TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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第22話

 会食は長いテーブルに座り、向かい合う形で行われた。

 ラークノール公爵家側は真ん中にラークノール公爵、右に公妃、左にトール君、それから長男、次男、三男、四男が左右交互に続く。

 向かい合うブドゥーダル公爵側は私が中心で、右にラザァーベル伯爵……という形だ。

 

 西大陸ではオーソドックスなタイプの会食形式である。

 中心ほど上座であり、また左右では右の方が上になる。

 

「さて、まずは宴の前に我が家族を紹介しよう」

 

 ラークノール公爵は自分の妻、トール君、そして長男から四男を順に紹介していく。

 名前を呼ばれた者たちは順に挨拶をしていく。

 

 ところで実は私はトール君の兄弟、次男と四男とは顔を合わせたことがある。

 彼らは先の戦いでトール君とともに従軍していたからだ。

 帰宅の際に彼らは我が邦を通過したので、私も彼らとは顔を合わせている。

 

 ……にも関わらず、ラークノール公国内で「ロゼリア姫馬鹿のブス説」とやらが流布されていたことは大変、遺憾である。

 

 手紙が直筆であったことは信じられなかったとしても、顔を合わせた者は少なからずいる。

 ちゃんと美人と報告して欲しい。

 別に美人であると誇るつもりはないが、不細工呼ばわりはちょっと腹が立つ。

 

 と思ったのだが、この世界には写真がない。

 容姿は口頭で説明するしかないわけだが、人の顔の美しさを口頭だけで説明し、それを脳内でイメージするのは難易度が高い。

 そう考えると、私の顔についてよくない噂が立っていたことは、無理もない話かもしれない。

 

 美人か不美人かくらいわかるだろうと思うかもしれないが、他者からの伝聞の「美人」評ほど信用ならないものはない。

 そもそもとして、貴族の姫君のことを「不細工」などと表だって言う人はいない。

 非礼に当たるからだ。

 仮に私がブチャイクだったとしても、みんな「ロゼリア姫は美しい女性です」と口を揃えていうだろう。

 

 それにティーンエイジャーの女の子なんて、多少ブチャイクだったとしても、愛嬌さえあれば可愛く見えるものである。

 そして貴族の姫君は愛嬌のある子が多い。

 煽てられて育つからね。

 以上から「ロゼリア姫は美人」という証言は全く当てにならないわけである。

 

 ……そして「ロゼリア姫は不細工」と陰口を叩かれるほどに私はこの邦では嫌われている。

 気を引き締めないと。

 

「それではわたくしからは……」

 

 私の番が来たので、こちらも紹介と挨拶をする。

 それが終われば待ちに待った食事だ。

 

 大皿に乗った料理が運ばれてくる。

 そしてまず料理がテーブルに並べられてから、給仕たちが目の前で各々の皿に取り分けていく。

 これは「毒なんて盛ってないですよ」というアピールだ。

 

 同様に飲み物も最初は共通の酒壺から、それぞれの杯へと目の前で注がれていく。

 

 フランス料理のフルコースのように、料理が出てくる順番は決まっていない。

 が、味が薄い物から順に出てくる傾向はある。

 

「それでは両家の友好を祝って」

「我らが友好の架け橋とならんことを」

 

 前菜とお酒が出揃ったところで、私とラークノール公爵が乾杯の音頭を取る。

 お酒を口に含む。

 ……これ、うちの葡萄酒だな。

 残念。

 

 それから前菜を口にする。

 前菜は甘みの少ないメロンに生ハムを巻いたもので……よくあるやつだ。

 残念。

 

 ラークノール公爵のことだから、いきなりゲテモノでも出してくれるんじゃないかと期待していたが、今のところ全部無難だ。

 もっと、こう、内に秘めている狂気を出して欲しい。

 と思ったが冷静に考えてみると、料理セレクトは公爵ではなく公妃の監修だろう。

 

 貴族社会では宮廷を取り仕切るのは妻の役割で、そこには客人の持て成しも含まれる。

 彼女は北部エイル系貴族だから、料理も北部エイル系に寄るのは当然か。 

 

 各々が前菜を口にし終えたタイミングで、次々と大皿に乗った料理が運ばれて来た。

 給仕たちが少量ずつ、取り皿によそってくれる。

 

「あっ……」

 

 あれはそら豆では?

 私の記憶ではラザァーベル伯爵を含め、うちの伯爵のうち三分の一はそら豆が食べられなかったはず。

 日本の学校給食ではないので、食べられないからといって死刑になることはないが、一口も食べないのは感じが悪い。

 

 しかし倒れられても困る。

 彼らの分、私が食べよう。

 

 これは貸し一つ……あ、岩牡蠣もある。

 

「ロゼリア姫は牡蠣がお好きだとか」

 

 話しかけて来たのはラークノール公爵の次男だった。 

 取り敢えず、料理の話から入るのは鉄板だ。

 

「はい。とても楽しみにしておりました」

「ブドゥーダルではどのようにして食べるのが一般的なのでしょうか」

「最近ではレモンを絞るのが人気ですね」

「レモン?」

「レモンというのは果物、柑橘の一つで……」

 

 と特産品や領地経営の話に移行すると、仕事熱心な貴族であれば盛り上がる。

 逆に盛り下がったら、怠け者か、領地経営に興味がないかのどちらかだ。

 

 盛り上がり具合としては……普通より少し下くらいか。

 熱心に聞いているのはトール君とラークノール公妃くらいだ。

 切り口を変えた方がいいかもしれない。

 

「……あら?」

 

 話をしながら、何気なく口に運んだ二枚貝のソテー。

 そこからふと、懐かしい風味を感じた。

 これ、美味しい。

 

「どうされましたか?」

 

 少し不安そうにラークノール公妃に聞かれた。

 おそらく、彼女としてはあまり自信がない料理だったのだろう。

 それに対して私が反応したから、不安になったのだ。

 

 私は笑みを浮かべる。

 

「こちら……魚醤が使われているのでしょうか? バターととても合いますね」

 

 醤油に似た、アミノ酸由来の旨味を感じる。

 

 言ってしまえば、ホタテのバター醤油焼きにワインビネガーを垂らしたような料理だ。

 美味しくないわけがない。

 

 取り敢えず、お世辞を言っているわけではないことを示すために私はお皿の中のホタテ焼きを空にする。

 そして軽く大皿に視線を向けると、給仕がすかさず大皿から取り皿にホタテをよそってくれた。

 

 お代わりしたい時は、こうしてお皿の中を空にすればいい。

 逆に食べたくない時は、少し残せばよい。

 勿体ないと思うかもしれないが、それは気にする必要は全くない。

 

 貴族の食べ残しは、騎士や平民にとってはごちそうだからだ。

 この世界の住民は平気で残飯を食べる。

 貴族(上位層)の食べ残しが汚いわけがないという発想らしい。

 

 実際のところ貴族は綺麗に食べ残すので、日本人が想像するような「残飯」感はない。

 

 ブドゥーベルの宮廷でも、城務めの騎士たちが私たちの食べ残しを巡って、争っている。

 方法は虫拳だ。

 私が教えた。

 

 小学校の給食かな……?

 

「ブドゥーダルでも魚醤やバターを口にするのですか?」

「魚醤はありませんが……バターを口にすることはありますよ」

 

 私の回答にラークノール公妃は意外そうな表情を浮かべた。

 魚醤は言うまでもないが、ラークノール公爵領独特の食文化である。

 

 そしてバターも、実はあまり大陸南部では食べられない。

 オリーブオイルの方が主流だ。

 貴族ではなおさらだ。 

 野蛮人の食べ物と見做されている。

 

 もっとも、それを口にするほど私は愚かではない。

 それに私は高級料理も好きだが、庶民的な食べ物も好きだ。

 だから食べることもある。

 

 結構、美味しいのでもう一度お代わりしようかな。

 私は指についたバターをフィンガーボールで洗い、ナプキンで拭う。

 

「そうだったのですね。ブドゥーダルでも……」

「どうかされましたか?」

「……失礼。ロゼリア姫の所作が大変、洗練されておりましたので」

 

 こういう褒められ方をされると、逆に「すごい汚い食べ方をしている」と言われている気がしてしまうのは、私の心が汚れているからだろうか?

 もっとも、私のマナーは全く問題ないはずだ。

 

「ブドゥーダルでも、手で食べられるのですか?」

 

 この世界のフォークの発祥地は、ブドゥーベル市である。

 厳密には給仕用としては昔からあったが、口に運ぶ用のカトラリーとしてはブドゥーベル市が発祥地である。

 その歴史は百年も経っていない。

 

 ラークノール公爵領のような王国北部地域――辺境とされる場所では、貴族であってもフォークを使用せず、手で食べられることは少なくない。

 

「宮廷ではフォークを用いますが……。ブドゥーダルでも、自身の手で食べられる方は少なくありませんよ」

 

 ……田舎の騎士家とかだけど。

 ないことはないので、私は「フォークで食べる時のマナー」はもちろん、「手で食べる時のマナー」も習得している。

 

 だから今回のように「手食強制」でも対応できる。

 普通、「手とフォーク、どっちがいいですか?」って聞くんだけどね。

 

 おそらく、私のことを試すつもりだったのだろう。

 フォークなんて要求した日には、「やはり高貴なお姫様は野蛮な食べ方なんてできませんものねぇ」とか言われそうだ。

 

「では、普段はフォークを使われるのですね」

「……そうですね」

「では、ロゼリア姫は“フォーク党”ということでしょうか」

 

 ラークノール公妃はニコニコと笑みを浮かべながら私に尋ねた。

 手食が良いか、フォークが良いか。

 西大陸貴族の間でも“荒れる”話題の一つだ。

 

 やっぱり、試してきた。 

 

「フォークを使用することが多いことは事実ですが……」

 

 事実なので否定しない。

 しかし、だからといって手食文化を否定している……と受け取られる回答はさけなければならない。

 

「しかし我が身体に流れる父祖の血は、手に慣れ親しんでおります」

 

 フォークの歴史はほんの百年。

 私の先祖たちは手で食べていた。

 自分のご先祖様のことを“野蛮人”と思うわけないでしょう?

 

 と私は笑みを浮かべ返した。

 

「……ロゼリア姫は先祖を誇りに思われているのですね」

 

 そういうラークノール公妃は少し悔しそうだった。

 負け惜しみには、わざわざ反応する必要もないだろう。

 私は小さく頷く。

 

 しかし、こうして話してみると分かるけど、トール君の「家柄・文化コンプレックス」はきっと、ラークノール公妃の影響なのだろう。

 

 僻み・妬みの中にチラチラと羨望のようなものを感じる。

 

 ラークノール公爵は全く気にせず、手づかみでムシャムシャ食べているのに。

 

 大体、文化の違い――しかも食べ方で優劣をつけるのは如何なものか。

 前世の世界だって、人口の四十%は手食文化だと言われているのに。

 おにぎりやサンドウィッチは手で食べてよくて、他の物を手で食べてはいけない合意的・科学的な理由なんてものはない。

 ただのお気持ちの問題である。

 

「大事なことは道具ではなく、相手を思う心遣いであると思います」

 

 私は笑みを浮かべていった。

 するとラークノール公妃とバレーヌ伯爵は気まずそうに視線を逸らした、

 

「お飲み物はいかがしましょうか」

 

 会話が終わったタイミングで声を掛けられた、

 私は少し考えてから答える。

 

「林檎酒はありますか?」

「ございます」

「それでは、そちらで」

 

 しばらくするとガラス製のグラスを給仕が持ってきた。

 林檎酒が注がれる。

 口に含むと、林檎の爽やかな香りと心地良い炭酸が口の中で弾けた。

 

「我が邦の酒はいかがか」

 

 ここで初めてラークノール公爵が口を開いた、

 私は笑みを浮かべる。

 

「とっても美味しいです」

「麦酒も美味いぞ。飲まれるか?」

「ええ、ぜひ。こちらを飲み終えてから、いただきます」

 

 私が笑顔で答えると、ラークノール公爵は機嫌が良さそうにクツクツと笑った。

 隣に座るラークノール公妃は何か言いたそうな顔をしている。

 

「ロゼリア姫は冒険心に溢れていると見える」

「偉大なる冒険者を祖に持つ御方にお褒めいただけるとは、光栄です」

「せっかくだ。ロゼリア姫にはその酒に合う料理をごちそうしよう」

 

 ラークノール公爵の言葉に公妃とバレーヌ伯爵は顔を見合わせた。

 二人は何か口を開きかけたが、「楽しみです」と私が言うと、そろって口を閉じた。

 

 しばらくして、大きな皿に盛られて来たのは茹でザリガニだった。

 大皿の上に真っ赤に茹でられたザリガニが積み重なっており、上には彩り程度のハーブが添えられている。

 

 ……なーんだ。

 

「手慣れていらっしゃるな」

「ブドゥーダルでも食べることはありますよ? ね?」

 

 私は隣に座るラザァーベル伯爵に同意を求めた。

 彼は曖昧な顔で頷く、

 平民は食べるが、貴族はあまり食べない。

 

 私はザリガニの皮を剝き、身を食べ、林檎酒を口に運ぶ。

 確かに林檎の爽やかな香りと、ザリガニの濃厚な旨味は合っている気がする。

 僅かな生臭みも、お酒ですっきりする。

 

「ロゼリア姫はこの程度で驚かれたりはしない」

 

 なぜかトール君が自慢気に言った。

 ザリガニ食べたくらいで大げさな。

 

「この程度では驚かないか。それでは……あれを持ってこい」

「旦那様! あれは……」

「気に入らなければ食べなければ良いだけの話ではないか」

 

 どうやらザリガニよりも衝撃的なものが来るらしい。

 私はウキウキ、ラザァーベル伯爵たちは緊張した様子で料理を待つ。

 

 しばらくして運ばれたのは、何らかの肉のソテーだった。

 しかし見覚えがある。

 

「ほう、これは鶏か……?」

「淡泊な味で食べやすいな」

 

 どんなヤバいものを食べさせられるのかと警戒していた様子の伯爵たちは安堵の声を漏らす。

 私も同様に口に運ぶ。

 うん、やっぱり味はそんなに変わらない。

 

「何の肉か、わかりますかな? ロゼリア姫」

「カエルでしょう?」

 

 私の言葉に伯爵たちの動きが止まる。

 

「ブドゥーダルでも食べることはありますよ。ねぇ?」

「食用とする地域は確かにあります」

 

 ブドゥーダル全体のことのように語るな。

 とラザァーベル伯爵は言いたそうだった。

 私はそれをあえて無視する。

 

「ブドゥーダルの地もラークノールの地も、それほど大きく変わらないようですね」

 

 実際には味付けとかは全然違う。

 ブドゥーダルの料理はもっと、大量の香辛料とかで味や香りをつける傾向がある。

 対してラークノールの料理はシンプルな味付けが多い。

 貴族の多くは後者の方が貧乏くさいと思うだろうけど……。

 

 私はどちらも嫌いではない。

 

「この程度では動じないか……」

「やはり、あれしかないのではないか?」

 

 次男と四男が何やら会議を始めた。

 なんだか、料理で私を驚かす遊びが始まっているらしい。

 ワクワクしてきた。

 

「わたくし、食べず嫌いはしないようにしておりますの」

 

 生豚肉(メット)はさすがに遠慮したが。

 それくらいだろうか。 

 

「ロゼリア姫は勇気があり、偏見のない御方だ」

 

 そしてなぜかトール君は誇らし気だった。

 謎の後方彼氏面だ。

 

『おい、あれを持ってこい! ――だ!!』

 

 そしてムキになった様子のラークノール公爵がガルザァース語で何かを叫んだ、

 聞き取れない。知らない単語だ。

 私は期待に胸を膨らませた。

 

 しばらくして運ばれてきたのは、大皿の上で薄く切られた生肉だった。

 うーん、生肉はなぁ……。

 魚なら喜んで食べるけど。

 

「これは?」

「鯨の膾だ」

 

 何だ、鯨か。

 私の記憶では、海獣は寄生虫やウイルス感染症の危険性はなかったはず。

 よし、問題ない。

 

「赤身の旨味がとても強いですわね」

 

 独特の香りがするが、それはオリーブオイルとニンニクでしっかりと押さえ込まれている。

 前世で食べたことがあるものとは少し味が異なるが……。

 

 まあ、部位とか種類にも依るだろう。

 

「そういえば、狩猟大会でトール殿にごちそうしていただいた鯨汁はとても美味しかったですわ」

「気に入っていただいて幸いです。次の機会にご用意させましょうか?」

「ぜひ」

 

 トール君と思い出を語り合う。

 私は鯨程度でびっくりしないぞ。

 

『……となれば、次だ。後悔しても知らんぞ』

 

 ラークノール公爵は悔しそうに言った。

 しばらくして給仕が運んできたのは、陶製の壺だった。

 

「けほっ……」

 

 誰かが咳き込む。

 生臭い臭いが壺から溢れ出ている。

 ……でも、これ、知っている匂いだ。

 

「これは冬季の保存食でな。イカを、その内臓と塩で漬け込んだものだ」

「まぁ! 初めてですわ」

 

 この世界では。ね。

 何のことはない。

 ただのイカの塩辛だ。

 

 私はお皿に少量、盛ってもらった塩辛を口に運ぶ。

 

「少し塩味が強いですが、お酒に合いますね。チーズと合わせても美味しいかもしれませんね」

 

 しかし前世で食べたことがあるものよりも、シャープな味だ。

 砂糖とか、余計なものが添加されていないからだろう。

 こちらの方が本来の味に違いない。

 

「ロゼリア姫は舌が肥えていらっしゃる」

 

 トール君がすかさず私を持ち上げた。

 この手の珍味は経験数が物を言うので、間違ってはいない。

 私は美食家なのだ。

 

「わたくしはこのくらいでは驚いたりはいたしません」

 

 私をびっくりさせる遊びになっているようなので、試しに乗ってみる。

 するとラークノール公爵はテーブルを強く叩いた。

 

『――!! を――持って――!!』

 

 そして滅茶苦茶に訛ったガルザァース語を、厨房に向かって叫んだ。

 全然、聞き取れなかった。

 

「父上! そ、それはいくら何でも……」

「あ、あんなものを客人に出すなんて!!」

『黙れ!!』

 

 バレーヌ伯爵とラークノール公妃は揃ってラークノール公爵に抗議する。

 しかしラークノール公爵はガルザァース語で二人を怒鳴りつけた。

 それから私の方へとにんまり、笑みを浮かべた。

 

「次はさすがのロゼリア姫も腰を抜かすだろう」

「まあ! 期待してしまいますよ?」

「くくくっ……その余裕も今のうちだ」

 

 ラークノール公爵は自身あり気だ。

 一方でブドゥーダル側の出席者たちの顔色は悪い。

 

「また、姫様の悪癖が……」

「……食わず嫌いをしないのにも限度がある」

「……我々も食べねばならんのか?」

「まさか、姫様だけ食べさせるわけには……」

「公爵様に申し訳が立たぬ」

 

 こそこそと相談を始めた。

 全員、顔が青い。

 

「……生粋のガルザァース人でも食べられぬ者も多い代物です。食べずともよろしいかと」

「あのようなゲテモノはこの地の一般的な食べ物ではございません。誤解なきように」

 

 バレーヌ伯爵とラークノール公妃は予防線を張り始めた。

 ラザァーベル伯爵たちは二人の発言に安堵する……どころか、増々顔色を悪くさせる。

 

「トール殿はお好きですか?」

「……えぇ、まあ。そこそこ」

「なら、きっとわたくしも好きに違いありません」

 

 私の言葉にラークノール公妃が睨みつけて来た。

 笑顔を返しておく。

 

 それから十数分後、出て来たのは……。

 

「っひ!」

 

 ブドゥーダル側の出席者の一人が、悲鳴を上げて、ひっくり返った。

 護衛のために後ろに立っていた騎士たちの口からも、小さな悲鳴が漏れる。

 

「……まぁ!」

 

 私は思わず手を口に当てた。

 それはタコだった。

 しかも動いている。

 数分前まで生きていたであろうタコをぶつ切りにした料理だった。

 

「どうだ? 驚いただろう」

 

 ラークノール公爵はそう言うと、ウネウネと動くタコを一つ指で摘まんだ。

 そして私に見せつけるように咀嚼してみせる。

 

 トール君も同様にタコを口に運んだ。

 そして少しだけ心配そうに私に視線を送る。

 

「とても贅沢な料理ですね」

 

 私はタコを一つ、指で摘まんだ。

 添えられていた薬味と一緒に口に運ぶ。

 

 味付けは塩とオリーブオイル、魚醤、そしてワインビネガー。

 コリコリとした食感が心地よい。

 飲み込むと、少し喉に引っかかる感じがあった。

 

「とっても美味しいですが……少し吸盤が喉に引っかかりますね」

 

 それから私はわざとらしく、驚いた顔をしてみせた。

 口元に手を当て、目を大きく見開いて見せる。

 

「どうされた?」

「これはまさか……そういう謀でしたか?」

 

 タコの吸盤で私を暗殺しようという策謀だろうか。

 と、私が冗談を口にすると……。

 

「ハハハ! 見破られてしまうとはな!!」

 

 ラークノール公爵はわざとらしく、おどけてみせた。

 宴席の場が笑いに包まれた。

 

 




特に設定に変更がなければラークノール公爵領の息子は以下の通り。
変更の可能性もあるので覚えなくていいです。


ベリドル(長男)
年齢43
憤怒・臆病・短気
「次期公爵? 若殿がなるべきだろう(そんなこと、聞くな! 疑われたら殺されるだろ!)」

ヘズ(次男)
年齢40
憤怒・執念深い・独善的
「次期公爵は誰でもいいけど、兄(ベリドル)がなろうとするなら全力で妨害する」

ヴィーザル(三男)
年齢37
勇敢・穏和・内向的
「政争にはあまり興味ない。喧嘩は良くないんじゃないかな」

ヴァーリ(四男)
年齢35
勇敢・公正・執念深い
「当主には長兄のベリドルか、嫡出のトールがなるべきである。しかし最終的には父の決定に従う」

トール(五男)
年齢14
勇敢・憤怒・公正・野心的
「常識的に考えて嫡出の俺だろ。ラークノール公国もロゼリア姫も俺のだから」


ここに五人の兄弟たちがおるじゃろ。
この中から仕えたい君主を選ぶのじゃ。


参考
ジーオン・エル・ラークノール(父親)
年齢58
勇敢・憤怒・独善的・野心的

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