TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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第28話

「……え?」

 

 思わず、口から声が漏れた。

 

 トール君は半ズボン、もしくはトランクスのような形の湯着を着ている。

 見えていないが、薄着ではある。

 だから、男性のそれが少し本気になったら、盛り上がるだろう。

 

 よっぽど小さくなければ、目で見て分かる。

 それはおかしくない。

 

 そして私という美少女――彼にとっては想い人と、こういうシチュエーションで二人きりになったら、ちょっと本気になってしまうのも無理はない。

 

 別にそこに大してどうこう言うつもりはない。

 むしろ不能は困る。

 

 ただ、問題は……。

 

「あ、あの……ロゼリア」

「え? あ、はい! し、失礼しました!!」

 

 私は慌てて体を起こした。

 そしてトール君の下腹部から視線を外す。

 蒸気室の壁面、木目に視線を向けながら、考える。

 

「「……」」

 

 み、見間違え……かな?

 いや、だって、あの膨らみ具合……どう考えても、前世の私のそれの二倍以上はあった。

 もしかして、私がチソチソだと思っていたものは、クリ〇リスだった?

 私は前世でも女の子だった……?

 

 道理で……。

 

 そんなわけあるか! 

 だって、前世の私のそれは少なくとも日本人の平均サイズくらいはあった。

 

 それの二倍以上なんて……。

 うん、見間違えだ。

 

 良かった。

 

 でも……一応、確認しておこう。

 

「……ぁっ」

 

 お、大きい……。

 やっぱり、見間違えじゃなかった。

 

 というか、さっきよりも膨らんでない?

 まだ、本気じゃなかった?

 

 と、というか……さっきよりも大きくなっているということは……。

 あっ……♥

 

「ロゼリア姫」

「はい!」

「これは……その、あなたを守りたいという気持ちの発露です。け、決して、邪な気持ちを抱いているわけでは、ありません」

「そ、そうなのですか!」

 

 そんなわけあるか。

 と思ったが、トール君も「あなたに興奮してこうなってしまいました」とは言い辛いだろう。

 

「はい。……バルトナ王子や、バールド皇子に負けてられないという、気持ちです」

「た、頼もしい限りです」

 

 う、うん。

 多分、負けてないんじゃないかな?

 

 アールゴキアが性教育で使う模型――多分、この世界の男性の平均サイズだろうけど、それよりもずっと大きいし。

 というか……。

 

 ふと、気になった私は自分のお腹に視線を向けた。

 

 え、えっと……。

 多分、これくらいだから……。

 

 軽く手を当てる。

 

「あっ……」

 

 お、お臍まで……。

 う、嘘でしょ?

 

 そんなの、反則……。

 

 ぜ、絶対、入らない。

 こ、壊れちゃう……。

 

 っく……♥

 

「ロゼリア姫?」

「は、はい! な、何でもありません。問題ありません。頑張ります!!」

 

 私だって、まだ成長期だし!

 私の容量が大きくなればいいんだ!!

 

 ま、まあ……トール君もきっと成長期だから。

 もしかしたら、もっと……。

 

 な、なんてね?

 さすがにあれ以上、成長はしないでしょ!

 

「えっと……何が?」

「こっちの話です! というか、敬語は使わないでください! 呼び捨てで良いと言ってはずです」

「し、失礼……! まだなれなくて」

「全く。寝所の中でも敬語を使うつもりですか?」

「……」

「……」

 

 不味い。

 変な事、言っちゃった。

 

 こ、これじゃあ、襲っても良いって言ってるようなもの……。

 

「せ、政治の話に戻しても!?」

「ど、どうぞ!?」

 

 さて、何の話をしていたっけ?

 聞きたかったことがあったはずだけど、頭から吹き飛んでしまった。

 確か、最初は父の身代金の話で……。

 あ、思い出した。

 

「ラークノール公爵家は数多くの流浪騎士を抱えていると聞きます」

 

 流浪騎士というのは、土地を持たない騎士のことであり、要するに傭兵である。

 戦争や政争で領地を失った騎士というのは、少なくない。

 特にガルザァース系の流浪騎士は数が多い。 

 そういう騎士たちを大勢抱え込んでいるのが、ラークノール公爵家である。

 

 ラークノール公爵家が戦争に強いのはそれが理由だ。

 言ってしまえば、常備軍を抱えているようなものだ。

 

 ブドゥーダル公爵家が戦争前に数多くの騎士たちと予定調整をしなければならないのに対し、ラークノール公爵家は「お前ら、行くぞ!」の一声で戦争ができてしまう。

 

「どうやってそれだけの騎士を養えているのでしょうか?」

 

 しかし流浪騎士を雇うのには相当な金が掛かる。

 ブドゥーダル公爵家であっても、恒常的にそんな部隊を維持しようとしたら、破産するだろう。

 ブドゥーダル公爵家の五分の一の収入しかないラークノール公爵家は、それをどうやって実現しているのだろうか?

 

「海外騎行だ。定期的に遠征することで、彼らを養っている」

 

 騎行とは領地の占領を目的としない戦争のことである。

 要するに略奪を目的としただけの戦闘行為だ。

 ラークノール公爵家は定期的に海外――北大陸や各地の島々、遠方の貴族領に対して略奪遠征を行っている。

 個人的には私と結婚する時にはその非人道的お祭りイベントはやめていただきたいのが本音だが……。

 

「それほど利益が上がるのですか? 海外騎行は」

「さあ? 流浪騎士たちの懐事情は決して良いわけではないようだけど。詳しくは」

 

 うん……?

 話が絶妙に噛み合っていない気がする。

 トール君の方も「何を言っているんだ」という顔をしているし。

 

「流浪騎士たちにはどれだけの給金を?」

「給金? そんなもの、払っているわけないだろう」

 

 はい?

 じゃあ、何? ボランティアで戦争してるの?

 

「では、彼らはどうして戦争に?」

「どうして? ……武功を上げるためでは? 略奪もできるし」

 

 略奪。

 その単語でようやく、私はトール君が何を言っているのか――ラークノール公爵家の軍事力の秘密が分かった。

 

 私はてっきり、ラークノール公爵家は流浪騎士を集め、常備軍のようなものを結成していると思っていた。

 だから年柄年中、戦争ができるのだと。

 

 しかし実態はその逆。

 ラークノール公爵家は戦争をするために、流浪騎士を集めているのではない。

 集まった流浪騎士を養うために、戦争をしているのだ。

 

 流浪騎士たちは遠征先の戦場で得た略奪品で、糊口を凌げる。

 もしかしたら、ラークノール公爵家に召し抱えられるかもしれないという夢を追いながら。

 

 ラークノール公爵家からすれば、戦費は流浪騎士たちの自弁だから、遠征に費用は掛からない。

 仮に流浪騎士たちが死んだとしても、別に彼らはラークノール公爵家の騎士というわけでもないから、損失も出ない。

 一方で戦争に勝った場合、大量の略奪品がラークノール公爵領に出回る。

 それだけでラークノール公爵領は潤うし、税収も上がるだろう。

 

 何より、「夢」を追い求めて、流浪騎士がさらにラークノール公爵領に集まってくる。

 

 戦争するために集めた騎士をどうやって養えばいい?

 戦争すればいい!

 戦争するために戦争するために戦争する。

 永久機関が完成しちまったなぁ!

 

 ……こういうのを自転車操業という。

 しかし自転車操業は自転車操業でも、曲芸的な自転車操業だ。

 

 これができるのはラークノール公爵の戦場における名声が天元突破しており、またラークノール公爵家が西大陸北方の地勢を知り尽くしているからだ。

 

 またラークノール公爵家が「出生身分や血縁に関係なく有能であれば騎士として召し抱える」という実力主義の風土を持っているのも関係しているだろう。

 

 ラークノール公爵家なら召し抱えてくれると信じているから、流浪騎士たちも集まるのだ。

 ブドゥーダル公爵家には集まらないだろう。

 

「しかしとなると……食糧価格の値上がりは大問題では?」

「うん……現状はまだそれほどではないが。流浪騎士たちが、帯剣党と結びつけば、手がつけられなくなるかもしれない」

 

 流浪騎士たちは収入を持たない。

 過去の戦争で得た略奪品を現金に変え、それを切り崩して生活しているわけだ。 

 まともに貯蓄しているイメージもないので、もしかしたら借金をしている可能性もある。

 

「連中の反乱など珍しくもないが。しかし穏当に解決できるなら、その方がいい」

 

 いやぁ……反乱が珍しくもないのは問題じゃないですかね。

 

「というわけで……その、食糧の援助をお願いしたいのだが」

「私の方から口添えはしていますよ?」

 

 現在、ラークノール公爵家は帝家から経済制裁を受けている。

 穀物の輸入が滞り、食糧価格が跳ね上がっている。

 そこでブドゥーダル公爵家はラークノール公爵家に食糧援助をすることを決めた。

 

 しかしこれはブドゥーダル公爵家とラークノール公爵家の交渉であるため、私は口添えしかできない。

 

「ご不満はわかりますが、海上輸送していた分を陸上輸送で補うことは不可能だと思います」

 

 穀物のような重量に対する価格の安い商品は、海上輸送が向いている。

 陸上輸送では効率が悪い。 

 あの悪路では尚更だろう。

 

「しかしあの量では……いや、援助していただいている身で文句を言うのは非礼ではあるが……」

 

まだまだ足りないよということか?

しかし十分な量を提案していると思うけどな……。

もしかして。

 

「そもそも、食糧価格の値上がりの原因は認識されていますか?」

「帝家の嫌がらせだろう?」

「それと、商人の売り惜しみです」

「売り惜しみ?」

 

 帝家がラークノール公爵家に制裁を行い、食糧価格が値上がりしている。

 これからもっともっと、値上がりするに違いない。

 値が釣り上がるまで、食糧は売らないようにしよう。

 という商人たちの思考回路について、私はトール君に説明する。

 

「しかし帝家の圧力があるとも聞いているが」

「帝家にそのような権力があれば、我が邦はとっくに膝を折って屈していることでしょう」

 

 悪いのは帝家。

 ということにすれば、売り惜しみしやすいというだけの話である。

 帝家にできるのは自粛勧告くらいだ。

 彼らに商人を統制するような権力はない。

 

「だから我が家が貴家に食糧を援助すると……そう発表した時点である程度、値は下がるかと。宣伝次第です」

「なるほど。実態より多く見せかければよいと」

「もしよろしければ、空の荷車の行列を並べても良いですよ?」

 

 昭和金融恐慌の時、高橋是清は片面だけ印刷したお札を銀行の店頭に積み上げることで、恐慌を沈静化させたという。

 同じことをするだけでも、商人たちは慌てて食糧を放出するだろう。

 

「面白い案だ……! こちらから提案するという形でも?」

「その方が角が立たないでしょう」 

 

 これで停滞していた交渉も進むだろう。

 やっぱり、二人だけで腹を割って話すのは効率がいい。

 気心が知れている相手に限られるけど。

 

 この流れで馬産の話もしたいが……。

 

「少し、熱くなって来ました……」

 

 私は着ていた湯着を軽く引っ張った。

 当初は乾いていた湯着は、汗でびっしょりと濡れており、肌に張り付いている。

 ……思ったよりも体のラインが見えちゃってる。

 

「そ、そうか。それなら一度、出よう」

 

 今、胸元を見られた。

 気づきながらも、私は何も言わずに無言で立ち上がった。

 

「マナーは知っているか?」

「いいえ。教えてください」

「それでは、まずはこちらの湯で……」

 

 かけ湯をして、汗を流す。

 それからプールに足先からゆっくり入り、体を冷やす。

 一分ほど、体を冷やしたらプールから上がる。

 

「頭がグワングワンします……」

「転ばないように、気をつけて」

 

 トール君はそう言って私の手を引いた。

 椅子の上に座るように言われる。

 

 うん……気持ちいい。

 

「ロゼリア」

「……ん?」

「水、飲む?」

 

 目を瞑り、ぼーっとしていると、隣から水の入った革袋を差し出された。

 私は小さく頷き、革袋を受け取る。

 中にはひんやりと冷たい水が入っていた。

 

「ありがとうございます」

 

 数口ほど水を飲んでから、私はトール君に革袋を返した。

 トール君はそれを受け取ると、自身も革袋に口をつけた。

 

 ……え?

 

「あっ……」

 

 思わず口から声が漏れてしまう。

 冷えたはずの頭が沸騰するように熱くなるのを感じる。

 

 だ、だって、い、今の……。

 か、間接キ……♥

 

「うん? ……もっと、飲みたかった?」

「い、いえ……! べ、別に!」

 

 私は口元を両手で押さえた。

 トール君は心配そうに私の顔を覗き込んできた。

 ち、近い!

 

 数センチ、あとちょっとで触れ合いそうな位置で彼の唇が動く。

 

「顔が赤いけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫です! き、気にしていません……気にしないでください!!」

 

 私は両手でトール君の体を軽く押した。

 その分厚い胸板の感触に、心臓が跳ねる。

 で、でも、距離は開いた。

 

 ふ、ふぅ……♥

 

「そうか?」

 

 トール君は不思議そうに首を傾げると、再び革袋に口をつけた。

 ま、また……♥

 

「どうした?」

「な、何でもないです……」

 

 わ、私だけ気にしているなんて……。

 ず、ズルい!!

 




高評価ありがとうございます(敬称略)
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