ウララ「トレーナー!この子飼ってもいーい?」ト「元いた場所に返してきなさい!(戦慄)」 作:コウハクまんじゅう
どうも、思ったよりも用事が早く片付いたので投稿した次第です。
早いもので今年ももう終わりを迎えます。ほんとに早いな…(困惑)
「〜♪」
トレーナー室で悲痛な叫び声が響く一方で、ハルウララは鼻歌交じりでいつものように朝支度を整えていた。すでに掛け布団はシワなく綺麗に畳んでベッドの上に置いてあり、今は鞄に必要な物を詰め込んでいる。あの子にあげるにんじんも忘れず大切にしまい込んだ。
「ウララさん、最近朝早くない?」
同じく鞄に荷物を詰め込みながら驚き、感心したように言うのはキングヘイロー。彼女はハルウララのルームメイトだ。
「うん!早くトレーナー室に行きたいんだ!」
「熱心ねぇ…」
一晩経ってくたびれた髪を丁寧に整えながら呟く。まだ朝早い事もあって、声に覇気がない。一流のキングヘイローも流石に朝は弱いようだ。ハルウララはそれを横目に準備を整えると、鞄を掴んで肩に掛けた。キングもちょうど同じタイミングで準備を整えたようだ。
「さて、行きましょうか」
「うん!」
ドアを開け、駆け足で部屋を出た。「あっこら!廊下は走らない!」と後ろからキングが叫んでいたが気にせず駆けていくウララ。そうしてトレーナー室へと向かうのだった。
寮を出て校門の近くまで行くと、大勢のウマ娘が登校してきているのが目に入った。その中には親しい友人の姿もちらほらと確認できた。
「みんなおはよー!」
「あ、ウララちゃん!おはよう!」
「おはよ〜」
「ウララちゃーん!おっはよーデース!」
「おはようございます〜」
明るくハキハキしているのがスペシャルウィーク、猫のようにのんびりとしたのがセイウンスカイ、元気いっぱいで語尾にデスが付くのがエルコンドルパサー、大和撫子という言葉が似合うお淑やかな雰囲気なのがグラスワンダーである。
「ちょっと…このキングを…忘れているのではなくって…はぁ…はぁ…」
遅れてやって来たキングが息を切らして不満げに声を上げる。勢いよく飛び出していったウララを追って全力で走ってきたようだ。
「にゃはは〜キング息切れてるよ〜」
「お…お黙りなさい…」
肩で息をするキングをいじりながらも、一行はゆっくりと校舎に歩みを進めていったのだった。それからしばらくは好きな料理や次のレースについてなど他愛のない話をしていたが、スペシャルウィークがある噂話を持ち出してきた事により、流れが変わった。
「そういえば、昨日の夜に変な音が聞こえたって知ってる?」
「あ〜それね〜。昨日の真夜中、噴水の方から聞こえたってやつでしょ〜」
その会話を皮切りに、話題が一気に昨夜の不気味な音の話に移っていった。そこからは徐々に噂話から逸脱していって、やれ幽霊だなんだとオカルトじみた話をしながらそれを不気味がったり面白がったりしていた。
「でも、一体何なのでしょうか…その音の正体」
「何かの動物が叫んでいるようにも聞こえるけど、とても生き物には出せる音じゃないんだってさ〜」
「やっぱり…幽霊デスか!?」
色々と話が巡った結果、やはり不気味な音に話が戻ってきて再び音の正体を考察しだした。しかし皆目見当がつかないので考察しようがない。そのまま話が迷走するかと思ったその時。
「ちょ、ちょっと!もうオカルトの話はやめなさいよ!」
我慢ならないと言うようにキングヘイローが悲鳴に近い声を上げた。元来彼女は怪談等の怖い話が苦手なので、これでもよく持った方である。
キングの一声で一行も「朝からするべき話ではない」としてそのまま話題が世間話へと移ったが、ハルウララの中にはその不気味な音の噂がどうにも引っかかって仕方がなかった。
しかしちょうどいいタイミングで昇降口に入ったので、ウララはそこで一度みんなと別れてトレーナー室へと向かった。
「うっらら〜!おはようトレーナー!……トレーナー?」
トレーナー室のドアを開けたら、いつものように笑顔で出迎えてくれるはずのトレーナーの姿がどこにもなかった。不安になって少し見渡すと、トレーナーは椅子に座って背を丸めて頭を抱えていた。
「あれ?トレーナー、どうしたの?」
声を掛けられたトレーナーはビクリと肩を震わせると、恐る恐る顔を上げてこちらを見た。しかしその顔は青白く、お世辞にも元気そうとは言えなかった。
「あ、あぁ…ウララか…」
「トレーナー!?どうしたの、顔色が悪いよ!?」
慌てて駆け寄ると、トレーナーは片手を上げてそれを制した。
「大丈夫。ちょっと…考え事をしていただけだから…」
上げた片手をそのまま額に持っていって手を当て、「一体どうすれば…」とでも言うかのように参った様子だった。なぜそこまで思い悩むのか、やはり心配になって口を開こうとしたその時。
「………」
なにやらこちらをじっと見つめてくる視線を感じた。その正体を探るべく周りを見渡そうとした時、視界の端で珍妙な生き物と目があった。自分がよく知っているあの顔だ。
「あ、たくあん!やっほー!いい子にして…た?」
言葉と共に近づこうとしていた歩みも止まった。なにか違和感があったからだ。具体的には、今見ている生物は自分が知っている姿ではないのだ。ふとあの不気味な音の噂を思い出し、背筋を嫌な汗が伝っていくのを感じた。
「たくあん…?」
それを振り切って恐る恐る近づいていくと、それに合わせて目の前の珍妙な生物も視線を合わせて顔を上げていく。目はギョロリとしていてどこを見ているのかわからない。首についているエラがパクパクと動いてまるで呼吸をしているかのよう。ラブカと蛇を足して2で割ったような独特な形状はたくあんと変わらない。問題は体の色であった。
「あれー?なんで真っ赤になっちゃってるのー!?」
そう。形状こそたくあんとほぼ変わりないが、大きな違いは全身が血を浴びたかのように真っ赤なのだ。加えて、たくあんは自重を支えきれずに体が床を擦っていたが今目の前にいる生物は2本の足でしっかりと立っており、胴体にはか細い腕が生えていたのだ。
「あぁ…その子、何故か分からないけど今朝いたんだ…というよりかは
「増えた?」
ようやくトレーナーが口を開き、疲れ切ったように言った。それに対してウララは首を傾げるばかりであったが、椅子から腰を上げたトレーナーが赤いたくあん(?)の隣を指さした。
「ほら、そこ」
「え?…あ、いた!たくあん!」
真っ赤なたくあん(仮称)の隣に、毛布に首を突っ込んだ本物のたくあんがいた。ウララの声にピクリと反応すると、のそのそと毛布から首を出して赤いたくあんの隣に並んだ。
横一列に並んだ両者は、やはり体の色と体の細かい所以外はそっくりに見えた。
「……あれれ?似てる!お友達なの??」
膝を曲げ、たくあんに目線を合わせて訊ねると「うん」とでも言うかのように頷いた。
「そうなんだ!じゃあ…」
体が赤いので、トマト?いや、トマトは苦手だからやめておこう。ではリンゴ?それも何か違う気がする。そんなことを思いながら改めて目の前の真っ赤なたくあんをみつめてみる。
その時、ハルウララ天啓得たり。なにか思いついたようにパアッと顔を輝かせて高らかに叫んだ。
「"けちゃっぷ"!今日からあなたはけちゃっぷ!」
真っ赤なたくあん(仮称)を抱きかかえると、そう名付けた。名付けられたけちゃっぷは、たくあんのように何を考えているか分らない表情でウララを見つめていた。
尚、この一連の流れでけちゃっぷを引き取る事が確定したので、トレーナーは腹を抑えて呻いていた。
トレーナーの胃は死ぬ。
次回はもっと死ぬ。(予告)