ウララ「トレーナー!この子飼ってもいーい?」ト「元いた場所に返してきなさい!(戦慄)」   作:コウハクまんじゅう

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夏合宿、タダで終わるはずもなく…

 

 

 行方不明だったライスが見つかった事で砂浜には平穏が戻っていた。砂浜を駆け回る者、砂浜でタイヤを引く者、海に入りたくないとゴネる者等…皆のびのびとトレーニングをしていた。

 

 ライスは発見された時、右足に痣がある以外は目立った外傷は見当たらず、体調もそこまで悪いわけではなかったので何者かが助けた可能性が考えられたが、誰かまでは分からなかったため真相は闇に葬られた。

 

 その後、念の為ということで医務室へと運ばれ、ほどなくして彼女のトレーナーも鬼の形相で駆け込んでいった。

 

「ライスちゃん、大丈夫かな…」 

 

「怪我も軽いし、顔色も悪くなかったから少し休めば元気になるさ。」

 

 ウララにそう言い聞かせつつ、トレーナーはさきほど見た赤い背鰭の生き物の事を考えていた。全身は確認できなかったが、姿形は多少違えどあれは呉爾羅だと直感で分かった。

 

(でも、何であんな所にいたんだ…?まさか、ライスを助けるために?)

 

 呉爾羅は三女神様に仕えている水獣だ。あり得なくはない。どういう事があったのかは分からないが、ライスの身に何かが起こり、それを救った後なのだとしたらあの場にいた事にも説明がつく。

 

(いずれにせよ、ライスが助かってよかった。)

 

 そう思い直すと、ウララと共にトレーニングへと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

─合宿所付近の海─

 

 

 

 

 

 

 

 悠々と海の中を進む黒い影。体全体をしならせて泳ぐその姿は、蛇や(ワニ)のそれを連想させた。影が力強く泳ぐたびに海藻は揺れ、魚たちは逃げ惑っていく。

 体の表面は岩のようにゴツゴツとしており、背中には鋭く曲がった真っ赤な背鰭がそびえ立っていた。その影の名は、ゴジラ。

 

「………」

 

 ゴジラは油断なくあたりを見渡しながら悠然と泳ぎ回っていた。忌々しいあのエビ(エビラ)や、その仲間がこの海(縄張り)で狼藉を働いていないか見回っているのである。

 

 今しがたウマ娘を助けるために討伐したエビを含めて、これまでに4匹は倒した。1匹は体を引き裂き、1匹は岩に頭を叩きつけ、残りの2匹は熱線で吹き飛ばした。(なお、そのうちの1匹はこんがり焼いて美味しく頂いた。)

 

 なぜあのエビが4匹もいたのかは分からないが、恐らく呉爾羅(自分たち)がこちらにいる影響で来てしまったのだろう。しかし今見まわっている限りだと、その気配はない。この辺りにいるのは完全に排除したようだ。

 

 そういえば、最近陸のニンゲン以外の船が侵入してきたのをあのエビが襲っているのを見たが、ニンゲンを守る義理は無いので無視していた。あの後は確実にエビの腹の中だろうが、不用意に入ってきた方が悪いので仕方ないだろう。

 

 そうして泳いでいたが、突然水中で静止し、片耳を上げて陸の方向を向いた。

 

「……………」

 

 何かを感じ取ったのか、それからしばらくはそのままであったが、ふいに海底に向かって泳いで岩の陰へと消えていった。

 

 

 

 

 ゴジラが消えたのとほぼ同時に、近くの岩に異変が起こった。

 突然岩に亀裂が入り、崩れ落ちていったのだ。異変は更に続き、その崩れ落ちた岩の中から鋭く光る銀色の岩が覗いた。

 

「…………」

 

 なにかに呼応するように、もしくはなにかに呼びかけるようにほのかに青白く発光し始めたが、しばらくすると光は収まっていき、そのまま沈黙した。

 

 海は何事もなかったかのように静けさを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

─合宿所、医務室にて─

 

 

 

 

「ん…んぅ…」

 

 清潔な白い布団がもぞもぞと動く。深い漆黒をたたえた長髪と長い耳が揺れ動き、恐る恐る外へと這い出る。

 

「あ、あれ…ここは…」

 

「ッライス!」

 

 ベッドの横に控えていたトレーナーが飛びついた。嗚咽混じりに「無事で良かった」としきりに呟き、優しく抱擁をする。それを抱き止めながらライスは、自分の身に何が起こったのかを振り返っていた。

 

(確かライス、海で溺れて…それで…)

 

 脳裏に蘇るのは、あの巨大なエビと赤い背鰭を向けて海に帰るあの生物の姿であった。

 断片的な記憶を手繰り寄せ、自分はあの赤い背鰭の生物に助けられたのだと思い出した。

 

(……誰?だったんだろう)

 

 いつもはしっとりとしていて美しい髪をボサボサにして自分のお腹に頭を擦り付けているトレーナーの頭を撫でながら、自分を助けてくれたあの生物は何だったのかぼんやりと考えていると。

 

「ライスちゃん!」

 

 スパァン!と勢いよく医務室のドアが開かれた。そこには心の底から安堵した表情を浮かべたハルウララが立っていた。

 

「ウララちゃ─」

 

「わああああ!よかったよおおお!」

 

「ちょ、ウララ!?」

 

 ドアを開けたその勢いのままライスに飛びつこうとするのをウララのトレーナーが必死で抑えている。その様子にくすりと笑った後、来て良いよ、と片手を広げた。

 

「ライスちゃああああん!」

 

 トレーナーの腕をするりと華麗に抜け、ライスの腕に突っ込んでいった。

 それをまた抱き止め、結果片腕にはトレーナー、片腕にはウララを装備したライスシャワーが出来上がった。

 

「はは…ごめんなライス」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

 ウララの頭を優しく撫でながら、聖母のように微笑みながら答える。

 

「体調はどうだい?」

 

「右足の痣が少し痛む程度です。骨折はしてないので走るのとトレーニングにも影響はないって…」

 

 それを聞いたライスのトレーナーが、ライスの背中をポンポンと撫でて顔を上げた。

 

「大事には至らなくてよかったけど、今後は遠くまで行きすぎないこと。それと無理は絶対にしないこと!いいわね?」

 

 凛々しく顔を整え、ライスの目を見据えてそう告げた。

 

「うん、約束する。心配かけてごめんなさい、お姉様」

 

「も゛お゛お゛お゛お゛め゛っ゛ち゛ゃ゛心゛配゛し゛た゛の゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛」

 

 さきほどの威厳はどこへやら。途端に破顔して枯れたはずの涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながらライスのお腹に突っ込んだ。

 もっとも、ライス本人は鼻水がついてびちゃびちゃになった服を見て引きつった苦笑いを浮かべていたが。

 

「じゃあ、俺達はそろそろ行きます。ほら、行くぞウララ」

 

「うん!分かった!じゃあね、ライスちゃん!元気になったら一緒にトレーニングしようね!」

 

「うん!ありがとうウララちゃん」

 

 名残惜しそうにするウララの手を引いて、トレーナーは医務室を後にするのだった。

 その後、夏合宿は滞り無く進み、途中から復帰したライスを再び交えてトレーニングをした。しかし、事故防止の為とお姉様に泣かれて海でのトレーニングは行わなかった。

 

 そして、無事に合宿を終えて学園に帰った。

 

 

 

─トレセン学園、トレーナー室にて─

 

 

 

「はぁ〜、疲れたぁ…」

 

 荷物を下ろし、ソファーに横になって疲れを癒やすトレーナー。しかし頭の中には、赤い背鰭の呉爾羅が出現したのと学園に潜んでいる真っ黒な呉爾羅の報告をする事が巡っていた。

 

 全力で危機を胃が訴えてくるのを胃薬で黙らせると、報告の為の資料を簡単に作成するのであった。

 

 

「おや、もうこんな時間か。」

 

 時間を忘れて資料作りに没頭していると、外はもう陽が沈みかけていた。空が茜色に染まり、幻想的な風景を作り出している。

 

 仕事で疲れた後は外を散歩して自販機で何か飲み物を買うのがトレーナーの習慣だ。それに従い、いつも通りトレーナーは部屋を出て外に出たのであった。

 

 

 

 締め切った部屋から外に出て新鮮な空気を吸いながら散歩をしていると、三女神様の噴水の前を通りかかった。確かここには、合宿に行く前にあの2匹が潜んでいたはず。

 

 そう思い近づくと、ザバァと水しぶきを立てて2匹がひょっこり顔を出した。

 

「おお、たくあんにけちゃっぷ。元気にしてたか?あと大人しくしてたか?」

 

 懐に忍ばせていた、ウララから2匹に食べさせるようにと渡されていたにんじんを取り出して差し出した。たちまち2匹は目の色を変えてかぶりついてきた。

 

 トレーナーは周りに人がいないか、もしくは誰か来ないか冷や冷やしながらにんじんを2匹にやっていた。

 

「トレーナー室に戻るかい?」

 

 にんじんをきれいに平らげた2匹にそう問いかけると、揃って首を振った。

 

「じゃあ、明日ウララを連れてここに来るから、それまで大人しくしててくれよ?」

 

 ウララの名前を出した途端2匹は揃って尻尾を振った。こころなしか先程よりも笑顔になっている…気がする。やはりウララがいる時といない時ではトレーナーへの対応が天と地ほど差がある。

 

 ちょうどにんじんも無くなったので2匹に別れを告げると、トレーナーは再び歩き出した。

 

「ここんとこ事件続きだな〜、少しはゆっくりしたいもんだ」

 

 そう愚痴りながら進んでいくと、少し先に自販機が現れた。覗き込んで最初に炭酸飲料が目についたので、それを買うことにした。

 

「…んぐ、んぐ…ぷはっ」

 

 ピリピリと喉や舌を焼きながら食道を通って胃にすとんと落ちていく。それを感じながら空を見上げると、染みついた疲れや頭を駆け巡る悩みが炭酸と共に抜け落ちていくようだ。

 

 よし、これでまた頑張れる─そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズン

 

 

 

「……え」

 

 地震か。そう思い咄嗟に身構えたが、すぐにこれは地震ではないと気づいた。なぜなら一定の揺れかつ震源が段々と近づいてきているからである。

 

「…………」

 

 その時。トレーナーの腹の中ではすでにこの震源の正体が直感で分かった。分かってしまった。しかし一抹の望みにかけ、なにか別の物であると信じたかった。

 

 しかし悲しいかな、トレーナーの願いとはことごとく打ち砕かれる運命にあるようである。

 前方約数十メートル先。夕日を背負った影が悠然と歩みを進めていた。その背中には、炎のように揺らめく背鰭が輝いていた。

 

「……」

 

 トレーナーはそれを無言で見つめた後、空を仰いで心のなかでこう(うそぶ)いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうどうにでもなーれ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視線の先では沈みかけの夕陽に照らされ、逆光で真っ黒な影となった呉爾羅が空に浮かび上がっていた。

 

 





憐れなりトレーナー。(無慈悲)
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