クリーヴになり代わったのでペルヴィ曇らせのあらゆる要因を排除する 作:那珂テクス
半年ぶりの新作でございます……!
隠し事の多い人。
それが蛍から見たクリーヴという人間だった。
ウェンティに連れられて酒場に転がり込んだあの日。派手な髪色の看板娘と目が合った瞬間、蛍は激しい違和感を覚えた。自身を映すその瞳に、まるで旧友と再会したかのような親しみが込められていたからだ。無論クリーヴとは初対面であり、そのような反応をされる謂れはなかった。信頼とは双方の時が積み重なって実る果実であり、初対面の人間に向けられても困惑するだけだ。いっそ不気味ですらある。その後も明け透けな態度のクリーヴに対して、蛍はどう接するべきか決めあぐねていた。
そして今日、その悩みはさらなる深みへと到達する。
(──ッ!?)
元素力の爆発的な高まりを感じ取った瞬間、背に凄まじい熱気が襲いかかり、視界が青白い光で塗り潰された。
直後、耳を聾さんばかりの雷鳴が轟く。
「うひぃっ!? な、何が起きたんだ!?」
驚愕するパイモンと共に振り返ると、遠くで紫色の双剣を弄ぶクリーヴが見て取れた。一方で、数百の魔物の軍勢が跡形もなく消え去っている。無傷のジンとディルック、崩壊寸前の足場、そして肉が焼け焦げたような臭いだけを残して。
まさか、クリーヴが片付けたというのか?
あの一瞬で?
状況を理解した途端、蛍の首筋に冷たいものが走った。
『馬鹿な……
巨龍が吠える。あらゆる生物を畏怖させる
「あはっ♪ ボクも詳しくは知らないんだけど──」
能天気な声で答えつつ、ウェンティがこちらに目を遣る。
(! 今だ!)
意図を汲んだ蛍がすかさず飛び出す。慌てて巨龍が反応するが、もう遅い。
彼女の右手は、既に其のうなじへと伸びている。
「──とっても頼もしい、モンドの看板娘さんだよ」
黄金の光が瞬き、天上の戦いは決着した。
◇
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
いやまだ全ッ然な~んにも終わってないんだけどね。それでも30数年を経てやっとここまで来たんだから、前日譚の完結と言っても過言ではないはずだ。本当に長かった。
蛍が持つ浄化の力によって、トワリンはついに呪いから解き放たれた。その後の帰路で偉大なる東風の龍に乗って見下ろしたモンドの景色は、言葉を失うほどの美しさだった。願わくば、この感動をいつかペルヴィと分かち合いたいものだ。
そうしてモンド城に帰還し今に至るわけだが、ジンとディルックは事件の後処理に、蛍とパイモンは『片割れ』の情報収集に追われている。ウェンティ? トワリンと別れてからずっとエンジェルズシェアに入り浸ってるよ。騎士団からの謝礼金を全部酒につぎ込む気じゃなかろうか、あいつ。
んで私の方はというと、正式にエンジェルズシェアを辞めることにした。
何故かというと──
「お願い蛍ちゃん! 私も一緒に連れてって♡」
──ほたパイの旅に同行したいからに決まってんだろ! 言わせんな恥ずかしい!
いま私は蛍とパイモンの仮宿に押し入り、精一杯キュートでパッションなおねだりをキメている。2人ともドン引きしているが、構うものか。こちとら恥なんてとうの昔に捨て去ったんだ。このままゴリ押して何が何でも同行してやるからな。
「いやいやちょっと待て! お前はエンジェルズシェアの看板娘なんだろ? そんな簡単に辞めちゃっていいのかよ!」
「いい! てかもう辞めた!」
「うわぁ……オイラ知ってるぞ。お前みたいな奴は、いつかノリと勢いだけで人生をメチャクチャにしちゃうんだ。ダメ人間ってやつだな」
やめてパイモンちゃん! それ以上的を射た分析で私の心を抉らないで!
アビス顔負けの精神攻撃にぐっと堪えていると、蛍が真剣な面持ちで話しかけてきた。
「どうしてそんなに私たちと一緒に行きたいの?」
シンプルかつストレートな問いだ。無理もない。ディルックにいろいろ吹き込まれたのか、彼女は明らかに私を警戒している。そうでなくとも、出会ってたった数日の人間が旅に同行したいとか言い出したところで、信用できるわけがない。
だからこそ、ここは嘘偽りなく話しておこう。
「蛍ちゃんって、お兄さんを探して旅に出たんだよね。それで手掛かりを求めて、各国の神様に会おうとしてる。そうでしょ?」
「うん」
「実はね、私も同じなの」
「えっ」と微かに目を見開く蛍。いかん、誤解させてしまった。
「あ、違うの。私には兄とかいないからね。私も七神に会って話がしたいってこと」
「会って、話を……」
「そう。前にも話したけど、私の目的は恋人と添い遂げることなんだ。ただその為にはちょ~っと込み入った事情があって……七神に会って話をするのが一番手っ取り早いんだよね」
徹頭徹尾真実である。人にここまで話したのはペルヴィ以来じゃなかろうか。
我が大願『らぶらぶ♡死ぬまでハネムーン計画』には、目下3つの難題が存在する。
1つ目は、クリーヴ生存によるバタフライエフェクト。正史における彼女は母への抵抗を諦め、齢16にして命を落とした。ところが私はというと、ペルヴィと共謀して母を忍殺し、バッチリ3⭐︎回目の誕生日を迎えている。おまけに各国で様々な組織と関わってきた為、正史への影響は計り知れない。
2つ目は、不完全な原作知識。記憶の摩耗とかそれ以前に、私にはそもそもナタ編中盤までの知識しかない。仮にフォンテーヌまで生き延びたとしても、その後はメタ知識無しでやり過ごす必要がある。ペルヴィの出生についてもほとんど詳細不明なため、とてつもない厄ネタが待ち受けているかもしれない。
そして最大の問題が3つ目、禁忌の知識だ。原作知識も元の世界の記憶も、テイワットからすれば特大の厄ネタに違いない。なんなら『原神』というゲームとしてこの世界を創造・消費しているのだから、アビスが霞むほどの危険度だろう。
以上3つの難題を解決できなければ、私はペルヴィと一緒に幸せになれない。ではどうすればいいかというと、分からん。
マジで分からん。
分からないからこそ、せめて七神以上の偉い人を可能な限り味方につけるしかない。
だから……ネ……?
「お願い蛍ちゃん! 私も一緒に連れてって♡」
「それ、キツいからもういいぞ」
「ガハッ」
「それはちょっと酷いよパイモン」
膝から崩れ落ちた私を見て、蛍がやんわりと宥めてくれる。
うぅ、やっぱほたちんは天使なんやなって。そしてペルヴィは女神。
「……じゃあ、一緒にお兄ちゃんを探してくれる?」
よし来た!
「もちろん! 私は各国にちょっとしたツテがあるからね。最大限利用してもらって構わないよ」
立ち上がってサムズアップしてみせると、蛍はついに頷いてくれた。
「分かった。これからよろしくね、クリーヴさん」
「クリーヴでいいって。これから長い付き合いになるんだし」
「へへっ、それもそうだな! 頼りにしてるぜ、クリーヴ!」
苦笑する蛍の傍らで、パイモンは太陽のような笑みを浮かべるのだった。
◇
旅への同行が正式に決まったので、私は酒場に戻って荷造りを始めた。とはいえ龍災が始まったあたりから準備を進めていたので、ほとんどやることが無かったりする。
慣れ親しんだベッドに寝転がりつつ、ここ最近の出来事に思考を巡らす。
……トワリンとの最終決戦、だいぶ原作乖離してたな。
いやそこまで細かくは覚えてないんだけどさ、原作にはいなかったよね? アビスの詠唱者と魔物の大軍なんて。
絶対に私のせいだよなぁ……つまり空くんに目ぇ付けられてるってことだし、四執政にも監視されてる可能性が高いよなぁ……。
どうしてくれんの、これ。
鬱々とした気分に浸っていると──コンコン。誰かが自室のドアを叩いた。
…
……
………待って。
この叩き方は。
この匂いは。
この気配は……!!
「あら、こんなところにいたのね。貴女」
し、シ──
シニョーラ様だぁぁああああああああああああああああ!?
2月にファッキンアビスブラックな職場に再就職してしまい、なんやかんやで別の職場に再再就職しました。1ヶ月経ちましたが、今度はちゃんと大丈夫そうです。
生活的にも精神的にも安定してきたので、こっちの連載を再開します。
相変わらず亀更新ですが、お付き合いいただければ幸いです!