クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する   作:那珂テクス

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追記:次回、ペルヴェーレ登場。

前半が三人称視点です。


4話『「刀」って表記だけどこれ絶対刀じゃないよね?』

 

 

 デットエージェント。それは闇色のローブを身に纏い、特徴的なナイフを操るファデュイの名称。『エージェント』の名が示す通り、彼らは戦闘員の中でも選りすぐりの精鋭たちだ。

 故にこそ、その選抜試験は過酷さを極める。

 肉体と精神の強靭さは言わずもがな、邪眼に適応できる者でなければ、スタートラインにすら立てない。仮に適応したとしても、次は炎元素を自在に操るための技能訓練が待ち受けている。この訓練中、候補者は常に己の寿命を消費し続ける。邪眼は神の祝福を必要としない代わりに、使用者の命を蝕んでいくからだ。

 このような艱難辛苦を乗り越えて初めて、彼らはデットエージェントになれる。そしてテイワット各地に送り込まれ、女皇陛下に生涯を捧げるのだ。

 

 ザメンホフという男もまた、その1人だ。

 

 教育課程終了後、彼はシニョーラの部下になった。すぐに選抜試験を凌駕する地獄の日々が始まったが、仮面の下で歯を食いしばって耐え抜いた。慈悲深い女皇陛下と盗み見したシニョーラの豊満な胸だけが、いつも心の支えだった。

 そうした弛まぬ努力が実を結び、彼はついに『天空のライアー防衛』という大任を仰せつかったのだ。

 

 だと言うのに。

 

「女……貴様ふざけているのか?」

 ──このネズミどもが、それを台無しにした。

 拠点内の同志は全滅。残された戦力はザメンホフただ1人。死傷者こそ出ていないが、決して幸運だからではない。「命を奪う価値もない」と言わんばかりに、敢えて致命傷を避けられていたのだ。

 

 彼らは──女皇陛下の刃たるファデュイは、明らかに侮られていた。

 

「…………」

 

 怒りに満ちた問いに対して、女は何も答えない。口を開こうともしない。

 不可視になった敵を探しもせず、動こうともせず、ただただ退屈そうに突っ立っている。

 

 その様子が、ザメンホフの逆鱗に触れた。

 

「いいだろう。その俗念ごと焼き払ってくれる!!」

 叫んだ瞬間、彼は声の出所の逆方向(・・・・・・・・)から斬りかかった。女の背中はがら空きだ。

 炎を纏った刃が、白くか細い首筋に突き刺さる────ことなく、虚しく宙を切る。

 

(な──!?)

 

 躱されたのだと理解した瞬間、首の左右から圧迫感を感じた。

 

 太腿だ。

 

 いつの間にか上下逆さになっていた女が、両脚でザメンホフを捕らえていた。

 

 そのまま蛇のようにグルグル巻きついたかと思えば、凄まじい遠心力で彼を投げ飛ばしてしまう。

「ガハッ」

 為す術なく地面に叩きつけられ、邪眼の効力が停止する。

 そこに間髪入れず迫ってくる、鳩尾狙いの一撃。

(──ッ!!)

 すんでのところで拳を躱したザメンホフは、即座に透明化して距離を取った。

 追撃はない。

 しかし女の目は、明らかに彼を追っている。

(馬鹿な、神の目も無しに……!)

 言い知れない恐怖感が、真綿のように纏わりついていく。

 

 

 蛍とパイモンは困惑していた。クリーヴがまるで別人かのように戦い始めたからだ。

 ここまでの道中、2人は彼女が戦う姿を一度も目にしなかった。視界でファデュイを捉えると同時に彼女が消え、戦闘終了後にニコニコしながら戻ってくる、というのを何度も繰り返していたのだ。なまじディルックの事前評が高かっただけに、正直がっかりした。

 

 だからこそ、2人は目の前の光景が信じられなかった。

 

 あの炎を操る男は、今までに遭遇したどのファデュイよりも強い。少なくとも本来の力を封じられた今の蛍からすれば、強敵と呼ぶに相応しい存在だ。

 

 それがどういう訳か、クリーヴに傷一つ付けられず、逆に彼女の手玉に取られている。

 

 予想外の展開すぎて、現実をなかなか呑み込めずにいた。

「蛍、ここには何人のファデュイがいると思う?」

 不意にディルックが尋ねてくる。蛍は眼前の蹂躙からしばし目線を外し、出会ったファデュイを順に思い起こしてみた。

「7人くらい、かな? 規模の割に少ない気がする」

 そう答えると、ディルックが静かに頷く。

「その通りだ。僕たちが遭遇したのは両手で数えられる程度だが、実際には30人弱いる」

「はぁ!? 絶対そんなにいなかったぞ!」

「気付かないのも無理はない。僕たちが戦っている裏で、他は全てクリーヴが処理していたからな」

「す、全てって……」

 思わず言葉を失うパイモン。蛍にとっても俄かには信じ難い話だ。

 それが本当だとすると、クリーヴは蛍が1人倒している間に4人ほど片付けていたことになる。

 しかも蛍とパイモンが気付かないほど静かに、ほんの一瞬で。

 唖然とする2人から目線を外し、部屋の中央に向き直るディルック。傷だらけのデットエージェントを見つめる双眸は、普段よりも鋭さが増している。

「……あいつと関わる時は用心した方がいい。得体が知れないし、何を考えてるかも分からないからな」

 

 

 

 

 こいつタフすぎんか???

 

 ディルックにけしかけられてから約2分。何度か気絶ポイントを刺激してやったのに、デットエージェントくんはまだ倒れない。私が傷一つないピチピチの柔肌を保っている一方で、あちらの体はそこそこ傷が増えてしまっている。

 道中のファデュイはみんな一撃でおやすみしてくれたんだけどな。こいつなかなか倒れてくれないや。戦士としては立派なことだけど、余計な傷を負わせたくないのでさっさとKOしてほしい。

 そんなことを考えつつ攻め立てていると、背後からまたエージェント素材が飛んできた。

 素手で相手するのもそろそろ面倒になってきたな。普通に短剣で弾くか。

 

 ギィン!!

 

 弾かれたナイフが石壁に突き刺さる。直後、デットエージェントは目を丸くして──仮面で見えないけど雰囲気的に間違いない──動きを止めた。

 なんだ? そんなに焦るようなことか?

 

「貴様スネージヴナか!」

 

 …

 ……

 ………あー………。

 こいつ、スネージヴィッチか。

 やらかした。つい手癖でパリィしてしまった。

 そりゃ分かるよなぁ。同門なんだもん。

「はぁ」 

 思わずため息が漏れる。

 十数年隠し通してきたのに、とうとうバレてしまった。しかもディルックの目の前で。

 

 バレちゃったからにはもう……ネ……。

 

 私は一気にデットエージェントとの距離を詰め、アイアンクローをお見舞いする。

「グアッ」

「任務中にペラペラ喋るな」

 そのまま頭を思い切り地面にめり込ませ、ようやく決着が付いたのだった。

 

 

「や、やっと天空のライアーを手に入れたな」

 嬉しそうなパイモン。だがその声は、原作のワンシーンより明らかに硬質だ。

 

 うわーん! またパイモンに引かれたー!

 

 だってあれ以上長引かせるわけにはいかなかったんだもん! また要らんこと言われてディルックに疑われたくなかったんだもん! アイアンクローからのフィニッシュが一番手っ取り早かったんだもん!

「ひとまずエンジェルズシェアに戻ろう。あと君には後で話がある……壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)のクリーヴ」

 あ、終わった。

 これもう洗いざらい吐くしかないやつだ。

 針金くらい目を細めたディルックに、私は蚊のような声で「はいぃ……」と返す。追及しない方がいいと判断したのか、旅人ペアは目を逸らしている。

 いやまぁいつか話さないとなぁとは思ってたよ? でもそれにしたってこう、段取りってものがあるじゃん。

 

 まさかこんな形でその日を迎えることになるとは────

 

「そういえばさっきのヤツ、いなくなってる……」

「『シニョーラ』様は貴様らに制裁を下す。モンドの詩人は、子供が眠れなくなるほどの悪夢としてそれを詩に残すことだろう!」

「──あなたが生きて帰ったら、ね」

「な……!?」

 

 ────絶対に許さんぞ、デットエージェント!!

 

 説明しよう。

 記憶力が良い私は、デットエージェントがこのタイミングで逃げ出す展開だということをしっかり覚えていた。

 故にいつでもヤツを捕まえられるように備えていたのさ!

「いいことを2つ教えてあげる」

 裸絞をかけつつ、耳元で囁く。

「1つ。今この場で活動中のファデュイは『存在しない』。よって当地域における構成員の死は、ただの犬死を意味する」

 男が抵抗しようと藻掻くが、もう遅い。

「2つ。目撃者がいなければ、私たちに辿り着くこともない」

 言い終えるのと同時に、腕の中で脱力しきったのを確認する。 

 私が静かに男を横たえると、パイモンが口を押さえながら歩み(?)出てきた。

「ク、クリーヴ。そいつ……」

「うん。そのうち起きるんじゃないかな」

「そっか……ぅえ!? 生きてるのか!?」

「もちろん。殺しは不要だからね」

 そう言いつつ旦那に目配せする。反応を見るに、どうやらこれで正解だったらしい。

 まったく、お互いに丸くなったものだ。

 これからが大変だぞ。

「オイラ、クリーヴのことがすっごく怖くなっちゃったぞ……」

「私も……」

 うわーん! 私のこと嫌いにならないでー!




何気にネームドなザメンホフくん(※スネージヴィッチ設定は捏造)

絶対に鍾離とマーヴィカお迎えするぞ!!!
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