ウララ「トレーナー!この子飼ってもいーい?」ト「元いた場所に返してきなさい!(戦慄)」   作:コウハクまんじゅう

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 さて、驚いた方もいらっしゃるでしょう…なにしろ一日に二つ話を投稿したのですから… 
 とまぁ前置きも程々に、なぜ一日に2話投稿したのか理由を説明しましょう。早い話、今週はかなり立て込むので話を投稿できないと踏んだからです。だから今日一気に二つを…といった次第です。


襲来

 

 

 ハルウララとトレーナーに合流した後は、なるべく迅速にトレーナー室へと移動した。自分で移動すると時間がかかってしまうので、ハルウララが抱えて移動した。移動している間も他の人に見つからないかヒヤヒヤしていたが、幸いなことに誰にも会わずに済んだ。

 トレーナー室に着いたら、トレーナーがドアを厳重にロックした後にようやく一息をついた。

 

「はぁ〜、びっくりしたよ…こうも早く脱走するとは…誰かに見つかってないといいんだけど…」

 

 希望的観測をするトレーナーには悪いが、もう思いっきりバレてしまった。しかも学園内でも結構立場ありそうな人に。しかしそれを伝えることができないのが良いのか悪いのか。恐らくこれから苦労するであろうトレーナーを憐れむつもりで視線を送った。

 

「ん?どうした?腹でも減ったのか?」

 

 てんで見当違いな事を言いながらわしゃわしゃと頭を撫でるトレーナー。まぁ、今は知らないほうが良いだろう。あ、ちょっと気持ちいい。

 それにしても、と撫でられながら考える。今日は色々とあって学園の中を見て回れなかったのでまた外に出て色々見て回ろう、と懲りずに改めて外出を決意するのだった。

 

「はい、これあげる!」

 

 突然目の前にオレンジ色の細長く、ゴツゴツとした物体が差し出される。見上げると艷やかで色白な細い腕が掴んでおり、更にその先を辿っていくとサクラの花びらにも似た瞳孔が優しく揺れていた。

 

「八百屋のおじさんに貰ったにんじんだよ!とっても美味しいよ!」

 

「………」

 

 別に腹が減っているわけではない。むしろ、自分は何も食べずとも水のみでも生きていける。しかし、だからといって厚意を無下にするにはいかず眼前のにんじんを小さくかじった。

 

「…モグモグ」

 

 暖かく、美味しい。それにちょっぴり甘い。それがにんじんをかじった感想だった。

 

「カリッ…モグモグモグ…」

 

 それからは無言でにんじんをかじり続け、それをハルウララは目を輝かせながら見つめており、すべてのにんじんを平らげたら飛び跳ねて喜び、抱きしめて頭を撫で回していた。

 

「また持ってくるね!」

 

 無邪気な笑顔を浮かべ、またにんじんを持ってくることを約束してくれた。それに尻尾を振って応えるとまた頭をなでてくれた。

 

「ウララ、そろそろ暗くなってくる。今日はもう寮に帰りなさい。たくあんは俺が見ておくから。」

 

 トレーナーがそう言うとウララは大人しくそれに従い、荷物をまとめてドアノブに手をかけた。

 

「ばいばいトレーナー、たくあん!また明日ねー!」

 

「あぁ、また明日。」

 

 その後、ハルウララは寮へ帰って行った。たくあんは懲りずについていこうとしたが、トレーナーにしっかり止められた。ハルウララが部屋を離れたのを確認すると、「さてと」と呟いてたくあんへと視線を向けて「どうしようかな…」と顎に手を当てて思案していた。

 

「トレーナー寮に連れて行くと混乱を招くかもしれないし…やはりここしかないか。」

 

 それからトレーナーは小さな器に水を入れ、最初に掛けた毛布を添えた寝床を用意した。さらに簡易式のトイレまで作り、たくあんのための環境を整えた。

 

「これでよし…と」

 

 ひとしきり準備を整えたトレーナーは机に向かい、資料を片付け始めた。

 

「………」

 

 仕事をするトレーナーから視線を移し、用意してもらった寝床に移動した。そのまま毛布に頭から突っ込んで体を丸めて寝る体勢になった。

 

 しばしトレーナー室には、紙を動かす音とキーを叩く音、時折コーヒーをすする音だけが響いていた。それらの音を子守唄に、たくあんは眠りについた。

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「よーし、終わった〜」

 

 椅子から腰を上げて体を伸ばすトレーナー。その声に反応して毛布から首を出してみると、荷物をまとめて帰る支度をしているトレーナーの姿があった。

 

「じゃあ俺は帰るけど、頼むからいい子にしていてくれよ〜…夜は暗くて心細いだろうが、朝になったらウララも俺も来るからな。今度こそ出ちゃだめだぞ?」

 

 電気を消して部屋を出る前に入念に念押ししてきたのでそれにしっかりと頷くと、トレーナーは満足げに頷き返して部屋を後にした。部屋の外で小さく「…あれ?俺の言葉にちゃんと頷き返してた?」と呟く声が聞こえたが、まぁ大丈夫だろう。ドアがロックされる音がした後に足音が部屋の前から離れていくのを聞き届けると、再び毛布の中で丸くなった。

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

「………」

 

 モゾモゾと毛布が動き、その中から何かがひょっこりと顔を出した。

 時計を見ると、時刻はすでに夜中の12時を回っていた。真っ暗なトレーナー室の中では、窓から差し込んできた月明かりのみが唯一の光であった。

 

 僅かに差し込む月明かりのもとに浮かび上がる()()の姿はラブカや蛇を足して2で割ったようなひどく歪で、グロテスクで、不気味であった。

 

「…ズリ…ズリ…」

 

 それが毛布から這いずり出し、一直線にドアに向かっていった。夜目が効くのか、一切迷う様子を見せていなかった。

 

 ドアに到着すると体全体を使って器用に押すが、鍵が掛けられており微動だにしなかった。

 

「……」

 

 開かないと察したのか、ドアから離れていく()()。そのまま寝床に戻るかと思ったら、予想に反して壁伝いに何かを探している様子。

 

「ズリ…ズリ…カリカリカリ…ズリ…ズリ…」

 

 時折壁を引っかきながら、壁伝いに進んでいくと突然止まった。

 

「カリ…カリカリカリ…ズズズ…」

 

 ()()が立ち止まった所には、縦約50cm、横約1mほどの小さな引き戸が設置されていた。「昼間に部屋を徘徊していた時、たまたま見つけていたとは思うまい」とでも言いたそうな表情を浮かべながら引き戸をこじ開ける。

 

「ズズズ…ガタッ」

 

 引き戸を完全に開き、またもや廊下に姿を表した()()。昼間と同じように向かって右を進み、また階段の前まで移動した。しかし昼間とは違い、その行動に警戒からくる慎重さはなかった。やはり夜中というのが大きいのだろう。階段を器用に滑り降り、あっという間に一階まで降りてしまった。

 

「………」

 

 やはり昼間とは違って夜の闇が視界を悪くしており、普通の人間ならば一寸先も見えないだろう。しかし自分は夜目が効くので昼間のように見ることができる。仮に人間が見回りをしていたとしてもこちらの方が先に気づける。

 

 しかし夜も無限じゃない。いつかは明ける。なのでなるべく学園を見て回り、夜明けまでにはトレーナー室に戻らなければならない。時計を見ると、現在は12時を数十分ほど回っていた。時間はあるが、あまりもたついているとあっという間に時間が来てしまう。

 

「ズリ…ズリ…」

 

 昼間同様に、玄関口から外に出た。夜の空気は昼間とは違って鋭く冷えており、呼吸をするたびに体内が凍りそうだ。どうにも体が内側から冷えていくこの感触には慣れない。そんな事を思いながら、向かって左に進むことにした。

 

 体を柔らかい芝の上で引きずりながら、校舎を見ていく。この学園は予想以上に大きいようで、いくら進んでも校舎が途切れる気配がなかった。無数の渡り廊下が校舎と校舎を繋いでおり、校舎が綺麗かつオシャレなのでそれらを見ていると学校というよりかは巨大な博物館を連想させた。

 

「………」

 

 しばらく進んでいくと水の匂いと水が滴る音が聞こえてきた。見てみるとそれは最初自分が泳いでいた噴水であった。ここで気ままに泳いでいた所、あの娘に拾われてトレーナー室まで連れて行かれたのだ。

 

 今にしてみれば中々大胆かつ無茶な事をあの娘はしたものだなと思いつつも、自分をここに送り込んだ我が主達には感謝の念を抱いていた。

 

「………」

 

 噴水の座れる場所によじ登り、壺を担いで絶え間なく水を注ぐ石像を眺める。石像は全部で3体あり、そのどれもが背中合わせに全方位を見ていた。確か、あの娘曰く『三女神様の像』とかだったかな。

 

「………」

 

 石像を一体一体見ながら「ここはもうちょっと深く彫って…こっちはもっと髪長く…こっちは…もう全部似てないな」などと実物と比較して辛口の感想を心の内で述べていた所、ふと向こうにいた時の()()()との生活を思い出す。

 

 基本的に向こうではやることがなくて毎日退屈しており、仲間同士で遊んだり、たまに主達に遊んでもらったりしていた。確かに暇ではあったが、悪くはない生活だったなと思い返していると急にホームシックじみた感情になってきた。

 

 これはいかんと思い直し、噴水から離れようとするが水面に写った自分の顔に違和感を覚えた。

 

「………」

 

 なんだろう。違和感はあるのにそれが分らない。写っているのは確かに自分の顔なのに、自分の顔ではないみたいな…

 

 考えながら水面に写った自分の顔に近づいていく。遂に鼻先が触れようかというところまで近づいたその時。

 

「ザバァ!」

 

「!?」

 

 顔が写っている場所から派手な水しぶきを立てて何かが飛び出してきた。驚いて固まっていると、飛び出してきたそれが、月を見上げてひび割れたノイズのような咆哮を上げた。

 

「■■■■■!!」

 

 真夜中のトレセン学園に、不吉な咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 コツリ、コツリと一定の間隔で靴が床を打ち鳴らす音が響き渡る。

 

(頼むから大人しくしていてくれよ〜…)

 

 そんなふうに祈りながら足早にトレーナー室へと向かう。朝ということもあって多くのウマ娘やトレーナーが廊下を行き交っており、そこかしこから様々な話し声が聞こえてきた。その中で、ふと気になったものがあった。

 

「ねぇ聞いた?あの噂…」

 

「うん…」

 

 思わず立ち止まり、いけないことだとは思いつつも耳をそばだててみる。

 

「昨日の夜中、不気味な音が聞こえたってやつでしょ?」

 

「そうそうそれそれ!ちょ〜怖いよねぇ」

 

「でも風か何かの聞き間違いじゃないの?」

 

「なんか、遠吠えみたいな感じなんだけど、生き物が出せるような声じゃないって…」

 

「なにそれ、生き物だけど生き物じゃないって」

 

 それを聞いた瞬間、トレーナー室で匿っているあの珍妙な生き物の姿が脳裏をよぎった。

 

「鍵も掛けたし、大丈夫だよな…」

 

 一抹の不安を抱えながら足早にトレーナー室へ向かった。

 

 

 

 

 

 トレーナー室に着いた俺は鞄の中から鍵を取り出し、恐る恐るドアノブに差し込んだ。もし鍵を捻って、開くのではなく閉まったらどうしようという不安を覚えたが、意を決して鍵を捻り込んだ。 

 ガチャリ、と無機質な音が響いてドアが開いたことを告げた。

 

 いつもは当たり前に聞いているその音を聞いた瞬間に心の底から安堵し、完全に気を緩ませながらドアを開けた。部屋にはいつも通り、デスクがあり、ウララと撮った写真が壁に飾られていて、変なあいつがいて…

 

 

「………」

 

「………」

 

「……ゑ」

 

 部屋にたくあんはいた。部屋の様子もいつもと変わりない…はずだった。

 しかし現実は非情であった。たくあんの隣に、もう一匹全身が真っ赤なたくあんのような生き物がいたのだ。

 

 なんで…なんで…!

 

 

「……なんで増えてんだぁぁぁあああああ!!」

 

 

 その日、トレセン学園に悲痛な叫び声が響き渡った。

 

 

 




唐突に訪れる“非日常”

予想外の“生物”

特に理由のない理不尽がトレーナーを襲う――!!
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