TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情 作:桜木桜
ラークノール公爵にはトール君を含め、息子が五人いる。
嫡出のトール君が五男であり、残り四人は非嫡出の子供たちだ。
彼らは全員、伯爵の地位を与えられており、アース家の分家として活動している。
彼らをラークノール公爵家の構成員として見るか、各伯爵家の家長と見るかは結構、微妙なところではあるが……。
内部での自認はラークノール公爵家の構成員らしい。
そして彼ら四人は夕食会に出席するそうだ。
ラークノール公爵とトール君を含めると、六人の伯爵級魔力量の持ち主が席に着くことになる(もっとも、トール君はすでに公爵級に達しているが)。
私もすでに公爵級に達しつつあるわけだが、さすがに六対一はハードプレイ過ぎる。
故にこちらも五人、伯爵級の貴族たちを連れている。
代表格はラザァーベル伯爵だ。
彼は捕虜になったことがあるだけあって、ラークノール公爵家の内情に詳しいので、極めて自然な人選である。
なお、その他の貴族たちもラークノール公爵サイドに合わせて、バークス家の分家の伯爵たちで統一している。
彼らの自認はおそらくブドゥーダル公爵家の構成員というよりは、各伯爵家の家長だとは思うが……。
今回は構成員として振る舞ってもらうつもりだ。
伯爵級十二人による12Pの乱交だ。
このまま帝国に殴り込みに行っても、問題ない戦力である。
……おそらく帝国は今頃、国境を固めていることだろう。
「ラークノール公爵の側妻も出席されるとのことですが……いかがいたしましょうか?」
私にそう尋ねたのは筆頭騎士頭サンブラッグである。
私の補佐……というよりはお目付け役である。
「ふむ? ……彼女たちは伯爵相当ではないでしょう? 何か問題ありますか?」
お互い、出席する「伯爵級」の数は揃えるのがマナーだ。
ここでもう一人、伯爵級に飛び入り参戦されるとこちらが不利になってしまう。
しかしそれ以下……男爵級であれば、問題はない。
いや、もちろん実際に戦闘になれば問題は大アリなのだが、マナー的には咎めるほどの話ではない。
「彼女たちは騎士級ですが……」
「あぁ、なるほど」
ラークノール公妃の魔力量は男爵級であり、家格も男爵家相当だ。
貴族としてはギリギリだが、足切りされない範囲に入る。
そもそもラークノール公爵の妻なのだから身分的には同席する権利がある。
一方でラークノール公爵の側妻たちの魔力量は騎士級であり、家格も騎士相当。
そしてラークノール公爵の正式な妻でもない。
貴族としては落第だ。
にもかかわらず、私と同じ席に着く。
次期公爵である私が、たかが騎士の女と同格、テーブルパートナーと見做される。
これは侮辱であり、屈辱だ。
ブドゥーダル公爵家からすれば、だが。
「さて、困りましたね。気持ちとしては、郷に入っては郷に従えと言いたいところではありますが、わたくしの立場がそれを許しません」
エイル(王国)文化圏も、ニアルマ(帝国)文化圏も、一夫一妻が原則である。
一方でガルザァース人たち――ガルザァース(北方)文化圏では、一夫多妻の伝統が根付いている。
要するに私たちからすると、ラークノール公爵の側妻はただの妾に過ぎないが、ラークノール公爵陣営からすると、正妻に劣るとはいえ妻の一人だ。
ダメと言ったら、気を悪くされるだろう。
「ラークノール女公やバレーヌ伯爵は反対されているようです」
「……おや? そうですか。意外ですね」
ラークノール公妃が嫌がるのは当然として、バレーヌ伯爵――ベリドルも反対とは。
彼はラークノール公爵の長男だ。
彼の立場からすると母親が出席するのは、自分の立場は決してトール君に劣らないと主張するようなもの……。
あぁ、だからか。
「構図が理解できました。あちらも苦労されているご様子」
――私もラークノール公爵の妻よ!
――母さん、お願いだからやめてくれ!
と母親と押し問答しているバレーヌ伯爵の姿が目に浮かぶ。
「しかしわたくしたちを悪者にして欲しくはありませんね」
――ほら、あっちも迷惑してるだろ!
と説得するために私たちにNOを突きつけて欲しいのだろう。
うーむ、面倒くさいな。
「ここは毅然として断るべきです。そもそも主に仕える立場の者が、同じ席に着こうなど、言語道断! 無礼打ちにしても良いくらいです!!」
「もしあちらが強引にことを進めようとするのであれば、欠席して抗議するべきでしょう。姫様一人ではなく、ブドゥーダル公爵家の沽券に関わります」
珍しくデラーウィアと騎士スティーンが怒った声音でそう言った。
私が思うに、二人はバレーヌ伯爵を含めたトール君の兄たちが同席することも不快なのだろう。
二人とも私の妾腹の兄姉だが……。
いや、だからこそか。
ガルザァース文化圏では、嫡出と非嫡出の差異は小さい。
嫡出と非嫡出を明確に区別するエイル・ニアルマ文化圏出身の二人にとっては、生理的に受け入れ難いのだろう。
……私からすると、嫡出と非嫡出を区別(というか差別)する方が受け入れ難い気持ちがあるけど。
「そうですか……」
「私も同様に考えます、姫様。玉虫色の返事は良くない誤解を招きます」
筆頭騎士頭サンブラッグもまた、デラーウィアや騎士スティーンに同調した。
私もそれがベターだと思う。
ベターだけど。
「そうですね。わたくしもそう思いますが……」
ベストではない。
もっと良い方法がある気がする。
そう思った私はもう一人の騎士頭に視線を向けた。
「騎士頭ワンダーグラス。あなたはどのように考えますか?」
騎士頭ワンダーグラス。
ブドゥーダル公爵家の騎士頭であり、父の腹心の一人である。
彼は父方がガルザァース系であり、ガルザァース人の文化慣習にも詳しい。
私のガルザァース語の師でもある。
そしてアールゴキアの夫だ。
……え?
アールゴキアは父の愛人じゃないかって?
そうだよ。
一夫一妻。
それはつまり、「どんな事情があろうとも生殖可能な男女には夫(妻)がいる」ということだ。
番がいないのはあり得ない。
だからアールゴキアには夫がいる。
当たり前の話だ。
同様に父の愛人であり、騎士スティーンの母、筆頭騎士頭サンブラッグの妹である副侍女長にも、夫がいる。
当たり前の話だ。
何と言うか、不潔とか浮気とか不倫とかNTRとか、そういう感じのワードがサブリミナル的に脳裏を過るが、気のせいだ。
だって、当たり前だから。
なお、誤解無きように言っておくが、父と騎士頭ワンダーグラスの関係は良好だ。
何しろ自分の愛人を任せるくらいなのだ。
これは父が騎士頭ワンダーグラスをそれだけ信用していることであり、そして騎士頭ワンダーグラスにとっても名誉な事。
そして騎士頭という騎士にとっての最高位の地位を持つ騎士頭ワンダーグラスを夫とすることができるのは、アールゴキアにとっても名誉なことだ。
みんな幸せ、ハッピー。
三方よし。
頭おかしいんじゃないか?
おっと、本音が出てしまった。
「拒絶するべきでしょうが……角が立つことを気にされる姫様のお気持ちも分かります」
「はい。次善ではありますが、最善ではないように感じます。何か他に策はありませんか?」
「ないことはありません」
気になる言い方だ。
「しかしこれは騎士として不忠なこと。姫様は御不快に思われるでしょう。……このようなことを思いつくこと自体が、騎士としては恥じるべきこと。可能であれば胸中に秘めたいことではありますが……」
すごい予防線張るじゃん。
そこまで言われると逆に気になってくる。
「ブドゥーダルの地を継ぐ者として命じます。口にしなさい。無礼は咎めません」
「あちらの要求を受け入れる代わりに、専属侍女デラーウィアおよび騎士スティーンを同席させることを求めましょう」
………………なるほど!!
こちらも相手と同じことをすれば、あちらもどれだけ無礼な要求をしているか自覚して、要求を引っ込めるだろうと。
仮に相手が要求を受け入れたとしても、こちらも同じことをしているのだから、一方的に侮られたことにはならない。
「名案です。素晴らしい! そうしましょう」
「「姫様!!」」
デラーウィアと騎士スティーンが血相を変えて、怒鳴りつけて来た。
怒髪天を突くという顔だ。
「そのようなことは世の秩序に反します! 天地がひっくり返るようなもの!!」
「猿の真似をすることは猿に堕ちると同義です!」
「しかし郷に入っては郷に従えと言いますから」
私にとってはどちらに転んでもいい。
「わたくしは二人の妹であることを誇りに思っております。……お兄様、お姉様」
私がそう言うと二人は言葉を詰まらせた。
チョロいな。
「以上、方針が決まりました。筆頭騎士頭サンブラッグ。取り次ぎ、よろしくお願いいたします」
「……はは」
筆頭騎士頭サンブラッグは何か言いたそうだったが……。
反対というほどでもない様子だった。
彼がそう判断するなら、問題あるまい。
「……お義父様。後でお話があります」
「まぁまぁ」
デラーウィアが騎士頭ワンダーグラスを詰めようとするところに私は割り込む。
そう怒らないで。
いやぁ、しかしデラーウィアや騎士スティーンと一緒に食事ができることがあるなんて。
ちょっとだけ、ワクワクする。
……と思っていたのだが、結論から言うと相手はこちらの要求を拒絶する代わりに、要求を引っ込めてきた。
ブドゥーダル公爵家としては一番。
私としては、二番目に望ましい形となった。
なお、宴席の場に現れたベリドル――バレーヌ伯爵は、なぜか老けているように見えた。
彼も苦労しているようだ。
一方で……。
「いやはや、しかしロゼリア姫のお召しになられているドレスは……本当にお美しいですわね!!」
ヨローズ――ラークノール公妃は数時間前と打って変わり、めちゃくちゃご機嫌だった。
理由は薄々察せられるけど……。
ふえぇ……。
こ、怖いよぉ。
ロゼリアを中心とする人間関係
マカートス……父。ブドゥーダル公爵。
シルヴィア……母(故)。プルーメラ大公の娘。
アントシア……継母
ブランシュ……腹違いの妹(次女)
ルージュ……腹違いの妹(三女)
ゴルディア……プルーメラ大公。祖父。シルヴィアの父。
スティーン……妾腹の兄。護衛隊長。騎士。
デラーウィア……妾腹の姉。専属侍女。
アールゴキア……乳母。デラーウィアの母。父の愛人。侍女長
サヴァーニャ(名前初出)……ブランシュの乳母。父の袖卸相手。副侍女長。サンブラックの末妹。スティーンの母親。
サンブラック……筆頭騎士頭。サヴァーニャの兄。
ワンダーグラス……騎士頭。アールゴキアの夫。
ブラース……伯母。専属侍女。ゴルディアの妾腹の娘。
おまけ
ラザァーベル伯爵……従叔父。マカートスの従兄(母方)。父系では遠い親戚。
クーランベル伯爵……継母の弟。父系では遠い親戚。
先代クーランベル伯爵……継母の兄。父系では遠い親戚。
先々代クーランベル伯爵……継母の父。父系では遠い親戚。
バルトナ王子、カーヴェニル王子……又従兄妹
バールド皇子……遠い親戚
トール君……未来の旦那様♥
ロゼリア……初登場時12歳。
デラーウィア……初登場時15歳。
三歳差があるのでアールゴキアがロゼリアの乳母をやるためには別に子供がいる必要があります。
アールゴキアに夫がいる情報が早く出すべきと思いつつ、出すと話が脇道に逸れるのでここまで引っ張る形になりました。
ただ、今まで一度もツッコミが来なかったので、皆様にとっては説明されるまでもない話だったかもしれません。