ウララ「トレーナー!この子飼ってもいーい?」ト「元いた場所に返してきなさい!(戦慄)」   作:コウハクまんじゅう

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ちゃんとお留守番できるかな?



ペットに留守番させているときほどハラハラする事はない。

 

 

 至る所から威勢のいい声が響き、周囲は活気に満ちている。声を上げのはウマ娘とそのトレーナー。地面を蹴りあげる小気味よい音が鳴るたびに土と草がターフの上に舞い踊る。ここはトレセン学園の敷地内にあるレース場である。芝、ダート、短距離から長距離まで何でもござれの万能レース場で、度々選抜レースが開催されたりもしている。

 

「よーし、まずは軽く流しておいで」

 

「はーい!」

 

 元気な返事と共に桃色の髪を翻して勢いよく駆け出していったハルウララと、その背中を見守るトレーナー。色々あったが、ようやくトレーニングを再開できたようだ。

 

「…呉爾羅、じゃなくてたくあん!大丈夫かな…ちゃんと大人しくしてるかな…部屋を脱走したりしてないかな…いやいや!今はウララとトレーニングしている最中だから集中しないとな…」

 

 まるで留守番中の飼い犬や飼い猫の様子が気になってしょうがない主人のようにそわそわするトレーナー。しかし彼(とハルウララ)が世話をしているのは得体のしれない生物(?)である。しかも三女神様に仕えていたかもしれない神獣やもしれないのだ。

 

(そんなのに留守番させて冷静でいられる方が無理あるか…まったく、とんでもないの拾っちゃったなあ…)

 

 今更ながら自分の独断で飼うことを決めてしまった事を少々後悔し始めていたのであった。

 

 

 

 

 

 一方、トレーナー室では…

 

 

「……」

 

 トレーナーとハルウララが部屋を出ていった後、謎の生物…もといたくあんはトレーナーから掛けてもらった毛布にイモムシのよう頭からすっぽりくるまっていた。どうやらこの毛布に包まれていると安心できるらしく、たまに尻尾を動かす以外には動きを見せていなかった。

 

「…ピクッ」

 

 しかし、突然体を震わせたかと思うと毛布から顔を出してドアの方をじっと見つめ始めた。耳を澄ませると足音が近づいてきており、何者かが接近してきていることを示していた。

 

「……」

 

 たくあんは仕方なく毛布を引きずりながらソファーの下へと身を隠したのだった。ソファーを降りる際、頭からボテッと落ちたが気にせずソファーの下へと移動する。

 ソファーの下へ潜り込むのと同時に、ドアが遠慮がちにノックされた。返事がなかった為、それから何度かノックを繰り返していたがついに意を決したかドアを開けて入ってきた。

 

「あぅ…ごめんなさいっ!誰もいないのに入っちゃうなんて、ライス悪い子だ…悪い子、だけど…これ返さなきゃ…」

 

 遠慮がちに一人の少女が入ってきた。深い漆黒の髪の中から大きな耳が覗き、青い薔薇がついたミニハットがトレードマークの儚げな雰囲気を纏った少女であった。

 

「……」

 

 おずおずと部屋の中に入ってきた少女の様子をじっと見つめるたくあん。だが、気配から害はないと判断したのか、視線を外すとまたイモムシ状態となりリラックスし始めたのだった。

 一方少女の方はと言うと、手に持っていたもの─どうやらハンカチのようである。桜の花びらが刺繍されておりとても可愛らしい─をテーブルの上に置いているところだった。

 

「ど、どうしよう…このまま帰っちゃうとライスが返しに来たって気づいてもらえないよね…えっと…」

 

 どうやらちゃんと返したことを気づいてもらえるようにしたいらしい。それをソファーの下で聞いていたたくあんは咄嗟に近くにあった紙とペンを咥えて少女の近くに放った。

 

「うん…?紙とペン?こんな所にあったっけ…?」

 

 不思議に思いながらも紙とペンを拾い『ウララちゃんのハンカチ、置いておきます。ライスより』と一筆入れた紙をハンカチに添えてテーブルに置いたのだった。

 

「……」

 

 少女が目的を果たせたのを見届けると、またリラックスし始めるたくあん。しかし、突然目の前の視界が塞がれた。

 

「?」

 

 毛布から顔を出して、視線を上げると視界いっぱいに紫のスカートが広がっていた。

 

「確か…ここから…」  

 

 そんな呟きと共に、目の前に紫色の純真な瞳が出現した。

 目が合い、しばしの後に─

 

「!?」

 

「ふぇえ!?」

 

 お互いに驚き、飛び退った。そのため少女は尻餅をつき、その衝撃で棚から資料類がバサバサッと頭に落下してきた。

 

「いたた…うぅ…あぁ!?やっちゃった…うぅ…ライスだめだめな子だなぁ…」

 

「……」

 

 少女は頭を庇いながら資料を集め、綺麗に整頓して棚に置いた。

 

 たくあんは考える。これはのそのそと出ていくべきかと。

 たくあんは思い出す。()()()()が言っていたことを。

 

 

 

─とある神殿にて─

 

 

 

 

 その神殿は、古代ギリシャの建築を彷彿とさせる高貴で神々しいオーラを纏っていた。その神殿の中にある庭園にて、珍妙な生き物たちに向かい合う3人の女神がいた。

 

「いい?()()()()。もし困っているウマ娘がいたら、ちゃんと助けてあげるのよ?」

 

 雄大な海を連想させる美しく青い髪をながし、慈悲深くほほえむ女性。彼女には同じく青い耳と尻尾が生えており、風に当てられ優しく揺らいでいた。そんな彼女の話をたくあんはじっと聞いていたのだった。

 

 しかし、()()()()はそうではないらしい。ある者は「納得いかないよ」と唸り声を上げ、またある者は「なぜそんな事をしなければならないのか」と疑問を呈して咆哮を上げた。

 

「うーん、『何故』かぁ…」

 

 今度は燃える情熱のような赤色に染まった髪の女性が困ったように声を上げる。彼女にも耳と尻尾が生えており、それぞれ髪色と同じく紅に染まっている。

 

「それが私達の使命だからだ。」

 

 無骨さと頑固さを感じさせ、しかし芯の通ったハッキリした声できっぱりと言い切る黄色い服を着た女性。彼女にも耳や尻尾が生えていたが、彼女の性格を表すかのように凛々しく立っていた。

 

 神々しい神殿に、駄々をこねる子供のような咆哮が響き渡り、3人の女性はそれに頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

「………」

 

 主の言葉に従う事を決めたたくあんは、目の前の少女の前に姿を現すのだった。

 たくあんの姿を見た少女は最初こそ目を見開いてぎょっとした様子で見ていたが、何やら小声で「が、がんばれ〜ライス。がんばれ〜…お、おー」と呟いたかと思うと、屈んでこちらと視線を合わせた。

 

「え、えっと…あなたがライスに紙とペンをくれたの?」

 

 少女の言葉に軽く頷いた。

 人の言葉を介することに驚いたのか息を呑む気配がするが、改まった様子でこちらに向き直った。

 

「あ、ありがとうございましゅっ!あぅ、し、した噛んじゃった…」

 

 口元を抑え、目尻に涙を浮かべながら後ずさる少女。あ、そんなに後ろに行ったら…そう思うのも虚しく少女は再び棚にぶつかり、せっかく整理した書類がまた頭の上に落ちてきてしまいしかも運悪く中々硬そうなファイルまで頭に落ちてきてしまった。

 

「あいたっ!うぅ…」 

 

 また頭に落ちてきた資料とファイルを健気に片付け始める。たくあんはのそりのそりと近づいて、ファイルといくつかの資料を一纏めにして咥え、少女に差し出した。

 

「あ、ありがとう…」

 

 少女はおずおずと手を差し伸ばし、書類とファイルを受け取って棚の上に置いた。

 次いでたくあんの前で膝を折って屈んで視線を合わせた。

 

「あ、あのぅ…貴方のお名前は?」

 

 少女の言葉にたくあんは困った。なにしろ自分は人語を理解できても、それを相手に伝えることができない。()()()なら腕が発達しているので紙に文字を書くなどしてなんとかするのだろうが、自分のか細い腕ではそれも叶わない。

 

 一方、少女の方はと言うと自分の質問が動物(?)相手には酷だったと考えたようで、自分の方から名前を言ってきた。

 

「私は…ラ、ライスシャワーって言います」

 

 ライスシャワー。どこかで聞いたことがあるような気がする。はて、どこだったか…ひょっとしたら主達から教わったのかもしれないな。

 

「さ、騒がせちゃってごめんね…ライス、すぐ出ていくから…あの、ウララちゃんにありがとうって…」

 

 皆まで言わずとも、しっかり分かっている。その意思表情をするために、力強く頷いてみせた。……この頷きが力強く見えるかどうかは別として。

 

「…!や、やっぱりライスの言葉が……あ!こ、この後トレーニングの時間だった…!」

 

 慌ただしく駆け出しながら部屋を出ていくライスシャワー。しかしあまりに急いでいたため、ドアを完全には閉めきれていなかったらしく僅かに隙間が空いていた。

 それを見ながらたくあんはドアに向かって歩みを進めるが、ふとあの()の言葉を思い出して思い留まった。

 

『じゃあ行ってくるね!あ、この部屋からは出ちゃダメだよ!すぐに戻って来るから待っててね!』

 

 ……このまま外に出ればあの娘の禁を破ることになってしまう。それは自分としてもあまり好ましくはない。好ましくはない…が

 そう思いながらドアの隙間から外を覗く。外には気が遠くなるほど果てしなく続く廊下が広がっており、所々には階段が見受けられた。恐らくあそこから上にも下にも行けるだろう。

 …外への興味を抑えられそうにない。

 ゴメンナサイ。そう思いながらたくあんは、遂にドアをこじ開け廊下へとその身を押し出したのだった。

 

 





Q:ちゃんとお留守番できるかな?
A:(外に)出ちゃった…
ライスは蒲田くんにあったらこんな感じになりそうって書いてて思いました(小並感)
ウラライスはいいぞ
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