TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情   作:桜木桜

67 / 83
くぅ~、これにて完結ですW


第32話

 同刻、王都にて。

 

「ロゼリア姫は思いのほか、派閥を上手くまとめられているようだ」

「娘の暴走を止められないとは。マカートス公は何をされているのか」

 

 王国の第一王子カーヴェニルと、第二王子バルトナの二人はいつものように会談をしていた。

 二人の議題はいつもと同じ。

 ロゼリアとバルトナの結婚問題である。

 

「果たして、ロゼリア姫が父君をどう納得させられるか。見物だな」

「不可能でしょう」

 

 バルトナは小さくため息をついた。

 

「ラークノール、ヨートグル、トルーニア、ブドゥーダル、プルーメラ。ボールを五つも扱いきれるとは思えません。それが分からぬロゼリア姫ではないでしょうに」

 

 もし仮にロゼリアとトールの婚姻が実現すれば、五つの公爵領を跨ぐ巨大な邦が出現する。

 それに応じて臣下の数も膨れ上がる。

 これを統治するのは至難の業――否、不可能であるとバルトナは考えていた。

 

「だからこそ、だろう。ロゼリア姫はご自身の財産を全て守り切るつもりでいる」

「プルーメラ大公領など、捨て置いてしまえばよいものを」

 

 実のところ、王家はプルーメラ大公領については防衛協定の対象外とするつもりであった。

 ブドゥーダル公爵領やトルーニア公爵領が王国・帝国両属であるのに対し、プルーメラ大公領は帝国領だからだ。

 

 王家からすればプルーメラ大公領を積極的に防衛する大義名分は薄い。

 

 プルーメラ大公が存命の間であれば、プルーメラ大公と手を組むメリット

は大きいが、彼が死んだ後は別だ。

 

 もし仮にプルーメラ大公が死亡し、代替わりするタイミングで帝国が攻めてきた時は、戦況次第ではプルーメラ大公領は帝国の内政問題であるとして、援軍派兵を断る腹づもりだった。

 

 ロゼリアの父であるマカートスはそれを追認すると、王家は考えていた。 

 ブドゥーダル公爵からすれば。プルーメラ大公亡き後のプルーメラ大公領は負債になるからだ。

 

 そもそもプルーメラ大公はかつて、ロゼリアを誘拐したことがある。

 両者には信頼関係など全くない。

 

 もちろん、ロゼリアはこれに反発するだろう。

 しかしマカートスが存命の間はロゼリアは彼に逆らえない。

 

 マカートスとバルトナの二人でロゼリアを説得すれば、ロゼリアは従う。

 少なくともオレアニス王とバルトナは考えていた。

 

「あのじゃじゃ馬……いや、雌山羊が諦めるように見えるか? 俺にはあの女の角は飾りに見えなかった。だから反対だったのだ」

 

 ロゼリアは負けず嫌い。

 だからプルーメラ大公領を諦めない。

 逆に諦めるように説得しようとすれば、ロゼリアはムキになって反発するだろう。

 

 単身でプルーメラ大公領に乗り込み、大公位の継承を宣言し兼ねない。

 場合によっては、バルトナを切り捨ててプルーメラ大公領の貴族か、最悪バールド皇子と結婚して、プルーメラ大公領を守るような選択をするかもしれない。

 

 ロゼリアを抑えきれなければ、王家は帝家と望まぬ全面戦争を強いられる。

 あまりにリスクが大きすぎる。

 

 それがカーヴェニルの意見だった。

 

「……今となっては、そうですね」

 

 カーヴェニルの考えすぎである。

 バルトナもオレアニス王もそう考えていた。

 

 確かにロゼリアは勝気なところはある。

 活発で社交的だが、しかし武よりは文、力よりは知の人物。

 何より女性だ。

 大胆で危険な行動は避けるだろうし、忌み嫌うだろう。

 

 ……その印象が崩れたのは、「山越え」である。

 少数精鋭で山を越え、魔力を隠した状態で奇襲する。

 

 そんな危険な策を断行し、単身で内乱を鎮めて見せた。

 

 男であるバルトナでも、躊躇する。

 少なくとも臣下から提案されない限りはこんな危険な真似はやりたくない。

 

 それをロゼリアはやってみせたのだ。

 

 もし王家がプルーメラ大公領を防衛しない姿勢を見せたとしても、父親がそれを見捨てても、ロゼリアは一人で戦おうとするだろう。

 自分自身を人質にして、王家とブドゥーダル公爵の協力を強制する。

 

 ロゼリアはそれができる女性だ。

 

「山羊との同盟は、少なくとも大叔母様がご存命の限り、有効であろう」

 

 ブドゥーダル公爵マカートスの母親は王家の出身であり、カーヴェニルやバルトナの大叔母に当たる。

 彼女は政治に関わらず、隠居しているが、存命だ。

 

 王家とブドゥーダル公爵家はすでに同盟関係にある。

 

「無理に今、更新する必要はあるまい」

 

 情勢次第では自分の子とロゼリアの子を結婚させればいい。

 カーヴェニルはうっすらそう考えていた。

 

「……まあ、兄上の懸念は理解できなくもないです」

 

 父がいない限り、兄の方針に従う。

 それがバルトナの基本方針だった。

 

 もっとも、だからといって唯々諾々と従う気もない。

 それは王家のためにはならない。

 

「しかし雌山羊を牡馬にくれてやってもよいのでしょうか?」

「鷹に食われるよりはマシよ」

「鷹と雌山羊が盟を結ぶとは思えませんが……」

「逆だ」

 

 カーヴェニルは首を大きく左右に振った。

 

「牡馬が鷹と交わり、天馬となる。これが考えうる限りの最悪よ」

「まさか。……今、両家は揉めている最中ではありませんか」

 

 ラークノール公爵家と帝家の衝突、それに起因する関係悪化は当然バルトナたちの耳にも入っている。 

 そう簡単に関係が改善するとは思えない。

 

 そもそもラークノール公爵家は帝国東部の海岸に略奪を仕掛けることが多々あった。

 帝家とは異なる貴族の領地ということもあり、今まで帝家がそれを黙認していたが……しかし印象は最悪だ。

 帝家との同盟などあり得ない。

 

「不思議ではあるまい。元より、海での繋がりは我々よりも強いだろう」

 

 ラークノール公爵家は羊毛を帝国圏の諸都市に輸出している。

 一方で帝国圏から穀物を輸入している。

 要するに経済的な結びつきは帝国との方が強いのだ。

 

 略奪遠征先であることは、むしろ経済的な結びつきの強さとの裏返しである。

 ガルザァース人にとって、商売と略奪は表裏一体だ。

 

 ラークノール公爵はそれゆえに、帝国とは距離を取っていた。

 いつでも略奪ができるように。

 しかし次代がそうであるとは限らない。

 

 トールがより堅実な経営を望むのであれば――略奪経済からの脱却を図るのであれば、帝国との関係強化は必須だ。

 

「もし鷹に牡馬を捕られれば、我々は背後を取られるばかりか、海を塞がれる」

 

 ラークノール公爵領は、王国北部の沿岸部に東西へ延びる形で広がっている。

 ラークノール公爵領が帝国領となれば、王国は北と東で帝国に挟み込まれるような形になってしまう。

 

「しかも牡馬は雌山羊に夢中ときた。もし、雌山羊を我々が奪ってみろ。その怒りはこちらに向くぞ?」

「……考えたくもない話です」

 

 ロゼリアを奪われたトールが怒り狂い、反転アンチになる。

そして帝国と同盟を結んだ上で、王家とブドゥーダル公爵家に敵対する。

 考えうる限りの最悪の結末だ。 

 

「牡馬には雌山羊をくれてやればいい。鷹から雌山羊を守るため、必死になって戦うだろう」

 

 ラークノール公爵領とブドゥーダル公爵家に帝国との戦いを押し付ける。

 それがカーヴェニルの基本方針だ。

 

「しかし牡馬は巨大になりますが……」

「馬と山羊の間に子ができるものか」

 

 カーヴェニルは肩をすくめた。

 

「五つもボールを扱えるとは思えん」

 

 ブドゥーダル公爵家とラークノール公爵家の同盟は上手くいかない。

 両家ともに大きな火種を抱えることになり、それはいつか必ず大火となる。

 

 王家も帝家も、油のしみ込んだ藁を放置するほど良い隣人ではない。 

 

「西の問題を片付け次第、鷹と分け合えば良い」

 

 王家と帝家が同盟を結べば、両国でブドゥーダル公国とラークノール公国を挟み撃ちにできる。

 ブドゥーダル公爵マカートスがもっとも恐れているのがそれであり、そしてカーヴェニルがもっとも持ち込みたいのがその形だ。

 

 故にブドゥーダル公爵家との「同盟」は邪魔だ。

 いつか来る戦争のためには。

 

 もっとも……カーヴェニルはトールとロゼリアが奇跡的に自国の経営に成功する可能性も考慮に入れている。

 だからこそ、二人に親切に接している。

 カーヴェニルは二人が好意には好意を返す人物であることを心得ていた。

 

 もしもの時は自身の子と二人の子を結ばせればいい。

 それだけで時間が稼げる。

 

 二人が没し、相続により国が割れる時を待てばいい。

 その時はカーヴェニルはこの世にいないかもしれないが、彼にはすでに男児がいる。

 

 百年先のために力を蓄える。

 王家の地盤をより盤石に、強固にする。

 力を振りかざさず、諸侯には良い顔をし、理解者・調停者として振る舞う。

 それがカーヴェニルの――否、父祖ユガペの時から続く王家の伝統外交だった。

 

「西の問題ですか……むしろ増えたようにも思えますが」

「その解決のためにもバルトナ。お前が必要だ」

「私としてはどちらでも構いませんが……」

 

 バルトナはロゼリアのことは嫌いではない。

 好きではないが、しかし成長すれば自分の好みに合うような美女になるだろうと思っていた。

 何より教養のあるロゼリアとの会話は楽しい。

 

 しかしロゼリアはバルトナのことを嫌っている。

 と、バルトナは薄々勘づいている。

 

 数々の女性と交流を深めて来たバルトナだから、わかる。

 ロゼリアは自分を異性として「嫌悪」している。

 

 友人としてはともかく、異性としては生理的に受け付けない。

 そんな気配を感じていた。

 

 自分を生理的に嫌っている妻との結婚生活は、果たして楽しいだろうか。

 あまり楽しくはないだろう。

 

 故にロゼリアとの婚姻を破棄されることについては、個人としては思うところはない。

 もちろん、貴族としての面子はあるので、相応の保障をしてもらわなければならないと思ってもいるが……。

 

「おぉ……両兄上。随分とお早いですなぁ……ヒック」

 

 とそこでドアが開き、青年が入ってきた。

 彼は無遠慮にも大股で歩き、そしてソファーに座る。

 そして酒を煽った。

 

「お前が遅いのだ。この戯けが!」

「ペティエール……仮にも神官ともあろう者が……」

 

 カーヴェニルとバルトナは揃って苦言を呈した。

 第三王子ペティエール。

 カーヴェニルとバルトナの弟だ。

 

 彼は幼少期に王国にある高名な神殿に「寄進」された。

 将来的には神官長となることが約束されている。

 

 これは国王による分割相続対策であり、また王家が聖界にコネクションを持つための措置であった。

 もっとも、本人は酒好きの怠け者で、あまり神官向きの性格ではないが……。

 

 普段は王都から離れた神殿で務めている彼だが、今日はカーヴェニルたちと協議するために王宮までやってきていた。

 

「そう怒らず。土産に良い話を持ってきました故」

「ほう? であれば期待して良いな?」

「月桂姫との交渉ですが、前向きな返事が聞けそうです」

「おぉ!」

 

 ペティエールの回答にカーヴェニルは顔を綻ばせた。

 一方でバルトナの表情は渋い。

 

「しかし条件が一つあるようで」

「む? 条件か……何だ?」

「浮気は禁止、だそうです」

 

 ペティエールの言葉にカーヴェニルはバルトナの方を向いた。

 カーヴェニルは笑みを浮かべ、バルトナは視線を逸らす。

 

「だ、そうだ」

「……このような話、父上が不在の時に進めてよいことではないでしょう」

「安心しろ。俺が上手く説得してみせる」

 

 カーヴェニルは愉快そうにバルトナの肩を叩く。

 カーヴェニルにとって、“月桂姫”とバルトナの婚姻はロゼリアとバルトナの婚姻よりも遥かに望ましいものだった。

 

「あとは父上に孫の顔を見せ、そしてバルトナの結婚を祝うだけだ」

 

 破顔するカーヴェニルだが……。

 その時、ドアをノックする音がした。

 

 カーヴェニルは侍従に視線を送る。

 侍従はドアの前まで赴き、訪問者に応対する。

 

「……若様。筆頭密偵頭の“手品師”から。至急、お耳に入れたいことがあるそうです」

「では、中に入れろ。……兄弟同士、隠すことなどない」

 

 カーヴェニルの言葉を受け、侍従は“手品師”を入室させた。

 “手品師”はバルトナ、ペティエールの二人を遠慮がちに見たが、カーヴェニルに促され、淡々と報告する。

 

「なるほど」

 

 カーヴェニルは大きく頷いた。

 そしてため息混じりにつぶやいた。

 

「やはり、亡くなられていたか」

 

 

 

 

 

 

 カーヴェニルがその訃報を耳にしたのと同時刻。

 トールは母親との口論を終え、憤慨しながら廊下を歩いていた。

 

「全く……誰が筆卸し相手の選定など、母親に頼むか!」

「しかし若様。恥を掻かぬためにも練習は必須です」

 

 トールの専属侍従である騎士コートレイルはトールを諫めた。

 そんな彼の顔にはまだ青あざがあった。

 

「恥……恥、か……」

「いざという時に立たぬようであれば、千年の恋も冷めるというもの」

 

 貴族にとって、不能は無能より罪深い。

 子供を産めない女性が虐げられるのと同等、いやそれ以上に男性の性的不能は侮蔑の対象とされる。

 貴族の最大の仕事は結婚と子作りだからだ。

 

 また男性器は富と権力、豊穣、力の象徴だ。

 そこに能力がないことは支配者としての資質に欠けていることを意味する。

 

 不能であることは無能であることの証だ。

 

 ロゼリアの前で無様を晒すくらいなら死んだ方がマシであるとトールは思っていた。

 

「初めから剣を自在に扱える者はおりませぬ。誰もが人から習うのです」

「うっ……そ、そうか……」

 

 トールももちろん、貴族の男。

 初夜まで童貞であり続けることのリスクは重々承知している。

 

 しかし……。

 

「か、考えておく」

 

 ロゼリア以外の女性相手は苦手だ。

 行為をする自信がない。

 もちろん、ロゼリア相手もそれはそれで緊張する。

 ぶっつけ本番で成功させる自信もない。

 

「よろしければ、私が紹介いたしましょうか?」

「貴様と兄弟になるつもりはない!」

 

 トールは騎士コートレイルを睨みつけた。

 と、そこで別の騎士がトールに駆け寄ってきた。

 

「若様。旦那様がお呼びです」

「む? 父上が? ……わかった」

 

 トールは早歩きで父の下へと向かう。

 ラークノール公爵に呼ばれたときは早歩きで向かう。

 これはラークノール公爵家の鉄則である。

 

「何用ですか? 父上」

「おぉ……トール。早いな」

 

 ラークノール公爵は中庭のプールの中で水泳中であった。

 彼は機嫌良さそうにプールから上がり、タオルで体を拭く。

 

 父親の機嫌が良いことにトールは内心で少しホッとする。

 

「お前宛に手紙だ」

 

 ラークノール公爵がそういうと、文官が二通の手紙をトールに差し出した。

 うち、一通は開封済みだ。

 

「……帝家から?」

 

 開封済みの手紙の送り主は皇帝。

 そして宛先はラークノール公爵だ。

 

 もう未開封の手紙は送り主が不明だが、トール充てだ。

 

「バールド皇子……いや、違う」

 

 封印に施されている紋章は簡易的な鷹と、植物のケイデンシー。

 これは女性貴族の紋章だ。

 

「婚姻の申し入れだ」

 

 ラークノール公爵は嬉しそうに笑った。

 

「モテる男は辛いな」

 

 さて、どうする?

 愉快そうにラークノール公爵は笑いながら言った。

 





名前:ペティエール・エル・パルテリア
性別:男
身分:貴族(神官)
年齢:十八歳
性格:怠惰・暴食・気まぐれ・冷笑的
趣味:飲酒
特技:利き酒
好きなタイプ:声変わりしていない男の子
結婚相手に求めるもの:神に身をささげたので結婚はしない
一言:家庭を持たなきゃいけないやつは大変だねぇ




これで二部最終話とします。
予定ではまだ二部の途中ですが、いいかげん長いので、ここで切って、次話から三部とします。
三部開始ですが、できればGWにしたいと思っています。
ただそれだと二か月空くので、三月末か四月初めに、間とし五、六話まとまった数を投稿したいなぁ……という感じです。
隔週投稿とかもやろうと思えばできると思いますが、心理的負担が大きいので、書き溜めてから投稿する形にしています。


最近、「小説家になろう」への投稿を考えています。
ただ、今はあそこは女性向けの天下なので。
これ出して受けるか?という疑問があったり、なかったり。
まあ、アンケート結果的には二割弱くらい女性いるらしいので、全く相性が悪いわけでもなさそうですが。

あと、Twitterから入ってくれた人が少なくない数いるみたいですが、そういう人はハーメルンのアカウントを持っていないので、更新しても気づかないという……。
Twitterで広報した方が良いのだろうか……。

等々、悩んでいます
まあGWまでには決めます。



ちなみに三部ではロゼリアの人生最大の敵が訪れます。
ご期待ください。


高評価ありがとうございます(敬称略)
ilru 松籟 トラジロー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。