クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する 作:那珂テクス
「うむ。お前に少しばかり頼みがある」
「?」
「クリーヴー! ここだぞー!」
人混みを掻き分けつつ集合地点に向かっていると、壁際に寄ったパイモンたちを見つけた。2人の手には大ぶりのモラミートが握られていて、それぞれ半分ほど欠けている。
「はいこれ。クリーヴの分」
蛍が包まれたものを差し出してくれた。買ってからそれほど時間が経ってないのか、まだ温かい。
礼を言ってから受け取り、大口を開けて齧りつく。
うん、OC(た〇ぞう並感)
焼餅に挟まれたたっぷりの肉はジューシーだが脂っこくなく、上品な甘さを際立たせている。この絶妙なバランス、なかなか良い店の品のようだ。
唐辛子過多の胃袋に染み渡る~!
「初めての璃月港はどう? 大体は見て回れたかな?」
食べながら問いかけると、蛍が静かに頷いた。
「お店にはほとんど入れなかったけど、地形はちゃんと覚えたよ。迷子にはならないと思う」
「そういうお前はどうなんだ? 儀式のことで聞き込みしてたんだよな」
完食したパイモンが問い返す。その口周りを拭き取ってあげる聖母・蛍を横目に、私はメモを取り出した。
「例年通りみたいだね。会場は倚岩殿で、時刻は正午。今から移動してお願い事をすればちょうどいいくらいだよ」
ちなソースは特別情報官サマ。テロ対策で大まかな時刻しか公示されていないため、正直かなり助かった。
もっとも、『儀式が終わるまで見てるからね』と釘を刺されたわけだが。
「じゃあ早速行こう! 蛍のお兄さんが早く見つかるように頼まなきゃな!」
無邪気に笑うパイモンを先頭に、私たちは歩き始めた。
◇
倚岩殿は璃月上層の玉京台に位置する。その歴史は古く、3700年前には既に存在していたとされている。
雨垂れが石を穿ち、山が丘になるように、ここでは様々な建造物が出現と消滅という輪廻を繰り返してきた。この絶え間ない千変万化の中で、唯一変わらなかったのが『帝君を祀る』という使命である。病める時も健やかなる時も、璃月の人々は常に岩王帝君と共にあった。
その最たる例が、七星迎仙儀式だ。
例え飢饉や戦乱の最中だろうと、あるいはだからこそ、人々はこの儀式を一度たりとも欠かさなかった。明日をも知れぬ身であるが故に、彼らは帝君という絶対的な指導者を渇望したのだ。
時代は移ろい今や泰平の世となったが、それでも尚彼らの信仰は揺るぎない。こうして玉京台を埋め尽くす人々がそれを証明している。
「うぅ……人が多すぎて、オイラちょっと酔ってきたぞ」
「毎年こんな感じなんだよね。千岩軍も七星もよくやってるよ」
パイモンの背を優しくさする。
私たちは今、参拝の待機列に並んでいる。最前の香炉で1つ目の願い事をした後、次の香炉に直行して2つ目を終わらせるという手順だ。眩暈がするほどの大行列だが、千岩軍が剥がしを担当しているおかげか、回転率はそれほど悪くない。
歩きつつふと蛍の方に目をやると、何やら首を傾げていた。
「『七星』って何?」
そう問いかけてくる。
あーそっか。そこに関しては触れてなかったな。
ちょうど
「あそこにいる白髪の女性が見える?」
広場の中央あたりを指さすと、蛍はすぐに該当人物を見つけ出した。というか髪色も服装もあまりに派手すぎて、自然と目が止まったようだ。
分かるわー。
どう見ても星4のビジュじゃないよね。
「あれが璃月七星の1人、『天権』凝光様だよ。迎仙儀式を仕切ってるのもあの人なの」
「その名前ならオイラも聞いたぞ。偉い人なんだろ?」
「帝君の次に偉い人、かな。でも実際に璃月を統治してるのは七星だから、事実上の最高権力者と言っていいかもね。『天権』はその中でも立法とか軍事担当だったと思う」
以上、解説終了。蛍はちゃんと理解できたようだが、パイモンの頭上には『?』マークが浮かんでいる。ちょっと一気に詰め込みすぎたかもしれない。
──当然っちゃ当然だが、帝君ただ1人が璃月の全てを決めるわけではない。年一で運営方針を伝えはするものの、委細については七星の手に委ねられている。
つまるところ、この国はとっくに岩の揺り籠から巣立つ準備が出来ているのだ。
そして今日この日が民と神、双方にとっての最後の一押しとなる。
「つまり……すっっっごく偉い人ってことか!」
「その通り! パイモンちゃん天才!」
わしゃわしゃと頭を撫で回すと、パイモンが得意げに鼻を鳴らした。
「ふふ、ワンちゃんみたい」
聞こえてまっせ蛍ちゃん。
本人に気づかれなくてよかったね。聞かれてたら絶対に拗ねてたよこの子。
「それにしても、やっぱり人が多すぎないか? このままだと玉京台が落っこちちゃうぞ」
「
げんなりするパイモンをフォローすると、また蛍が首を傾げた。
「やっぱり神様って滅多に見れないの?」
「ん〜、半々ってとこかな。モンドはあんな感じだし、璃月では年一くらい。稲妻は戦でよく見かけるけど、スメールでは何年も姿を現してない。でもフォンテーヌとナタでは割と気軽に話せたりするよ」
「スネージナヤはどうなんだ?」
「まだ行ったことなくて……」
ちなみに私が会えたのは、バルバトス、モラクス、バアルゼブル、ハボリムの4名だ。ブエルは恐らく監禁中、フォカロルスは諭示裁定カーディナルの中なので会えなかった。フリーナについては見かけない日が無いほど頻繁に目にしたが、人気者すぎて逆に会えた試しがない。氷の女皇は言わずもがな。
これからの旅で全員と会うことになるんだろうな。ワクワクが止まらないや。
そうこうしている内に、やっと私たちの手番が回ってきた。千岩軍に促されるがまま香炉の前に立ち、全員で瞳を閉じる。
願い事、願い事ねぇ。
本当にモラクスが聞いてるから下手に念じられないんだよな。どうしよ。
(……私たち全員が旅の目的を果たせますように)
こんなところか。
私は恋人との穏やかな日々、蛍は本当の意味でお兄さんと再会すること、パイモンは──分からないが、少なくとも悪辣な願いではないはずだ。全員の幸せを祈りつつ、プライバシーに配慮した完璧な願い事と言える。
持ち時間が終わった。そのまま次の香炉に移動し、再び目を閉じる。
さて。
(えー、業務連絡、業務連絡。あとで降臨者と一緒に往生堂にお邪魔します。『鍾離先生の旧い知り合い』の
よし、これで報連相もバッチリだな!
先生の演技力に期待してるぜ!
真剣な表情を取り繕いつつ、私は2人が願い終わるのを待つのだった。
しばらくすると、ついに迎仙儀式が始まった。
隣人の声すら聞き取れないほどの喧騒がすっかり収まり、厳かな静寂の帷が降りる。会話という逃げ場を失った人々の熱気は最高潮に達し、岩の神が降臨する瞬間を今か今かと待ち構えていた。
「もう少し前に行こう! 後ろにいたら何も見えないぞ」
パイモンがひょいひょいと飛んでいく。人混みであれが出来るのズルくない?
蛍と2人してどうにか最前列に体をねじ込むと、ちょうど凝光が両手を掲げているのが見えた。
「時は満ちた」
朗々とした声が静寂を打ち破る。神の目が励起し、彼女を取り囲むようにして4つの石つぶてが踊り始める。
円を描きつつ飛翔していたそれらは、凝光の手掌に従って香炉へと吸い込まれた。
瞬間、香炉から凄まじい光が発せられる。
光は柱となって天地を繋ぎ、局所的な竜巻を生み出した。人々は帝君の降臨を確信し、熱狂的な歓声を上げている。
ここまでは例年通り。
だが、ここからが異なる。
突如として蒼穹が翳った。
空気が嫌な湿気を帯び始める。透明感のあった竜巻が、瞬く間に墨を吸い上げたような様相に変貌する。
誰もが困惑の表情を浮かべる中、細長く、巨大な何かが地に堕ちた。
砂ぼこりが晴れた先に見えたのは、半分が麒麟、半分が龍の姿をした巨大な何か。
それは間違いなく、岩王帝君の遺体だった。
(こっっっっっっわ)
滅茶苦茶演出に気合入っとるやんけ。現実で目の当たりにしたらムービーの億倍恐ろしいわ。
そりゃこんなもん見せられたら『帝君が死んだ』と思い込むわな。
「帝君が殺害された! この場を封鎖しろ!」
凝光が叫ぶや否や、玉京台はたちまち封鎖されてしまった。この判断の早さ、流石はモラクスが認めた人間の1人だ。
千岩軍が取り調べを始める傍ら、私はこの場からこっそり立ち去ろうしていた2人組の首根っこを掴んだ。
「お、おいクリーヴ! 何するんだよ!」
「離して! 岩神の信者に捕まっちゃう!」
小声で抗議してくるのは、ご存知蛍とパイモンである。
「2人とも落ち着いて。この包囲網をバレずに突破するのは無理だよ。確実に見つかるし、そうなるともっと面倒なことになる。大人しく取り調べを受けよう」
「「でも」」
「安心して、証人ならちゃんといるから。ほら──」
こちらを監視中の夜蘭に声をかけようとした、まさにその時。唐突に元素力の嵐が吹き荒れた。
直後、巨大な氷壁が現れる。
発生地点はピンばあやの定位置周辺。また微かにだが、同地点から剣戟のような音が聞こえてきた。
──戦っている。
それもかなりの手練れ同士が。
(待て待て待て待て待て待て)
こんな展開知らないぞ!?
「ッ凝光!!」
反射的にその名を叫ぶ。
現場を指揮していた凝光は私の姿を認めた途端、一瞬の躊躇いもなく言った。
「行きなさい」
瞬間、私は神の目を励起させた。
自身を地を這う稲妻と化し、数百メートルを一瞬で走破する。
目的地に足を踏み入れると、すぐに戦闘中の人物が特定できた。
「
「さぁね。力尽くで聞き出してみたらどうだい?」
そこにいたのは、槍を構える白髪の天女と、双剣を構える赤毛の無頼漢──申鶴とタルタリヤだった。
いや何してんのキミたち?????
初期の旅人って七神をすごく警戒してるんですよね。帝君殺害の現場から逃げ出した理由も「岩神の信者に囚われたくない」だったし。
ただ今作だと夜蘭のおかげでアリバイ完璧なので、クリーヴがその場に引き留めるという運びになりました。
ていうかLuna2予告にペルヴィいるよね!?!?!? また会えるの!?!?!?!?!?!?!?!?!?!? 会いたいよペルヴィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
感想お待ちしてます。飢えてます。