クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する   作:那珂テクス

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今だけ筆が40族
※なり代わりクリーヴの原作知識はナタ編途中までとします。


2話『山を吹き飛ばして金リンゴ群島にしたってマ?』

 入店してきたのはウェンティだけではなかった。金髪ショートのどえらい美人と白フラ、つまり蛍とパイモンがいたのだ。肩で息をしている様子から、ここまで走ってきたことが分かる。

 はて。一体何があったんだろうか。

 ……あー思い出した! 天空のライアーを盗もうとして失敗したんだっけ。それでウェンティに連れてこられる展開だったはずだ。

 それにしても、風の翼を貰ったらいきなり龍と戦わされて、仕方ないとはいえ教会に盗みに入って、失敗して騎士団に追われて……2人ともすごく不安よな。

 

 クリーヴ、動きます。

 

「エンジェルズシェアへようこそ! 看板娘のクリーヴです!」

 くらえ、我が満面のスマイルとウィンクを! そして癒されるがいい!

 

「ど、どうも」

「おおう……」

 あれ、なんだか反応がぎこちないな。というか引いてるような気がする。

 もしかしてファーストコンタクト失敗した?

「……娘?」

 ディルックがポツリと呟く。チャールズさんが咳払いで誤魔化そうとしているが、もう遅い。

 後でガイアあたりに過去のしくじりを暴露してやろう。

「あは! 元気なお嬢さんだね。酒場の店員さんはこうでなくっちゃ」

 屈託のない美少年の笑顔が眩しい。傷ついた私の心が癒されていくのを感じる。

 風神様、やっぱりあんた最高だよ。

「ありがとうお兄さん……ここは初めて? 私から一杯サービスしてあげるね」

「本当? わーいやったー!」

 心底嬉しそうな様子のウェンティに、蛍とパイモンはすっかり呆れ返ってしまった。

 

 

 ディルックと一言二言話した後、ウェンティたちは2階へと引っ込んでしまった。

 ちょうどそのタイミングで西風騎士団が聞き込みに来たが、旦那はこれを華麗に回避。彼らが去った後、ウェンティが下に降りてきて一曲披露してくれた。

 

『ボクが話すは古の始まり……龍は自ら答えを探し……召喚に応じ……』

『悪竜と殺戮に舞う……毒血を飲み眠りに落ちる……蘇りし時、知る者は誰一人いない』

 

 要は風魔龍の正体が四風守護のトワリンであり、ドゥリンの血を浴びたせいで凶暴化しているという内容だ。

 ディルックとチャールズさんは衝撃の真実に言葉を失っていたが、私はというと演奏の方にすっかり心を奪われてしまった。

 何故ならその曲は、二十数年ぶりに聴く原神のオープニングテーマだったからだ。

 

 なんかもう、純粋に聴き惚れていた。

 泣いちゃうかと思った。

 

 その後は一旦お開きとなり、閉店後に再集合という運びになった。出歩くと即バレしそうなウェンティは店に残り、ディルックと旅人ペアはそれぞれで情報収集にあたっている。

 で、私は店員としていつも通り給仕しているのだが……

(見られてるなぁ)

 ……解散後から絶えず視線を感じてる。

 胸の話ではない。助平オヤジどもに見られるのはいつものことなので、いちいち気にしていない。

 

 ウェンティに、一挙手一投足を、見られている。

 

 いや正確には「見つめ返されている」と言うべきか。

 一行が2階に引っ込んだ時、私はディルックから監視の任を仰せつかった。仕事なので言う通りにしているのだが、この吟遊詩人は明らかに最初から気づいている。

 視線がどうとかそういう話ではなく、「見られている」という感覚が私の全身に突き刺さってくるのだ。急に上位存在っぽさを出してくるので柄にもなくドキドキしてしまった。

(どうしようかなぁ、これ)

 話しかけた方がいい気はする。でも何を?

 知り合ったばかりの吟遊詩人と話すような話題が思いつかない。というかそもそも勤務中なので、込み入った話ができない。

 かといってこのまま閉店まで放置するのも悪いような……。

「クリーヴ、上のお客さんにこれを。ここからは歌じゃなくてお代をいただくと念押ししといてくれ」

「はーい」

 『上のお客さん』……ウェンティのことだな。

 蒲公英酒とグラスを手に階段を上がっていると、ちょうど常連さんが降りてきた。となると、上にはもう1人しか残っていないはずだ。

 2階に着いた。案の定、そこにはウェンティただ1人が腰かけていた。

「あ、クリーヴ!」

「お待たせ。チャールズさんが『これ以上はモラを貰う』って言ってたわよ」

「ちぇーつれないなー」

 ぶーぶーと口を尖らせる。大変可愛らしくて感謝しかないが、店には大打撃なので勘弁してほしい。

 空き瓶を下げ、グラスとつまみを並べていると──

 

(……わーお)

 

 ──ウェンティのお気楽な雰囲気が、急に引っ込んだ。

 

「やっと落ち着いてお話できるね、お嬢さん」

 

 見る者全てを虜にする、柔和で人懐っこい笑み。

 しかしその声には、普段絶対に現れないであろう不穏な色が滲んでいる。

 

 ……なるほど、全部計算づくってことね。

 

 たったあれだけのやり取りで私の異質さに気づき、協力者ながら決定的な何かを隠していることをも見抜いた。その上で旦那も旅人もパイモンもこの場を離れるように仕向け、わざわざ上階の隅っこに陣取ったってわけだ。

 カウンターから最も遠い位置で、私と2人きりになるためだけに。

 さすがは七神で最も底知れない魔神。なーにが最弱だよ、セレベンツの描写からして絶対強いでしょ、あんた。

 このままだと完全にあちらのペースに乗せられてしまうな。ちょっとだけ鼻を明かしてやろう。

「君の目的は?」

「目的っていうか、単なる老婆心で言っちゃうんだけどさ」

 私はコルクを抜きながら努めて平静に、なんでもないかのように口を開いた。

 

「ロザリンが遺骨を回収しに来たよ。厄災が近づいてる」

 

 ただの世間話をするかのような、軽い口調で発せられた言葉に──

 

「ッ」

 

 ──魔神バルバトスは、見るからにはっきりと、言葉を詰まらせた。

 

 はっはぁやったぜ! 驚いてら!

 こんな得体の知れない輩の口から、いきなり淑女の本名やら神の心やら未来の厄災やらの話が出てきたんだ。声も出せなくなるだろう。

(ま、本当は何も分かっちゃいないけどね)

 特に遺骨と未来の厄災の件。第三降臨者の正体は未確定だし、モンドについてはナタ編の時点でまだ絶賛チャート進行中。

 思わせぶりなことを口にしてみたはいいものの、私自身は詳細をな〜んにも理解していないのだ。

 だがそれでいい。

 知ったかぶりの私と違って、この神は恐らく全てを把握している。

 だからこそ、揺さぶることはできるはずだ。

「ルースタンの件で負い目を感じてるでしょうし、そもそもあなたには最初から不要でしょ、神の心(それ)。どうせろくに抵抗しないんでしょうけど、心の準備だけはしといた方がいいと思う」

「………君は、何なんだい?」

 長めの沈黙の後、彼(彼女?)はか細く呟いた。焦りさえ滲ませたその様子に、私は罪悪感を覚える。

 やばい、ムキになり過ぎた。

 ちょっと驚かせたかっただけで、追い詰める気はさらさら無かったんだ。ウェンティのこと大好きだもん私。

 あーダメだな。こういうところはペルヴィに何度も注意されてるのに……。

 自らの未熟さを反省しつつ、私は真っ直ぐにウェンティの目を見つめ返す。

「私はクリーヴ。自由を愛するただの人だよ」

「自由を?」

「そう、自由。ただ大好きな人たちと一緒に、面白おかしく日々を過ごしたいだけなの」

「……つまり、その代償としてモンドを差し出そうとしてるのかい?」

 ん~~~やっぱりそうなるよね! うん、完全に私が悪い。

 今後のためにもちゃんと誤解を解いておこう。

「例え天理を敵に回すとしても、私は絶対に今のモンドを守り抜くわ。風神バルバトスに誓って」

「……バルバトスに、ねぇ」

「お望みならモラクスにも誓うけど」

 再びの沈黙。

 しかしそれはたった数秒のことで、気が付けばウェンティは再び柔和な雰囲気に戻っていた。

「ふふ。ひとまずそういうことにしておこうか。『老婆心』なんだもんね?」

「そういうこと。お詫びとして、この一本は私からのプレゼントにしておくね」

「わーい! 君ってすっごくいい人なんだね!」

 あ、これ本気で喜んでるな。さすがは風流の分からない呑兵衛詩人。

 

(──あ)

 

 思い出した。

 どうせならお詫びをもう一つ、酒のつまみになる話をしておこう。特にウェンティが気に入りそうなやつを。

 

 だから許せ、鍾離先生。

 

「そういえば、モラクスが引退して凡人になるみたいよ」

「何それ詳しく」

 

 魔神バルバトスは真顔で身を乗り出すのだった。




ウェンティはめちゃくちゃ強くあってほしい。
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