TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

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第30話

 ヘーリング市に到着してから、三日目。

 その日も私はトール君やラークノール公爵、ラークノール公妃、その他伯爵たちとの会談を繰り返し……。

 そして夜にはトール君と浴室で密会した。

 

 ちなみに昨日よりもトール君の視線が露骨だった。

 えっちなやつめ。

 

 そして翌日の四日目。

 その日は雨だった。

 

 騎士たちが交渉に臨む中、私とトール君は……。

 

「チェックメイト」

「ぐぬぬ……」

 

 チェスで遊んでいた。

 次期公爵同士、交流を深める。

 

 これは立派な外交交渉だ。

 遊んでいるわけではない。

 

「もう一度……やりましょう。次は勝ちます」

 

 トール君はチェスを並べながらそう言った。

 チェス盤は私がトール君にプレゼントしたものだ。

 

 駒は全て象牙で出来ている。

 超高級品である。

 

 トール君はチェスに初めて触れたはずなのに、メキメキと強くなっている。

 次は負けてしまうだろう。

 

「そうですね。でも、わたくし、疲れてしまいました」

「むむ……そうですか。では、休憩にしましょう」

 

 トール君は不満そうにしながらも、手を退けた。

 使用人たちがチェス盤を片付け始める。

 

 なお、余談だがこの「チェス」は私が発明したもので、トランプと共にブドゥーダル地方ではプチ流行している。

 

 トランプよりはずっと貴族・騎士向けだ。

 

「そう言えば、ロゼリア姫にお見せしたいものがありました」

「おや、そうでしたか」

 

 トール君が騎士から便箋を受け取る。

 それをそのまま、私に手渡した。

 

 手紙の差出人は……カーヴェニル王子。

 

「本日、届いたものです。もしロゼリア姫がその場にいるようであれば、お見せするようにと」

 

 夏にトール君のお家に遊びに行くことはカーヴェニル王子に伝えている。

 別に驚くべきことではない。

 

「それでは拝見させていただきます」

 

 手紙を開くと、私よりもフランクな感じの文章が綴られていた。

 誇張がなければ、トール君とカーヴェニル王子はやはり仲が良いのだろう。

 

「へぇ、お子さんが生まれたのですね」

 

 カーヴェニル王子は私とバルトナ王子の婚約とほぼ同時期に、結婚している。

 お相手は王領と接している伯爵領のお姫様だ。

 

 伯爵といっても、三つの伯爵領を支配しているそこそこの貴族。

 加えて私と同様に女相続人だ。

 

 王領との距離や敵対関係を考えると、私と結婚するよりは費用対効果は大きいだろう。

 カーヴェニル王子らしいチョイスである。

 

 ちなみに結婚式はカルタリア公爵家との戦争前に行われた。

 

 この戦争が終わったら、俺たち、結婚するんだ……。

 の逆バージョンである。

 

 閲兵式と同時に済ませており、父が出席した。

 

 閲兵式からの結婚式、そして初夜を終わらせて戦争に赴いたわけだ。

 特に結婚式本番の初夜は豪勢で、巨大な天幕を用意し、ベッド・インする二人を兵士たちと一緒に「ヨシ!」とやったらしい。

 

 慣例通り見届けを終えた後は全員天幕を出て二人きりになったようだが、兵士を含んだ大衆に囲まれる天幕の中で行為は行われた。

 

 朝には証拠として血のついたシーツが公開され、士気は爆上がりだったとか。

 

 私の中の現代人の部分はドン引きしているが、貴族としての部分は「パフォーマンスが上手いな」と褒めている。

 

 子供ができるできないは、統治の安定性に直結する。

 領民たちにとっては最大の懸念事項なのだ。

 

 そして貴族にとっては、見届人は多ければ多いほど、自身の権力誇示に繋がる。

 

 戦争前の景気付けにこれ以上のものはあるまい。

 

 まあ、その後負けたんですけどね。

 

「しかも男の子……。王国は安定に向かいそうですね」

 

 出産はやはりバカでか天幕を用意し、領民たちが外で見守る中、行われたようだ。

 貴婦人や民衆の代表者が天幕の中で、カーヴェニル王子を含む男性陣は天幕の外で、出産を見届けたとか。

 

 これ、私もやんなきゃいけないの?

 

 ただでさえ嫌なのに。

 鬱になりそう。

 

 とはいえ、パフォーマンスの甲斐もあってか、領民の喜びようは相当なものだったらしい。

 

 実際、これはかなりおめでたいニュースだ。

 特に男子という点が重要だ。

 

 仮に国王、カーヴェニル王子が立て続けに死んでも、王家が揺るがないことを意味する。

 これがもし女子だったら、微妙な雰囲気になっただろう。

 

 子供が女子だと、継承権の問題で各方面から狙われる。

 それはブドゥーダル公爵家を見れば良く分かるだろう。

 

 もし私が男子だったら、ここまで我が邦は揺れなかった……。

 ……はぁ。

 

「羨ましい限りです」

 

 なんか、ちょっとヘラって来てしまった。

 

「ロゼリア姫には私がいる」

「では、誰にも文句を言わせないほどの頼もしい姿を見せてください」

 

 今、ちょっとそういう気分じゃないから。

 私は手紙を捲る。

 

 特に変わったことは書いていない。

 大して面白くもない、結婚生活の惚気話、妻自慢だ。

 

「『お守り』……ね」

 

 初夜の時にもらった『お守り』のおかげで、無事に帰ることができた。

 想い人との結婚は素晴らしい。

 トール殿も頑張ってくれ!

 

 みたいなことが書いてある。

 結婚する直前まで、私に求婚していた男が良く言うな。

 

 百%財産目的の結婚でしょう。

 一緒にしないで欲しい。

 

 そして……。

 

 ――追伸。

 トール殿もロゼリア姫から『お守り』を頂いたら如何だろうか?

 この手紙を見せてもいい。

 

 と書かれていた。

 

「……」

 

 チラ、チラ。

 トール君は私の顔を何度も確認する。

 

 どうやら『お守り』が欲しいらしい。

 

「結婚したら、作ってあげますよ」

「あ、ありがとう……ございます」

 

 と言いつつも、トール君は残念そうだった。

 今すぐ、欲しいらしい。

 

「何か、死地に赴く予定でもあるのですか?」

「いえ、それは……ありませんが」

「なら、ない方が良いでしょう」

 

 もちろん、戦場に行かない相手に『お守り』を渡してはならないというようなルールはない。

 ないけど、気分じゃない。

 

「理由のない護符は死神を招きます」

 

 それに恥ずかしい。

 照れ隠しもあり、私はお守り作りを拒否した。

 

 けど……。

 

「傷ついたかなぁ……」

 

 その日の夜。

 何だか、気になって来てしまった。

 

 うーん……でもなぁ。

 やっぱり、嫌なんだよなぁ……。

 

 いくらトール君が相手でも……。

 いや、トール君が相手だからこそ……。

 

 ベッドの上で私はゴロゴロと転がりながら考える。

 一時間、悩みに悩み……。

 

「デラーウィア」

「いかがしましたか?」

 

 私は鈴を鳴らし、デラーウィアを呼び出した。

 私は気恥ずかしい気持ちを抑えながら、彼女に命じる。

 

「布と紐、お裁縫セット……あと、ハサミを持ってきてください」

「こんな深夜に、ですか?」

「まだ、作るとは決めてません」

「左様でございますか……」

 

 デラーウィアは呆れ顔を浮かべた。

 しかし何だかんだで、持って来てくれた。

 

「デラーウィアは……恋人に贈ったことはありますか?」

「贈るような恋人はいません。しかし、義父(ちち)には、母と一緒に」

「そ、そうですか……」

 

 娘から父親に……。

 しかも血の繋がりのない相手に、かぁ。

 

 いや、別に恋人同士じゃないといけないという理由はないけど。

 娘や姉妹のでも、問題はないらしいけど。

 

「ハサミですが、お使いになるのであれば、気をつけてください。……何を切るかはお伺いしませんが」

「あ、ありがとうございます」

 

 え?

 何を切るかって……?

 

 そ、それはその……。

 お、お守りにいれるやつだよ!

 




ヒント
アムロ・レイ


高評価ありがとうございます(敬称略)
たじま ちょこん 
ドリナ 松籟 ジーノ@516 みお 老松こも
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