クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する 作:那珂テクス
はい終わり! 閉店!
居座る酔っ払いどもを叩き出し、すぐに表の鍵を閉める。少々乱暴なやり方だが、2年も続けているので改める気は無い。というか営業中は心底愛想良くしてるので、これくらい多めに見てほしい。
我ながら無駄のない洗練された手つきで締め作業を進めていると、不意に裏口のドアがノックされた。
「ジン!」
「こんばんは、クリーヴさん」
そこにいたのは西風騎士団が誇る蒲公英騎士、ジン代理団長だった。どうやらディルックに呼ばれて来たらしい。
カウンター席に案内し、よく冷えた水を出す。本当は酒の1本でも出してやりたいが、後で大事な話が控えているので自重した。
「今日はコーヒー何杯飲んだの?」
「えっと、3」
「嘘」
「よ」
「みんなには黙っとくから」
「……7杯です」
「程々にね」
「はい……」
しゅんと縮こまるジン。常人ならカフェイン中毒で死ぬ量だが、これでもかなり減った方だ。
少し前まで1ヶ月分のコーヒーを1日で飲み干してたからな。それが7杯まで減ったのだから、ようやく人を頼れるようになってきたということか。
……ん、ちょっと待てよ?
ジンと最後に会ったのは2週間前。あの時は「まだ全然量を減らせていない」と嘆いていた。
それがたった2週間で、7杯に?
(……まさか……!)
脳裏に浮かんだ『仮説』を検証すべく、私は口にかけた安全装置を解除する。
「そういえば、ディルックくんとはどこまで行ったの?」
「──ッ!?」
あっ、咽せた。しかも思いっきり。
顔真っ赤じゃん。
「き、急に何を言い出すんですか!」
「違ったっけ。あっ、もしかしてリサの方だった?」
「違います! 私とディルックはあくまで」
「『ディルック』?」
「……!」
ほう。
ほうほう。
ほうほうほう!
「そっかぁ。やっとそこまで進んだかぁ。お姉さんすっごく嬉しいぞお」
ニヤニヤが止まらない私。対面のジンは耳まで真っ赤になっていて、今にも蒸気が吹き出しそうだ。
いやーそっかぁ。そうなんじゃないかなぁとは思ってたんだよね。特にジンからの矢印があからさまだし。
まだ2人が「そう」だとは断言できないが、少なくとも良好な関係であることは分かった。歯茎止まらんわこれ。
心の中で王騎将軍みたいになっていると、再起動したジンが勢いよく立ち上がった。
「クリーヴさん、鍛錬しましょうか。今すぐに」
あ、これ八つ裂きにされるわ。
「待たせたな。今もど……何だその目は」
いいぞ旦那!! ナイスタイミング!!
「べっつに〜? ね〜ジン」
「え、ええ。別に何も」
「? そうか」
闇夜の英雄の登場により、私は難を逃れたのだった。
間もなく蛍とパイモンも合流し、秘密の作戦会議が始まった。大まかな流れはやはり原作通りで、天空のライアーを取り戻すべくファデュイの隠れ家を襲撃するようだった。
それにしても蛍とディルックって、今にして思えばひどい過剰戦力だな。不幸にもライアー防衛に配置されてしまったファデュイ諸兄に涙を禁じ得ない。
心の中で合掌していると、唐突にディルックがこちらを一瞥してきた。
え、何?
「あとはメンバーの話だが……」
……あー、そういうことね。
「メンバー? オイラと蛍、それからディルックの旦那だろ?」
「いや、今回はクリーヴにも同行してもらう」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるパイモン。隣の蛍も分かりやすく瞠目している。
ふふふ。この新鮮な反応、悪い気はしない。
「クリーヴって戦えるんだ」
「まぁそれなりにね」
意外そうな様子の蛍に、私は冗談めかしてウィンクする。
ジン、「それなり…?」とか溢さないの。これも1つの様式美なんだから。あとディルックはその呆れ顔をやめなさい。
「安心してくれ。クリーヴはこんな感じだが、腕は確かだ」
「ディルックく〜ん? 何が『こんな感じ』なのか詳しく教えてもらえるかな〜?」
またガイアにあることないこと吹き込んでもいいんだぞ〜?
……と、ふざけ過ぎるのも良くないな。
仮にも敵の根城に赴くのだから、このあたりで気合を入れなくては。
「あ、そうだディルックくん。1つ質問」
「何だ」
「殺しは?」
その瞬間、酒場の空気が一変した。
パイモンは石化。ウェンティは押し黙り、ジンでさえ身構えている。ディルックはちょっと眉が動いたかな。
「……不要だ。だがもしもの時は躊躇わないでくれ」
「了解」
知ってた。
問題はないけど、後処理が面倒だもんね。これ以上ジンに心労を掛けたくないし、命までは奪わないでおこう。
「こ、殺しって……急に物騒なこと言うなよ! びっくりするだろ!」
「えー、でも認識合わせは大事だよ? それに……」
ぷんぷん怒るパイモンを宥めつつ、隣の人物に目を向ける。
「蛍は何ともなさそうだけど」
「……」
その指摘にすら、旅人は微動だにしない。
うん。これで確信した。
今さっきの反応然り、ナタ編の描写然り、この子わりと修羅に生きてるわ。
そもそも数多の星を巡って来たわけだしね。殺し殺されなんて日常茶飯事だったのかもしれない。
「……一応、お酒は飲める歳だから」
…………ははっ!
やっぱり面白いわ、この子。
「いいね、すっごく頼もしい。一緒に頑張ろうね、栄誉騎士さん」
──そして私を、旅の果てへと導いてくれ。
「ライアーのことは任せたよ。いってらっしゃい、ボクのファンたち!」
「あ、ウェンティいたんだ」
「いくら何でもそれは酷くない!?」
いやだって、途中から完全に空気だったからさ……。
正直すまんかった。
「ここがあの女のハウスね」
「どの女だよ」
うーむ、このキレのあるシンプルかつ良質なツッコミ。やはりパイモンは職人だな。
私たちは今、隠れ家の最後の部屋へと繋がるエレベーターに乗っている。ここまでファデュイをしらみ潰しに処理してきたが、こちらは誰1人として傷を負ってない。
そうだね、道中全カットだね。
だって出会ったら轢き潰すだけの簡単なお仕事だったもん。ディルックの強さは言わずもがなだし、特に蛍の戦いぶりがすごかった。
というか、怖かった。
足元で風を爆発させて一気に肉薄し、逃げ出そうとする敵をまとめて吸い込む。同時に相手の武器や環境由来の他元素を巻き込み、とどめに拡散フィニッシュ。常に風元素を無駄なく効果的に活用し、瞬く間に敵を殲滅していく。技の多彩さと熟練度が、ゲームとはまるでかけ離れていた。
目覚めてから2ヶ月程度、かつ風元素しか扱えない状態でこの強さだ。ヒルチャールや宝盗団がいくら束になっても勝てるわけがない。
そういうわけで、こちらの戦力があまりに強すぎた。
圧倒的すぎて途中から罪悪感が湧いてきたからね。
「恐らくこの先に天空のライアーがある。油断するな」
「ディルックの旦那は真面目だよな。それに比べてお前と来たら……」
「蛍もディルックも強いんだし、私が手を出す必要なんて無いよ」
伸びをしつつパイモンの小言をひらりと躱す。
そもそも原作ではここにいないからね、私。何で連れて来られたのかもよく分かってないし。
「それはまあ、確かにそうかもだけど」
納得いかない様子のパイモンに、ホタルがイタズラっぽく微笑む。
「パイモンは戦わなくてもいいの?」
おお、ノリがいい時の蛍だ。初めて生で見た。
「ふん! オイラは蛍の師匠だ。師匠は弟子の戦いを見守るものなんだぞ」
パイモンが不貞腐れてそっぽを向くと、ちょうど上階に到着した。
うん、あるね。天空のライアー。
真正面に。
どう見ても罠だが、あれを奪還するにはどの道近づくしかない。
意を決して部屋に足を踏み入れた瞬間、ライアーは案の定鉄柵に囲われてしまった。
「ネズミ、どこから湧いてきた……」
そして現れたのは、赤い仮面を被った黒ずくめのファデュイ。
デットエージェントだ。
「このようなこと、『シニョーラ』様が許さないぞ」
胸に位置する邪眼が怪しく光る。独特な形状のナイフが炎を纏い、男の周囲で回転し始める。
「この私が、代わりに片付けてやろう」
瞬間、男の姿がかき消えた。
いやー見事な透明化だ。邪眼の力なんだろうけど、いったいどんな原理なんだろうか。
素直に感心していると、隣のディルックから声を掛けられた。
「クリーヴ、出番だ」
「えー。私そこそこ働いたと思うんだけど」
「こいつを片付けたら減給を取り消してもいい」
「来いよデットエージェント! 武器なんて捨てて掛かってこい!!」
私は即座に飛び出した。
次回、戦います。