クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する 作:那珂テクス
短いけどなんとか間に合った……今年最後の投稿です!
そして2日14時からLunaIV予告番組だ!!
八つ裂きにしてやるからなドットーレ!!!!
鍾離先生が帰ってきたのは、それから1時間後のことだった。茶を淹れるだけで1時間だ。本人は超特急でやったつもりかもしれないが、待たされたこっちからすれば堪ったものじゃない。あくまで凡人を自称するのなら、まずは凡人らしい時間感覚を養ってほしいものだ。
「じゃあ、弟弟子のことは任せたよ。先生」
改めて塵歌壺を差し出す。先生は1時間前と打って変わり、それを両手で重々しく受け取った。
「これも1つの契約だ。この一件が落着するまでの間、公子殿の身の安全は俺が保証しよう」
あれ、そこまで大仰な話じゃなかったよな? しばらく面倒を見てやってくれ程度の軽いノリだったと思うんだけど。
それに『身の安全を保証する』という物言いも引っかかる。この先の展開を知る鍾離先生にとって、アヤックスは民を危機に陥れるならず者、ないしは迷惑系YouTuberといったところだろう。排斥こそせずとも、積極的に受け入れようとは思えないはずだ。それにも関わらず保護を明言したということは、彼に何か重大な役割を期待しているのではなかろうか。
いよいよタルタリヤ第三降臨者説を笑えなくなってきたな。
「やっぱこえーわ、七執政」
「……急にどうした」
「だってみーんな爆弾を抱えてるんだもん。普段親しくしてる分、四執政よりも恐ろしいわ」
「鏡に向かって話しかけるのが趣味とは恐れ入った。知り合いの医者ならいつでも紹介してやれるぞ」
「いいね。6000年かけて風化した腰を治せるくらいの名医で頼むよ」
バチバチと火花が散る。
互いが互いの次なる一手を待ち構えていると、不意に乱入者が現れた。
「たっだいまー! ゲッ」
顔を引き攣らせるのは、璃月でもなかなか見ない風体の少女。全身黒を基調とした服で統一し、赤い花があしらわれた特徴的な帽子を被っている。
彼女こそ往生堂の堂主にして、岩王帝君すら振り回す奇人にして天才。
即ち──
「胡゛桃゛ち゛ゃ゛ん゛!゛!゛ 大゛き゛く゛な゛っ゛た゛ね゛ぇ゛!゛!゛」
肉体のみで生み出せる最大速力を発揮し、胡桃に抱きつく──というか飛びかかる。彼女は全てを諦めたような表情を浮かべ、ただ私に身を任せた。
「ふむ。まさか堂主とお前が知り合いだったとはな」
「それはこっちのセリフだよ鍾離さん! 珍しく人を招くかと思ったら、よりにもよってこの人だなんて!」
全力で私を引き剥がしつつ先生に詰め寄る胡桃。喜んでるのか怒ってるのか、はたまた気恥ずかしいのか、その頬は目に見えて紅潮している。
へへ、ちょっと揶揄ったろ!
「酷いよ胡桃! 4年前にお別れした時は泣きながら引き留めてくれたのに!」
「ほう」
「ちょっ、信じないでよ鍾離さん! これは悪質なデマだからね!」
「うぅ……これが反抗期なのね……」
「クリーヴ、シャラップ!!」
ふふふ。ムキになっちゃって可愛いなぁ。急に私が現れて動揺しちゃってるみたい。
初めて会った時、胡桃はまだ年端もいかない幼女だった。天真爛漫を絵に描いたような性格で、常に明るく人懐っこい笑みを振り撒いていたものだ。しかしその一方でどこか恥ずかしがり屋さんというか、大事なことを1人で抱え込む癖があった。
父が去り、祖父も去ってしまった彼女にとって、私は幼い頃の彼女を知る数少ない1人だ。『困ったら頼れる大人』として、たまにこうしてお節介を焼いている。
「堂主、もう用は澄んだのか?」
鍾離先生が問いかけると、胡桃は真面目な顔で首肯した。
「うん。いろんなとこで聞いた感じ、帝君は本当に身罷ったみたい。だから鍾離さん、すぐ準備に取り掛かるよ」
「承知した。微力ではあるが、往生堂の客卿として全力を尽くそう」
あー。送仙儀式の話か、これ。
悠久の時を生きる仙人、しかもその祖たる岩王帝君を送り出すなんて、往生堂のほかには不可能な大役だ。胡桃は総務司から依頼が来るのを見越して、早々に準備することにしたようだ。
流石は七十七代目堂主。誰よりも真剣にこの問題を捉えている。顔にこそ出さないが、凄まじい不安や重圧感で圧し潰されそうになっているに違いない。
またまたお節介だけど、ちょっとだけ気を紛らわせてあげよう。
「ねぇ胡桃ちゃん。あなたって裁縫できたっけ?」
「出来ないことはないけど……何で?」
「ちょっとお耳を拝借」
怪訝そうにする胡桃を鍾離先生から遠ざけ、私たちは部屋の隅で顔を寄せ合った。
「そこの客卿の服にさ、財布を縫い付けちゃえばいいんじゃない? もう二度と『モラが無い』なんて言えなくなるよ」
「何それ超面白いじゃん」
◇
悪い笑顔の胡桃に見送られた私は、そのまま奥蔵山の山頂に向かった。道中で目についた魔物たちと、不届きな人間たちを掃除しながら。今回は留雲真君へのお土産を用意できなかったので、せめてもの慈善活動だ。
で、そんな中で1つ気づいたことがある。
魔物が多い。
それも璃月港から遠のくに連れて、強力な個体が増えていく。
魈や夜蘭から聞かされていた通りだ。仙人が住まう地ですらこの有様なのだから、他は推して知るべしといったところか。あの2人が動き回っていることから、既に千岩軍だけではカバーしきれないほど深刻な事態に陥っているのだろう。ナタでもないのにアビスがここまで蔓延っているとは、気味が悪いことこの上ない。明らかに組織的な動きだ。
首謀者は誰だ? 何故この時期の璃月に手を出したんだ? 一体何が目的なんだ?
思考を巡らせつつ歩を進めていると、前方に再び魔物の群れが現れた。が、今回はそれだけじゃない。誰かが奴らと戦っているようだ。
(あれは……!)
羽のような外套を振り回し、風のように舞い、たった1人で敵を蹂躙する、あの天女は……!
「ふぅ……おや、久しいなクリーヴよ。息災だったか?」
か、か……
閑雲だああああああああ!!!!!!
以前璃月にいた時は一度も拝めなかった、仙人形態の留雲真君だ!!
え、何で? 作中の初出は海灯祭だったよね!?
いやもう何でもいいわ!! 美しすぎる!!!
「留雲真君!!」
歓喜の声を上げつつ、私は彼女の豊満な胸に飛び込んだ。
(うぉ……でっか……)
フワフワで柔らけぇ……。
『留雲』とは『雲が留まったみたいにフワフワなおっぱい』のことだったのか……!!
「んっ、こ、こらやめんか!」
慌てて私を引き剥がす閑雲。顔にわずかばかり紅葉を散らせ、息を乱している。先ほどの可愛らしい胡桃とは異なり、思わず生唾を呑み込んでしまうほどの艶めかしさだ。
エッッッッロ……。
「お、お前といい申鶴といい、何故この姿の妾が妾だと分かるのだ!」
「大好きな人はね、どんな姿になっても分かるものなんだよ」
「……ふん」
そっぽを向く閑雲。あ~ダメダメ。可愛すぎます。
まさかこんなにも早く閑パフ(※閑雲パフパフの略)を果たせるとは。本当に素晴らしかった。
隙を見つけてまたやろう。
「あれ、そう言えば申鶴は? 私の友達と一緒にいたはずだけど」
「あの子たちには魔物の掃討を手伝ってもらっている。見ての通り、近頃の奥蔵山は物騒だ。こうして妾が仙人の姿で戦ってもキリがないほどにな」
そんなにか。ちょっと本当にまずい状況だな、今の璃月。
でも鍾離先生が気づいてないわけないし、まだ想定内……なのか……?
「ちょうどいい。お前も手伝ってくれ」
「いいよ。どこに行けばいい?」
「遺瓏埠だ」
「え」
「遺瓏埠だ。場所は……」
「場所は知ってるって! そうじゃなくって、遠くない?」
フォンテーヌの真横だぞあそこ!
「数日前まで、かなりの数の魔物が遺瓏埠周辺に集っていた。ところが昨夜、そのほとんどが何者かによって一掃されたのだ。千岩軍ではない。もっと得体の知れない何かの仕業だ。お前にはその正体を突き止めてほしい」
「留雲真君が行けばよくない? 飛べるし」
「今は閑雲と呼べ。妾は他に行かねばならない所がある。それに、こういった調査はお前の得意分野だろう?」
腕組みして流し目を送ってくる閑雲。どうやら彼女の中で、私の遺瓏埠行きは確定事項のようだ。
そうは問屋が卸さんぞ!
「私だってここに来るまでずっと戦ってきたんだよ。少しくらい休ませてくれたって──」
◇
はい。来ました。
遺瓏埠です。
『勝手に胸を揉んだ罰だ』と言われてぐぅの音も出ませんでした。
いや分かるよ。それに関しては完全に私が悪い。言い訳するつもりもない。
でもさ~、ちょっとくらい休ませてくれてもいいじゃん? こちとら璃月港到着、迎仙儀式参列、帝君暗殺容疑者の確保、帝君との面談、奥蔵山弾丸登山を全部1日でやってるんだわ。もうすっかり夜だし。
(とりあえず飯だ。エネルギーを摂取しよう……)
トボトボと夜道を歩きつつ、手頃に食べれるお店を探す。幸い、ほとんどの店はまだ開いているようだ。
入るならやっぱり人が多い所がいいな。相席しやすければ尚のこと良い。
食欲を満たしつつ同時に聞き込み調査も出来れば、今後の手間が──
「────クリーヴ?」
──────っ
「──ペルヴィ?」
最愛の人が、そこにいた。
年末忙しすぎィ!! おかげで12月もギリッギリのギリギリで投稿する羽目になってしまいましたわ。
今年は大変お世話になりました。
来年も本作をどうぞよろしくお願いします!!