ウララ「トレーナー!この子飼ってもいーい?」ト「元いた場所に返してきなさい!(戦慄)」 作:コウハクまんじゅう
たまたま筆が乗りました。
目の前には多くの人々が行き交っており、道の脇には様々な店が立ち並んでいる。そして、店のそこかしこから客を呼び込む気持ちの良い掛け声が飛んでいる。
道を往来する人々は興味深そうに店を覗き込んだり、店頭で店員にどれがおすすめかを訊ねたりしている。
ここは、トレセン学園近くにある商店街だ。今日、トレーニングが休みのトレーナーとウララは共にいろんな店の手伝いをして回っている。
「はーい!最後の一本売れましたー!今日はこれにてしゅーりょーでーす!」
「ありがとうウララちゃん!まさか、今日も全部売り切れるとはねぇ…」
さきほどまで店頭に並んだ色とりどりの野菜があっという間に消えていった事に驚きを隠せない様子。現在、トレーナーとハルウララは八百屋を手伝っていた。
「ふぅ…箱、ここに置いておきますね」
「おう、トレーナーさんもありがとうな!ほら、これお礼に持ってきな!ウララちゃんも!」
「わぁ、やったー!ありがとう!」
「助かります、ありがとうございます」
にんじんをもらって嬉しそうなウララと、にんじんを使ってどんな料理を作ろうか考えを巡らせるトレーナー。互いに満足そうな表情を浮かべながら、八百屋を後にした。
「ふぅ、店の手伝いも楽じゃないな」
軋む腰を抑えながら息を吐きだす。全身に筋肉痛特有の痛みと痺れが走っているが、ウララの前でみっともない姿を晒すわけにいかず、見た目は取り繕っていた。
「付き合ってくれてありがとうトレーナー!」
「いいんだよ、俺も手伝いたいし─」
「あ!魚屋のおじさーん!手伝いに来たよーっ!」
勢いよく駆け出してトレーナーを置いてけぼりにするが、いつものことなのでゆっくりと歩みを進めていく。
「おお、ウララちゃん!今日もありがとうな!トレーナーさんもありがとう。助かるよ!」
「いいんですよ、これくらいお安い御用です」
言いながら魚屋の店頭を見てみると、そこには少々不自然なほど大量の魚が並べられていた。しかも、普段は見かけない魚もちらほらと混ざっていた。
「今日は随分と大量ですね」
「ああ、そうなんだよ。何故かここ最近、異常に魚が取れるらしいんだ。しかも、この時期はお目にかかれないような魚もな」
「ふむ…」
魚屋のおじさんが顔を怪訝そうに顔をしかめながら言うのを聞きながら、トレーナーは「異常気象とかもあるからなぁ…」とぼんやり思っていた。
「へいらっしゃいらっしゃい!おいしい魚はいかがですかー?今ならどれも新鮮だよ!」
早速ウララが客の呼び込みを始めた。トレーナーはこういうのは向かないため、裏方で魚や荷物を運ぶのを手伝うのであった。
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「いやぁ〜お二人さん、今日はありがとうねぇ」
ウララが来てから魚は飛ぶように売れ、ものの数時間ですべて完売してしまった。しかしこれで今日の店の手伝いはすべて終わったので、後は帰るだけであった。
「じゃあ、ウララちゃんとトレーナーさんには…ほらっ!これあげるよ」
「え!いいのー?やったー!」
「あ、ありがとうございます」
店の手伝いのお礼に魚をおまけしてもらった。しかも、自分が好きな魚だったので嬉しい限りだ。
「おじさん、ありがとー!」
「はっはっは、いいんだよ。ウララちゃんにはいつも助けられてるんだから」
にこやかに笑いながら魚を手渡す。この商店街の人たちは優しい人ばかりでとても温かく居心地がいい。今度ここに買い物に来ようと思いながら、名残惜しそうに後ろを振り返るウララを連れて魚屋を後にした。
「うっらら〜♪ねぇねぇトレーナー!もうそろそろ夏合宿だよね!」
「ああ、そうだな。今年の夏も一緒に頑張ろうな」
「うん!私たっくさん頑張って、たくさん一着とるよ!」
満面の笑みを浮かべながら宣言するウララの頭を撫でながら思わず微笑んだ。ウララの明るい性格にはいつも元気づけられている。ウララの為にも、気合を入れなおさなきゃなと思い直すと、どこからかニュースが流れてくるのが耳に入った。
「…─続いて次のニュースです。今朝、〇〇海岸にて大量の魚が浜辺に打ち上げられているのを近隣住民が発見しました。近隣住民や漁師は不安を感じており─」
思わず足を止めてニュースを見ていた。
〇〇海岸、これは夏合宿の宿舎の場所からそう遠くない。合宿を近くに控えている時にこんなニュースを見るのはあまりよくないと判断すると、ウララの視線をニュースの方へ行かないように誘導しながらこんな提案をした。
「…ウララ、何か食べて帰ろうか」
「え!いいのー?」
「あぁ、もちろん」
今しがた気合を入れ直したウララに聞かれるわけにいかず、トレーナーはニュースを聞かれる前にうまく誤魔化して先を急ぐのであった。
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「…という事だから、お前たち。しばらく留守にするけどちゃんといい子にしてるんだぞ」
目の前でにんじんを美味しそうにむしゃむしゃと食べているたくあんとけちゃっぷに、もう3回目になる念押しをしていた。
しかし2匹は聞いているのかいないのか。トレーナーの方を振り向きもせず、一心不乱ににんじんを頬張っていた。
トレーナーとハルウララは寄り道してパフェを食べた後にそれぞれの家路へと着こうとしたが、「たくあんとけちゃっぷににんじんを食べさせたい!」とハルウララが言い出し、結局トレーナー室へと寄り、にんじんを食べさせるついでにこうして念押ししていたのだ。
「はぁ、まったく…大丈夫だよな…?」
頑なにこちらを振り向こうとしない2匹にため息をつくトレーナー。この2匹に加えて、あの真っ黒な異形の怪物の方の様子も見なければならないのだから、大変だ。
いつ報告しよう、と思う一方で、そういえばあの真っ黒な怪物にはこの2匹との繋がりはあるのだろうか?とも考えた。これは思いつきに近いが、もしかしたらと思うとどうしても放っておけなかった。
「…なぁ、お前たちの仲間に真っ黒でところどころ赤い部分がある、巨大なやつっているか?」
途端、どれほど呼びかけても反応しなかった2匹がピシリと動きを止め、ゆっくりとトレーナーの方を振り返った。その反応を見るに、あの黒いやつはやはり2匹の仲間のようだ。
そして今の反応から、この2匹は人の言葉を理解できる事を確信した。となるとやはり先程のガン無視は確信犯と言うことになる。こいつら…とトレーナーは拳を握った。
「その子なら私も見たよ!真っ黒でー、ギラギラーってしてて、でもたくあんとけちゃっぷとは仲良さそうだったよ!」
元気に手を上げ、にこにこしながら当時の様子を説明するウララ。まさか彼女まで見ていたとは思いもせず驚いたが、怯えた様子を一切見せていない所に、幼さを感じさせない彼女の度量と度胸が垣間見えた気がした。
疑うわけではないが、もし本当にあれと出会っていたのなら少しは恐れ慄くのではと思ったが、たくあんとけちゃっぷの首が僅かに頷いたところを見るに本当らしい。
「あとね、ラモーヌちゃんとシービーちゃんもいたよ!」
「…うん?メジロラモーヌとミスターシービー…この顔ぶれ…あ」
ウララ、メジロラモーヌ、ミスターシービー…何処かで見たと思ったら、雑草が生い茂ったあの場所だ。そうか、あそこでウララは出会っていたのか。
思い返せばあそこには不自然に草が倒れている箇所があった。今なら分かる、あそこには黒いやつがいたんだ。
「…うん?ウララ、ひょっとしてメジロラモーヌとミスターシービーってたくあんとけちゃっぷ、それから真っ黒なやつも見てるのか?」
「うん!」
トレーナーは腹を抑えて膝から崩れ落ちた。
─〇〇海岸沖─
「……うーん、やっぱおかしいな。そろそろ引き上げるか。」
「えぇ、どうしてスか!?こんなに大量に捕れてんスよ!?」
穏やかに揺れる船の上に、まだ青さが残る
「小僧ォ、お前にゃ分からんか。海が騒いでいるのが…」
「何いってんすか船長!海は動物じゃねぇス。喋ったりなんかしねーす…いでっ!?」
生意気ばかり言う若造に拳骨を落とした船長は、海から視線を外してレーダーに目を向けた。そこには無数の影が無茶苦茶な軌道で蠢いていた。
今まではこんな動きをする事はなかった…ありえない事態だ。さらに、今ここら一帯は適当に網を投げるだけで2桁の魚が捕れる。その中には普段お目にかかれないような高級な魚もちらほら紛れ込んでおり、今起こっている事の異常性を物語っている。
「…何かから逃げている?」
狂ったように無茶苦茶な動きをする魚たちの動きを用心深く観察し、推測を立てていく。そんな時、ふと自分のじいさんが死の間際に言っていたある言葉を思い出した。
『洋平、お前が漁師になるんなら覚えとけ。俺達漁師ァ海が騒いでいるときは決して漁はしねェんだ。………赤い、
昔から、言い伝えられてんだ。その後にもなにか言っていた気がするが、そこは忘れてしまった。が、この言葉だけはハッキリと覚えている。
「……小僧、撤収の準備だ。さっさと行くぞ」
「わ、わかりましたァ…」
納得いかん、といった様子でしぶしぶ道具を片付け始めるのを横目に、操舵室へ入ろうとしたその時。小僧がにわかに騒ぎ出した。
「ん…?あ、船長ォ!あれ、密漁船じゃあ…」
小僧が指を指した先を見てみると、なにやら不審な動きをする船が一隻。ここらへんじゃ見ない船だ。恐らく、小僧の言う通り密漁船で間違いないだろう。
「…一体どこの船だか知らねェが、この
日本の海を侵す無法者にそう言い放ち、無線を引っ掴んで通報しようとしたその時だった。
「ん?何やってんだ、あれ」
不思議そうに呟くのを聞き、咄嗟に無線のボタンを押す手が止まった。小僧が見ている先を追っていくと、何やら密漁船の様子がおかしい。右に左に不自然に大きく揺れている。
「─…!!」
直後、真っ赤な何かが密猟船を両断し、木っ端微塵に分解した。
「へっ…」
「なっ…」
恐怖で腰を抜かし、2人揃って床に座り込んでしまった。
しかし、今しがた起こった事など最初からなかったかのように、海は穏やかであった。
「…あ」
こんな時になってようやくじいさんの言葉の続きを思い出した。確か…あれは…
「…
ほんとかな〜?(疑心暗鬼)
書き終わって思う。ちょっとお魚さんの話ねじ込みすぎたかな、なんて。
次回からちゃんと夏合宿やります。