ウララ「トレーナー!この子飼ってもいーい?」ト「元いた場所に返してきなさい!(戦慄)」   作:コウハクまんじゅう

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蒲田くん、品川くんと来たらもう…ねぇ?



一家集結

 

 

 教室には黒板にチョークが踊る無機質だが小気味よい音と、聞いているだけで眠くなってしまうような先生の話し声が響いていた。

 周囲には机に突っ伏してねむりこくっている者がちらほらと見受けられた。

 時刻は日がすっかり昇り切った昼下がり。ただでさえ昼は眠くなるというのにこうもじっとして話を聞いているだけだと益々眠くなってしまうというものだ。

 

「であるからして…ほら、みんな起きて!」

 

 パシ、とよく通る音で手を叩き、寝ていた大半が体を一瞬震わせて目を覚ました。それでも起きない者たちを先生が自ら起こしに行っていた。

 

「ほら、起きるんだシービー」

 

 隣の席から声をかけられ、体を揺さぶられた。仕方なく微睡んだ視界を瞼を擦ってハッキリさせた。

 

「んぅ…エース…?」

 

「よく寝て頭がスッキリしたか?ほら、あともう少しで終わりだ。だから頑張れ!」

 

 眩しい笑顔で寝起きを迎えてくれた友人から壁にかけられている時計へと視線を移すと、あと10分もすれば授業が終わることを察した。

 腕を伸ばして大きく伸びをすると、ふと窓の外を見た。空は雲一つない、気持ちのいい快晴となっておりそこから暖かい日差しが降ってくる。きっとあの空の下で思いっきり走ったらさぞかし気持ちいいのだろうと思いながら校庭へと視線を移すと、何かが動いているのが目に入った。

 

(うん…?なんだろ、あれ)

 

 遠くてあまりよく見えないが、謎の物体の高さは目測でも2mはあった。それが何か細長い物をゆらゆらと揺らしながらゆっくりと動いている。

 

 まだ眠気が覚めずに中途半端に夢でも見ているのかと思い試しに頬をつねってみるが、ハッキリと痛みはあるし謎の動く物体は消えはしなかった。

 

 これは現実だ。そう思ったときには遠くで揺らめく謎の物体の正体が気になって仕方がなかった。

 

 私は気になったことには飛び込まずにはいられない性分だ。前で授業をやっている先生の方をちらりと盗み見ると、教科書を立ててスマホを取り出し、カメラ機能を使って謎の物体を限界まで拡大してみる。

 

「……なんだろ、コレ」

 

 限界まで拡大をしたところ、ようやくその輪郭が見え始めた。まず初めに目についたのは、火山から吹き出した溶岩の如く表面を伝う、おどろおどろしく蠢く深紅の光だった。

 

 そのおぞましい赤い光は柊の葉のような尖った漆黒の背鰭の下にも流れていた。次いで見えたのは岩のようにゴツゴツとした体表と天にさえ届きそうなほど長い尻尾。

 

 どうやら謎の物体は、なんらかの生物のようであった。最も、それは生物と言うにはあまりに歪で、あまりに神々しかった。今までに見たことのない未知の生物に思わず見入っていると手元が狂い、その生物の上半身が見え、更には頭が見えた。

 

「…!?」

 

 その頭はおおよそ野生の生物とは思えない、まるで人間の頭のように丸みを帯びておりそこには同じく人間のようなギョロリとした目がついていた。そして一瞬、ほんの一瞬だが、目が合ったような気がした。 

 

「ひっ…」

 

 思わずスマホを机にガタンと音を立てて落としてしまい、同時に立てていた教科書も倒してしまった。教室中に倒してしまった音が響き渡り、視線が一斉にこちらに集まった。

 

「ミスターシービーさん、どうかしましたか?」

 

「あっ、いや…なんでもないです」 

 

 幸いなことにスマホは教科書の下に滑り込ませたので何とかバレなかった。先生はそれ以上追求することはなく、授業を再開した。

 

「なんかあったのか、シービー?」

 

「…ううん。なんでもない」

 

 さきほど私が教科書を壁のように立てたのを真似して、こっそりと訊ねてくるのを呆然としながら答えると、彼女もそれ以上は追求せずまたノートと黒板を交互ににらめっこし始めた。

 

 授業を受けるフリをしながら再び窓の外をちらりと見やると、そこにはもうさきほど見た()()はいなかった。

 

 何か大変な事が始まりそうな予感に胸を高鳴らせながら、授業の終わりを告げるチャイムを聞いていた。

 

 

 

 

 

「えっ?外に変なものが見えたって?」

 

 素っ頓狂な声が昼の混雑した食堂に響く。私は注文したボリューミーな人参ハンバーグを咀嚼しながらそれにうなずいた。

 

 胸焼けするのではないかと思うほどの油と肉汁が口の中いっぱいに広がったところに、にんじんの優しい甘みがほどよく合う。

 

「うーん…あたしには見えなかったけどなぁ…どんな見た目だったんだ?」

 

「黒くて赤い、あと尻尾が長くて目が怖い」

 

「だ、だめだ…まるで何もわからない…」

 

 あまりにも適当すぎる特徴の羅列に頭を抱えているのを横目に、改めてあの異形の何かの姿を思い出す。

 やはり最初に思い浮かぶのは黒曜石のような深い漆黒とゴツゴツとした体表、その間を溶岩のように流れている真っ赤な光。そして天を打ち据えんと振り回していた蛇の如く長い尻尾。

 

 まるで人間のように丸みを帯びた頭部と剥き出しになった眼球。未だにあの目を思い出すだけで背筋が凍りつきそうだ。

 

 それと同時に、あれの正体を探ってみたいと強く思った。でもきっとこれは危険な好奇心なのだろう。なにしろあれは見た目からしてこの世界の理に収まっている存在とは到底思えないからだ。

 

 だが、私もまたルールやタブーを破る存在だ。

 

「ご馳走様。じゃあねエース、私ちょっと行くところあるから。」

 

「あ、おう!じゃあな!」

 

 手をひらひらと振りながら食堂を後にした。目指す場所はもちろん、あれがいた場所だ。レース前のように胸を高鳴らせながら軽快に校舎を駆け抜け、あっと言う間に校庭へと出た。

 

「確か…こっちのほうだったはず」

 

 教室から見えた景色と今見えている景色を重ねながら探してくと、遂にあれがいたであろう場所を特定できた。そこは雑草が生い茂っていて見えずらかったが、足跡と何かを引きずるような跡があった。

 

 私には知識がないので詳しいことはわからないが、その足跡はいわゆる恐竜の類のような足跡に見えた。しかも信じがたいことに、その足跡はあえて雑草が生えているところを選んで通っているように見受けられた。

 

 まさかここを調べに誰かが来る事を想定していたのだろうか?だから足跡を辿ってこれないように見えずらい雑草が生えたところを通っていたのか?

 

「…もしそうだったら賢いね」

 

「そうね。あの子によく似ているわ」

 

 驚いて声のした方を向くと、そこにはいつの間にかメジロラモーヌが腕を組んで立っていた。ただ立っているだけで絵になってしまう彼女は、やはり魔性なのだなと改めて感じさせる。

 

「貴方も見たのでしょう?」

 

「うん、ラモーヌも?」

 

 まさかラモーヌもあの異形を目撃していたとは思わなかった。しかし私の問いには答えず、悠然と足跡の近くまで歩み寄ると不思議そうに呟いた。

 

「……なぜあの異形に対して、あの子に近しいものを感じたのかしら。」

 

「ねぇ、あの子って誰?」

 

「………」

 

 そこでようやく私をちらりと一瞥したが、すぐに足跡へと視線を戻し、黙りこくってしまった。

 私の問いに対する答えを考えているのか、それともいつものように何も言わずふらりとどこかへ去ってしまうのか。沈黙に耐えかねて口を開こうとしたその時。

 

「私に刺激をくれる子。」

 

 そっけなくそれだけ言った。しかしその割には口元は緩んでおり、目尻が優しく下がっているところを見るとそれなりにその子の事を気に入っているようだ。

 

「へぇ〜…随分と気に入ってるんだね」

 

「ええ。部屋に誘ったのだけれど、袖にされたわ」

 

「ゑ」

 

 この場にいるのが私でなければ社会的問題となってしまうようなとんでもない発言が飛び出してきた。まさか藪をつついたら虎が出てくるとは思わなかった。

 というかラモーヌの部屋に誘われるなんて一体どんな人物なんだと詰め寄ろうとすると、それを見透かしたように微笑みながらぴしゃりと言い放った。

 

「ふふ、可愛い子。私が言っているのは人間やウマ娘ではなくてよ。」

 

「え、あ…そ、そうなの」

 

 人間でない。つまり、犬や猫などの動物の類だと分かりなんだか肩透かしを食らったような気分に陥り、一気に頭の中が冷静になっていった。

 

「じゃあ、猫?」

 

「いいえ。」

 

「犬?」

 

「いいえ。」

 

「うーん…じゃあなに?」

 

「変な生き物」

 

「え、えぇ…」

 

 何一つとして分からない。こんな光景さっきも見たなと思いながら頭を悩ませていると、ふいに背後で何かが動く気配がしたので反射的に振り返った。

 

「………」

 

「……えっ」

 

「あら、来たのね。」

 

 一瞬、自分がいま何を見ているのか理解できなかった。だが、ラモーヌの口ぶりから推測するに話に出ていた「あの子」がいま目の前にいる珍妙な生物なのだと、かろうじて理解できた。

 

 それは、あらゆる動物の特徴を詰め込んだような、さきほど私が見た異形の怪物とはまた違った方向でこの世の理の外にいるような生物(?)だった。

 

「待ってよたくあーん!……あれ?ラモーヌちゃんとシービーちゃん?」

 

 更にその後ろからとたとたと駆け寄ってきたハルウララと、その傍らにはえっちらおっちら歩きながらやってきた、珍妙な生物が真っ赤になったような生物が来た。

 

 これは一体どういうこと?何が起きてるの?

 予想外の出来事の連続に私は完全にこの場から置いていかれていた。

 

「あら、ごきげんよう。どうかしたのかしら?」

 

「えっとね!さっきまでトレーナー室にいたんだけど、突然たくあんが飛び出しちゃって!待ってーって追いかけたらここに来たの!」

 

「たくあん…そう、あなたはたくあんという名前なのね」

 

 ラモーヌはたくあんを微笑ましく眺めながら、その視線はウララの隣にいる赤い生物へと向いた。

 

「ところで、その子は?」

 

「あっ、この子はねー、新しく増えた子だよ!名前はけちゃっぷ!」

 

「そう、たくあんと、けちゃっぷね…」

 

「うん!……あれ、なんでたくあんの事知ってるのー!?」

 

「前にその子と会ったのよ。」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 完全に思考が停止して蚊帳の外に放り出されていたが、何とか会話に入った。未だに混乱したままだが、一つずつ聞いていくことにした。

 

「ラモーヌが言ってたのって、ひょっとしてそこにいる…」

 

「ええ、そうよ。『たくあん』と名付けられていたのは初耳だったけど」

 

「そ、そうなんだ…」 

 

 これを─と言ったら失礼だが─部屋に招き入れようとするとは…なんともラモーヌは掴み所がない人物だと改めて思うのだった。

 

 すると突然、たくあんとけちゃっぷが落ち着きなくそわそわし始めた。

 

「どうしたのー?」

 

 ウララが二匹を宥めようとするが、一向に落ち着く様子を見せず、それどころか何かに引き付けられるかのように動き出した。

 

「何か感じ取ったのかしら」

 

 そんな二匹の様子を観察して冷静に考察するラモーヌの話を聞いて、頭の中にあの異形の怪物が思い浮かび口を開いた。

 

「それってまさか…」

 

 

 

ズシン

 

 

 言い終わる前に、背後から影が伸びてくるのと同時に大地を踏み鳴らす衝撃が足を通して伝わってきた。それと同時にたくあんとけちゃっぷの二匹がおもむろに首を持ち上げて上を見上げていた。

 

 

 

「え」

 

 恐る恐る背後を振り返ると、そこには教室から見ていたあの異形の怪物が佇み、こちらを静かに見下ろしていた。

 

「………」

 

 

 あっ死んだ

 そう思いながら、軽はずみに怪物に近づいてしまったことを今更ながら後悔しているのであった。

 

 





シ ン ゴ ジ 一 家 集 結

(トレーナーの胃を)ここからどうしてくれようかニチャァ…

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