クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する   作:那珂テクス

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5話目にしてようやくペルヴィを出せたぞ!!!!!!!!!!


幕間『赤月の秘め事』

 とある日の深夜。執務室の扉の前で、緊張した面持ちの子どもたちがいた。リネ、リネット、フレミネの3名である。

 既にブーフ・ド・エテの館は消灯し、子どもたちは夢の中にいる。たまに公演で帰りが遅くなる彼らからしても、とうにベッドで横になる時間だ。

 それにも関わらず彼らがまだ起きているのは、とある密命を受けていたからだった。

 

『皆が寝静まったのを確認し、執務室を訪れること。ノックは不要』

 

 昼間にそう耳打ちされてから、3人はずっと気が気ではなかった。壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)に身を置いて約10年が過ぎだが、このような指令は初めてだったのだ。

 叱られるようなことは何もしていない。ついつい妹を甘やかしたり、ケーキを食べ過ぎたり、海底に潜り過ぎたりしているが、それらを咎められたことは一度たりともない。

 かといって、褒賞を与えられるとも考えられない。長い任務に就いていたわけでも、特筆すべき成果を上げたわけでもないからだ。

 

 となると、残された可能性は1つしかない。

 

 彼ら3人を対象とした、極秘任務の通達だ。

 

 各々で熟考した末に、3人とも全く同じ結論に至っていた。

「準備はいいかい?」

 リネが小声で尋ねる。残りの2人が首肯したのを確認し、ゆっくりと扉を開ける。

「失礼します。お待たせしました、お父様」

 

「ああ、よく来てくれた。夜遅くにすまないね」

 

 ────冬の赤月(しゃくげつ)を思わせる麗人が、そこにいた。

 

 十字を傾けたような瞳。人形じみた端正な顔立ち。モノクロのアシンメトリーヘア。白を基調とした燕尾服。そして各所から覗く、血のような赤。あらゆる要素が完璧に調和し、冷艶清美を体現している。

 彼女こそがこの館の主にして、ファデュイ第4位の執行官────『召使』アルレッキーノだ。

「さぁ掛けてくれ。暖かいミルクも用意してある」

「「「ありがとうございます」」」

 深々と一礼した3人が席に着き、アルレッキーノが引き出しから何かを取り出す。

「まずはこれを読んでほしい」

 差し出されたのは、何の変哲もない1通の手紙だった。リネがそれを受け取り、代表して朗読し始める。

「『やっほー、あしながおねーさんだよ! みんな元気してたかな?』……!」

 思わず顔を上げる。

 見ればリネットとフレミネの目がまん丸に見開かれていて、それはリネ自身も同様だった。

 彼らの目線が「お父様」に釘付けになる。

「お父様、これって……!」

 リネットが珍しく声を弾ませる。その意図を正確に読み取ったアルレッキーノは、静かに頷いた。

「ああ。クリーヴだ」

 その返答に、子どもたちは破顔する。

 同時に彼らは、手紙の差出人と過ごした日々を鮮明に思い出していた。

 

 ────リネとリネットにとって、クリーヴは命の恩人だ。

 当時の2人はとある貴族に拾われ、短期間だがその屋敷で暮らしていた。ところがリネットが『贈り物』として売り払われてしまい、兄妹は離れ離れになってしまったのだ。

 そこに現れたのが、クリーヴとアルレッキーノだった。

 真っ先にリネットを救出した彼女らは、そのまま例の貴族と、その関係者を瞬く間に鏖殺。おかげで兄妹は涙の再会を果たすことができた。「ドゥワァ! リネリネ!!」ともらい泣きするクリーヴの姿を、彼らは今でも鮮明に覚えている。

 

 ────フレミネにとって、クリーヴは姉のような存在だ。

 孤児院に引き取られた数日後のこと。ベッドで蹲っていた彼は、庭の方から奇妙な声を聞いた。気になって目を向けると、上級生が木の上の小鳥に向かって話しかけているのが見えた。

「チュンチュン。オリガミノ……コトリィ」

 フレミネは吹き出した。その後慌てて身を屈めたが、気づけば件の上級生に見下ろされていた。これがクリーヴとの出会いだった。

 その日から2人は、まるで姉と弟のような間柄になった。クリーヴは院長が交代して暫くすると旅に出てしまったが、彼女の存在は今でも、フレミネの心の支えになっている。

 

 あれから約10年が過ぎ、クリーヴを知る者はほとんどいなくなってしまった。

 だが少なくともこの3人だけは、彼女が「お父様」の最も信頼する協力者だと理解している。

「続けるね。『突然ですが、近々モンドを出てもう一度旅をすることにしました。璃月→稲妻→スメール→フォンテーヌ→ナタ→スネージナヤの順で巡る予定です。お土産のリクエストがあれば返信で! P.S.』──ッ!?」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「リネ……?」

 尋常でない様子で固まるリネ。リネットとフレミネが心配する中、彼は重々しく言葉を継ぐ。

「……『P.S.フォンテーヌは一度マジで沈むから心の準備だけしといて!!』……以上」

「……うそ」

「そんな……」

 室内に暗雲が立ち込める。リネが最後に語った一文は、まさに絶望そのものだった。

 

 ────フォンテーヌ人の間で、古くから伝わる予言がある。

 

 曰く、フォンテーヌ人は皆生まれた時から「罪」を抱えており、どれほど審判を行なってもそれが消えることはない。やがてフォンテーヌの海面が上昇し、罪を背負いし人々は海水に飲み込まれる。人々は皆海の中に溶け、水神は自らの神座で涙を流す。そうして初めて、フォンテーヌ人の罪は洗い流される。

 

 人や文献によって差異はあるものの、大まかにはそういった内容だ。数百年に渡って語り継がれてきた話だが、逆に言えば数百年も予言が実現しなかったことを意味する。どの時代においても、ほとんどのフォンテーヌ人がこれを御伽話だと捉えてきた。

 ところが、最近はどうも話が変わってきた。実際にフォンテーヌの海面が急上昇しているのだ。いくつもの機関が原因究明と対策に乗り出しているが、いずれも芳しい成果は得られていない。

 残念なことに、それは壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)も同様だった。地道にマジックポケットの無料配布や啓蒙活動に取り組んではいるが、予言そのものを回避する手段については、全くと言っていいほど解明できていないのだ。

 

 しかも今回、「お父様」と同じくらい信頼する人物が、予言は避けられないと断じてしまった。

 それは彼らにとっての、死刑宣告に他ならなかった。

 

 沈黙が流れる中、アルレッキーノがおもむろに口を開く。

「ありがとう、リネ。それで今回の主題だが……」

 語り始めるその姿は、やはりどこまでも落ち着き払っている。普段から子どもたちに言い聞かせているように、自身の感情を完全に支配しているのだ。

 それに比べて、己のなんと未熟なことか。

 自省する3人に対して、ついに用件が伝えられる。

 

「……かさばらず、かつ子どもたちを満足させられるお土産は何だろうか?」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 この瞬間、リネ、リネット、フレミネの3名は、突如として集団幻覚に陥った。

 

 どういうわけか、あの一分の隙もないはずの「お父様」が、年端も行かない少女に見えてしまったのだ。

 

「……えっと……」

 真っ先に幻覚から脱したのはフレミネだった。

「その……予言の対策とかは……」

「無論、引き続き対策はするべきだ。しかし我々ができること、やるべきことに変わりはない。それに詳細は伏せるが、この件ではクリーヴも協力してくれる手筈になっている。心配はいらない」

「そ、そうなんですね」

 あくまで冷静に答えるアルレッキーノ。遅れて幻覚から脱した兄妹は、その言葉の真意を探ろうと試みる。

 

 『我々ができること、やるべきことに変わりはない』。

 つまり壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)が取るべき対策は、現行のもの以外に選択の余地がない。

 

 『詳細は伏せる』が『クリーヴも協力する手筈』。

 つまり「お父様」は壁炉の家(ハウス・オブ・ハース)としての対策のみならず、秘密裏に何らかの計画を立てている。いや、クリーヴがこのタイミングで動き出したということは、既に実行中なのだろう。

 

 秘密を打ち明けてくれないのは残念だが、無理に知ろうとして計画の邪魔になってしまうのはもっと嫌だ。

 

 今回も同じ結論に至った兄妹は、素直に「お父様」の用件を済ませることにした。

「ちなみに、お父様は何がいいと思いますか?」

 リネットが問いかけると、アルレッキーノは少し考え込むような素振りを見せる。

「……ふむ。定番は生ハムの原木だろうか」

「え」

「生ハムの原木だ。あれならかさばらないし、子どもたち全員で味わうことができる。バーベキューにもうってつけだ」

 真顔でそう宣う。

 また少女の幻覚がチラついてきたので、リネは思い切って反論することにした。

「えっと、原木は大分かさばるのではないでしょうか」

「そうか? うちにあるものは全て彼女の贈り物なんだが」

「そうなんですか!?」

「ああ。言ってなかったかな」

 また真顔で宣う。

 だが言われてみれば、確かに生ハムだけは買い出しに行った記憶がない。残りわずかになったかと思えば、いつの間にか補充されているのだ。

 下手をすれば、10年間ずっとかもしれない。

 明かされた衝撃の真実と、初めて目にした「お父様」の新たな一面に、3人は軽いパニックを起こしていた。

 

 

 結局のところ、お土産のリクエストは生ハムの原木に決まった。とてもじゃないが、他の候補を出せるようなコンディションではなかったのだ。

 端的に言えば、3人とも「お父様」の可愛らしさに脳をやられていた。

 

 だからだろうか。

 

「そういえば……あっ」

 

 フレミネがつい、口を滑らせてしまった。

 

「どうした、フレミネ。何か聞きたいことでも?」

「いえ、その……そういえば僕たち、クリーヴさんとお父様が、どんな関係なのか知らないなって思ったんです」

「フレミネ!」

 鋭い声で制止するリネ。それを聞いたフレミネはハッとしたような顔をした後、申し訳なさそうに縮こまってしまう。

 クリーヴと「お父様」の関係。

 それは3人にとって長年の疑問であると同時に、タブーという共通認識だった。

 理由は単純。なんとなく踏み込みづらかったからだ。

 仲が良いことは明白だが、当人らは3人に対して、その関係性を明かさなかった。特にクリーヴが去った直後の「お父様」はどことなく寂しそうで、話題に出すのも憚られたのだ。

 そうこうしている内に10年もの月日が流れてしまい、この話は3人の中で完全にタブーとなってしまった。故にリネは、フレミネの発言を咎めたのだ。

 

 が、3人はまたしても、予想だにしないことを知ることになる。

 

「ああ、何も聞かされていないのか。とっくに彼女が話したものだと勘違いしていたよ」

 口に運んでいたカップを置くアルレッキーノ。

 そして────

 

「クリーヴは私の恋人だ。今年で12年目になる」

 

 ────平然と、そう言い放った。

 

 石像のように硬直する子どもたち。

 対してアルレッキーノ……いやペルヴェーレは、人差し指を自身の口にゆっくりと当てがう。

「みんなには内緒だ。いいね?」

 その微笑があまりに艶かしくて、3人は思わず赤面するのだった。




この世界線のペルヴィはクリーヴが生存しているため、若干の幼さが残っています。

次回、旦那によるジャッジメントですの。
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