TS貴族令嬢の複雑すぎる婚活事情 作:桜木桜
もっと良い最終話が思いついてしまったんです。
「姫様。護符を想い人に渡すことを良くないとは言いません」
「……はい」
それはブドゥーダル公国への帰り道。
私は宿泊先の城でアールゴキアから説教を受けていた。
私がトール君に護符を渡したこと、そしてその時の行動についてだ。
「しかしあのように人目の多いところでやることではありません」
「はい。……反省しています」
私は項垂れた。
きっと、あの後、トール君はラークノール公爵家の者たちに「何を受け取ったのか」と問いただされたはずだ。
そしてそれに対して私の……。
うっ!
想像しただけで私は顔が赤くなるのを感じた。
「……どうしていけないことか、わかっておりますか?」
「乙女として恥ずべき行いでした」
「……あまりよくわかっていらっしゃらないようですね」
アールゴキアは小さくため息をついた。
あ、あれ……?
てっきり、はしたないから怒られていると思ったけど。
「本質はそこではありません。護符というのは、想い人に対して、私人として与えるものです。あの場は公的な場であったのですから、私的な行動は避けるべきです」
あ、そういう話か。
要するに政治的な意図があるんじゃないかと深堀されるのではないかという話ね?
「わたくしはそもそもラークノール公爵家との同盟を望んでおりますから。間違ったことはしていなかったのですね」
つまり私は恥ずかしいことはしていないということになる。
確かにトール君も普通に喜んでて、「お前、こんなところでこんなもの、渡すなよ!」という雰囲気は感じなかった。
この世界ではああいうプレゼントは別にえっちじゃないから、ちょっと大っぴらにやってもいいわけだ。
大体、集団セックス鑑賞会とか、出産大公開とか、破瓜血液シーツ回覧が許されるのだから、私の行為なんて全然えっちではない。
別にトール君のことが好きとか、そういうわけではなく、ブドゥーダル公爵家の後継者として、相応しい政治的な策略を実行しただけだ。
何しろ、私は悪魔公の孫。
隣国の当主を騙すためにあれくらいの政治的なパフォーマンスは何らおかしくない。
要するに私は政治的な判断であのような行動をしたのだ。
私の行動ははしたなくないし、えっちではない。
証明されてしまった。
よかった!
「……姫様」
アールゴキアは小さくため息をついた。
何だ、その何か言いたそうな顔は。
「婚姻については旦那様、および次代を担う姫様の専権事項。一回の女侍従ごときが口をはさむことではありません。しかしどうか……ご相談はしてくださいませ。心配になります」
真剣な表情でアールゴキアは私を見つめながら言った。
ムクムクと心の中から罪悪感が膨れ上がる。
「……そ、そうですね。わかりました」
「心配だから」と言われると弱い。
私は頷かざるを得なかった。
「と、もう一つあります。別れを告げた後、トール様に駆け寄ったことです。……何がいけないか、お分かりですね?」
「……暗殺だと勘違いされ、その場で殺されてもおかしくない行動でした」
あの場で私はトール君に次ぐ魔力量を持っている。
歩く戦車みたいなものだ。
そんな私が急に予定にない動きをして、トール君に近づいたら。
まさか、暗殺か!? と思われ、その場で攻撃されてもおかしくなかった。
実際、騎士たちはみんな殺気立っていた。
ラブロマンスをしていたのは私とトール君だけである。
もっとも、私はあくまでトール君を同盟に引き込むためにやった――冷静な計算によって裏打ちされた行動だし?
ラブを感じていたのはトール君だけだけどね。
「わかっていらっしゃるようであれば、私の口から申し上げることはございません。どうかご自愛くださいませ」
「はい。今後は二人きりの時に渡します」
一緒に入浴していた時とか。
あのタイミングなら、渡せたはず。
あんな場所で公開授与式をやる必要は……政治的なパフォーマンスにしても、よくなかったかな。
「二人きり……?」
「ふ、二人で星を見た時のような、そういう場のことです! 仮定です!」
あ、危ない。
口を滑らせるところだった。
私が慌てて誤魔化すと、アールゴキアは不審に思う様子を見せながらも頷いた。
さすがに私が男の子と浴室で密会している不良娘だとは想像の範囲外らしい。
なんだか悪いことをしているような気になりつつも、少しドキドキする。
「姫様は勘違いされていらっしゃるようですが、私は姫様が恋を覚えられたことを好ましく思っております」
――人は恋をし、失うことで大人になります。
とアールゴキアは言った。
私は別に恋なんてしてないけど。
「左様ですか」
「お話はこれでおしまいです。……それでは、しばらくぶりに伽のお勉強をいたしましょう」
アールゴキアはそう言って張型と教科書を取り出した。
うっ……。
「姫様がどなたと結婚するにせよ、必ず必要になることです。真面目に受講してください」
「わ、わかっていますよ……」
私は張型を手に取る。
日本人の平均サイズよりは大きい気がする。
でも、あの時見たのよりも……。
「あ、あの……質問をしてもよろしいでしょうか」
「姫様から質問とは、珍しいですね。もちろん」
「こ、これは……その、どなたかモデルがいらっしゃったり……? あ、いえ……その、殿方のそれは、みんなこれくらいの大きさなのかなと……」
もし、アールゴキアの人間関係を考えると、父か騎士ワンダーグラスがモデルという可能性が一番高いが……。
うん、お父様のだったら、なんか嫌だな。
「ふむ。良い質問です」
「良い質問でしたか」
「はい。平均よりも大きめに作っている……そうです」
大きければ大きいほど難易度が上がるので、あえて大きく作っているらしい。
それに大きい方が構造も理解しやすいとか。
なんか、無駄に合理的である。
「とはいえ、私もそれほど多くのものを見たことがあるわけではありませんから」
「それもそうですね」
アールゴキアが知っているサンプルはたったの二である。
これでは平均も何もない。
「し、しかし……やはり大きい方が大変、なのですか」
「そうですね。痛みも大きいでしょう」
「そ、そう……」
き、緊張してきた。
真剣に学んだ方がいいかもしれない。
あ、あれを……受け入れるには……。
「……それほど怖がらずとも、お相手は手慣れていらっしゃいますから。大丈夫でしょう」
アールゴキアは私を慰めるように言った。
そりゃあ、バルトナ王子は上手かもしれないけどさぁ……。
「まだ、誰と決まったわけでもないのに。そんなこと、わからないでしょう」
トール君は絶対、下手だと思う。
でも、個人的には下手な方が安心する。
やぱり、ほら。
冷静に考えてみると他人の中を何度も出入りしたものを体内に入れられたくない。
なんか、ばっちいじゃん。
これは衛生的な話じゃない。
心理的な話だ。
スマホが便器より汚いからといって、便器をスマホみたいにベタベタ触れるようになるわけではない。
「姫様のお相手は……貴族の嫡男ですよ」
「それはそうでしょう」
「……貴族の嫡男であれば、事前に何らかの形で経験済みです」
「それは人に寄るでしょう」
「……今の姫様のように、授業を受けているという意味です」
「はぁ……? しかし私はこれを中に入れるわけではありませんが」
私が首を傾げると……。
アールゴキアはこめかみに手を置いた。
な、なに? その態度……。
「殆どの貴族の男性は、花嫁との初夜の前で、実践形式で方法を学びます。……筆卸しです。聞いたこと、ございませんか?」
「そ、それは……あ、ありますが……」
い、いや、それは……。
た、確かに?
騎士スティーンもデラーウィアも私より年上だし。
つまり私の母と結婚する時点で父は経験済みだったわけで……。
でも、それはお父様の話だ。
「そ、そんな風習は……その、どこでもそうとは限らないというか、北と南では……」
「貴族の使命は血を繋ぎ、地を継ぐことです」
アールゴキアは私に言い聞かせるように言った。
「例外はございません。愛と恋と欲は別物。分けてお考え下さい」
「し、知っていますよ? そ、それくらい……!!」
で、でも!?
トール君は私のことが……。
あ、あんなに私一筋みたいなことを言ってたのに。
そんなわけ、ない。
だ、だって……。
「トール殿は、そんなこと……」
「トール様も結婚される前に済ませるでしょう。貴族の義務です」
そ、そんなの!
「許されません」
「相手は騎士以下の立場でしょう。貴族の令嬢ともあろう者がそのような相手に醜い嫉妬をするのはみっともない行為です」
い、いや……そんなの、関係ないし!
わ、私以外の女となんて……。
いや、私は男だけど……!
「そんなことは絶対にありません」
だって……。
浮気じゃん!!
心にドロっとしたものが広がった。
なぜか、胸がムカムカした。
その日は不安で眠れなかった。
高評価ありがとうございます(敬称略)
陽電 へけ
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これで二部は本当に最後です