そのため
第一部終了までのクーランベル伯爵→先代クーランベル伯爵
第一部終了までの先代クーランベル伯爵→先々代クーランベル伯爵
となっております。

第二部以降での「クーランベル伯爵」は、第一部までの「クーランベル伯爵」とは別人です。

人名を出すか悩みましたが、人名は極力増やしたくないのと、人名を出さずとも「クーランベル伯爵」で通じるのでこのような形になっています。


第11話

 クーランベル伯爵領はシュミシオン山脈に囲まれた伯爵領だ。

 中心都市であるクーランベル市はその盆地にあり、農地が広がっている。

 それ以外は山で、もっぱら林業がその主要な産業となっている。

 

 山の斜面を利用して葡萄酒や絹(桑)の生産も行われているが……特別、品質が良いわけでもない。

 

 と、あまり良いところがなさそうな土地であるが、クーランベル市そのものは非常に豊かな都市だ。

 交通の要衝に位置しているからである。

 

 ブドゥーダル公爵領とトルーニア公爵領を行き来する際には、必ずクーランベル市を通る。

 だから多くの商人たちがクーランベル市を通る。

 当然、人やモノ、情報が集まる。

 故にクーランベル市は非常に発展していた……はずだった。

 

「一先ず、クーランベル伯爵領が荒れ果てた原因について、皆さまのご認識をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

 四月、現在。

 私はクーランベル城でクーランベル伯爵領の再興のため、クーランベル伯爵家の騎士頭たちを呼び出した。

 騎士頭が主君の代わりに政務や裁判を実施する役職だ。

 私は派閥運営に忙しいので、クーランベル伯爵領に於ける実質的な職務は彼らが担うことになる。

 

「原因は種々ありますが……無秩序な増税や税の新設、杜撰な裁判、そしてあまりに過酷な刑罰でしょうか」

 

淡々と答えたのは腰痛騎士こと、騎士ニーアヘルである。

 現在は新しいクーランベル伯爵の下、筆頭騎士頭の任についている。

 任じたのは私だ。論功行賞の一環である。

 

「裁判資料については事前に確認いたしました。……確かにあれは酷い」

 

 知ってはいたが、先代クーランベル伯爵は面倒くさがり屋である。

 そのため、彼は裁判を部下である騎士頭たちに丸投げしていた。

 

 そして裁判を一任されていた騎士頭たちは、先代伯爵が裁判資料を確認することはないと確信していたらしい。

 結果、生じたのは大量の冤罪(疑惑)と頻発する死刑である。

 

 殺人や放火が死刑などは分かるが、強姦や強盗、それどころか軽微な窃盗(スリや万引き)すらも死刑にしていたようだ。

 要するにクーランベル伯爵領では、万引きするよりも、人を殺して強姦してついでに物を盗んで放火する方が総合的に期待値が高い――軽犯罪をするくらいなら重犯罪をした方が得をする子羊を盗んで吊るし首されるなら、親羊を盗んだ方がマシだという、修羅の国と化していたのだ。

 

 加えて、冤罪まで横行していたのだ。

 ちょっとでも疑われたら死刑である。

 善人よりも悪人が得をするのだ。

 

 そりゃあね、みんな盗賊に転職しますよ。

 

 なお、死刑が頻発した理由は「死刑囚の財産は伯爵と騎士頭の懐に入る」という悪しき慣例が原因であったと考えられる。

 おそらく、先代伯爵はわざと見て見ぬふりをしていたのだろう。

 

 やることがせこい。

 

「税については……確かに個性的というかユニークな税がたくさんありますが……問題は関税でしょうか? わたくしもいくつか、燃やした記憶がありますが」

「はい、姫様。関税の過剰な引き上げが物価の高騰を招き、治安の悪化を招いております」

 

 騎士頭の一人、騎士シクルミラが発言した。

 かつての遅刻騎士は、密告騎士から裏切り騎士を経て、クーランベル伯爵家の騎士頭の一人にまで出世した。

 私が出世させた。論功行賞の一環である。

 

「そうですか。ブドゥーベル市とそれほど、物価が違うようにも思えませんが」

「クーランベル市内はおっしゃる通り。定住商人たちがいますから」

 

 この世界の商人は大きく分けて二種類。

 定住商人と遍歴商人の二種類がいる。

 

 前者は都市などを拠点に長距離の物流を担い、後者は拠点を持たずに複数の農村を練り歩いて商売をする。 

 前者は特権を持つ大商人であり、後者は特権を持たない中小零細商人だ。

 

「定住商人たちは関税の支払い義務がございませんから。打撃を受けたのは遍歴商人たちです」

 

 定住商人たちはブドゥーダル公爵から「納税する代わりに公国内の関税を無視する特権」を与えられている。

 そのためクーランベル伯爵がいくら重税を課しても、彼らにはノーダメージだ。

 一方でクーランベル伯爵領の経済を下から支えてくれている遍歴商人たちは、関税を逐一支払わなければならない。

 

「特に農村へのダメージは深刻です」

 

 特に林業や葡萄酒などを生産している村の被害は大きいだろう。

 そういった村の経済は外部との取引に依存している。

 

 そして苦境に陥った農民たちは、盗賊へと転職すると。

 

「加えて、先代伯爵は宿泊税や酒場税などの税も引き上げました。結果、大商人たちはこのクーランベル市に留まらなくなりました」

 

 かつては遍歴商人たちの活動で活気もあり、少し羽目を外して遊んだり、情報収集に勤しむということもしていたようだが……。

 滞在するだけで税金を取られるとなれば、宿泊する気にもならないだろう。

 

 結果、大商人たちはクーランベル市をただの通り道にするようになった。

 

 そして農村が荒廃すれば……。

 

「結果、盗賊の数も随分と増えました」

「確かに、たくさんいましたね」

「関税逃れの遍歴商人が増えたことも要因です」

 

 食いはぐれた農民と、関税逃れのために非正規ルートを通る遍歴商人が増加。

 そのシナジー効果で盗賊が増加。

 治安が悪化し、さらに物流が停滞。

 

 まさに負のループだ。

 

「しかも肝心の関税収益は、むしろ減っているようですね」

 

 関税逃れが頻発した結果である。

 どうしてクーランベル伯爵は自分の領地に経済制裁を科していたのだろうか……。

 ちょっと理解に苦しむ。

 

「さて、どこから手を付けましょうか……」

 

 私のミッションはこのクーランベル伯爵領の再興である。

 この地の領地経営に成功できれば、私の統治能力が証明できる。

 

 そしてまず、大事なことは「成功」の定義である。

 何をもって成功すれば良いかがはっきりしなければ、成功することもできない。

 

 そして現代日本の感覚で考えれば、「住民(有権者)が幸福になること」であると言える。

 

 景気を回復して給与を上げたり、社会保障を手厚くして生活水準を向上させることを政治家は約束し、それを達成することを目的に政治をするわけだ。

 

 では、私がするべきことはクーランベル伯爵領の領民を幸せにすることだろうか?

 残念ながら、答えはNOである。

 

 先ほどの話はあくまで、国民からの人気が権力に直結する民主主義国家の話だ。

 この世界の農民に選挙権なんてないのだから、機嫌を取るだけ無駄である。

 

 では、私は誰にとっての政治をすれば良いのだろうか。

 結論から言えば、それは騎士だ。

 

 騎士たちの領地を安堵し、彼らが安心して暮らせるように――つまり安定的に農奴たちから税金を搾り取れる環境を整備してあげることが私の仕事である。

 

 そのために大事なことは、「秩序」の回復だ。

 「秩序」とは治安はもちろん、慣例や慣習的な特権の保護、裁判における先例の尊重が含まれる。

 それを踏まえた上で……。

 

「一先ず、関税を踏まえた各種税金は先々代の時代に戻しましょう」

 

 先代伯爵の悪政が「反秩序」であると考えれば、「秩序」は先々代伯爵の治世である。

 私がするべきことは、先々代伯爵の時代に回帰させることだ。

 

 ……関税を全て撤廃させる案が脳裏を過ったが、止めておく。

 「秩序」の破壊になる気がする。

 そもそもとして、騎士たちには各々の領地に通行料を設ける権利が与えられているのだ。

 それを制限できない以上、微々たる効果しか得られないだろう。

 財政を圧迫し、真面目に納税している特権商人たちの機嫌を損ねるだけだ。

 

「問題はクーランベル伯爵の宮廷費ですが……こちらはわたくしが貸し付けましょう。……よろしいですか?」

「はい、はい! もちろんですとも!! シルヴィア様!!」

 

 ガクガクと体を揺すりながら、現クーランベル伯爵は頷いた。

 彼は先代伯爵の弟に当たる人物だ。

 

 彼は先代伯爵により謀反の罪を着せられ、両目をえぐり取られた上で地下室に幽閉されていた。

 目については私が治療したが……長年の拘禁生活で心の方がやられてしまったらしい。

 かなり言動が不安定だ。

 

 安定している時はそれなりに会話できるが、しかし私のことをシルヴィアと呼ぶ。

 私の見た目はそんなに母に似ているのだろうか……?

 

 ロゼリアだと何度も伝えたが、「わかりました。シルヴィア様!」と答える始末だ。

 

 きっと、彼の中では時が止まっているのだろう。

 目の前の十四歳の女の子が、かつて幼児だったロゼリアだと認識できない……もしくは認識したくないのかもしれない。

 

 ただ、一応私に助けてもらったことは認識できているらしい。

 おかげで私の言うことは何でも「はい」と答えてくれる。

 

 ……ちょっと、罪悪感を覚えてしまう。

 障碍者を都合よく、利用しているわけだし。

 

 いや、悪いのは全部先代クーランベル伯爵なんだけど。

 

「いやぁ、しかし今日は良い天気ですな! シルヴィア様!!」

「そうですね」

 

 雨降ってるけど。

 彼が良い天気と思うからには、彼の中では良い天気なのだろう。

 私も雨は嫌いではない。晴れの方が好きだけど。

 

「若様、そろそろお暇しましょう」

「ふむ、そうだな!」

 

 若様。

 側仕えの騎士がクーランベル伯爵にそう呼びかけ、彼を退出させる。

 場が少しだけ静かになった。

 

「とはいえ、財政の立て直しは急務です。租税の見直しのために……時間と労力は掛かりますが、土地台帳を作りましょうか」

 

 基本的にこの世界の貴族や騎士は、検地みたいなことはやりたがらない傾向がある。

 やるとしても最低限だ。

 その理由を説明するには、この世界の土地の権利関係の歴史とか、建前と実態とか、荘園と公領とか、不輸不入権とか、複雑怪奇な話をしなければならないのだが……。

 雑に説明すると、費用対効果に見合わないからであり、面倒くさいからである。

 

 例えば十万円の収益が見込める土地があり、収益の「一割」の納税を義務付けられたとする。

 すると、そこから得られる税金は「一万円」になる。

 そしてこの「一万円」という金額は、何が起きても変わらない。

 

 不作になって本当は九万円の収益しかなくても、豊作になって十二万円の収益に上がっていたとしても、「一万円」で固定だ。

 どんな天変地異が起きても、いくら農奴が餓死しようとも、「一万円」は必ず取り立てるのが、この世界の税制である。

 

 だから領主は検地をしたがらない。

 評価額が上がることで得られるメリットよりも、下がることで失われるリスクを恐れる。

 少なくない費用が掛かることを考えれば、尚更だ。

 

 そのような事情があり、この世界の土地台帳は滅多に更新されない。

 平気で百年前の台帳が使われていたりする。

 ……まあ、この世界、前世の世界と違って人の移動とか殆どないから。

 百年前の資料でも、普通に参考にできちゃうんだけどね?

 

「土地台帳……ですか」

「莫大な費用が掛かりますが……」

 

 騎士ニーアヘルと騎士シクルミラを含めた騎士頭たちは、揃って嫌そうな顔をした。

 貴族だって人間。嫌そうな顔をされれば嫌な気分になる。

 これも検地が滅多に行われない理由である。

 

「しかし皆さまのお話を聞く限り、農村の荒廃は激しいようですから。さすがに実態と乖離している状態で税を取るのは……」

 

 農村が荒廃しているって話をしたのはそっちだよね?

 と私が言い返すと、騎士頭たちは揃って視線を逸らした。

 やっちゃったなぁ……という顔をしている。

 そんなに嫌?

 

「ご安心を。費用と人員はわたくしが出しましょう。皆さまには……少し協力していただきますが、ご負担は掛けません」

 

 ここまでお膳立てして、騎士頭たちはようやく首を縦に振った。

 しかしそれでも不安そうだ。

 後で悪口、言われそうだな……。

 

「あくまで租税の偏りを是正することで、秩序を回復することが目的です。従来より、税負担が重くなることはございません」

 

 あくまで減税のためにやることだから。

 念入りに強調し、ようやく騎士頭たちの表情が明るくなった。

 

 ……ここまで言わないとダメか。

 将来、私が当主になった時に行う予定の全国的かつ統一的な土地台帳作成のための、ノウハウ獲得が本当の目的だけど。

 

 先は長そうだ。

 

 これ以上、税金の話をすると雰囲気が悪くなるので、もっと明るい話をしよう。

 

「次に今後の裁判についてですが……皆さまにお任せしましょう。クーランベル伯爵領の慣例については、わたくしよりもお詳しいでしょうから」

 

 刑罰については、変に重くしたり、軽くするよりは「慣例通り」にするのが一番不満がない。

 先代時代の不良騎士頭たちは全員クビになっており、今の騎士頭たちは私が選んだまともな人員なので、彼らに一任するのが良いだろう。

 

 もちろん、先代伯爵と同じような愚を犯さないように、定期的に確認をする必要はある。

 

「問題は過去の裁判ですが……恩赦を出して、スッキリさせてしまうのが良いのではと思います」

 

 現在、盗賊堕ちした人間たちの中には「仕方がなく盗賊をやっている」者たちも大勢いるだろう。

 社会復帰する気がある人には社会復帰してもらうのが一番いい。

 

 というわけで、先代伯爵の時代に行われた犯罪は全てなかったことにする。

 

 こういう雑な処理はあまり好きではないのだが、先代伯爵の時代に行われた裁判記録を全て遡ってやり直すというのは、あまりに無謀である。

 

「合わせて徳政令も出しましょう」

 

 クーランベル伯爵の雑な統治のせいで、どうしようもない不良債権が大量に蓄積している。

 もう全部なかったことにしてしまった方が、結果的に安定する気がする。

 こういうのは思い切りが大切だ。

 

「来月には、ご結婚されますし。理由としては十分でしょう」

 

 貴族が嫁なしというわけにもいかないので、クーランベル伯爵には早くも結婚してもらうことになっている。

 もっとも、あの様子だと子供は難しそうだが……。

 

「皆さま、いかがでしょうか」

 

 徳政令と恩赦は、この世界ではよくある政策なのでそんなに間違いではない気もするが。

 一応、意見を聞いておく。

 

「徳政令は問題ないかと。しかし恩赦については……まだ機ではないかと考えます」

「農村は荒廃したままです、今、恩赦を出したところで、彼らに戻る場所などありますまい」

 

 騎士ニーアヘルと騎士シクルミラは揃って意見を口にした。

 二人の懸念はその通りだと思う。

 

 今の段階で恩赦を出しても、効力は薄い。

 時間と費用は掛かるが、盗賊を丁寧に潰していき、裁判でしっかり裁き、重罪人は処刑して元を断つ。

 治安と農村の荒廃を回復させ、最後に恩赦で仕上げる。

 

 何とも時間と費用が掛かりそうだ。

 父も私にそういう地道な作業をさせて、私の行政処理能力を奪いたいのだろう。

 

 だからこれは受け入れられない。

 私は早く成果が欲しいのだ。

 

「となれば、仕事を用意した上で恩赦を出せば良いのですね」

 

 犯罪者を更生させるために、仕事を与える。

 言うは易く行うは難し、だ。

 

 言うまでもなく、農地は限られている。

 また手工業などの仕事も、親方ギルドが取り仕切っている。

 犯罪者を受け入れる余地はないだろう。

 

 結果として、鞭打ちなどの肉刑か、辺境の地に追放。

 もしくは、過酷な労働で使い潰す……という選択肢しかない。

 

 普通であればね。

 

「近々、ブドゥーベル薔薇会社の製紙工場がクーランベル市に建てられる予定になっています。そこで働いていただきましょう」

 

 製紙は新しい産業なので、誰の既得権益も侵害しない。

 私という買い手もあるので、需要も尽きない。

 

 羊皮紙を作っている職人は困るかもしれないが……。

 羊皮紙以外にも革製品の需要はあるし、失職するようなことはあるまい。

 

「ご意見を聞かせてください」

「……どうして製紙工場でしょうか?……ロゼリア酒や石鹸の方が良いのではありませんか?」

 

 恐る恐る、という様子で騎士シクルミラは尋ねた。

 ……自分の家の葡萄酒が、ロゼリア酒の原料だと、どこかで嗅ぎつけたな?

 

「良い質問ですね」

 

 確かに確実に儲けを出すならば、その二つの方が良い。

 

 しかしロゼリア酒の場合は、すでに我が邦の戦略物資となっている。

 その製法はできるだけ秘匿したい。

 クーランベル伯爵領で造るわけにはいかない。

 そもそも宮廷醸造家たちの権益でもあるので、おそらく作れない。

 

 次に石鹸だが、こちらは原材料にオリーブ油や海藻灰、塩などが必要になる。

海に近いブドゥーベル市で作った方が効率的だ。

 

一方で紙は……。

 

「紙の原料は麻や亜麻、桑、絹の糸くずですから。クーランベル市でも用意できます」

 

 原材料の確保が容易であることが一点。

 そして何より……。

 

「土地台帳の作成に使用します。もちろん、原本は羊皮紙を使いますが……下書きや記録には、大量の記録用紙が必要になりますから」

 

 今までは下から広がるのを期待していたが、それではダメということが分かった。

 となれば上からだ。

 今までは控えめに使っていたが、より大々的に使っていく。

 

 ついでにラザァーベル伯爵にも紙使用を強制するつもりでいる。

 私の右腕面をすることを許しているのだから、それくらいはしてもらわないと。

 

 先ず隗より始めよ、だ。

 

「どうぞ、皆さまもよろしければ、お使いください。強制はいたしませんが」

 

 私の言葉に一部の騎士頭が目を光らせる。

 

 紙を使えば私からの覚えが良くなる……そう判断した者たちだ。

 良い傾向だ。

 優秀な人は、こっそり囲ってしまおう。

 

 所属はクーランベル伯爵家のままで。

 

「一先ずの方針はこの辺りでしょうか。……他にご意見はありますか?」

 

 私が尋ねると、騎士ニーアヘルが声を上げた。

 

「姫様、進言させてくださいませ」

「どうぞ」

 

 私が許可を出すと、騎士ニーアヘルは前のめりになって言った。

 

「先々代クーランベル伯爵が設置した、賭博場と娼館。この二つは諸悪の根源です。どうか、禁令の発布をお願いいたします」

 

 ……ふむ。

 触れて欲しくなかったなぁ、それ。

 

 どうしようかな。

 




おまけ

特権商人「さあ、今日も元気に商売するぞ! でも、クーランベル伯爵領は最近、辛気臭いから、今日もこのまま通り過ぎるか……」

先代クーランベル伯爵「掛ったな!」

特権商人「なに!?」

先代クーランベル伯爵「法律カード発動!『関税の引き上げ』。領主はその領地の領内、及びその出入口に関所を設け、自由に関税を徴収することができる。俺は前のターンでこのカードを伏せて置いたのだ。さあ、税を納めろ!」

特権商人「特権カード発動!『関税の無効化特権』。この特権を上位君主から与えられた者は、授与者の支配下にある領主からの関税の徴収を免れることができる。コストとして上位君主に納税をしなければならない。私はすでにブドゥーダル公爵に納税済みであり、貴公に税を納める必要はない」

先代クーランベル伯爵「な、何!? しかし、荷物の検品やその特許状が有効かどうかの確認は必要。移動に時間が掛かってしまうことを考えると、税を払った方が賢いのではないかな?」

特権商人「ふっ、そう言うと思ったぜ。ドロー、訴訟カード!『特権の確認訴訟』。上位君主に対し、裁判費用を支払うことで、自身が特権を持っていることを確認する訴えを起こすことができる! この訴訟でもって、俺の特許状の有効性は確認済み。さらに、過度な検品や身体拘束を通じて納税を強制する行為に対して対抗する権利、およびそれによって生じた損害を請求する権利を有していることも、すでに確認済み。俺に触れると、火傷するぜ」

先代クーランベル伯爵「っく……そんな馬鹿な!」

特権商人「ターンエンドだ。もっとも、何をやっても無駄だ。諦めな」

先代クーランベル伯爵「ぐぬぬ……(このままでは家計が……)。ドロー……よし、来た!勅令カード『白い粉の密売禁止』。領主は白い粉(塩)の密売を禁止し、さらにその取り締まりを行うために領地を出入りする人物の積み荷を確認することができる」

特権商人「ふん、それが何だと言うんだ。俺は塩の密売には手を出していない」

先代クーランベル伯爵「くく……甘いな。このカードこれと組み合わせることで、初めて効力を発揮するのだ。いでよ!『罪状の作成』このカードの使用者は任意の人物に任意の罪状を作成することができる! おや、ペロ……しょっぱい! これは塩!! お前には塩の密売の疑いが掛かっている!」

特権商人「な、何!?」

先代クーランベル伯爵「さらに、勅令カード『罪人の逮捕』。領主は任意の罪状の疑いを持つ者に対し、その人物が逃亡しないようにこれを拘束し、その財産を差し押さえることができる。これからお前の身体を拘束し、全財産を差し押さえる。身体を拘束された状態で、訴訟などできまい? これで俺の勝利……」

特権商人「対抗カード、発動!『商人の大同団結』。領主の理不尽な暴政に対し、商人は連携して対抗することができる!! 例え、俺が拘束されようとも、同胞たちが訴訟を起こすだろう。まだ、ゲームは終わってないぜ」

先代クーランベル伯爵「クソ! しかし……少し寿命が延びただけのこと。次の俺のターンでお前はお終いだ! 大人しく、税金を払っておくべきだったな!!

特権商人「やつの言う通りだ。このままでは俺の財産が全て奪われてしまうどころか、死刑になってしまう。ここは大人しく、示談で税を支払うべきか……」

????「「諦めないで(諦めるな)」」

特権商人「だ、誰だ!?」

塩の密売で縛り首になった友達「税金を払うなんて、ケチで強欲なあなたらしくないわ!」

阿片の密売で縛り首になった友達「税金を払うくらいなら死んだ方がマシって言ってたのはお前だろ! 最後まで、戦おうぜ!!」

特権商人「お、お前たち……そうだな! 示談は最後まで抗ってからだ!!」

先代クーランベル伯爵「さっきから何を、ブツブツと……」

特権商人「賄賂カード『兵士の買収』。俺は兵士を買収し、監獄から脱獄する!! 給与はちゃんと払っておくんだな!」

先代クーランベル伯爵「はは、馬鹿め! これで貴様はすでに犯罪者!! これで問答無用で殺せる!」

特権商人「ふふ……足元が御留守だぞ。訴訟カード『上位君主への嘆願』。暴君の横暴を上位君主に訴えることができる」

先代クーランベル伯爵「対抗カード、発動。『関所の封鎖』。関所は我が騎士たちが抑えている。お前が領外へ逃亡し、公爵に訴えを起こすことは不可能だ」

特権商人「そうだな。公爵に対しては、だ」

先代クーランベル伯爵「何? いや、まさか……」

特権商人「そう、俺が訴状を出す相手はクーランベル伯爵領を巡幸中のロゼリア姫だ!!」

先代クーランベル伯爵「な、何を言っている!! あの小娘は俺の上位君主では……」

特権商人「ロゼリア姫は先の狩猟大会の後、父君から共同君主への指名を受けている。発表はまだだが、上位君主として権限を行使する資格を有している。……知らなかったか?」

先代クーランベル伯爵「クソ!! こ、こうなれば……対抗カード『強制執行』。お前の財産はすでに俺の手の中にある! いつでも奪うことができるのだぞ!! い、今すぐにでもお前の屋敷の中に入って金庫を……」

特権商人「その屋敷、本当に俺の屋敷か?」

先代クーランベル伯爵「はぁ? 何を言って……所有者がロゼリア姫になっている!?」

特権商人「賄賂カード『土地と建物の寄進』。訴訟に先んじて、俺は不動産をロゼリア姫に寄進した!! お前が足を踏み入れようとしているのは、ロゼリア姫の屋敷! さあ、入れるものなら入ってみろ」

先代クーランベル伯爵「こ、こんなことが……」

特権商人「さあ、今すぐ俺を開放し、財産を弁償しろ。そうすれば訴状を取り下げてやる」

先代クーランベル伯爵「ぐぎゃああああ!!」

特権商人「感謝するぜ、仲間たち。それと……ロゼリア姫、ありがとうございます」

ロゼリア「いえ、弱き者を庇護するのは強き者の務めです」

特権商人「さすがはブドゥーダルの地を継ぐ者でございます。ところで姫様に御礼を差し上げたいのですが……」

ロゼリア「心付けは不要です」

特権商人「さ、さようですか。でしたら……」

ロゼリア「ところであなたから頂いたお屋敷を我が騎士に検分させたところ、このようなものが出てきました」

特権商人「そ、それは……!」

ロゼリア「私の目には奴隷取引の記録に見えますが……このサインはあなたのものでしょうか?」

特権商人「そ、それは……そ、そうだ! それもクーランベル伯爵の……」

ロゼリア「私は嘘つきは嫌いです」

特権商人「わ、わたくしの署名でございます……」

ロゼリア「奴隷取引が違法であることはご存じですよね」

特権商人「は、はい……」

ロゼリア「ご同行、願いましょうか」(にっこり)




ということが第一部の19話と20話の間で起きたとか、起きてないとか。

領主の仕事の殆どは特許状の交付とその確認、および関連する裁判です。
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