クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する 作:那珂テクス
「いらっしゃいませ。何名様でご利用ですか?」
「2人です。一晩だけお願いします」
「かしこまりました。こちらがお部屋の鍵でございます」
宿屋の受付から鍵を受け取り、私とペルヴィはあてがわれた部屋へと向かう。道すがら整った横顔をチラチラ盗み見ていると、彼女はフッと柔らかい笑みを返してくれた。
「どうしたんだい、クリーヴ。君にしては冷静さを欠いているように見えるが」
「だってペルヴィが可愛すぎるから……!」
自分の顔が生娘みたいに赤くなっているのが分かる。そんな私を優しく包み込むような目で見つめ返してくるペルヴィに気付き、ますます鼓動が速まってしまう。
いやだってこの格好はズルいでしょ!!
今彼女が着ているのは、青緑と黒を基調としたフォンテーヌ科学院の制服。幾度となく目にしてきたシンプルなデザインだが、これがもうべらぼうに似合っている。普段の格式高さや冷徹さが抑えられ、良い意味で『ありふれた』、しかし見る者全てを魅了する完璧なマリアージュを実現しているのだ。
親しみやすさが増したせいで魔性度が天元突破してるんだわ!
まずい! 世間にペルヴィの可愛さがバレちゃう!
「ふむ。つまりこの姿は、些か人目を引いてしまうということかな。残念だが、今後着ることはもう無いかもしれないね」
「えっ、やだ! すっごく似合ってるのに!」
なんとか思い留まらせようと慌てていると、彼女は不意に私の腰を抱き寄せ、低く甘い声で耳打ちしてきた。
「2人きりの時に着てあげるから」
────ぽっちゃあああああああん!!!
はい堕ちました。また堕ちました。
前世からずっと堕ち続けてるけど、今再び堕ちました。私はペルヴェーレというとんでもないお父様の女です(大胆な告白)(確信)(誇り)。
それにしても、また着てくれるようで本当に良かった。私服(?)ペルヴィという宇宙の至宝を失うわけにはいかないからな。本人は隠密に向いてないから着ないという口ぶりだったが、ぶっちゃけどんな格好だろうと彼女は目立つ。あまりにも顔が良すぎるので。いい加減己の顔面宝具レベルを自覚し、開き直ってより多くの私服を着てほしいものだ。
いや。でもそれだと悪い虫まで寄ってきてしまうな。ペルヴィは歯牙にもかけないだろうが、私の心労がマッハになってしまう。
うん、やっぱり私が独占しよう。
絶対誰にも渡さんからな。
思考が堂々巡りしてきた頃、ようやく部屋に辿り着いた。入室後すぐに鍵をかけ、防音結界を三重に展開し、ベッドに2人で腰掛ける。
「最近どうだった? どこも怪我してない?」
「平気だ。私自身も、子どもたちも──そしてフリーナも、皆元気に過ごしているよ」
「そっか。良かった……ん?」
『フリーナ』?
え、呼び捨て?
「この前まで『フリーナ殿』って呼んでたよね」
「ああ。君のアドバイス通り、何度か2人だけのお茶会を開いてね。互いの秘密を共有したおかげか、ようやく友人同士になることができた」
「本当に!? うわぁ長かったねぇ!!」
思わず抱きつくと、ペルヴィも抱き返してくれる。一見すると普段通りのようだが、言動の端々から隠しきれない喜びを感じ取れる。可愛いなぁ、もう。
──知っての通り、私は自身の素性に関する全てをペルヴィに打ち明けている。
そう、全て。何もかも、洗いざらい、丸裸に。
つまるところ、ナタ編途中までの原作知識を詳細に共有しているのだ。その上で何度も話し合った結果、私たちは今後の動向にいくつかの指針を設けることにした。
一、基本的に原作の大筋に干渉しないこと。あくまでフォンテーヌ編までの話になるが、各国メインストーリーは何だかんだでハッピーエンドを迎えている。つまり大筋を守りさえすれば、アビスにも天理にも滅ぼされることはないということだ。逆に逸脱してしまえば、そのどちらか或いは両方に攻め滅ぼされるかもしれない。以上の点から、基本的に魔人任務に沿った動きをする。
二、原作知識持ちであることを隠し通すこと。特に博士あたりには要注意。もし知られたら絶対ろくな目に遭わないため。
三、「一」「二」を破る時は、テイワット全土を巻き込む覚悟で臨むこと。
そして私たちは今、「三」の理念の下とある巨大な計画を進行させている。それこそが、『ハッピーハッピー大作戦(命名:クリーヴ)』だ。
原作における水神フォカロルスは、フォンテーヌの滅びの予言を逆手に取り、2つの偉業を成し遂げた。1つ目が龍の大権の返還、2つ目が水神の神座の破壊だ。その後ヌヴィレットがフォンテーヌ人の罪を赦し、真の人として生まれ変わらせたおかげで、予言の実現とフォンテーヌの救済を両立することができたのだ。正直、これらを全て成し遂げたフォカロルスには脱帽するしかない。
と、結果だけ見れば大団円と言えるが、その裏にはいくつもの犠牲があった。その最たる例が、フォカロルスの死と500年に及ぶフリーナの苦悩だ。原作をプレイしたのは何十年も前だというのに、胸がひどく締め付けられたのを今でも鮮明に覚えている。
故に私たちは、『ハッピーハッピー大作戦(命名:クリーヴ)』を始動した。
この計画の唯一にして最大の目標は、フリーナの友達になること。より具体的に言えば、フリーナが水神を演じることなく、ありのままの自分でいられる友人になることだ。その目的は、彼女の精神的負担を少しでも軽減することにある。
500年もの間、彼女は水神フォカロルスを演じ続けてきた。人前はもちろん、寝床ですら気を抜けずに、休むことなく演じ続けてきた。しかもその真実を知るのは、フォカロルスを除いてフリーナただ1人。たった一度でも誰かに話してしまえば、滅びの予言が現実となってしまうかもしれない。この世に生を受けたその瞬間から、彼女は極限の檻という舞台上でスポットライトを浴び続けているのだ。
そんなことを知ってしまったら、もう助けるしかない。
だが、彼女が秘密を打ち明けることは無い。絶対に。
ではどうするか。
こちらから暴けばいい。
『貴女が神でないことを知っている。貴女が神を演じ続けてきたことを知っている』と打ち明けるしかない。
当然フリーナからすれば脅迫そのものだし、深い深い絶望に陥ってしまうだろう。
故にこそ、こう続けるのだ。『だがこの秘密は決して誰にも明かさない。全てを知った上で、私は貴女を信じている』、と。ここまでやって初めて、フリーナと真の友人になる道が開かれる。
以上が『ハッピーハッピー大作戦(命名:クリーヴ)』の概要だ。本当はフォカロルスの犠牲もどうにかしたかったが、彼女の死以外で神座の破壊と龍の大権の返還を達成する方法がさっぱり思いつかなかったので、この件に関しては一旦保留にしている。
熟考に熟考を重ねた結果、この計画はペルヴィが担当することに決まった。主な理由としては、私がフォンテーヌを出て、各国で様々な仕込みをしなければならないことが挙げられる。
そして数年の時を経て、ペルヴィはついに成し遂げた。
フリーナは500年もの歳月を経て、ついにありのままの自分でいられる友達を見つけたんだ……!
「良かった……本当に良かった……ありがとうペルヴィ、ありがとう……」
涙ぐみつつお礼を言うと、ペルヴィは少し強めに抱きしめてくれた。ああ、あったかいなぁ。
「お礼を言うのは私の方だ。君の熱意と献身のおかげで、私はフリーナという大切な友を得ることが出来た。全て君のおかげだ」
「ふふっ、献身したのはペルヴィの方でしょ? 何年もかけてフリーナに向き合ってくれたんだから」
「だとしても、やはりきっかけはクリーヴだ。君が私に全てを打ち明けてくれたから、私とフリーナは友人になることが出来た。最大の功労者は間違いなく君だよ」
「もう……」
誰よりも頑固で、それ以上に優しい。
子どもの頃から変わらないなぁ、こういうところ。
「クリーヴの方はどうかな? 念願の旅人とパイモンとの旅を楽しめているだろうか」
「すっごく楽しいよ! 特に旅人──あ、こっちでは妹の蛍ちゃんなんだけど──思ってたよりずっとお喋りなんだ。なんだか新鮮な気分になっちゃったなぁ……あ、そういえばモンドでロザリンに会ったんだよ!」
私の手番になった途端、堰を切ったように話が止まらなくなる。
それからしばらくの間、私たちは互いに互いの指を絡めたまま、雑談に花を咲かせるのだった。
「……ねぇ、ペルヴィ。ロザリンのことで聞きたいんだけどさ。やっぱり璃月の次は稲妻に行っちゃうのかな」
話がひと段落した頃、私は静かに切り出した。それだけで言わんとすることを察したのか、ペルヴィは初めて口をつぐむ。
稲妻。それは原作において、ロザリンが命を落とした地。
モンドや璃月と同様に暗躍していた彼女は、旅人との御前試合に敗れた末、夢想の一太刀によって斬り伏せられた。作中の旅人はもちろん、プレイヤー側でさえも主要人物の死に驚愕したことを覚えている。しかも死後になってフレーバーテキストやキャラボイスから新情報が明らかになり、彼女の死を惜しむ声が頻繁に上がるようになった。
そして今の私にとって、彼女は母親のような存在だ。長所も短所もひっくるめて、ロザリン・クルーズチカ・ローエファルタという女性を、私は心の底から慕っている。ペルヴィにしても同様だろう。
本音を言えば、死んでほしくなんかない。
しかしフォカロルスの件と同様に、どうしても彼女を救う手立てが思い浮かばない。
もう時間がないのに……このまま指を咥えて見ているしかないのかな……。
「その件だが……」
すっかり気落ちしていると、ようやくペルヴィが口を開いた。
「璃月での任務完了後、彼女はしばらく休暇を取ることになった」
…
……
………
「…………えっ」
「休暇だ。どうやら旅に出るらしい」
「たび!?」
「ああ。私も耳を疑ったよ。君の知識でこのような展開はあり得たか?」
「何それ知らん……こわ……」
待って本当に知らない!!
そんなに乖離することあるの!?
「えっ、じゃあ稲妻は誰が担当するの?」
「かs……散兵だ」
傘っちぃぃぃいいいいい!?
いや納得の人選ではあるけども! 原作でも最終的に神の心を回収したのは彼だけども!
「言いたいことは分かる。彼が因縁の地で己を律せられるのか、心配なんだろう?」
「ウン、ダイブ……」
「同感だ。既に女皇陛下には監視を付けるよう進言している。場合によっては、私が行くことになるかもしれないな」
え、本当? それは普通に嬉しい。稲妻でもペルヴィと一緒になれたら──ってそうじゃなくて。休暇、休暇かぁ。
ロザリンの真意は分からないが、ひとまず雷電将軍に殺されることは無さそうだ。その点は本当に良かった。このまま上手く事が運べば、いつか蛍たちとも穏便な再会を果たせるかもしれない。彼女がただ怖いだけの人物ではないということを、あの2人にも是非分かってほしいものだ。
となると、問題は傘っちの方だ。影ちゃんへの恨み骨髄に徹している彼があてがわれたということは、稲妻は原作よりも悲惨なことになっているかもしれない。鎖国下で情報を集めづらくはあるが、古い伝手を総動員してでも現状把握に努めなければ。
まだ璃月の問題が何一つ解決してないというのに、まさか稲妻のことで頭を悩ませることになるとは──ん?
「あの、ペルヴィ? どうして私は押し倒されてるのかな……?」
気がつくと私はベッドに仰向けにされ、その上にはペルヴィが覆い被さっていた。真っ直ぐに私を見下ろすその目には、先ほどまで影も形もなかった色が浮かんでいる。
「クリーヴ……今日は何人の女性を引っ掛けてきたんだ?」
……珍しい。
あのペルヴィが、こんなにも分かりやすく……!
「なぁに? 妬いてるの?」
揶揄い半分に微笑みつつ、白い首に両腕を回す。
その瞬間、ペルヴィの双眸が細まった。
(あっ)
やば。
スイッチ入れちゃった。
「いいだろう。おいたをする悪い子には、お仕置きが必要だ」
髪留めで纏められていた長い髪が下ろされる。
制服の奥に隠れていた双丘が露わになる。
思わず固まる私の耳元で、彼女はとびきり低く、それでいて甘ったるい声で宣言した。
「今夜は、寝かせない」
コロンビーナ実装!! コロンビーナ実装!!!
なお必死こいて貯めた石は10000弱しかない模様
高評価・感想お待ちしてます。飢えてます。