TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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清楚です


第12話

 先々代クーランベル伯爵は名君で知られている。

 

 そんな先々代クーランベル伯爵ではあるが、しかし賛否別れる政策が二つある。

 それが賭博場と娼館の設置である。

 

 日本でも賭博や売春はイメージが悪い……というか場合によっては犯罪だが、それはこの世界でも同様だ。

 「秩序」を乱す「不道徳な」仕事であると考えられている。

 

 故に賭博や売春を公認し、そこから税金を徴収したことは先々代クーランベル伯爵の数少ない汚点とされている。

 

 一方で評価する声もある。

 

 大幅な税収増があったことが一つ。

 そして何より、この賭博場や娼館に数多くの商人がお金を落としてくれていた。

 

 賭博や売春を目当てにクーランベル市を訪れる人も少なくなかったらしい。

 そして人が集まれば、情報も集まる。

 

 先々代クーランベル伯爵はその集めた情報を使い、謀略を張り巡らしたとか、何とか……。

 この辺りは噂話だが。

 人の良さそうな顔をしていたので、あまり謀略を張り巡らせているイメージはない。

 

 なお、先代伯爵はこの賭博と売春に嵌ってしまった。

 結果、クーランベル伯爵家の財政収支は大幅に悪化した。

 

 賭博と売春を利用した先々代と、利用された先代。

 能力の差が如実に表れている。

 

 ともかく、賛否両論ある政策であるため、騎士たちの間で意見も割れた。

 結果、これについては一時保留となった。

 

 私としては……。

 

「姫様」

 

 バルコニーで星を眺めていると、専属侍女のデラーウィアに声を掛けられた。

 

「騎士ダンシオンが面会を希望しております。如何いたしましょうか?」

「通してあげてください」

 

 クーランベル城のバルコニーに、一人の男が現れた。

 二十代後半ほどの若々しい男性だ。

 顔つきは東大陸風で、少し異国情緒を感じさせる。

 

「夜分遅くに失礼いたしました。姫様」

「いえ、丁度、あなたの意見をお伺いしたいと思っていたところです。騎士ダンシオン」

 

 騎士ダンシオンはクーランベル伯爵家の騎士ではなく、ブドゥーダル公爵家の騎士だ。

 新しく私の宮廷に増員された騎士である。

 

「パンはパン屋と言いますから」

 

 一神教徒集団――東方派の騎士であり、ブドゥーベル市では公営賭博場の管理をしていた。

 そして何より、シークの旦那である。

 夫婦揃って、私の騎士となったわけだ。

 

 シークからは、バシバシ扱き使ってくれと言われている。

 

「パンはパン屋……ということは姫様は……」

「わたくしは廃止に反対の立場です」

 

 潰したところで、地下に戻るだけでしょ?と思う。

 余計に治安が悪化するだろう。

 徹底的に取り締まれるならその方が良いが、そこまでの労力をかけるメリットは薄い。

 

 何より、税金が取れて、街に活気が戻るならその方が良いに決まっている。

 

 問題は……。

 

「しかしわたくしの印象が毀損する政策は採りたくないのも本音です」

 

 自分で言うのも何だが、私は清楚なお姫様キャラである。

 そんな私が「賭博OK、売春OK」は解釈違いも良いところだ。

 

 下手すれば私がそういう趣味を持っていると勘違いされかねない。

 

 それに潰した方が「秩序」を回復したと看做される気がする。

 こういうこと言うのもあれだけど、この世界、犯罪統計とかないから。

 

 賭博や売春を潰すことで治安が悪化したとしても、治安が良くなったとみんなが思えば、それは成功なのだ。

 目に見えないゴミはないのと同じである。

 

「お父様も良い印象を覚えないでしょう」

 

 父はこの世界の貴族らしく、賭博や売春を嫌っている。

 どちらも社会の秩序を乱す悪と認識している。

 もっとも、管理するために公営としているが……常日頃から嫌いだと公言している。

 

 父と政争しておいてなんではあるが、嫌われたくないという思いも私にはある。

 

「なるほど。姫様のご心配は尤もでございます。万事、お任せください」

 

 私に任せていただければ、全ての懸念を払拭してみせます。

 と、騎士ダンシオンは自信満々に胸を張った。

 

 シークからは「そこそこ優秀」と伝えられていたが……。

 何だか少し不安だ。

 

「その自信の根拠はどこから?」

「実例があります故」

「実例? なるほど。それはどこの領地でしょうか?」

「姫様がご自分でおっしゃられたではありませんか」

 

 騎士ダンシオンは笑いながら言った。

 実例について口にした記憶はないが……いや、まさか!

 

「え? お父様ですか!?」

「はい」

 

 騎士ダンシオンはにんまりと悪戯な笑みを浮かべる。

 

「旦那様は賭博や売春の存在を認めていらっしゃいます」

 

 どうやら私は父に、そして騎士たちに騙されていたらしい。

 父は別に賭博や売春を毛嫌いしていたわけではないと……。

 

 そういうポーズを見せていただけ、か。

 確かに父がその手の規制をしようという姿勢を見せたことは一度もなかった。

 

「そもそも、賭博や売春など、潰したところで個人に利はありません。仮に嫌っていたとしても……他人のことなど、どうでも良いと思う者が大半でございます」

 

 みんな、賭博や売春なんてどうでもいいと思っている。

 しかし清廉潔白に見せたいから、毛嫌いしている風に装っているだけと。

 

「しかし騎士たちの意見は、禁止に傾いていたように思えましたが」

「それは姫様の前だからでございます」

「あ、なるほど」

 

 先ほど、自分で考えた通りだ。

 私のイメージは清楚系お姫様だ。

 そして賭博や売春が嫌いな公爵様の娘だ。

 

 であれば、私も賭博や売春が嫌いだとみんな思うだろう。

 そんな私の前で「禁止反対!」と威勢よく主張しないのは当然のことだ。

 

「あの中で明確に毛嫌いしていたのは、騎士ニーアヘルだけでしょう」

「どうしてでしょうか? そこまで潔癖な方という印象はありませんが……」

「彼はかつて、先代クーランベル伯爵の教育係でしたから」

「……だから諸悪の根源と」

 

 賭博や売春のせいで、先代クーランベル伯爵が堕落したと考えているわけか。

 それが正しいかどうかは分からないが、憎む理由としては十分か。

 

「お時間さえいただければ、反対派の騎士たちを取りまとめ、賛成派の騎士たちを説得して参ります。姫様は騎士たちの説得に折れた……という形でお収めください」 

 

「……随分、積極的ですね」

 

 きっと、クーランベル伯爵領の賭博経営に一枚嚙みたいんだろうなと予想しつつも、私は苦笑した。

 対して騎士ダンシオンは特に動揺することなく、答えた。

 

「クーランベル伯爵領の賭博場は少々、特殊ですから。潰してしまうのはあまりにも惜しいと思い……出過ぎた真似をいたしました」

 

「いえ、積極的なことは良いことです。……ところで、特殊とは?」

 

 賭博に普通とか特殊とか、あるのだろうか?

 変わったゲームがあるとか?

 と思いながら私は尋ねる。

 

「そうですね……。姫様はブドゥーベル市の賭博場は、どのような者たちが利用しているか、ご存じでしょうか?」

「どのような者……いえ、不勉強ながら把握できておりません。ご教授いただけると助かります」

 

 何しろ、賭博は不道徳的と習ったのだ。

 お清楚なお姫様として、視察するわけにはいかなかった。

 

「ブドゥーベル市の賭博場は、主に平民の荷役人や船乗りたちが利用します。目的は彼らのガス抜き、治安維持です」

 

 ブドゥーベル市に公営賭博場が設置されたのは、私の祖父の時代である。

 しかしそれ以前から、非合法の賭博場があったらしい。

 

 主に平民の港湾労働者が利用していたそれは、犯罪の温床となっていた。

 歴代のブドゥーベル市の支配者たちはこれを何度も取り締まってきたが、しかし駆逐することはできなかった。

 

 私の祖父も当初は歴代の当主たちと同じ方針を取っていたが、しかし先々代クーランベル伯爵の成功を知り、方針転換。

 

 賭博場を公認し、制御下に置くことで治安維持に努めることにしたらしい。

 

 なお、余談であるが荷役人や船乗りの多くは、この公営賭博場に借金があるらしい。

 ブドゥーダル公国では、西大陸の一般的な貴族の領土と同様に、奴隷制度が禁じられている。

 

 そのためガレー船の漕ぎ手や、荷役人に奴隷を使えない。

 だから借金漬けにして、半強制的に働かせるとか。

 ……それは奴隷と変わらないのでは?

 

 奴隷制度があってもなくても、最底辺の人の生活水準は変わらないというお話である。

 

「一方でクーランベル伯爵領の賭博場の利用者は、商人たちです。最盛期には騎士や……お忍びで貴族も遊びに来たと聞いています」

「なるほど!」

 

 要するにパチンコと高級リゾート地の観光客向けのカジノの違いである。

 使う金額と……はっきり言ってしまえば民度とか教養レベルが違うわけだ。

 

「クーランベル伯爵領の賭博場はブドゥーダル公国の商人たちの社交場でした。ここでは様々な情報が集まりました。……先々代クーランベル伯爵はこの情報を利用し、有利に立ち回ったと聞きます」

 

「それについては聞いたことがありますね」

 

 情報……情報かぁ……。

 先の内戦では、その辺りの情報操作で帝家にいい様にやられてしまった印象がある。

 

 もちろん、ブドゥーダル公国にもその手の組織はきっとある。

 “きっとある”というのは、私もその実情は良く分っていないからだ。

 

 当主である父の指揮下にある。

 だから父が留守にしている間は有効に機能しなかったわけだが……。

 

「あなたが賭博場について、非常に詳しいことはよくわかりました。となれば、きっと今後の運営に関する計画も練っているのですね」

「はい。……こちらがそれを纏めた資料となります」

 

 騎士ダンシオンは私に書類の束を渡した。

 羊皮紙ではなく、紙を使用しているのはとてもポイントが高い。

 

「準備が良いですね。後で熟読しておきましょう」

 

 内容次第ではあるが、クーランベル伯爵領の賭博運営は騎士ダンシオンに任せよう。

 後で商人たちから情報を私に流せるような仕組みを考えておかなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、騎士ダンシオンの裏工作の結果、クーランベル伯爵領における公営賭博と公営売春は維持される方針となった。

 

 とはいえ、騎士たちの請願によって私があっさりと折れるのも少し違和感がある。

 演技だと見破られるのも、流されやすいと思われるのも不都合だ。

 

 そこで私は「視察」を行うことにした。

 もちろん、私の中ではすでに公営賭博も公営売春も許可するつもりでいる。

 

 倫理的・不道徳なことが行われていないかどうか、確認するという名目のパフォーマンスに過ぎない。

 

「意外と落ち着いた雰囲気ですね」

 

 私は賭博場というのは、うるさいBGMが鳴り響いているようなイメージだったが、私が訪れた賭博場は静かで、落ち着いている。

 調度品は……若干、成金趣味感はあるが。

 

 しかし商人にはきっと、こういうのが好まれるのだろう。

 

「普段から、これくらい静かなのですか?」

「はい、もちろん。商人たちが落ち着いて交流するための場ですから」

 

 と支配人は答えた。

 もっとも、静かなのは私が視察に来ているからで、きっと普段はもう少し賑やかだろうけど。

 もちろん、パフォーマンスのために来ているので、そんな意地悪なツッコミはしない。

 

「どういったゲームがあるのですか?」

「そうですね。まずはあちらが……」

 

 どうやら、サイコロ遊びやルーレットのようなモノが人気らしい。

 というかそれくらいしか、ゲームがないようだ。

 

「それと……こちらは新しく設置したトランプ台となります」

「……へぇ」

 

 そこにはお洒落なテーブルと、トランプが用意されていた。

 トランプで賭博というと、やはりポーカーをイメージする。

 しかし私はババ抜きと真剣衰弱、七並べくらいしか、トランプの遊び方をこの世界に人に教えていない。

 

 ルールが難しいと、流行に待ったを掛けてしまうかもしれないと思ったからだ。

 それにこの世界の人がどんな遊びをするのか、興味があった。

 

「どうやって遊ぶのですか?」

 

 ルールを聞いてみる。

 聞いた感じだと、インディアン・ポーカーに似ていた。

 人間、行き着く先は同じらしい。

 

 せっかくなので、少し遊んでみようかな……。

 と私が思った時だった。

 

「おい! 今日はドレスを着て来いと言っただろう!」

「し、しかし私はこれしか……」

「いいから着替えて来い!」

 

 喧噪が聞こえた。

 何事かと視線を向けると、上級使用人と思われる男性が、女性給仕を叱りつけている場面だった。

 しかし衝撃的だったのは、その女性給仕の衣装だ。

 

 一見すると、それは肩出しドレスのようだった。

 しかしスカートがない。

 下半身は下着のようになっており、太腿から下が露出している。

 

 

 一言で言えば、バニーガールだ。

 嘘でしょ?

 

「奇抜な衣装ですね」

「そ、そ、そうですね! いやぁ……何を考えているのやら。あんなふしだらな……」

 

 総支配人の視線が泳ぐ。

 どうやら、普段はあれで給仕をしているらしい。

 

「誰が考えたのですか? あの衣装は」

「……先代伯爵でございます」

 

 観念した様子で総支配人は答えた。

 私の中で先代クーランベル伯爵の評価が少しだけ上がった。

 

「見なかったことにして差し上げましょう」

 

 後で騎士ダンシオン経由で取り寄せよう。

 

 

 

 

 後日。

 

「う、うわぁ……」

 

 こっそり騎士ダンシオンからもらったバニー服を着込んだ私は、鏡の前で思わず赤面した。

 肩や背中がスースするだけでも、恥ずかしいのに。

 

 こんなに下半身が……。

 ふ、太腿、丸だしだし……角度も……。

 

 え、えっち過ぎでしょ……。

 

「こ、こんな格好で給仕をするなんて……不道徳です! ゆ、許されません!!」

 

 足をこんなに露出するなんて、ふしだらだ。

 とそんな感覚を覚えてしまう。

 

 随分とこの世界に染まってしまった。

 

「こ、こんなの、誰かに見られたら……」

 

 例えば、トール君とか……。

 ば、馬鹿!

 私は何を考えているんだ!!

 

「は、恥ずかしい……」

「姫様。気は済みましたか?」

 

 一人で見悶えていると、デラーウィアに声を掛けられた。 

 当たり前ではあるが、貴族である私は一人で服を脱ぎ着しない。

 というか私はコルセットを一人で装着できない。

 

「はい。では、次はデラーウィアが着てください」

「えぇ……」

「次期当主としての命令です」

「軽々しく、そのようなことを口にしてはなりません。姫様」

「お願い、お姉ちゃん」

「可愛く言っても無駄ですよ」

 

 と言いながらもデラーウィアはバニー服を着てくれた。

 意外と嫌そうではない。

 きっと興味があったのだろう。

 

 むっつりめ。

 

 しかし……。

 

「す、すごいですね……」

 

 やはり身内のバニー服の威力は格別だった。

 エッチ過ぎる。

 これは犯罪だ。

 

「もう、よろしいですか?」

「最後に背中を見せてもらっていいですか?」

 

 仄かに赤らんだ顔のデラーウィアに私は頼みこむ。

 この世界のドレスが元になっているからか、このバニー服も背中がバッサリとカットされていた。

 白い背中は美しいタトゥーで飾られている。

 

 きっと、私も似たような感じなのだろう。

 

「あっ……」

 

 以前の社交会で、トール君に背中を見られたことを思い出してしまった。

 全身がカーっと熱くなる。

 

「姫様? どうされましたか?」

「な、何でもありません。……もう、脱ぎます」

 

 これは封印だ。

 もう着ないし、誰にも見せない。

 

 絶対にだ。

 




清楚です


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